2020年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2020年9月26日)過去問解説

Part1

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本をKindleで出版しました。

開催年度別に3回分を一冊にまとめたPDF版はこちら

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

実技試験対策本をKindleで出版しました。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2020年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2020年9月26日)

●設 例●
 Aさんは、株式会社X社(非上場会社・建設業)の代表取締役社長であったが、先月病気により、71歳で急逝した。地方都市に所在するX社は、Aさんが40年前に設立した会社である。バブル崩壊後は経営状況の厳しい時期が続いたが、2000年以降、業績は堅調に推移している。X社の余剰資金は3億円以上あり、経営は安定している。

 

【X社の事業承継に関して】
 長男Cさん(42歳)は、1年前に取締役に就任し、実質的に経営を担ってきた。その経営能力は非常に高く、後継者としての資質に問題はない。妻Bさん(68歳)は、長年、取締役 として人事・総務の管理部門を担当し、Aさんを補佐してきた。引き続き、取締役として次 期社長に就任する長男Cさんをサポートしていきたいと考えている。

 Aさんの相続開始が突然であったため、X社株式の移転が進んでおらず、自社株式の各種対策を行っていなかった。妻Bさんおよび長男Cさんは、X社株式をどのように承継(遺産分割)するべきか、悩んでいる。

 

【Aさん自身の資産承継に関して】
 Aさんは、遺言書を準備していなかった。妻Bさんが東京都内に暮らす公務員の二男Dさん(38歳)に意向を聞いたところ、二男Dさんから「親父が急死して、母さんや兄貴が大変 なことは理解している。俺はX社の経営に参画することはないし、不動産を欲しいとも思わないが、息子として親父の財産の一部をもらう権利はあると思っている」と言われた。長男Cさんと二男Dさんの関係は良好であるものの、妻Bさんは、兄弟間で相続財産の偏りが生じることに一抹の不安を感じている。

 また、妻Bさんは、以前、銀行の担当者から配偶者居住権が新設される話を聞いたことを記憶しており、その概要を確認したいと思っている。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん :X社取締役。長男Cさん家族と同居している。
長男Cさん:X社取締役。妻と2人の子がおり、妻Bさんと同居している。
二男Dさん:公務員。妻と子の3人で東京都内の官舎に居住している。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 9,000万円  
死亡退職金 5,000万円 (妻Bさんに支給)
X社株式 3億2,000万円  
自宅土地 5,000万円 (300㎡)
自宅建物 2,000万円  
X社本社土地 8,000万円 (500㎡、無償返還方式・通常の地代にて賃貸)
月極駐車場 6,000万円 (400㎡)
合計 6億7,000万円  

※Aさんの相続に係る相続税額は、約7,200万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

【X社の概要】
資本金:1,000万円  会社規模:大会社  従業員数:80人
完成工事高:22億円  経常利益:5,000万円  純資産:10億円
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん80%、妻Bさん10%、長男Cさん10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額4,000円/株、純資産価額7,000円/株

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
⒈設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんご家族の相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

納税資金不足が予想されるので①納税資金の準備と、相続税が高額になるので相続税の軽減、長男Cさんと二男Dさんとの②円滑な遺産分割、X社の株式移転と長男Cさんへの③事業承継対策、配偶者居住権の概要を知りたいことです。


⒉それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

①納税資金の準備と相続税の軽減対策ですが、⑴金庫株の活用、⑵小規模宅地の特例の活用などがあげられます。


⒊それらの方策のなかで、何をAさんに提案しますか?

⑴金庫株の活用ですが、通常の自社株買取はみなし配当として総合課税の対象ですが、株式を相続した人が、相続が発生してから3年10ヶ月以内にその株式を発行会社に売却した場合には、本来、総合課税されるところ、20%分離課税となるので税金コストを抑えて譲渡することが可能になります。
今回のケースでは、後継者である長男CさんがX社株式を相続し、その後、X社に株式の一部を買い取ってもらうことで、現金を受け取り納税資金に充てることができます。

⑵小規模宅地の特例の活用はどのように提案しますか?

