公開日 2023年12月24日 最終更新日 2024年1月12日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
Aさん(70歳)は、個人で不動産貸付業を営んでおり、毎年の不動産所得の金額は1,000万円程度である。自宅で妻Bさん(66歳)と暮らし、生活は安定しているが、最近足腰が弱くなったと感じることが多くなり、自身の年齢のことを踏まえ、そろそろ自分の相続に備えておきたいと考えている。
Aさんは、知人から「配偶者に自宅を生前贈与すれば、相続税の軽減になるらしい」との話を聞いた。その仕組みはよくわからないが、効果があるなら自宅の土地を妻Bさんに贈与したいと思っている。また、保険代理店の担当者から「一時払終身保険を相続対策に活用することができます」との提案を受けたが、生命保険に加入することがどうして相続対策になるのか、理解できていない。
Aさん夫妻には、長男Cさん(41歳)と長女Dさん(37歳)がいる。
長男Cさんは、現在、妻と子の3人で賃貸マンションに暮らしている。先日、Aさん夫妻のもとに孫を連れて遊びに来た際、「そろそろ住宅の購入を考えているが、将来のことを考えると、父さんや母さんの近くで暮らしたほうがよいと思っている」と話し、妻Bさんは顔をほころばせていた。Aさんは、自宅の敷地が大きいことから、建築資金を負担し、その敷地内に長男Cさん家族のための新居を建ててあげてもよいと考えている。また、不動産貸付業については長男Cさんに引き継ぎたいと思っている。
一方、長女Dさんは、会社員の夫と遠方にある持家で暮らしており、実家にはここ数年帰ってきていない。以前から長男Cさんと折り合いが悪く、Aさんは、遺言書を準備する必要性を感じており、自筆証書遺言の保管制度を利用することを検討している。
【Aさんの推定相続人】
妻Bさん (66歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(41歳):会社員。妻と子の3人で賃貸マンションに住んでいる。
長女Dさん(37歳):会社員。夫と分譲マンション(夫所有の持家)に住んでいる。【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 8,000万円 2.自宅 ①土地(400m²) : 9,000万円 ②建物(築25年) : 1,000万円 3.賃貸マンション ①土地(300m²) : 6,000万円 ②建物(築10年) : 2,500万円 (年間収入約800万円) 4.賃貸アパート ①土地(250m²) : 5,000万円 ②建物(築20年) : 1,000万円 (年間収入約400万円) 5.月極駐車場(220m²) : 5,500万円 (年間収入約150万円) 合計 : 3億8,000万円 ※Aさんの相続に係る相続税額は、約8,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
- 設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
- それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
- それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
- FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として、配偶者に自宅を生前贈与し、相続税の軽減をしたいと思っていること。
一時払終身保険に加入することがどうして相続対策になるのかわからないこと。
建築資金を負担し、敷地内に長男Cさん家族のための新居を建ててあげる方法。
不動産貸付業については長男Cさんに引き継ぎたいこと。
遺言書を準備する必要性を感じており、自筆証書遺言の保管制度を利用することを検討していること。
問題点は、納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備。
相続税が高額になるので相続税の軽減。
円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
配偶者に自宅を生前贈与すれば、相続税の軽減になるのはどうしてですか?
贈与税の配偶者控除の特例を活用すると、婚姻期間が20年以上の配偶者から居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与を受けた場合、贈与税の基礎控除110万円と合わせて、最高で2,110万円まで贈与税がかかりません。
Aさんの所有財産を減らすことができるので、相続税の軽減につながります。
贈与税の配偶者控除の特例の要件を教えてください。
夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと。
配偶者から贈与された財産が、自分が住むための居住用不動産であること、または居住用不動産を取得するための金銭であること。
贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであることです。
贈与税の配偶者控除の注意点を教えてください。
不動産を取得すると不動産取得税や登録免許税がかかることです。
同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができず、配偶者が先に亡くなると相続税が増える可能性があります。
一時払終身保険に加入することが相続対策になるのはどうしてですか?
生命保険の保険金はあらかじめ指定された保険金受取人の固有財産となり、原則として遺産分割協議の対象外となり手続きがスムーズにできます。
また、相続人が受け取る死亡保険金のうち、500万円×法定相続人の数までは相続税の対象にならないので、相続税の軽減対策としても有効です。
建築資金を負担し、その敷地内に長男Cさん家族のための新居を建ててあげる方法はどのようにアドバイスしますか?
住宅取得資金の非課税特例を活用し、建築資金を長男Cさんに贈与することをアドバイスします
住宅取得資金の非課税特例の非課税限度額はいくらですか?
耐震・省エネなどの一定基準を満たす住宅の場合は1,000万円。
それ以外の住宅の場合は、500万円です。
Aさんの敷地内に長男Cさん家族のための新居を建ててあげる場合の注意点を教えてください。
Aさんの敷地内に長男Cさんが新居を建てる場合は、地代のやりとりなどがない使用貸借とする方法が考えられます。
使用貸借の場合、借地権はゼロとなります。
したがって、土地の評価上も借地権評価額を差し引くことはできないので、土地の評価は自用地としての100%評価となります。
不動産貸付業については長男Cさんに引き継ぐ方法はどのような方法が考えられますか?
不動産貸付業の法人化を前向きに検討するように提案します。
不動産貸付業を法人化しておけば、預金口座や事業用資産は法人が引き継ぐので、スムーズに取引を継続することができます。
個人事業主の場合、事業のために使っていた不動産なども個人の所有物になるため、贈与や相続の対象になります。
これに対し、法人の場合は、これらは会社の財産となり、贈与や相続の対象となるのは株式となります。
不動産貸付業を法人化する場合のメリットを教えてください。
法人化によるメリットは、
税負担を軽減できること。
不動産に限らず法人の事業活動において支出されているものであれば、全て経費に認められること。
青色申告であれば、赤字を10年間繰り越せること。
相続時に分割がしやすくなること、
家族を役員などにして不動産所得を役員報酬という形で家族に分散することができるので相続税額の軽減効果があります。
遺言書の種類や留意点について教えてください。
遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。
遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。
自筆証書遺言保管制度について教えてください。
自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは、色々な制度を耳にしているが、わからないことも多いので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、贈与税の配偶者控除の特例、生命保険を活用した相続対策、住宅取得資金の非課税特例、不動産貸付業の法人化、自筆証書遺言保管制度に関する設例でした。
仕組みはよくわからないとか、理解できていないということが多い設例だったので、質問される内容は予想しやすかったのではないでしょうか。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。