2022年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験 Part2 (2023年2月5日) 過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2023年6月17日 最終更新日 2024年1月11日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2022年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2023年2月5日)

●設 例●
 Aさん(60歳)は、首都圏近郊のK市の中心商業地であるK駅前通りに所在する甲土地(地積135m²)の一部と甲土地上にある甲建物(RC造6階建て賃貸ビル、店舗・事務所)の一部を所有している。

 甲土地は、3筆に分筆され、現在、Aさん、弟Bさん(57歳)と、他界した兄Cさんの妻であるDさん(65歳)の3人がそれぞれ単独で所有している。

 甲建物は、A さん、弟Bさん、Dさんの共有で、それぞれの持分は3分の1である。甲建物は現在満室で、賃料はAさんと弟Bさんが共同で経営する不動産管理会社が諸経費と管理費を控除し、残りを所有者3人に月額80万円ずつ均等に配分している。

 もともと甲土地は、35年前にAさんの父親が知人の紹介で購入したものであり、その2年後に甲建物を建築した。父親は生前、「自身の相続時、自宅は同居している長男Cに、甲土地と甲建物は二男Aと三男Bに相続させる」と明言していた。「自宅のほうが価値は高いが、 AとBは納得してほしい」とまで言われていたが、遺言書を作っておらず、10年前に父親が亡くなったとき、兄Cさんは、甲土地と甲建物の3分の1の権利を当然のことのように主張してきた

 兄Cさんは、小さい頃から年の離れたAさんと弟Bさんを軽視する傾向が強く、 理不尽な物言いが多いことから、Aさんと弟Bさんは兄Cさんが大嫌いだった。このときも、 Aさんと弟Bさんは猛反発したが、当時存命していた母親の肩入れもあり、結果的に兄Cさんは、自身の主張を押し通し、都心部にある実家のほか、甲-3の土地と甲建物の持分3分の1を取得してしまった。

 その兄Cさんが、2022年1月、突然事故で亡くなり、甲-3の土地と甲建物の持分3分の1は兄Cさんの妻であるDさんが単独で相続した。

 先月、Aさんと弟Bさんのもとに、Dさんの代理人と名乗る弁護士のEさんが現れ、Dさんからとする次のような申出が伝えられた。「相続で取得した甲-3の土地と甲建物について、今後、継続して所有する意思がないので、ぜひAさんとBさんで買い取ってほしい。金額については土地・建物合わせて総額1億円でお願いしたい」というものだった。これを聞いた弟Bさんは激昂し、「私たちから盗んだ不動産を返しに来たのかと思ったら、1億円を出せだなんて、とんでもない話だ。びた一文も払う気はない」と、けんもほろろに追い返した。Aさんも同席していたが、弟Bさんの気持ちがわかるので、あえて止めなかった。

 その後、Eさんから、「Dさんは、Aさん、Bさんと争うことを望んでいない。どのような形ならよいか要望を聞かせてほしい。もし買い取ってもらえないのであれば第三者に譲渡する用意があるので、了承してほしい」という内容の書面が届いた。Aさんはどのように対応 したらよいかわからず、FPであるあなたにアドバイスを求めることにした。

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
    ①Aさんから直接聞いて確認する情報
    ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
  2. Aさんは甲-3の土地と甲建物の持分を買い取ったほうがよいでしょうか。また、提示された総額1億円という価格の妥当性についてどのように思いますか。
  3. Aさんは、Dさんから届いた書面に対して、どのように返答したらよいでしょうか。
  4. 甲土地の前面道路の路線価(1,340千円)と側道の路線価(390千円)が大きく異なっていることについて、どのような理由が考えられますか。また、甲-3の土地の相続税評価額と固定資産税評価額の算出方法について教えてください。
  5. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

 

  • 甲土地(甲-1、甲-2、甲-3)
    地目:宅地 地積(合計):135m² 価格水準(相場価格):1,815,000円/m²
    ※甲-1はAさん、甲-2は弟Bさん、甲-3はDさんがそれぞれ単独所有している。
  • 甲建物
    1990年4月建築 RC造6階建て 店舗・事務所ビル 延べ面積:690m²
    固定資産税評価額(2022年度):6,000万円
    ※甲-1、甲-2、甲-3にまたがって建築されている。
    ※Aさん、弟Bさん、Dさんが各3分の1の持分で共有している。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
 ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?

