2024年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2024年6月16日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2024年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2024年6月16日)

●設 例●
 Aさん(82歳)は、個人で不動産賃貸業を営んでおり、2棟の賃貸アパートと月極駐車場から年間1,200万円の収入を得て、生活は安定している。Aさんは、最近、体調を崩すことが多くなり、そろそろ自分の相続に備えておきたいと思っているが、何から手を付ければよいのかわからない。

 Aさんには、妻Bさん(76歳)との間に長女Cさん(52歳)と二女Dさん(50歳)がいる。また、Aさんには離婚歴があり、前妻との間に子Eさん(60歳)と子Fさん(58歳)がいる。前妻や子Eさん、子Fさんとは35年以上音信が途絶えており、Aさんはできることなら前妻や子Eさん、子Fさんに財産を相続させたくないと思っているが、そのようなことができるのかどうか、できないとしたら相続させる財産をなるべく少なくする方法があるのかどうか知りたいと思っている。

 また、Aさんは、10年前に父親の相続により取得した郷里にある実家の取扱いに頭を悩ませている。母親も既に他界し、実家は空き家となっているが、建物は築後50年以上経過しており、借り手も買い手も見つからず、維持管理の手間だけがかかっている。Aさんは、この実家の問題を自分の代で解消したいと思っていたところ、先日、国が不動産を引き取ってくれる制度が始まったとの話を耳にし、その仕組みを知りたいと思っている。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 8,000万円  
自宅      
  ①土地(600㎡) 8,000万円  
  ②建物(築35年) 500万円  
賃貸アパートX      
  ①土地(300m²) 4,000万円  
  ②建物(築20年) 1,000万円 (年間家賃収入500万円)
賃貸アパートY      
  ①土地(250㎡) 3,500万円  
  ②建物(築25年) 800万円 (年間家賃収入500万円)
月極駐車場(400㎡) 3,000万円 (年間賃料収入200万円)
実家      
  ①土地(600㎡) 1,000万円  
  ②建物(築55年) 200万円  
  合計 3億円  


※Aさんの相続に係る相続税額は、約4,700万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

 現在、Aさんと妻Bさんは、自宅である二世帯住宅で長女Cさん家族(夫、孫Gさん)と暮らしている。会社員の二女Dさんは、賃貸マンションに1人で暮らしているが、今年の秋に結婚する予定で、Aさんは挙式費用を援助してあげたいと思っている。また、Aさんは、二女Dさんやその婚約者の意向にもよるが、自宅の敷地に余裕があることから、建築資金を負担し、その敷地内に二女Dさんのための新居を建ててあげてもよいと考えている。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

親族関係図

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年6月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 相続に備えておきたいが何から手をつけたらよいか。
  • 前妻、子Eさん、子Fさんに財産を相続させたくない。
  • 実家の問題を解決したい。
  • 国が不動産を引き取ってくれる制度の仕組みを知りたい。
  • 二女Dさんに挙式費用や建築資金を負担してあげたい。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 納税資金の確保。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

相続に備えておくために何から手をつけたらよいですか?

相続準備として、法定相続人は誰かを確認すること。
相続される財産を把握すること。
財産の分け方を考えること。
相続税がかかるのかを確認して相続税対策を行うこと。
遺言書を作成することなどがあげられます。

Aさんの法定相続人は何人ですか?

妻Bさん、長女Cさん、二女Dさん、子Eさん、子Fさんの5人です。

子Eさん、子Fさんに財産を相続させないことはできますか?

まったく財産を相続させないことは現状では難しいと思います。

配偶者や子どもなどの相続人には遺留分が認められます。
子Eさんと、子Fさんが遺留分侵害額請求をすれば、遺留分に相当する財産を支払わなければなりません。

ただし、遺留分を放棄すれば遺留分は請求できなくなります。

Aさんの生前に遺留分放棄をするには、子Eさん、子Fさんが自らの意思で遺留分放棄を行うことや、放棄の必要性、合理性が認められなければなりません。
またEさん、Fさんには、充分な代償を行わなければなりません。

子Eさん、子Fさんに相続させる財産をなるべく少なくする方法はありますか?

