2020年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2020年9月27日)過去問解説

Part1

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本をKindleで出版しました。

開催年度別に3回分を一冊にまとめたPDF版はこちら

公開日 2021年6月13日 最終更新日 2024年1月25日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2020年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2020年9月27日)

●設 例●
 大都市圏F市に所在する株式会社X社(非上場会社・建設業)は、代表取締役社長のAさん(70歳)が40年前に設立した会社である。X社の業績は堅調に推移している。X社では、人材の確保と育成を強化しており、来春5名程度の新卒採用を計画している。

 

【X社の事業承継に関して】
 Aさんは、3年後をめどに長男Bさん(45歳)に事業を承継する予定としており、X社株式をどのように移転すべきか、対策を講じたいと思っている。後継者の長男Bさんは、2年前に大手住宅設備メーカーを退職し、X社に入社した。現在は、部長職にあるが、実質的に財務・管理部門を統括しており、従業員からの信頼は厚い。

 現在、X社株式の30%をAさんの知人(6名)がそれぞれ5%ずつを保有しているが、これらは設立時にAさんが出資金を負担したものである。これらの知人に配当金を支払った実績はなく、彼らも名義のみを貸与したことを認識している。Aさんは、X社株式の移転に先立ち、知人名義の株式(名義株)を整理しておきたいと考えている。

 

【Aさん自身の資産承継に関して】
 Aさんは、5年前に妻を亡くしており、1人で暮らす自宅を二世帯住宅に建て替えて、長男家族との同居を希望している。先日、Aさんが長男Bさんに相談したところ、長男Bさんから「実は、俺もそのことを考えていた。建築資金の半分は負担する。妻は賛成しているの で、安心してくれ」との申出があり、うれしく思っている。長女Cさん(43歳)は、F市に戻る予定はなく、二世帯住宅での父親と長男家族との同居に安堵している。

 長男Bさんと長女Cさんの関係は非常に良好であり、2人の子が遺産分割で揉めることはないと思っているが、兄妹間で相続財産の偏りが生じることに一抹の不安を感じている。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】
 長男Bさん:X社勤務。妻と子の3人でF市内の賃貸マンションに居住している。
 長女Cさん:専業主婦。公務員の夫と子の3人で隣県の官舎に居住している。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 1億2,000万円 (役員退職金は考慮していない)
X社株式(Aさん名義) 7,420万円  
X社株式(知人名義) 3,180万円  
自宅土地(260㎡) 5,200万円  
自宅建物 1,000万円  
テナントビル土地(250㎡) 5,000万円  
テナントビル建物 1億4,200万円 (注)
合計 4億8,000万円  

※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億4,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)  X社に一括賃貸(サブリース方式)し、一般の事業会社に転貸している。
  年間の賃料収入は3,600万円である。

【X社の概要】
資本金:1,000万円  会社規模:中会社の大  従業員数:68人  配当:実施なし
完成工事高:14億円  経常利益:6,000万円  余剰資金:5億円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん70%、Aさんの知人6名名義30% (各人5%)
株式の相続税評価額:原則的評価方式:5,300円/株・配当還元方式:250円/株
(類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額8,000円/株)
※X社株式は譲渡制限株式である。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
⒈設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんご家族の相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

納税資金不足が予想されるので①納税資金の準備と、相続税が高額になるので相続税の軽減、長男Bさんと長女Cさんとの②円滑な遺産分割、X社の株式移転と長男Bさんへの③事業承継対策、名義株の整理をしたいことです。


⒉それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

①納税資金の準備と相続税の軽減対策ですが、⑴生命保険の活用、⑵小規模宅地の特例の活用などがあげられます。


⒊それらの方策のなかで、何をAさんに提案しますか?

⑴生命保険の死亡保険金は、相続人が保険金を受け取る場合に限り「500万円 × 法定相続人の人数」が非課税金額となります。
今回のケースでは相続人は、長男Bさん、長女Cさんの2人ですので500万円 × 2人=1,000万円が非課税となり受け取る死亡保険金から引くことができます。

⑵小規模宅地の特例の活用はどのように提案しますか?

