ファイナンシャル・プランナーMさんと学ぶFP1級試験勉強 〜財務データ分析(ROE編)〜

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公開日 2021年8月21日 最終更新日 2021年11月22日

X社に勤めるAさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに何かと相談します。

FP試験に登場する場面を、こんなやりとりなのかなぁと勝手に想像し、相談者Aさんへのアドバイスをもとに、FP1級試験合格を目指すNさんへ試験問題をわかりやすく解説します。

FP1級試験の主な登場人物紹介

    Profile  

ファイナンシャル・プランナー Mさん

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
AさんやX社からの相談が多く、後輩のNさんにFP1級試験のアドバイスをしています。

    Profile  

教わる人 Nさん

   

FP2級技能士。
FP1級試験を受験するも、72点で惨敗。次の試験で合格するため勉強中!

    Profile  

B分野のAさん

   

X株式会社勤務。50歳前後が多い。
余裕資金があり、投資初心者だが、上場株式への投資を考えている。

《設 例》
 Aさん(50歳)は、余裕資金を利用し、上場株式への投資を行いたいと考え、2021年5月に証券会社で特定口座(源泉徴収選択口座、株式数比例配分方式)を開設した。Aさんは、同業種のX社とY社に興味を持っており、両社の財務データ等を参考にし て投資判断を行いたいと考えている。
 そこで、Aさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。

〈X社とY社の財務データ〉 (単位:百万円)

  X社 Y社
資産の部合計 773,000 215,000
負債の部合計 90,000 75,000
純資産の部合計 683,000 140,000
内訳 株主資本合計 694,000 139,000
その他の包括利益累計額合計 △11,500 △200
新株予約権 400 400
非支配株主持分 100 800
売上高 335,000 188,000
売上総利益 278,000 114,000
営業利益 125,500 23,300
営業外収益 31,000 1,600
内訳 受取利息 2,800 500
受取配当金 27,000 700
その他 1,200 400
営業外費用 4,500 1,900
内訳 支払利息 300 300
その他 4,200 1,600
経常利益 152,000 23,000
親会社株主に帰属する当期純利益 121,000 15,000

 

(注)「△」はマイナスを表している。

〈X社とY社の株式に関するデータ〉
X社:株価6,200円、発行済株式総数300百万株、配当金総額31,500百万円
Y社:株価3,500円、発行済株式総数125百万株、配当金総額3,000百万円

※上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

しばらく使う予定のないお金があるので資産運用を始めようと思い、証券会社で特定口座を開設したものの財務データの見方がよくわからないんですよ。
上場株式への投資を行う場合、X社とY社がよさそうなんですけど、財務データから両社の違いを教えてもらえますか。

上場株式への投資に興味をお持ちなんですね。
株式投資をする際は、安い株価で買って高い株価で売りたいものですが、企業の株価が高すぎなのか安すぎなのかを判断するのは難しいですよね。
株価が高いか安いかを判断する方法はたくさんありますが、今回は財務情報に関連した株価に関する指標を活用し、企業の収益性や安全性といった視点から株価の動きを予測することができる財務諸表分析を解説します。
2021年度5月実施のFP1級学科試験〈応用編〉の《問54》を参考に財務諸表分析を説明しますね。

   欄がFP試験で出題された箇所です。[ ]欄は試験問題では□□と記載されています


 

X社とY社を自己資本当期純利益率で比較すると、X社の値が ①17.73 %、Y社の値が[10.81]%であり、X社の値の方が上回っています。この結果について、両社の自己資本当期純利益率を売上高当期純利益率、使用総資本回転率、 ②財務レバレッジ の3指標に分解して比較してみると、Y社の使用総資本回転率は ③0.87 回、 ②財務レバレッジ  ④1.55 倍で、いずれもX社の値を大きく上回っていますが、X社の売上高当期純利益率が ⑤36.12 %でY社の値を大きく上回っており、X社の収益性の高さが主たる要因と分析することができます。

 

質問! Mさん、どうやって計算するんですか?
財務データの見方がわかりません(泣)

結局どういうことなんですか?

