2022年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験 Part1 (2022年9月25日) 過去問解説

本ページはプロモーションが含まれています

スポンサーリンク



きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2022年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2022年9月25日)

 Aさん(65歳)は、大都市圏で包装資材卸売業を営むX株式会社(非上場会社)の2代目社長である。10年前に他界した先代である父親が築いた顧客基盤をベースとして、近年はネット販売の拡大に対応した品揃えに注力し、業績は堅調に推移している。かねてより本社が手狭で苦労していたところ、格好の物件が見つかったため、買換え(注)を行い、今般、新しい社屋での業務を開始したところである。

(注)旧本社(土地・建物):簿価2億円、売却価額1億7,000万円
   新本社(土地・建物):取得価額3億円、相続税評価額2億2,000万円

 Aさんには弟Bさん(55歳)がいる。父親から事業を承継する際、「兄弟で力を合わせてX社を盛り立ててほしい」との想いを受け、Aさんが社長、弟Bさんが副社長として二人三脚で経営に邁進してきた。銀行との面談時には常に兄弟そろって協議に参加している。

 Aさんは、昨年体調を崩して2週間ほど入院した。現在は回復し、日常生活に支障はないが、近いうちに弟Bさんに社長職を譲り、勇退することを決めた。弟BさんもAさんの意向を受け入れている。

 Aさんは、勇退とともにX社株式も弟Bさんに譲るのが自然だと考えていたところ、先日、経営者仲間から、「事業承継税制の特例を使って息子に自社株式を贈与した。事業承継税制の特例には期限があるから、活用するなら急いだほうがいい」とアドバイスを受け、その仕組みや手続について知りたいと思っている。

 なお、Aさん、弟Bさんには妹Cさん(52歳)がいる。妹Cさんは、X社の経営には関与していないが、父親の相続の際、X社株式の一部を相続しており、毎年、配当を受領している。Aさんは、X社株式の散逸を防ぐため、妹Cさんが保有するX社株式も弟Bさんに集約させたいと思っている。

 また、Aさんは、父親が創立したX社を弟Bさんの後もできれば親族内で承継してほしいと思っているが、Aさん兄弟の子ども世代はまだ若く、具体的な方向性は描けていない。

【Aさんの家族構成】
妻 (60歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女(30歳):会社員。来春、X社に入社して経理を担当する予定。会社員の夫と2人で賃貸マンションに住んでいる。
二女(28歳):会社員。Aさんと自宅で同居している。

【弟Bさんの家族構成】
妻 (52歳):専業主婦。弟Bさんと自宅で同居している。
長女(25歳):会社員。弟Bさんと自宅で同居している。
二女(20歳):大学生。弟Bさんと自宅で同居している。

【妹Cさんの家族構成】
夫 (55歳):会社員。妹Cさんと自宅で同居している。
長男(21歳):大学生。妹Cさんと自宅で同居している。

【X社の概要】
資本金:1,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:40人 配当:毎期50円/株
売上高:20億円 経常利益:3,000万円 純資産:4億円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん55%、弟Bさん40%、妹Cさん5%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,500円/株、純資産価額20,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

検討のポイント

  • 設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
  • それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
  • それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
  • FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 事業承継税制の特例の仕組みや手続について知りたいと思っていること。
  • X社株式の散逸を防ぐため、妹Cさんが保有するX社株式も弟Bさんに集約させたいと思っていること。
  • X社を弟Bさんの後も親族内で承継する具体的な方向性を示してほしいこと。

問題点は、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備。
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

事業承継税制の特例の仕組みについて教えてください。

事業承継税制特例とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が次の後継者に事業承継できた場合には、相続税や贈与税が免除になる制度です。

留意点は、届出書の提出など事務手続きが煩雑になること。
事業継続が困難な場合は、利子税と猶予された税金の支払いが必要になることです。

株式移転前に、自社株評価を引き下げる必要があります。

今回のケースで自社株評価を引き下げる方法は、どのようなことが考えられますか?

今回のケースでは、本社の買換えを行なっています。
含み損のある旧本社を売却することで売却損が3,000万円発生し、純資産を減らすことができます。

類似業種比準方式では帳簿上の金額を参照するので、何もしなければ旧本社は簿価2億円で計算することになります。
旧本社の売却で現金は入ってくるものの、3,000万円の売却損がでるので、売却損の3,000万円の分だけ類似業種比準方式での純資産を減らすことができます。

また、売却損を出したことで利益も圧縮できるようになります。
売却損は純資産に限らず利益まで減らせるので、類似業種比準方式での株価対策には有効です。

他にはありませんか?

