公開日 2021年8月1日 最終更新日 2021年11月10日
X社に勤めるAさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに何かと相談します。
FP試験に登場する場面を、こんなやりとりなのかなぁと勝手に想像し、相談者Aさんへのアドバイスをもとに、FP1級試験合格を目指すNさんへ試験問題をわかりやすく解説します。
ファイナンシャル・プランナー Mさん
FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
AさんやX社からの相談が多く、後輩のNさんにFP1級試験のアドバイスをしています。
教わる人 Nさん
FP2級技能士。
FP1級試験を受験するも、72点で惨敗。次の試験で合格するため勉強中!
A分野のAさん
X株式会社勤務。60歳前後が多い。
大学生の間は国民年金を納めていなかったり、再雇用や独立したりする。妻はだいたい年下。
《設例》
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
X株式会社(以下、「X社」という)に勤務するAさん(55歳)は、妻Bさん(53歳)との2人暮らしである。X社は、65歳の定年制を採用しているが、再雇用制度が設けられており、その制度を利用して同社に再雇用された場合、最長で70歳まで勤務することができる。Aさんは、定年退職後の働き方を検討する前提として、公的年金制度からの老齢給付や雇用保険からの給付について知りたいと思っている。
また、Aさんは、現在入院中の母Cさん(78歳)が退院後に介護が必要となることから、介護休業を取得した場合の雇用保険からの給付についても知りたいと思っている。
そこで、Aさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。
私も55歳になり定年後の人生を考えているんですけど、私が勤めるX社の定年は65歳なんですが、再雇用制度で70歳まで働けるんですよ。
65歳以降も働こうとは思っていますが、X社で引き続き再雇用制度を利用して70歳まで働くか、X社を退職して再就職するか迷っているんで、退職して再就職した場合のことを教えてもらえますか?
これからも働き続けたいけど、X社は退職して再就職するんですね。
退職や失業で離職した場合、再就職を支援する制度として雇用保険の求職者給付があります。
一般的には基本手当(失業手当)が支給されますが、満65歳位以上の高年齢被保険者が失業した場合には、基本手当に代えて高年齢求職者給付金が一時金として支給されます。
2021年度5月実施のFP1級学科試験〈応用編〉の《問52》を参考に高年齢求職者給付金を説明しますね。
Aさんが65歳以後にX社を退職して再就職を希望する場合、Aさんは、所定の手続により、雇用保険の高年齢求職者給付金を受給することができます。
高年齢求職者給付金ってなんですか?
いくらぐらい支給されるんですか?
高年齢求職者給付金は一時金で支給されます。その額は、原則として、算定基礎期間が1年未満の場合は基本手当日額に ⑤30 日を乗じて得た額となり、算定基礎期間が1年以上の場合は基本手当日額に ⑥50 日を乗じて得た額となります。基本手当日額は、原則として、被保険者期間として計算された最後の ⑦6 カ月間に支払われた賃金(賞与等を除く)の総額を基に算出した賃金日額に、当該 賃金日額に応じた給付率を乗じて得た額となります。
手続きはどうするんですか?
高年齢求職者給付金の支給を受けようとする場合は、公共職業安定所に出頭し、求職の申込みをしたうえ、失業していることについての認定を受ける必要があり、その受給期限は離職の日の翌日から ⑧1 年となっています。
質問! Mさん、高年齢求職者給付金と基本手当って何が違うんですか?
受給資格や給付日数などが違うので、「一般被保険者」と65歳以上の「高年齢被保険者」、倒産、解雇等で離職された「特定受給資格者」に分けて説明しますね。
基本手当の受給資格
離職の日以前2年間に12ヶ月以上の被保険者期間がある
基本手当の給付日数
算定基礎期間 | 1年未満 | 1年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
所定給付日数 | ー(なし) | 90日 | 120日 | 150日 |
被保険者であった期間 | 1年未満 | 1年以上 |
高年齢求職者給付金の額 | 30日分 | 50日分 |
算定基礎期間 | 1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
離職時の年齢 | 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ー |
30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
35歳以上45歳未満 | 150日 | 240日 | 270日 | |||
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | ||
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
※受給期間はいずれも離職の日の翌日から1年間で、受給期間を過ぎてしまうと、給付日数が残っていても支給されません。
ついでだから、再就職した場合に支給される手当も一緒に覚えましょう!
