2021年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2021年9月25日)過去問解説

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公開日 2021年10月16日 最終更新日 2021年10月16日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2021年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2021年9月25日)

●設 例●
 Aさん(77歳)は、地方中核都市に所在するX株式会社(非上場会社・電気工事業)の創業社長である。X社は、地元で有力な総合エンジニアリング企業であるY社から技術力を高く評価され、その下請けとして長年にわたって安定した受注を確保しており、財務内容に問題はない。


 Aさんの最大の悩みは、X社の事業承継である。Aさんには長男Cさん(50歳)と長女Dさん(45歳)の2人の子がいる。長男Cさんは同県の県庁でまちづくりや情報化の業務に従事している。Aさんは、かねてから長男Cさんが家業を継いでくれることを期待してきたが、Aさんの苦労を目の当たりにしてきた長男Cさんは「自分は経営者の器ではない」と難色を示して、現在に至っている。長女Dさんは、家族と東京都内で暮らしており、家業については「自身が関与することではない」とAさんや長男Cさんで決めてほしいとのスタンスである。


 X社には、経理を担当している甥Eさん(47歳。Aさんの姉の子)がいるが、仕事は手堅いものの、経営者としては荷が重いとAさんは感じている。また、親族以外を見渡しても、社内にはX社を牽引してくれそうな人材は見当たらない。

 

 そこで、Aさんは、思い切ってY社の社長に「X社の面倒を見てもらうことは可能か」と相談してみようと考えている。昨今の人手不足で職人が大幅に不足している業界の状況を踏まえると、Y社としてもよい話ではないかと推察している。

 

 Aさんは、Y社の社長に相談する前に、X社の事業承継に関する知識を整理しておきたいと考え、FPであるあなたにアドバイスを求めている。あなたは、Aさんから概略をヒアリングし、Aさんの関心事を確認したうえで、以下のテーマについてAさんに分かりやすく説明できるように準備を進めている。

 

  1. 事業承継の選択肢とそれぞれのメリット・デメリット
  2. M&Aの手法
  3. X社株式の相続税評価額とM&Aにおける譲渡価額
  4. M&AによるX社株式の譲渡代金と役員退職金の課税関係
  5. 上記4で取得した現預金の運用とAさんの資産承継対策
  6. 仮に長男Cさんが後継者となった場合のX社株式の移転方法

 

【Aさんの家族構成】

妻Bさん (75歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(50歳):公務員。妻と子の3人で戸建て住宅(持家)に住んでいる。
長女Dさん(45歳):専業主婦。会社員の夫と2人の子の4人で賃貸マンションに住んでいる。

 

【X社の概要】
資本金:1,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:50人
売上高:6億円 経常利益:3,000万円 純資産:3億円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん100%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額4,000円/株、純資産価額15,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • X社の事業承継はどのようにすべきか
  • X社の事業承継に関する知識を整理しておきたい

問題点は、Aさんの相続発生時に、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

今回のケースでは、事業承継に関して、Aさんにわかりやすく説明できるように準備を進めています。
①事業承継の選択肢とそれぞれのメリット・デメリットを説明してください。

X社の事業承継の選択肢ですが、考えられる方法は、①親族内承継、②親族外承継、③M&Aの3つです。

 

①親族内承継とは、子供や配偶者、兄弟姉妹、叔父叔母、甥姪などに会社を引き継ぐ行為です。

メリットは、

  • 従業員や取引先からの理解が得やすい
  • 株式などが分散するリスクの軽減
  • 計画的に事業承継を進められることです。

贈与や相続によって事業を承継し、相続税対策として少しずつ贈与して相続財産を減らしていくか、相続時精算課税制度を活用して株価の低い時にまとめて贈与するなどの方法があります。

 
 

親族内承継のデメリットは、

  • 多額の納税資金や買取資金が必要になる
  • 親族であっても、経営者として適切かわからない点などです。

承継財産が高額なほど、多額の納税資金や買取資金が必要となり、資金調達をどうするかという問題があります。
また、親族であるというだけで後継者を選定すると、経営者としての能力に欠ける人物が後継者になってしまうこともあります。

 

②親族外承継とは、社内の従業員・役員もしくは部外から招へいした人物に会社を引き継ぐ行為です。
主な方法は二つあります。

一つ目は、会社の経営権を後継者に任せつつ現経営者が引き続き自社株を保有し続けるケースで、一時的に経営者を代行してもらいながら、将来的には後継者に会社を引き継ぎます。
この場合、相続発生時に自社株が相続財産として扱われるため、後継者に自社株を確実に引き継ぐためには遺言などで対処する必要があります。

二つ目は、自社株ごと経営権を後継者に引き継がせるケースで、事業承継のタイミングで後継者に会社をまとめて引き継がせるケースです。
遺言などで対処する必要はありませんが、後継者が自社株を取得する際に多大な資金力が求められるため、資金調達方法を検討する必要があります。

