公開日 2025年7月3日 最終更新日 2025年7月4日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(60歳)は、都内で化学品卸売業を営むX株式会社(非上場会社)の2代目社長である。X社は、100%子会社として加工製造部門を持ち、仕入先である化学メーカーとの擦り合わせによる高い技術と品質で得意先の信頼を得てきた。伝統商品である顔料・染料のほか、近年は半導体向けの電子部品材料の需要が旺盛で、業績は堅調に推移している。
【事業承継について】
Aさんには長男Cさん(28歳)と長女Dさん(25歳)の2人の子どもがいる。Aさんは4人兄弟の長男として創業者である父からX社を引き継いだ経験から、自分の長男に事業承継することを既定路線と考えてきた。そこで、長男Cさんが大学生だったときに話し合いの場を持ち、長男Cさんも覚悟を決めて受け入れたところである。現在、長男Cさんは、X社の主要仕入先である大手化学メーカーに勤務し、「製造」「リスク管理」「経理・財務」等、さまざまな業務を経験しており、X社が創業50周年を迎える2年後にX社に転じる予定である。
また、Aさんは、ゆくゆくは長男Cさんにバトンタッチをするものの、社長交代に至るまでのキャリアパスとX社株式の移転をどうするかは思案中である。特に、適用期限が迫っている法人版事業承継税制の特例措置の適用を受けるかどうかは早めに決めなければならないと感じている。
【資産承継等について】
Aさんは、X社株式を後継者である長男Cさんに承継し、現預金および有価証券の半分と自宅を妻Bさんに相続した場合、長女Dさんとの間で相続財産の不均衡が生じることに不安を感じている。
Aさんは、優良企業のオーナー社長として名が通っていることから、相続・事業承継に絡めて、銀行をはじめ、保険会社、証券会社、不動産会社、リース会社等からさまざまな商品の提案を受けており、情報整理の必要性を感じている。
【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん (58歳):専業主婦。Aさん、長女Dさんと自宅で同居している。
長男Cさん(28歳):大手化学メーカー勤務。独身。賃貸マンションに居住している。
長女Dさん(25歳):会社員。独身。Aさん、妻Bさんと自宅で同居している。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 1億円 (役員退職金は考慮していない) ⒉ 有価証券 : 1億円 ⒊ X社株式 : 4億5,000万円 ⒋ 自宅 ①土地(250m²) : 2億円 ②建物(築10年) : 5,000万円 合計 : 9億円
Aさんの相続に係る相続税額は、約3億1,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:大会社 従業員数:150人 売上高:60億円 経常利益:1億円 純資産:15億円 株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん90%、妻Bさん5%、取引先法人5%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額20,000円/株(注)
(注)本社・工場等の不動産や取引先の上場会社株式の含み益が大きい。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年6月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
社長交代に至るまでのキャリアパスはどのようなことが考えられますか?
後継者のキャリアは、企業の持続的な成長と安定を左右する重要な要素です。
後継者は、経営理念や企業文化、リーダーシップ、判断力など、経営の本質を次世代に伝える役割を担います。そのため、単なる業務の引継ぎだけでなく、計画的な育成が必要です。
社内外で社員として各部署を経験後、役員としてのキャリアを積み、経営者の右腕として経営に携わった後に社長に就任するのが一般的です。
X社株式の移転はどのように進めたら良いですか?
X社株式の移転準備として、株主構成を確認することや適正な株価評価の算定、税務・法務リスクの洗い出しなどから進めたら良いと思います。
X社の株主構成は、Aさん90%、妻Bさん5%、取引先法人5%です。
事業承継において、承継後の会社運営をスムーズに行うためには、事業後継者の持ち株比率を100%にしておくことが望ましいとされています。
株式分散のリスクを減らすため、株式を買い戻したり、贈与したりして、株式を集約するように提案します。
法人版事業承継税制の特例措置の適用を受けるかどうかについて、どのようなアドバイスをしますか?