一定の条件を満たすことで土地の相続税評価額を、特定居住用は330㎡、事業用は400㎡まで80%軽減され、貸付事業用は200㎡まで50%軽減されます。

今回のケースでは、Aさんは1人で暮らす自宅を二世帯住宅に建て替えて、長男家族との同居を希望しています。建築資金の半分は負担する意向があるので、建物を出資比率に応じ共有登記することで二世帯住宅でも、自宅土地260㎡を特定居住用宅地ととして、80%軽減することができます。

ただし、二世帯住宅の建物を区分登記した場合、別々の家に住んでいたとみなされ、同居していることにはならず、小規模宅地等の特例は適用されないので注意が必要です。

⑵Aさんはテナントビルも所有していますが、小規模宅地等の特例はどのように計算しますか?

 

特定居住用宅地と、特定事業用・特定同族会社事業用宅地は、それぞれ限度面積まで適用でき、合計730㎡まで併用可能です。
貸付事業用宅地を含む場合は、完全併用はできず、按分計算により限度面積を求める必要があります。

特定居住用宅地×200/330+特定事業用×200/400+貸付事業用≦200㎡

今回のケースでは、自宅土地もテナントビル土地も1㎡あたりの価格は同じなので減額率の大きい自宅土地の方が有利ですが、さまざまな背景を加味しながら税理士と連携し、選択特例対象宅地等を検討します。

 

②円滑な遺産分割を行うためにはどのような提案・方策が考えられますか?

②円滑な遺産分割についてですが、⑴遺言書の作成、⑵生前贈与の活用があります。

遺言書の種類と留意点、代償分割について教えてください。

遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。
代償分割は、所有財産に占める不動産の比率が高い場合などは不動産を相続した人の取得割合が多くなることが考えられます。
今回のケースでは、X社株式、自宅、テナントビルを取得し長男Bさんが事業承継すると遺産の多くを長男が取得するため長女Cさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があるので、生命保険の活用や生前贈与により代償分割の準備をすることが必要です。

⑵生前贈与の活用はどのように提案しますか?

生前贈与の活用には、歴年贈与、教育資金、結婚・子育て資金贈与、住宅取得資金贈与などがあげられます。
今回のケースでは、後継者である長男Bさんが遺産の多くを取得するため長女Cさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があります。
教育資金の一括贈与や住宅取得資金贈与、歴年贈与などを積極的に行うことをアドバイスします。

自筆証書遺言保管制度ついて教えてください。

自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。


X社の名義株の整理と長男Bさんへの③事業承継対策はどのような留意点が考えられますか?

事業承継税制を活用して、長男Bさんに株式を移転するためにも名義株の整理を早急に行う必要があります。
今回のケースでは、これらの知人に配当金を支払った実績はなく、彼らも名義のみを貸与したことを認識しているので株主名簿を実質株主へ変更し、贈与税回避のために確認書を作成しておくことを提案します。

③事業承継税制とは、どのような制度ですか? 留意点はどのようなことが考えられますか?

 

事業承継税制を適用すると、後継者が贈与により取得した株式にかかる贈与税を先代経営者の相続発生時まで猶予することができます。
先代経営者の相続により、猶予された贈与税は免除されますが、相続税の計算に加算されます。しかし、相続税の納税猶予制度に切り替えることで引き続き納税猶予を受けることができ、最終的には後継者の相続発生か、次の後継者に事業承継税制を使って贈与することにより猶予されていた税額は免除となります。

今回のケースで適用要件を満たすためには、

  • Aさんは、代表を退任すること
  • 長男Bさんは、役員に就任し3年経過すること
  • 長男Bさんは、議決権の50%超を所有し、筆頭株主となること
  • 長男Bさんは、代表者であること

などです。

5年以内に後継者が代表者でなくなった場合や、取得した株式を譲渡などで手放した場合、届出書を提出しなかった場合などは納税猶予が取り消されるので注意が必要です。

 

X社は、来春5名程度の新卒採用を計画していますが、事業承継に影響がありますか?

5名の新卒採用をすることで従業員数が70名を超える会社となるので、会社規模が大会社になります。
大会社の場合、株式の相続税評価額は、類似業種比準方式と、純資産価額方式のどちらか有利な方を選択できます。
X社の場合、類似業種比準方式を選択でき、株式の相続税評価額が有利になります。

ただし、事業承継税制を適用する場合、承継後5年間で平均8割の雇用が維持できなければ納税猶予が打ち切りになります。
報告書を提出し、都道府県知事からの認定を受けられれば、引き続き納税は猶予されますが注意が必要です。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは70歳とご高齢なのこと、名義株の整理や事業承継、自宅の建て替えなど関係者も多く複雑な内容も多いと思いますので、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視したいと思います。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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