遺言書を作成する方法があります。
ただし、遺言によっても遺留分までは侵害できないので、子Eさんと、子Fさんが遺留分侵害額請求をすれば、遺留分に相当するお金を渡さなければなりません。

他には、第三者に遺贈や死因贈与をする方法や、生前贈与によって財産を減らす方法があります。

遺贈や贈与は、法定相続人以外の人にもできるので、たとえば孫Gさんや長女Cさんの配偶者へ遺贈したり死因贈与すると、財産を法定相続人以外の人へ受け継がせられます。
ただ遺贈や死因贈与も遺留分侵害額請求の対象になります。

生前贈与によって妻Bさんや長女Cさん、二女Dさんにできるだけ多くの遺産を生前贈与しておけば、子Eさん、子Fさんに渡る財産を減らせます。

ただし法定相続人への相続開始前10年間の生前贈与については遺留分侵害額請求の対象になります。
また、生前贈与すると受贈者に特別受益が発生し、得た利益を他の相続人へ返さなければならない可能性があります。


空き家となっている実家を国が引き取ってくれる制度について説明してください。

相続した土地を手放したいときは、その土地を国に引き渡すことができる相続土地国庫帰属制度という制度があります。

相続した土地であれば、全ての土地を国に引き渡すことができますか?

相続した土地であっても、
建物がある土地。
担保権や使用収益権が設定されている土地。
他人の利用が予定されている土地。
特定の有害物質によって土壌汚染されている土地。
境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地は引き取りの対象外です。

費用はどのくらいかかりますか?

申請する際に、1筆の土地当たり1万4000円の審査手数料を納付する必要があります。

法務局による審査を経て承認されると、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付します。
負担金は、1筆ごとに20万円が基本ですが、一部の市街地の宅地、農用地区域内の農地、森林などについては、面積に応じて負担金を算定します。


二女Dさんの挙式費用や建築資金を負担する方法は、どのようにアドバイスしますか?

相続時精算課税制度と住宅取得等資金贈与の特例を併用して贈与することをアドバイスします。
2つの制度を併用すると贈与税を軽減して、挙式費用や建築資金を援助することができます。

結婚・子育て資金の一括贈与は適用できませんか?

結婚・子育て資金の一括贈与は、親や祖父母から、18歳以上50歳未満の子や孫へ、結婚や子育てに使うお金を、非課税で贈与できる仕組みです。

二女Dさんの年齢は50歳なので、今回のケースで結婚・子育て資金の一括贈与は適用できません。

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税限度額を教えてください。

非課税限度額は、子や孫1人につき1000万円までで、このうち結婚費用や、家賃、敷金等の転居費用に充てられるのは300万円までです。

自宅の敷地内にDさんの新居を建築した場合、小規模宅地等の特例は適用できますか?

適用できません。

親子がそれぞれ別棟に住んでいる場合は、同じ敷地内であっても同居親族とはならず、小規模宅地等の特例の適用はできません。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんは前妻との間に子供がいますが疎遠になっています。
遺産分割の状況によって、前妻の子と手続きも必要になるので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、相続手続き、遺留分、相続土地国庫帰属制度、結婚・子育て資金贈与の特例に関する設例でした。

実技試験では制度や特例の内容だけでなく、今回の設例の場合だと特例が適用できるか、できないのかを質問されることがあります。

設例を読む時間に、年齢や、年数、金額や面積などの数字はチェックしておきましょう。

相続土地国庫帰属制度は令和5年4月27日にスタートしましたが、相続または遺贈により土地を取得した日が令和5年4月27日より前であっても、相続土地国庫帰属制度を利用することができます。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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