 

親族外承継のメリットは、

  • 経営者の資質や経験が担保される
  • 従業員や会社関係者、取引先からの理解を得やすい
  • 内部昇格による従業員のモチベーション向上が期待できることです。

従業員や役員を後継者に選べば、すでに業務に携わっているため教育に時間をかける必要もなく、ビジョンやノウハウも理解しており、教育する手間が省けます。
業務能力に長けている人材が後継者となれば、金融機関や取引先からも理解を得やすく、融資や取引の継続も期待できます。
役員や一般の従業員から経営者に昇格させることで、その他の役員や従業員のモチベーションも向上し業績アップも期待できます。

 
 

親族外承継のデメリットは、

  • 後継者の資金力不足が問題になりやすい
  • 事業承継を拒まれてしまう可能性があることです。

後継者が自社株を買取る場合、自社株の全てを買い取るには多額の資金が必要になりますが、資金力不足で親族外承継ができないケースも出てきます。
経営者自身が保証人となって金融機関から融資を受けるケースも多く、事業承継時に後継者が連帯保証人になることを要求される可能性があります。親族外の人物が連帯保証人になることは、大きなリスクを伴うので親族外承継を拒まれてしまう可能性があります。

 

③M&Aとは企業の合併買収のことです。
M&Aには、合併、株式交換、移転、会社分割、株式譲渡、事業譲渡などの種類があり、中小企業では比較的簡単な株式譲渡によるM&Aが多く行われています。
株式譲渡が行われると、一般的には株主と社長が替わりますが、企業は存続して事業を承継し、資産・負債や許認可の移転手続きも不要です。
社名や取引先、顧客なども変わらないため、見た目でわかるような変化はありません。

 

M&Aのメリットは、

  • 従業員の雇用を継続できる
  • 経営者の資産を増やせる。経営者の連帯保証や担保提供を外せる
  • 事業のノウハウを後世に残し、事業の拡大や成長に役立つことです。

後継者が見つからず廃業になると、雇用している従業員が仕事を失います。元々の従業員を引き継ぐ形でM&Aを行えば、従業員の生活を心配する必要がなくなります。
M&Aは株式を売却することによって行われるので、経営者は売却益を得ることができ、リタイア後の生活資金等に役立ちます。親族や従業員に事業承継すると、経営者が連帯保証人になっている負債の問題が発生しますが、M&Aの場合、連帯保証や担保提供は不要になります。
これまで培ってきた技術やノウハウを活かし、承継先の企業の資本や人材も活用することで新規事業に取り組み企業の成長が期待できます。

 
 

M&Aのデメリットは、

  • 取引先や従業員から不満が出る可能性がある
  • 希望する条件で事業承継してくれる企業が見つからない可能性があることです。

M&Aを行うことで、従業員の待遇や営業方針などが変わる可能性もあり、第三者が経営陣に収まることで不満を抱える従業員や、取引を中止する企業が出てくる可能性があります。
経営状況や売却条件が合致せず、マッチングする企業が見つからない場合もあります。

 

②M&Aの手法には、どのようなものがありますか?

 

M&Aでは、主に「⒈株式譲渡」、「⒉事業譲渡」、「⒊合併」、「会社分割」の4つの手法があります。

 

「⒈株式譲渡」とは、自社株式を譲渡する形で経営権を移譲するM&Aの手法です。
メリットは、手続きが簡単な点と、売却益への税金が事業譲渡と比べ抑えられるので、創業者利益が最大化しやすくなります。
デメリットは、会社全体が取引対象になるため、不採算事業があるとマイナス評価となり譲渡化学が減ってしまいます。また、負債が大きすぎる場合は買い手が見つかりにくい場合があります。

「⒉事業譲渡」とは、会社全体を売買対象とする株式譲渡と違い、譲渡対象の事業を選ぶことができます。
メリットは、継続したい事業は残し、売却したい特定の事業を売却することができるので、会社は存続することができ、負債があっても譲渡先が見つけやすくなります。
デメリットは、債権者や従業員とも承諾を得る必要があり、手間や時間、コストがかかります。

「⒊合併」とは、複数の会社を1つの会社に統合するM&A手法です。
メリットは、複数の事業が1つになることで、個別に事業を行うよりも、大きな効果を発揮することができます。
デメリットは、同業他社との合併では、顧客の重複が生じる場合があり、顧客にとっては取引先が1社となるため、取引量や取引回数を縮小される場合があります。

「⒋会社分割」とは、権利義務の一部、もしくは全部を別の会社に承継することで、もともとの会社は消滅しない点が特徴です。
メリットは、事業分野を分けることで、より専門的な分野へ参入できるなど事業拡大に活用できます。
デメリットは、従業員の同意は不要ですが、株主総会を開催しなければならず、特別決議に該当するので、株主構成によっては手間と時間がかかります。