それでは、財務諸表の見方と財務情報に関連した指標と計算式に分けて説明しますね。


財務諸表を説明します。
すべての上場企業は、金融商品取引法にもとづき経営状況の開示が義務付けられています。(ディスクロージャー)
開示する財務諸表はいくつかありますが、FP試験の応用編で出題される財務諸表は、主に次の2つです。

株式投資で重要な2つの財務諸表

POINT
貸借対照表

企業のある一時点における財政状態を表したもので、「企業の健康診断の結果」ともいわれることもあります。会社が保有する資産の総額と、その元になっている純資産や負債の内容が分かります。

資産合計=負債+純資産となります

POINT
損益計算書

企業のある一定期間における収益と費用を表したもので、経営の成績をしめすものです。売上高から販売にかかった費用を引いていき、さらに本業以外で得た利益や費用を差し引くことで最終的な利益を計算します。

利益=売上ー費用となります

貸借対照表では、会社の価値や経営状態をしめす指標のROEやROAを分析します

貸借対照表

  X社 Y社
資産の部合計 773,000 215,000
負債の部合計 90,000 75,000
純資産の部合計 683,000 140,000
内訳 株主資本合計 694,000 139,000
その他の包括利益累計額合計 △11,500 △200
新株予約権 400 400
非支配株主持分 100 800
親会社株主に帰属する当期純利益 121,000 15,000
POINT
ROE

自己資本利益率のことで、自己資本(純資産)に対してどれだけの利益が生まれたかをしめす指標(Return on Equity)

ROE(%)= 当期純利益 自己資本×100

自己資本=資産の部合計−新株予約権−非支配部主持分 または
自己資本=株主資本合計+その他の包括利益計

POINT
X社とY社の自己資本当期純利益率の計算式
 

X社のROE(%)= 121,000(当期純利益) 682,500(自己資本)×100=17.7289=17.73(小数点以下第3位四捨五入)

682,500(自己資本)=683,000(資産の部合計)−400(新株予約権)−100(非支配部主持分) または
682,500(自己資本)=694,000(株主資本合計)+△11,500(その他の包括利益計)


Y社のROE(%)= 15,000(当期純利益) 682,500(自己資本)×100=10.8069=10.81(小数点以下第3位四捨五入)

138,800(自己資本)=140,000(資産の部合計)−400(新株予約権)−800(非支配部主持分) または
138,800(自己資本)=139,000(株主資本合計)+△200(その他の包括利益計)

自己資本の計算を2通りやって検算すると計算ミスが減らせますね。


ROEは、売上高当期純利益率、総資本回転率、財務レバレッジの3要素に分解することができます。

FP試験でROEは3つの指標に分解できますって問題が出題されるんですけど、なぜ3つに分解する必要があるんですか?

ROEは、借入資金と自己資本の割合や、利益と資産活用の効率性をみる指標です。
ROEの数値が高いほど、自己資本を効率的に使用して利益を上げたと判断でき、株主から好感を持たれるので株価向上が期待できます。

ROEは重要な財務指標の一つですが、成長し続ける企業は自己資本の効率的な活用以外にも、売上高や利益の成長率も高い場合がほとんどです。

 

そこで、ROEの数値が売上高や利益の成長率とどのような関係にあるかを判断するために、計算式の分母と分子に、売上高と総資本を乗じるとROEは3つの指標に分解できます。

ROE= 当期純利益 売上高  × 売上高 総資本 × 総資本 自己資本

 
 

財務諸表の用語に置き換えてみます

ROE(自己資本利益率)=売上高当期純利益率 × 総資本回転率 × 財務レバレッジ となります。

《設例》のX社は、総資本回転率、財務レバレッジはY社よりも低い数値ですが、売上高当期純利益率が大きく上回っているため、ROEがY社よりも高い数値になっています。

ROEを上げるためには、売上高当期純利益率、総資本回転率、財務レバレッジの3つの数値を改善することが重要だということですね。

 

1

売上高当期純利益率 = 当期純利益 売上高 
 

売上高に対してどれだけ純利益をあげたかをしめす指標です。数値が高い場合は収益性が高く、低い場合は十分に利益があげられていないと判断されます。

売上高純利益率ともいわれます。

 

2

総資本回転率 = 売上高総資本
 

一定期間中に保有する資産で、どれだけ効率的に生産したかをしめす指標です。数値が高い場合は総資産を利用して効率的に売上が向上しているといえ、低い場合はうまく活用できていないと判断されます。

使用総資本回転率や総資産回転率ともいわれます。
※FP試験の財務データでは、総資本=資産の部合計です。

 

3

財務レバレッジ = 総資本自己資本
 

借入金などを梃子(てこ)として使用することで自社の総資産が自己資本の何倍になるかをあらわした数値です。数値が高い場合は、借入金等の負債を活用していると判断され、低い場合は借入に依存せず自己資本を活用した企業と判断されます。

 