①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
兄Cさんの妻であるDさんとの関係性は良好か。
甲-3の土地と甲建物の持分を買い取る場合の資金計画を確認します。

②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを確認します。


Aさんは甲-3の土地と甲建物の持分を買い取ったほうがよいでしょうか?

買い取ったほうがよいと思います。

どうしてですか?

不動産を共有のままにしておくと、売却する際には共有者全員の同意が必要になり、もし1人でも同意していない場合には売却することができません。
また、共有者の中に認知症を患ったり行方不明になったりした人がいると売却することが大変困難になります。
さらに、共有者の誰かが他界してしまった場合、その人の持分は相続対象となります。そのため、ケースによって共有者の人数が増え、権利関係が複雑になってしまうからです。

提示された総額1億円という価格の妥当性についてどのように思いますか。

妥当だと思います。

どうしてですか?

甲-3は、価格水準(相場価格)1,815,000円/m²×45㎡で、81,675,000円です。
甲建物の持分は、固定資産税評価額(2022年度)の6,000万円を3分の1すると2,000万円になります。
甲-3と甲建物の持分を合計すると約1億円になるので、提示された総額1億円という価格は妥当だと思います。


Aさんは、Dさんから届いた書面に対して、どのように返答したらよいでしょうか?

甲-3の土地と甲建物の買取に関し前向きに検討しているので、第三者への譲渡は待ってほしいと返答するようにします。

どうしてですか?

まず、不動産を共有のままにしておくと、権利関係が複雑になるので第三者への譲渡は避けた方がいいと思います。

次に、甲-3の土地と甲建物の買取に関して、それぞれの適正な価格を算定したあとに価格交渉を行い買取を検討するためです。

それぞれの不動産の適正な価格はどうやって調べますか?

適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。


甲土地の前面道路の路線価(1,340千円)と側道の路線価(390千円)が大きく異なっていることについて、どのような理由が考えられますか?

路線価が大きく異なっている理由は、甲土地は、指定容積率600%の商業地域ですが、甲-3土地側の前面道路は4mなので4m×6/10で計算した240%が容積率の上限となります。
甲-1や甲-2部分と比べ容積率が低く、建築できる建物に制限があるので路線価が大きく異なっていると思います。

甲-3の土地の相続税評価額と固定資産税評価額の算出方法について教えてください。

甲-3の土地のような不整形地の評価額を路線価方式で算出する場合、最初にその土地を整形地であるとして評価額を出し、その後その評価額に不整形地補正率で調整をすることにより、評価額が減額されます。

相続税路線価と固定資産税路線価の公示価格との関係性を説明してください。

相続税路線価は公示価格の80%程度、固定資産税路線価は公示価格の70%程度の水準で決定されているという関係性があります。


FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?

不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、ドラマチックな設例でしたが、共有名義の不動産、路線価(相続税路線価、固定資産税路線価)不動産価格に関する設例でした。

相続税路線価固定資産税路線価
求められる評価額相続税評価額固定資産税評価額
単位千円単位1円単位
根拠となる税金相続税、贈与税固定資産税、都市計画税、登録免許税、不動産取得税
評価主体国税庁市町村(東京23区は東京都)
評価の頻度毎年3年に1回
価格時点1月1日基準年(3年ごと)の1月1日
公表時期毎年7月ごろ基準年の4月ごろ
価格水準公示価格の80%程度公示価格の70%程度
掲載サイト財産評価基準書全国地価マップ
相続税路線価と固定資産税路線価の違い

評価主体は、相続税路線価が国税庁(国)であり、固定資産税路線価が市町村です。
評価の頻度は、相続税路線価が毎年評価し直されるのに対し、固定資産税路線価は3年に一度しか評価されないことになっています。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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