法人版事業承継税制の特例措置の適用を受けるには期限が短いので、一般措置も含めて適用を検討するようにアドバイスします。
どうしてですか?
法人版事業承継税制の特例措置の適用を受けるには、特例承継計画を、2026年(令和8年)3月31日までに、都道府県庁へ提出しなければなりません。
次に、2027年(令和9年)12月31日までに贈与を受け、贈与を受けた年の10月15日からその年の翌年1月15日までに認定申請書類を都道府県庁へ提出し、都道府県知事による認定を受けた後、贈与を受けた年の翌年3⽉15⽇までに贈与税の申告書を税務署へ提出しなければなりません。
後継者である長男Cさんは2年後にX社に転じる予定です。
贈与税の特例措置について後継者の役員就任要件の見直しにより、2025年(令和7年)1月1日以後に贈与で取得する財産にかかる贈与税については、まだ役員になっていない後継者も、贈与の直前に役員であれば制度適用が可能となりました。
しかし、後継者の教育がしっかり行われていなかったり、引き継ぎがスムーズに進まなかったりすると、業績悪化や従業員の流出などを引き起こしてしまう危険性があります。
事業承継を実施する目的の1つは、業績の改善・安定が期待できることです。
期限や節税効果だけでなく総合的に判断するようにアドバイスします。
長女Dさんとの間で相続財産の不均衡が生じることに不安を感じていることについて、どのようにアドバイスしますか?
遺言書の作成や、遺留分に関する民法の特例の活用、自宅に配偶者居住権を設定し、長女Dさんに自宅の所有権を相続させることを検討するようにアドバイスします。
配偶者居住権とはどういった制度ですか?
配偶者居住権は、被相続人の配偶者が、相続開始時に居住していた被相続人所有の建物に、終身または一定期間、居住できる権利です。
これにより、子が自宅の所有権を相続した場合でも、配偶者は住む場所を失うことなく安心して生活を継続できます。
小規模宅地等の特例の適用ができますか?
配偶者居住権を設定しても小規模宅地等の特例は適用可能です。
配偶者居住権を設定した場合は、自宅の建物を利用する権利と所有する権利に分けて相続することができます。
土地についても敷地利用権と敷地所有権に分けて評価をし、小規模宅地等の特例の適用を受ける場合には、適用できる限度面積を敷地利用権部分と敷地所有権部分に按分する必要があります。
今回の設例では、長女Dさんは、Aさん、妻Bさんと自宅で同居しているので、敷地利用権と敷地所有権の両方に小規模宅地等の特例の適用が可能です。
別居している場合は、配偶者の敷地利用権のみに小規模宅地等の特例の適用が可能となります。
また、二次相続においては配偶者居住権に相続税は課せられません。
配偶者居住権は妻Bさんの死亡とともに消滅するので、この部分は課税対象となりません。
相続・事業承継に絡めて、銀行をはじめ、保険会社、証券会社、不動産会社、リース会社等からさまざまな商品の提案を受けていますが、どのように情報整理すると良いですか?
相続・事業承継対策として活用できる商品は、主に生命保険、信託、そして自社株対策に関連する商品があります。
それぞれ、相続税や贈与税の軽減、納税資金の確保、自社株評価額の引き下げ、後継者への円滑な事業承継、遺産分割などを目的として活用されます。
目的別に、商品の概要やメリットデメリットなどの情報を整理すると良いと思います。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんが、事業承継や資産承継についての多くの提案や、期限が近い制度の活用などに焦って決断しないように、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、株式移転、後継者のキャリアパス、法人版事業承継税制特例、配偶者居住権に関する設例でした。
事業承継税制は特例措置の期限が近く、改正もあったので出題される頻度も多いのではないでしょうか?
ただ、普段の生活でも、期限が迫っているからといって焦って決断してしまうと失敗するリスクも高くなりますね。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。