2022年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part1 (2022年6月5日) 過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本をKindleで出版しました。

公開日 2023年12月20日 最終更新日 2024年1月11日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2022年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2022年6月5日)

 Aさん(65歳)は、地方中核都市で調剤薬局を営むX株式会社(非上場会社)の創業社長である。医薬分業の波に乗り、病院や診療所の近くでの出店を積極的に展開しながら、規模を拡大してきた。しかし、昨今は薬局の店舗数も飽和状態となり、調剤報酬・薬価の改定や薬剤師獲得競争の激化を受け、業績は伸び悩んでいる。

 Aさんは、先行きの事業継続への不安から、事業承継問題の解決も考え、M&AによるX社の売却を決断し、M&A仲介業者に相談した。幸い、大手調剤薬局が市場シェア獲得のため積極的にM&Aを仕掛けているという業界環境も手伝い、すぐに複数社からの引合いがあった。Aさんは、そのなかから上場会社である大手調剤薬局チェーンのY社を譲渡先とし、基本合意書を締結のうえ、会計事務所と法律事務所によるデュー・ディリジェンス(買収監査)に入った。

 また、Aさんは、M&Aに伴う自身の退職金とX社株式の譲渡代金の試算に加え、その後の資産承継対策についても、FPであるあなたから事前に概略の説明を受けていた。

 ところが、デュー・ディリジェンスも完了する段になって、AさんとY社との間でM&Aに関する大きな見解の相違が生じた。両者の溝は最後まで埋まることはなく、基本合意を解消して破談する事態になってしまった。

 X社の事業承継が振出しに戻ってしまい、気落ちしたAさんであったが、自身の年齢を考えると落胆してばかりもいられず、新たなM&Aを含めた事業承継の選択肢から検討し直すこととし、FPであるあなたと協議したいと考えている。

 なお、Aさんには、離婚した前妻との間に長男Bさん(40歳)がおり、今でも定期的に交流を続けている。長男Bさんは大手商社に勤務し、子会社の社長として活躍している。また、X社は、地元では名が知られた存在で、毎年有能な人材も入社しており、複数の店舗を任せられる若手も育っている。

【Aさんの家族構成】
長男Bさん(40歳):前妻との間の子。大手商社の子会社で社長として活躍している。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額)

1.現預金2億1,000万円
2.有価証券5,000万円
3.X社株式2億2,000万円
4.自宅マンション 3,000万円
合計5億1,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約2億円と見積もられている。

【X社の概要】
資本金:2,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:60人
売上高:14億円 経常利益:5,000万円 純資産:4億円
株主構成(発行済株式総数4万株):Aさん100%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額10,000円/株

※X社株式は譲渡制限株式である。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

検討のポイント

  • 設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
  • それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
  • それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
  • FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

相談内容として、X社の事業承継をどのように進めるか、M&Aを含めた事業承継の選択肢を検討していること。
問題点は、相続税が高額になるので相続税の軽減対策が必要です。


それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

M&Aに伴う退職金とX社株式の譲渡代金の課税関係を教えてください。

役員退職金と株式譲渡益では課税制度が異なるため、役員退職金で増える税金より譲渡対価の減額で減る税金のほうが大きい場合があります。
株式譲渡の金額に役員退職金の分を含めると、役員退職金では退職所得控除があるので、株式譲渡の対価として、全額受け取る場合と比べ、役員退職金の分だけ譲渡益課税が減ります。

役員退職金を増やしすぎると、かえって税金が増える場合もあるので、専門家と連携しアドバイスを行います。

事業承継の選択肢とそれぞれのメリット・デメリットを説明してください。

X社の事業承継の選択肢ですが、考えられる方法は、親族内承継、親族外承継、M&Aの3つです。

親族内承継について教えてください。

親族内承継とは、子供や配偶者、兄弟姉妹、叔父叔母、甥姪などに会社を引き継ぐ行為です。
メリットは、従業員や取引先からの理解が得やすいこと。
株式などが分散するリスクが軽減されること。
計画的に事業承継を進められることです。
贈与や相続によって事業を承継し、相続税対策として少しずつ贈与して相続財産を減らしていくか、相続時精算課税制度を活用して株価の低い時にまとめて贈与するなどの方法があります。

親族内承継のデメリットは、多額の納税資金や買取資金が必要になることや、親族であっても経営者として適切かわからない点などです。
承継財産が高額なほど、多額の納税資金や買取資金が必要となり、資金調達をどうするかという問題があります。
また、親族であるというだけで後継者を選定すると、経営者としての能力に欠ける人物が後継者になってしまうこともあります。

今回のケースでは長男Bさんが後継者候補です。
Bさんは大手商社の子会社で社長として活躍しているので、異業種のX社を引き継ぐ可能性は少ないかもしれませんが、今でも定期的に交流を続けているので、打診してみてもいいと思います。

