公開日 2022年5月29日 最終更新日 2024年1月16日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(66歳)は、大都市圏近郊のK市内において、最寄駅から徒歩圏内の甲土地(地積200m²)と丙土地(地積161.6m²)を所有し、甲土地上の自宅に妻Bさん(59歳)と2人で暮らしている。丙土地は駐輪場として活用している。
妻Bさんは市役所に勤務しており、その給与収入とAさんの年金収入、駐輪場収入で日々の暮らしは賄えているが、預貯金の残高は2,000万円程度であり、将来の生活を考えるとやや心許ないと感じている。Aさん夫妻の1人息子である長男Cさん(33歳)は、東京都内に購入した分譲マンションに妻と2人の子の4人で暮らし、安定した生活を送っている。
昨年、甲土地に隣接する乙土地の所有者が死亡した。Aさんは、今年になって、その相続人が乙土地をマンションデベロッパーのX社に売却するらしいとの噂を耳にしたが、先日、そのX社から依頼を受けたというY不動産の社長の訪問を受けた。社長によれば、「X社が、乙土地上のマンション開発にあたって、甲土地をぜひ購入させてほしいと言っている。相場の3~4割増しでもかまわない。また、Aさんが等価交換をご希望であれば、対応させていただく」とのことである。
甲土地上の自宅は、築40年の木造2階建てで、年々修繕費もかさむようになり、将来の生活資金を考えると、X社からの提案は魅力的な話だと思っている。ただ、妻Bさんに相談したところ、「近隣にはお友達も多いし、遠くには行きたくないわ。もし甲土地を売却するのなら、いま貸駐輪場としている丙土地に新しく家を建てるのもいいかもしれない。それにしても、どうしてX社はここをそんなに高値で買いたいのかしら」と腑に落ちない様子である。
丙土地は、もともと駐輪場だったところをAさんの父親が収益物件として購入したもので、そもそも家を建てることができるのかわからない。丙土地と隣接している丁土地はDさんが所有し、丁土地上の自宅兼診療所で内科医を営んでいる。
Aさんは、X社の提案を前向きに検討したいと考えており、今後どのように対応したらよいか、丙土地に新たに家を建築することができるのかなど、FPであるあなたにアドバイスを求めることにした。
(FPへの質問事項)
①Aさんから直接聞いて確認する情報Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報Aさん夫妻に対し、X社が甲土地を相場より高くても買いたいという理由をどのように説明しますか。また、今後のX社との価格交渉について、どのようなアドバイスをしますか。
丙土地上に新たに建物を建築することはできますか。
等価交換方式の概要とメリット・デメリットについて教えてください。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
貸駐輪場の契約内容。
戸建やマンションなど住宅に関するこだわりはあるか。
Dさんとの関係は良好か。
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
X社の取引事例や財務状況を確認すること。
周辺の取引事例を、Y不動産や、地元の不動産業者等で確認し、X社の提案は妥当かを確認します。
X社が甲土地を相場より高くても買いたいという理由は、乙土地を甲土地と一体として活用することで、敷地全体が幅員8mの県道に接する角地となるので、建蔽率が有利になります。
さらに、建物の出入りには、市道だけでなく県道からもアプローチができるので、建築物の自由度が増し、評価額が高くなるためだと考えられます。
X社との価格交渉については、どのようなアドバイスをしますか?
X社との価格交渉は、甲土地と乙土地を一体とした場合の価格と、単独での価格を確認し、価値増加分を地域の実情や対象不動産の個別性などを勘案し、相場の3~4割増しでの価格がAさんにとって有利な条件なのかを判断し、交渉するようにアドバイスします。
丙土地上に新たに建物を建築することはできますか?
現状では、丙土地上に新たに建物を建築することはできません。
どうしてですか?
丙土地は、間口が1.8mの路地状敷地です。
建築基準法上の道路に接している通路部分の間口が、2m未満の場合、建物の建築許可が得られず、建物を建築することはできません。
建設できるようにするためには、どういった方法が考えられますか?
Dさんと交渉し、丙土地の間口部分に位置する、丁土地の20㎝分を譲渡してもらうことで、接道義務をみたし、丙土地上に新たに建物を建設可能になります。
等価交換方式の概要とメリット・デメリットについて教えてください。
等価交換方式とは、土地をデベロッパーに譲渡し、代わりに建物を建ててもらい、土地の所有者は建物の価値に対する土地の価値の分だけ、建物や不動産を所有することができる土地活用の方法です。
等価交換のメリットは、土地所有者は建築費用を出さずに建物を得られることや、建物のための手続きや建設をディベロッパーがすべて行ってくれるため、土地の所有者は建物建築に関する費用が不要なだけでなく、手続きに時間を取られることがありません。
地上3階以上の中高層の耐火共同住宅など、条件が合えば、立体買い替えの特例の適用を受けることができるので、譲渡益に係る所得税の課税を繰延べることができます。
デメリットはどんなことですか?
等価交換ではそれまで所有していた土地も、ディベロッパーと共有することになります。
最終的にディベロッパーとの共同所有ということになるため、土地の所有権の一部を手放すことになります。
権利関係が複雑化し、運用方針やメンテナンス費用などで揉めるリスクが高くなります。
不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談は税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
士業の中で、測量士と土地家屋調査士の先生の役割の違いは何でしょうか?
測量士の先生には、登記に関わらず、測量全般をお願いするのに対し、
土地家屋調査士の先生には、不動産登記法や、民法、土地家屋調査士法などに基づき、登記が必要な場合において、測量をお願いすることになると思います。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例の質問や回答も、実際に受験された方のコメントをもとに作成しました。
2月19日の試験では、Part 1がストックオプションや海外不動産の相続といった設例だったので、Part2は、過去に出題されたことがあるような設例だったのでしょうか。
受験者によって、Part1が先か、Part2が先にあるかは分かりません。
2月19日の試験は特に、Part1から受験した方は、Part2までの待ち時間がモヤモヤしていたでしょうね。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。