一定の条件を満たすことで土地の相続税評価額を、特定居住用は330㎡、事業用は400㎡まで80%軽減され、貸付事業用は200㎡まで50%軽減されます。

今回のケースでは、後継者である長男CさんがX社本社土地を相続すると、自宅土地300㎡を特定居住用宅ととして、X社本社土地500㎡のうち400㎡までを特定同族会社事業用宅地等として、80%軽減することができます。


②円滑な遺産分割を行うためにはどのような提案・方策が考えられますか?

②円滑な遺産分割についてですが、⑴金庫株の活用、⑵生前贈与の活用があります。

今回のケースでは、後継者である長男Cさんが遺産の多くを取得するため二男Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があります。

二男Dさんは公務員なのでX社の経営に参画することや月極駐車場の収入を得ることなどは、公務員の就業規則で制限がある可能性があり、本人の意向も、X社の経営に参画することはないし、不動産を欲しいとも思わないとの意向があるので、金融資産を中心に相続したいのではないかと考えます。

金庫株を活用しX社株式を相続後、X社に株式の一部を買い取ってもらうことで、現金を受け取ることが可能になり、金融資産を多く相続することで、ある程度均等な相続が可能になります。

⑵生前贈与の活用はどのように提案しますか?

生前贈与の活用には、歴年贈与、教育資金、結婚・子育て資金贈与、住宅取得資金贈与などがあげられます。
今回のケースでは、後継者である長男Cさんが遺産の多くを取得するため二男Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があります。
教育資金の一括贈与や住宅取得資金贈与、歴年贈与などを積極的に行うことを提案します。


X社の③事業承継に関してはどのような留意点が考えられますか?

 

事業承継税制を適用し相続税の納税猶予を受けると、後継者が相続する株式にかかる相続税が会社経営を継続している間猶予されます。
適用要件は

  • 申告期限までに都道府県知事の認定を受けること。
  • 先代経営者は代表権を有しており、議決権の50%超保有していたこと。
  • 後継者は相続開始の翌日から5ヶ月を経過する日において代表権を有していること。
  • 中小企業者に該当すること

などです。

5年以内に後継者が代表者でなくなった場合や、取得した株式を譲渡などで手放した場合、届出書を提出しなかった場合などは納税猶予が取り消されるので注意が必要です。

 

配偶者居住権とはどのような制度ですか?

配偶者が相続開始前から住んでいた被相続人所有の建物は、配偶者がその建物の権利を相続しなくても終身、または一定期間、配偶者に建物の使用を認める制度です。
配偶者居住権の設定をしていないと配偶者が自宅を相続した場合に預貯金の割合が少なくなりますが、配偶者居住権を設定すると、自宅に住み続ける権利である敷地利用権と配偶者居住権付きの敷地所有権とに分けて相続することができ、配偶者も預貯金を得ることが可能になります。
留意する点は、配偶者居住権には登記が必要で譲渡・売却ができません。配偶者が施設に移るなどし自宅に住まなくなった場合も、賃貸として賃料を得ることは可能ですが、自宅を売却して費用を捻出することができません。
子供が複数人いる場合も、例えば所有権を長男にしてしまうと配偶者の相続時に長男が自宅の権利を取得するので兄弟間での遺産分割が不平等になります。

配偶者居住権を設定しても小規模宅地の特例は適用可能ですか?

配偶者居住権を設定しても、通常の宅地と同様に取得した親族が一定の要件を満たせば、小規模宅地の特例は適用可能です。

今回のケースでは、妻Bさんと長男CさんはAさんと同居していたので、敷地利用権を妻Bさんが取得し、配偶者居住権付きの敷地所有権を長男Cさんが取得することで、小規模宅地の特例とも併用可能です。
ただし、二次相続の際に長男Cさんに自宅の権利が移ってしまうので、二男Dさんが納得できるよう話し合いをすることが必要です。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは病気で急逝され、X社にとってもご家族にとっても不安なことが多いと思います。
X社の経営を安定して続けていく必要がある長男Cさんと、X社経営に関心のない二男Dさんが納得できるように、ご家族一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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