公開日 2023年12月28日 最終更新日 2024年3月9日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
会社員のAさん(63歳)は、三大都市圏のY市内において、地主Bさん(70歳)が所有する甲土地(地積600m²)を、親の代から建物所有を目的とする借地契約により賃借しており、4年後に更新時期を迎える。甲土地は最寄駅から徒歩7分の場所にあり、親が建てた戸建て住宅(築45年、木造2階建て、延べ面積100m²)と賃貸アパート(築45年、木造2階建て、延べ面積240m²、全8戸)の2棟が建っている。地主Bさんとは良好な関係が続いている。なお、地主Bさんは、甲土地の南側に位置する乙土地(地積400m²)も所有しており、乙土地上には地主Bさんの自宅が建っている。
Aさんは甲土地上の戸建て住宅に妻(60歳)と2人で暮らしている。Aさん夫婦には長男(35歳)と二男(33歳)がいるが、いずれも結婚して別の都市で分譲マンションを所有しており、Y市に戻る予定はない。Aさんは、老朽化した自宅とアパートを4年後の借地契約の更新時に建て替えたい(I案)と考え、アパートについては、数年前から賃借人が退去するごとに空室のままとして準備を進めてきた。現在賃貸している4戸は近くにある大学の学生が利用(家賃収入は年間約200万円)しており、いずれも2年以内に卒業予定である。
また、Aさんは、先月、地主Bさんから、「借地権と底地を借地権割合で交換しないか(Ⅱ案)。あるいは、甲土地および乙土地を対象として現在デベロッパーのS社から提案を受けている等価交換事業に一緒に参加しないか(Ⅲ案)」と持ち掛けられた。等価交換事業の場合、Aさんには完成したマンションの専有面積240m²(自宅住戸90m²、賃貸住戸50m²×3戸)が還元されるとのことである。
Aさんの定年後の継続雇用は2年後に終了し、夫婦2人の年金収入は年間350万円程度の見込みである。自宅とアパートの建替費用は合計で8,500万円程度かかると想定され、現在保有している金融資産約4,000万円を充当して、不足分は借入金で賄うつもりでいるが、借入金の利用がその後の生活に支障を来さないか不安に思うところもあり、地主Bさんからの提案も前向きに検討してみたいと思っている。
I案:借地契約を更新し、老朽化した自宅と賃貸アパートを建て替える。
Ⅱ案:Aさんの借地権と地主Bさんが所有する底地を借地権割合で交換する。
Ⅲ案:地主Bさんと一緒にS社の等価交換事業に参加する。(FPへの質問事項)
- Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報- I案の場合、建築費以外にAさんにどのような費用が発生すると考えられますか。
- Ⅱ案の場合、交換後、Aさんはどのような土地を取得できますか。課税関係はどうなりますか。
- Ⅲ案の場合、Aさんの借地権はどのような資産に代わりますか。課税関係はどうなりますか。
- あなたはAさんにI案、Ⅱ案、Ⅲ案のいずれを勧めますか。その理由とともに教えてください。
- 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
賃貸アパートの収益や具体的な利回りの希望などはあるか。
戸建やマンションなど住宅に関するこだわりはあるか。
建て替えを予定している自宅やアパートは非堅固建物(木造)か。
相続税対策は検討しているかです。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
S社の取引事例や財務状況を確認すること。
周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、S社の提案は妥当かを確認します。
I案の場合、建築費以外にAさんにどのような費用が発生すると考えられますか?
借地契約を更新し建替える場合には原則として地主の承諾が必要となります。
建て替えの承諾を得られたら、一般的には地主への承諾料を支払います。
非堅固建物(木造)から堅固建物(鉄筋コンクリート造など)に変える場合は、借地権の契約期間が変わる場合もあるため注意が必要です。
Ⅱ案の場合、交換後、Aさんはどのような土地を取得できますか?
Aさんの借地権と地主Bさんが所有する底地を借地権割合で交換することで、AさんとBさんが互いに完全所有権の土地を取得できます。
課税関係はどうなりますか?
交換により譲渡する資産の時価と取得する資産の時価との差額が交換差金となり、交換差金に対して所得税が課税されます。
ただし、一定の条件を満たしていれば、固定資産の交換の特例の対象となり課税されません。
固定資産の交換特例が適用できる要件を教えてください。
交換する資産は、いずれも固定資産で、同種類の資産であること。
交換により取得する資産は、交換の相手が1年以上所有していたものであり、かつ交換のために取得したものでないこと。
取得する資産を、交換直前の用途と同じ用途に使用すること。
交換により譲渡する資産の時価と交換により取得する資産の時価との差額が、いずれか高い方の時価の20%以内であることです。
Ⅲ案の場合、Aさんの借地権はどのような資産に代わりますか?
地主Bさんと一緒にS社の等価交換事業に参加すると、借地権に応じたマンションの一部を取得できるので、資金負担なくマンションの所有権を得ることができます。
ただし、土地が実質共有となります。
課税関係はどうなりますか?
地上3階以上の中高層の耐火共同住宅など、条件が合えば、立体買い替えの特例の適用を受けることができるので、譲渡益に係る所得税の課税を繰延べることができます。
あなたはAさんにI案、Ⅱ案、Ⅲ案のいずれを勧めますか?
Ⅲ案を勧めます。
どうしてですか?
I案の場合だと、自宅とアパートの建替費用は合計で8,500万円程度かかると想定され、現在保有している金融資産約4,000万円と借入金で賄うつもりですが、金融資産の減少と借入金の利用が将来、負担になる可能性があります。
Ⅱ案の場合だと、Aさんが所有する土地の面積が減少してしまうので、予定している自宅とアパートの規模が縮小されてしまう可能性があります。
Ⅲ案の場合だど、建築費用を出さずにマンションを得られることや、建物のための手続きや建設をディベロッパーがすべて行ってくれるため、Aさんは建物建築に関する費用が不要なだけでなく、手続きに時間を取られることがありません。
土地も、ディベロッパーと共有することになります。
土地は最終的にディベロッパーとの共同所有ということになるため、土地の所有権の一部を手放すことになりますが、Aさんの定年後の生活を考えると資金負担のないⅢ案を勧めます。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例は、借地関係の解消、固定資産の交換特例、等価交換方式、立体買い替えの特例に関する設例でした。
借地関係の解消や譲渡所得の課税関係は、学科試験の応用編では頻出です。
実技試験対策でも、過去問を繰り返し解いてみるのが効果的だと思います。
実技試験の過去問に限らず、学科試験の過去問を解いてみるのもいいのではないでしょうか。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。