X社は新本社を購入しているので、相続税評価額の引き下げが可能になります。

土地の評価額は国税庁が発表している路線価、建物は固定資産税評価額を基準とすることが一般的です。
路線価は、売買取引をした時の金額の70%~80%くらい、建物については、実際の価格の50~60%ほどになります。
したがって、不動産を購入することで現金をそのまま保有しているよりも評価額が減少し、結果として純資産価額が低くなります。

ただし、不動産を用いた事業承継での株価対策をする場合、不動産を購入して3年以内については株価を時価で計算するように定められています。
不動産購入は株価引下げに効果がありますが、その効果は3年経過しないと適用されない点に注意が必要です。

贈与税の納税猶予を受けるための、手続について教えてください。

納税猶予を受けるためには、2024年3月31日までに、特例承継計画を作成し都道府県庁へ提出します。特例措置の場合は、2027年12月31日までに贈与を行い、贈与年の10月15日から翌年1月15日までに申請し、認定書の写しとともに税務署への申告手続きが必要となります。

申告後、都道府県庁へ年次報告書、税務署へ継続届出書をそれぞれ、年1回、5年間提出します。


妹Cさんが保有するX社株式について、どのように対応しますか?

X社が金庫株として買い取ることを提案します。

金庫株とはどういった制度ですか?

金庫株とは、会社自身が発行した株式を買い戻して保有している状態です。

金庫株の活用で留意する点は、剰余金の分配可能額を確認する必要があります。
剰余金の分配可能額とは累積されてきた税引後利益の合算ですが、この範囲でしか金庫株の買取はできません。
実際に金庫株を買い取る際には現金が必要になるので、会社のキャッシュフローに悪影響が出るかもしれません。適切なタイミングに注意が必要です。


X社を弟Bさんの後も親族内で承継する具体的な方向性を示してほしいとのことですが、どのようなアドバイスをしますか?

現時点で、Bさんの後の親族内で後継者候補として考えられるのは、来春、X社に入社して経理を担当する予定のAさんの長女が考えられます。

しかし、Aさんの長女は入社前で、事業承継税制特例は後継者の要件を満たしていないので適用することができません。

したがって、まずは、Aさんは、Bさんの持株数が3分の2以上となるように発行済み株式の一部を無議決権株式に転換すると、Bさんが単独で特別決議を成立できるだけの株式を保有できるようになります。

無議決権株式に転換後もAさんはX社株式を所有しているので、所有するX社株式については、その後、Aさんの長女へ承継が可能になります。

ただし、長女本人の適性や意向もわからないので、他の子供たちも含めた後継者候補をBさんと話し合うようにアドバイスします。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんは、昨年体調を崩して2週間ほど入院しています。
近いうちに弟Bさんに社長職を譲り、勇退することを決めてはいるものの、X社株式についてBさんの後も親族内で承継したいが具体的な方向性は決まっていません。
AさんだけでなくBさんやご家族と一緒に、寄り添ったわかりやすく、丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、事業承継税制特例、金庫株、議決権割合に関する設例でした。

後継者が安定的に会社経営を行うためには、少なくとも過半数の議決権を保有し、できる限り株主総会特別決議のための要件である3分の2以上の議決権を保有することが望ましいとされています。

贈与税の納税猶予は、贈与直前における贈与者と受贈者の所有株式等が会社の発行済株式数の3分の2以上である場合は、その3分の2に達するまでの株式等以上の株式等を贈与しなければなりません。

贈与者と受贈者の贈与直前の所有株式等の合計が3分の2未満である場合には、贈与者の所有している会社の株式等の全部を贈与しなければならないこととなっています。

たとえば、発行済株式総数15,000株を父親がすべて所有している場合、贈与すべき最低株数は、発行済株式15,000株の3分の2で10,000株となります。したがって、最低でも10,000株は贈与しなければなりません。もちろん、それを超えることは任意ですから、15,000株すべて贈与しても納税猶予制度を適用することができます。

贈与によって10,000株を承継した後、先代経営者は5,000株を所有していますから、その5,000株については、その後、相続税の納税猶予制度を適用することができます。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

スポンサーリンク