③X社株式の相続税評価額を説明してください。

非上場株式の相続税評価額は、会社の規模に応じて「⒈純資産価額方式」、「⒉類似業種比準方式」、「⒊併用方式」に分けられ、同族以外の株主が取得した場合は例外的に「⒋配当還元方式」が用いられます。

X社の場合は、会社規模が「中会社の大」なので、「⒊併用方式」で株価を算定します。

③M&Aにおける譲渡価額を説明してください。

M&Aの譲渡価額は、企業価値評価を行い、客観的・合理的な企業の価格を算出します。
企業価値評価の方法は「⒈インカムアプローチ」、「⒉マーケットアプローチ」、「⒊コストアプローチ」の三種類があります。

「⒈インカムアプローチ」とは、将来、見込まれる収益を予測して現在の企業価値に換算した算出方法です。
メリットは、将来的な収益性や買い手とのシナジー効果を加味できる点です。
デメリットは、売主の主観が入りやすく、客観的な企業価値を求めにくい点です。
具体的な手法として、将来的に得られるキャッシュフローを加味した「DCF法」と、企業の事業計画書に基づいて算出する「収益還元法」などがあります。

「⒉マーケットアプローチ」とは、市場が決めた企業価値や、競合他社を基準に企業価値を算出する方法です。
メリットは、三種類あるアプローチの中で最も客観性が高く、誰でも簡単に利用できます。
デメリットは、「類似会社比較法」は事業内容が類似する企業がいないと利用しにくく、「市場株価平均法」は短期的な市場の動きに左右されやすい点です。
具体的な手法として、「市場株価平均法」、「類似会社比準法」、「類似取引比較法」などがあります。

「⒊コストアプローチ」とは、企業の純資産を基準に企業価値を決めるM&A評価基準です。
メリットは、客観性の高い企業価値を算出できる点です。
デメリットは、将来の収益性や買い手とのシナジーをほぼ加味しないため、将来性が高い企業やシナジーが見込まれる企業の企業価値評価には適していません。
具体的な手法として、「時価純資産法」、「簿価純資産法」などがあります。


④M&AによるX社株式の譲渡代金と役員退職金の課税関係を教えてください。

役員退職金と株式譲渡益では課税制度が異なるため、役員退職金で増える税金より譲渡対価の減額で減る税金のほうが大きい場合があります。
株式譲渡の金額に役員退職金の分を含めると、役員退職金では退職所得控除があるので、株式譲渡の対価として、全額受け取る場合と比べ、役員退職金の分だけ譲渡益課税が減ります。

役員退職金を増やしすぎると、かえって税金が増える場合もあるので、専門家と連携しアドバイスを行います。


⑤取得した現預金の運用とAさんの資産承継対策を説明してください。

現預金の運用に関しては、運用利回り、安定性、税負担、リスク分散を考慮し、Aさんの状況にあった提案を行います。
相続を視野に入れた税務面も考慮する必要があるので、必要に応じ専門家と連携し、運用、管理についてアドバイスを行います。


⑥仮に長男Cさんが後継者となった場合のX社株式の移転方法を説明してください。

Cさんが後継者となった場合の株式移転方法は、贈与や相続によって事業を承継し、相続税対策として少しずつ贈与して相続財産を減らしていくか、相続時精算課税制度を活用して株価の低い時にまとめて贈与するなどの方法があります。
要件を満たせば、事業承継税制特例を活用し株式移転を行います。

事業承継税制特例とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が次の後継者に事業承継できた場合には、相続税や贈与税が免除になる制度です。

留意点は、届出書の提出など事務手続きが煩雑になること。
事業継続が困難な場合は、利子税と猶予された税金の支払いが必要になることです。

株式移転前に、配当の引き下げや役員退職金の支給を行い、自社株評価を引き下げる必要があります。

今回のケースで適用要件を満たすためには、
Aさんは、代表を退任すること
長男Cさんは、役員に就任し3年経過すること
長男Cさんは、議決権の50%超を所有し、筆頭株主となること
長男Cさんは、代表者であること
などです。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんの最大の悩みは、X社の事業承継に際し後継者が決まっていないことです。
事業承継は、さまざまな課題を検討しながら進めていく必要がありますが、Aさんと後継者だけの話し合いですべてが決められるわけではなく、相続人やX社の経営状況も考えながら進めていく必要があります。
Aさんはもちろん、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回の設例では、「以下のテーマについてAさんに分かりやすく説明できるように準備を進めている。」と説明する内容があらかじめ示されています。

検討のポイントは、今までの試験と同じ内容が示されているので、テーマについての説明も概要だけでなく、問題点や留意点も説明できると良さそうな気がします。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

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    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
高校卒業後セガに就職し上京。地元に戻りDTPオペレーターとして印刷会社に就職。
金融機関へ転職しお客様相談やセミナー講師、社員研修を担当。