早期の再就職に支給される手当
基本手当の支給残日数 | 3分の1以上 | 3分の2以上 |
再就職手当の額 | 支給残日数の60%×基本手当日額 | 支給残日数の70%×基本手当日額 |
60歳以降に再就職した場合
ん〜。暗記するところが多くて、なんだか難しそうです。
一見難しそうだけど、FP1級学科試験の応用編の穴埋め問題で雇用保険の問題が出題される場合、受給資格や給付日数の○○ヶ月や○○日といった数値を記入する問題が多いので、就職して再就職や退職するまでを時系列で整理し、何歳の出来事なのか問題文をよく読むことがポイントです。
Aさんの架空の就職から退職まで
Y社に新卒で採用され、基本手当の受給資格を得る。離職の日以前2年間に12ヶ月以上の被保険者期間となる。
60歳から65歳にかけて、ごちゃごちゃしていてわかりにくいですね。
まさに、出題者の立場で考えると、そこが出題しやすいポイントです。
FP1級試験の応用編で出題される雇用保険の問題は、Aさんが60歳以降の退職するか、再就職するかを老齢年金と一緒に相談する設定が多いので整理して覚えましょう。
いろんな制度があることは分かったんですけど、結局いくらもらえますか?
さっきは、65歳以降に退職した場合の高年齢求職者給付金の説明でした。
今度は、2019年度5月実施のFP1級学科試験〈応用編〉の《問51》を参考に65歳到達前に退職した場合の基本手当を説明しますね。
なるほど! よくわかりました!
65歳未満で退職した場合と、65歳以上で退職した場合でかなり違いがありますね。
雇用保険の問題が応用編で出題されるのは、穴埋め問題での出題がほとんどです。
テキストに載っていないような、難しい問題は出題されません。
受給資格や給付日数の○○ヶ月や○○日といった数値を記入する問題が多いので、特定受給者の給付日数など全部を覚えられなくても、出題者や採点する人の気持ちになって、大きく数値が違うところだけでも覚えるようにして確実に得点できるようにしましょう。
基本手当の受給資格
離職の日以前2年間に12ヶ月以上の被保険者期間がある
基本手当の給付日数
算定基礎期間 | 1年未満 | 1年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
所定給付日数 | ー(なし) | 90日 | 120日 | 150日 |
被保険者であった期間 | 1年未満 | 1年以上 |
高年齢求職者給付金の額 | 30日分 | 50日分 |
算定基礎期間 | 1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
離職時の年齢 | 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ー |
30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
35歳以上45歳未満 | 150日 | 240日 | 270日 | |||
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | ||
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
※受給期間はいずれも離職の日の翌日から1年間で、受給期間を過ぎてしまうと、給付日数が残っていても支給されません。
延長理由 | 病気やケガ、妊娠、出産、介護など | 60歳以上の定年など |
申請期間 | 離職日の翌日から30日経過後の受給期間中。(最大で離職日の翌日から4年を経過するまで) | 離職の日の翌日から2ヶ月以内 |
延長期間 | 最大4年間 | 最大2年間 |
受給期間が延長しただけなので、雇用保険の基本手当の給付日数が増えたわけではありません。
雇用保険の失業給付等に関する問題の解説でした。
FP1級試験応用編の雇用保険の問題は、過去6回開催された試験のうち2019年5月、2020年1月、2021年5月の3回出題されています。
60歳代前半のケースと65歳以降のケースのどちらも出題されますが、計算過程を書く問題ではないので、配点予想は1つ正答で1点〜2点です。
A分野のライフプランニングと資金計画の問題は、穴埋め問題の出題数が多いので、雇用保険の説明だけで8問以上出題され、計算問題よりも得点が取れる場合があります。
計算問題だけではなく、穴埋め問題も取りこぼしがないように、取れる点数は確実に取りましょう。
難関試験のFP1級学科試験ですが、知っておくと役に立つくことばかりですので、楽しみながら頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。