ん〜。暗記するところが多くて、なんだか難しそうです。

一見難しそうだけど、ROEの式を3つの分数の式に売上高、総資本と順番に記入して覚えるのがポイントです。

ROEの3指標分解

STEP
分数の式を3つ書く

横線を3本引く

ROE(%)=          ×          ×          

STEP
売上高を記入
 

左下と中央上に売上高を記入

ROE(%)=      売上高× 売上高     ×          

STEP
総資本を記入
 

中央下と右上に総資本を記入

ROE(%)=      売上高× 売上高 総資本× 総資本     

STEP
当期純利益と自己資本を記入
 

左上に当期純利益、右下に自己資本を記入

ROE(%)= 当期純利益 売上高× 売上高 総資本× 総資本 自己資本

 

ついでに、ROA(総資本利益率)も覚えましょう。

ROAとは、総資本が利益を得るためにどれだけ効率的に利用されているかをあらわす指標です。
ROEの自己資本の部分が総資本に変わったものといえます。

ROA(%)= 当期純利益 総資本×100

 

ROAの3指標分解

STEP
分数の式を2つ書く

横線を2本引く

ROA(%)=          ×          

STEP
売上高を記入
 

左下と右上に売上高を記入

ROA(%)=      売上高× 売上高     

STEP
当期純利益と総資本を記入
 

左上に当期純利益、右下に総資本を記入

ROA(%)= 当期純利益 売上高× 売上高 総資本


株式の投資指標では、他にどんな指標があるか教えてもらえますか?

それでは、設例を読んで、FP1級学科試験の過去問題を解いてみましょう。

    2014年度1月 FP1級試験より抜粋  

 下表の〈財務指標〉から算出される自己資本比率およびROA(総資産事業利益率または使用総資本事業利益率)の組み合わせとして、次のうち最も適切なものはどれか。なお、計算結果は%表示の小数点以下第2位を四捨五入すること。

〈財務指標〉

売上高事業利益率 8.0%
売上高純利益率 3.0%
使用総資本回転率 0.8回
自己資本比率 ( ① )%
ROA ( ② )%
ROE 4.8%

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
《問1》空欄①〜②の組み合わせとして、最も適切なものはどれか?


なるほど! よくわかりました!

それぞれの計算式を分数で記入すると、わかりやすいですね。

FP1級学科試験の株式の投資指標の問題は、応用編だけでなく基礎編でも出題されます。
計算過程を示すような問題よりも、Aさんに説明する穴埋め問題での出題がほとんどですが、基礎編、応用編とも計算過程(分数の式)を書いて解くようにするとミスを減らせます。

貸借対照表や損益計算書などの決算書関係の問題は、タックスプランニングの分野でも出題されるので一緒に覚えてしまうほうが効率的です。

 

自己資本比率

自己資本比率(%)= 自己資本 総資本×100

自己資本比率は、総資本に対する自己資本の割合をしめす指標です。自己資本比率が高いほど経営の安定性が高いと判断されます。

※財務レバレッジの逆数(分母と分子を入れ替えたもの)なので、FP試験では財務レバレッジの数値ではなく自己資本比率の数値が示されている場合があります。

 
 

損益計算書の各科目の算出方法

  • 売上総利益(損失)=売上高ー売上原価
  • 営業利益(損失)=売上総利益ー販売費及び一般管理費
  • 経常利益(損失)=営業利益+営業外収益ー営業外費用
  • 税引前当期純利益(損失)=計上利益+特別利益ー特別損失
  • 当期純利益(損失)=税引前当期純利益ー法人税・住民税及び事業税等ー法人税等調整額
 

FP1級学科試験、財務データ分析の解説でした。

FP1級学科試験で財務データ分析(ROE・ROA)の問題は、過去6回開催された試験のうち応用編で出題されなかったのは2019年9月の1回だけで(インタレストカバレッジレシオとサスティナブル成長率が出題されています)
計算過程を示す問題よりも穴埋め問題で出題されることが多く、出題数が多いので計算過程を示す問題以上に時間がかかる場合があります。

穴埋め問題の場合は配点予想は1問1点だと思いますが、5〜8問程度出題されるのでこの問題も落とせません。

いろんな問題を繰り返し問題を解くこと(問題によっては売上高純利益率や売上高当期純利益率、総資本回転率や使用総資本回転率と書いてあり一瞬、ん?となる場合があります)、省略せずに計算過程を書くとミスを防げるのではないでしょうか。

難関試験のFP1級学科試験ですが、知っておくと役に立つくことばかりですので、楽しみながら頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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