親族外承継について教えてください。

親族外承継とは、社内の従業員・役員もしくは部外から招へいした人物に会社を引き継ぐ行為です。

親族外承継のメリットは、
経営者の資質や経験が担保されること。
従業員や会社関係者、取引先からの理解を得やすいこと。
内部昇格による従業員のモチベーション向上が期待できることです。
従業員や役員を後継者に選べば、すでに業務に携わっているため教育に時間をかける必要もなく、ビジョンやノウハウも理解しており、教育する手間が省けます。
業務能力に長けている人材が後継者となれば、金融機関や取引先からも理解を得やすく、融資や取引の継続も期待できます。
役員や一般の従業員から経営者に昇格させることで、その他の役員や従業員のモチベーションも向上し業績アップも期待できます。

親族外承継のデメリットは、
後継者の資金力不足が問題になりやすいこと。
事業承継を拒まれてしまう可能性があることです。
後継者が自社株を買取る場合、自社株の全てを買い取るには多額の資金が必要になりますが、資金力不足で親族外承継ができないケースも出てきます。
経営者自身が保証人となって金融機関から融資を受けるケースも多く、事業承継時に後継者が連帯保証人になることを要求される可能性があります。親族外の人物が連帯保証人になることは、大きなリスクを伴うので親族外承継を拒まれてしまう可能性があります。

今回のケースでは、X社は、地元では名が知られた存在で、毎年有能な人材も入社しており、複数の店舗を任せられる若手も育っているということなので、役員や従業員の中に候補者がいないか検討した方がいいと思います。

M&Aについて教えてください。

M&Aとは企業の合併買収のことです。
M&Aには、合併、株式交換、移転、会社分割、株式譲渡、事業譲渡などの種類があり、中小企業では比較的簡単な株式譲渡によるM&Aが多く行われています。
株式譲渡が行われると、一般的には株主と社長が替わりますが、企業は存続して事業を承継し、資産・負債や許認可の移転手続きも不要です。
社名や取引先、顧客なども変わらないため、見た目でわかるような変化はありません。

M&Aのメリットは、従業員の雇用を継続できること。
経営者の資産を増やせること。
経営者の連帯保証や担保提供を外せること。
事業のノウハウを後世に残し、事業の拡大や成長に役立つことです。
後継者が見つからず廃業になると、雇用している従業員が仕事を失います。元々の従業員を引き継ぐ形でM&Aを行えば、従業員の生活を心配する必要がなくなります。
M&Aは株式を売却することによって行われるので、経営者は売却益を得ることができ、リタイア後の生活資金等に役立ちます。親族や従業員に事業承継すると、経営者が連帯保証人になっている負債の問題が発生しますが、M&Aの場合、連帯保証や担保提供は不要になります。
これまで培ってきた技術やノウハウを活かし、承継先の企業の資本や人材も活用することで新規事業に取り組み企業の成長が期待できます。

M&Aのデメリットは、
取引先や従業員から不満が出る可能性があること。
希望する条件で事業承継してくれる企業が見つからない可能性があることです。
M&Aを行うことで、従業員の待遇や営業方針などが変わる可能性もあり、第三者が経営陣に収まることで不満を抱える従業員や、取引を中止する企業が出てくる可能性があります。
経営状況や売却条件が合致せず、マッチングする企業が見つからない場合もあります。

今回のケースでは、デュー・ディリジェンスも完了する段になって、基本合意を解消して破談になっています。
基本合意後に、従業員の雇用条件の見直しなど次々と追加の条件が出てきたり、情報を開示してしまうと、信頼関係が損なわれ交渉が難航します。
M&Aでは双方の信頼関係が不可欠です。
情報管理を徹底し、譲れない条件は明確にし、主張すべき点は主張する必要があります。


X社株式の相続税評価額を説明してください。

X社の場合は、会社規模が中会社の大なので、併用方式で株価を算定します。

X社株式の相続税評価額の引き下げについて、どのような方策が考えられますか?

X社株式の相続税評価額は類似業種比準価額だと5,000円、純資産価額の場合は10,000円です。
会社規模が大会社に区分されると類似業種比準方式で株価を算定できるので、従業員数を60人から70人以上に増やし、類似業種比準方式で株価が算定できるようにします。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、守秘義務の遵守を重視します。

情報が漏洩することで、社内外でありもしない噂が広まり、信頼が失われるリスクが高まります。
会社に対する不信感により従業員のモチベーションの低下や離職を招く可能性があり、またM&Aの交渉相手とも信頼関係が損なわれ交渉が難航します。
M&Aでは双方の信頼関係が不可欠です。守秘義務を遵守し情報管理を徹底することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、事業承継に関する設例でした。

最近のPart1の設例は、M&Aに関する設例が多かったのですが、今回は、M&Aが破談するという設例なので、実際に受験した方は、戸惑われた方も多かったのではないでしょうか。

事業承継の種類、退職金と株式譲渡代金の課税関係、取引相場のない株式の評価については整理して覚えておいた方がよさそうですね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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