合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(59歳・会社員)は、首都圏M市内(既成市街地等の地域内)に所在する甲土地(地積:1,500m²)と乙土地(地積:240m²)を1年前の父親の相続により取得している。父親の代から、甲土地はアスファルト敷きのコインパーキングとして活用し、乙土地は借地人Bさん(56歳)に貸している。甲土地・乙土地は、M市中心部のM駅から徒歩5分に位置し、周辺一帯は商業地域に指定されており、商業施設・事務所ビル・マンション等が建ち並んでいる。Aさんは、隣県N市内の自宅において、妻(56歳・専業主婦)と長女(25歳・高校教諭)の3人で暮らしている。Aさんは、父親の相続時に相応の税額を納付しており、預貯金の残高は1,000万円に満たない金額である。自身の相続時にも多額の相続税額が見込まれ、甲土地を駐車場のままにしておいてよいのかと不安を抱いている。
【X社の提案】
Aさんは、先日、地元のマンション開発業者X社の担当者から「甲土地・乙土地はM駅に近く、規模的にもマンション用地として適地であり、需要は相当高いと考えています。そこで、甲土地と乙土地の両方を買い取らせていただけないでしょうか。ただし、建設する予定の建物の規模が確保できるのであれば、甲土地だけの買取りも検討いたします。なお、Aさんが等価交換をご希望であれば、対応いたします」と提案を受けた。
【乙土地の借地契約の変遷と借地人Bさんとの交渉】
乙土地は、Bさんの亡父がAさんの父親から1953年に期間30年・非堅固建物所有目的で借地したものである。Bさんは、Aさんの父親との間で2013年に2回目の更新を同様の期間で行っている。Aさんが、X社から乙土地も買い取りたいとの提案を受けているとBさんに伝えたところ、以下のような返答があった。「15年前にAさんのお父さまに建替承諾料を支払って、私が自宅を建て替えたことは知っているでしょ。生まれ育ったこの土地に住み続けたいと思っているからこそ、お父さまに協力してもらって住宅ローンを組んで、思い切って建替えをしました。Aさんに協力したい気持ちはもちろんありますが、いま転居することは考えていません」
Bさんの自宅は、軽量鉄骨造2階建て、延べ面積130m²で、乙土地上の北側部分に位置している。
Aさんは、Bさんの主張は当然のことであると理解している。他方、Aさんは、甲土地をX社に売却する話は何とか前に進めたいと思っている。Bさんが乙土地(借地権)を売らない場合、Bさんに対して何か提案することはできないものか、FPであるあなたに相談することにした。
(FPへの質問事項)
①Aさんから直接聞いて確認する情報Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
- X社が乙土地も買い取りたい理由としてどのようなことが考えられますか。
- Bさんが乙土地(借地権)を売らないと言った場合、どのような提案が考えられますか。
- Aさんが等価交換方式を選択した場合のメリットについて教えてください。
- 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
①Aさんから直接聞いて確認する確認する情報は、
⑴本人しか知らないこと。関係者の意向として
甲土地は、父親の相続により取得しているが、取得費や取得日がわかる書類はあるか
甲土地への特別な想いはあるか
甲土地を手放してもいいか、所有し続けるのか
Aさんの甲土地以外の資産状況や、Aさんの相続に係る相続税の見積総額はいくらか
Aさん自身は何歳まで働く予定か、コインパーキングの収入はいくらか
X社が建設する予定の建物の規模はどれぐらいか
⑵乙土地に関して
Bさんとの関係は良好か
Bさんの住居はマンションでもかまわないか
乙土地の地代や、建替承諾料はいくらか
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し今後の開発予定や周辺環境の変化を把握すること。
⑷市場調査として
他の不動産業者などから取引事例等を確認し、市場価格の確認、近隣の地価公示価格、基準地価格、路線価を確認すること。
開発業者X社の提案内容や提示金額は適正か。
乙土地を買い取ることにより、前面道路の幅員が12m以上になり、指定容積率の500%が容積率の最高限度となるためです。
乙土地を買い取らない場合は、前面道路の幅員が4mなので、4m×6/10×100%=240%となり、容積率が低くなります。
X社が建設する予定の建物の規模がわかりませんが、乙土地を買い取らないと建物の規模は小さくなります。
特定道路による容積率制限の緩和とは、建築物の敷地が幅員15m以上の道路から70m以内にあり、前面道路の幅員が6m以上12m未満である場合に適用できます。
甲土地は、特定道路から70m以内に位置しますが、前面道路が6m未満なので、特定道路による容積率制限の緩和は適用できません。
X社のマンション開発事業を、借地人、地主、デベロッパーの三者による共同事業とし、Bさんの借地権と、Aさんの所有する底地の価格に応じてX社の建設するマンションと等価交換し、Bさんは借地権の価値に見合う土地とマンションの各部屋を取得することを提案します。
Bさんは、地主と借地人の権利関係が解消でき、建替承諾料や更新料、地代の支払いも不要になります。
Bさんが、マンションに住むことに抵抗がなければ、生まれ育った土地に住み続けることもできます。
甲土地だけの買取も検討するとあるが、乙土地と合わせて買い取る場合に比べ買取金額は低くなるます。
Aさんが、X社の提案に納得できるようであれば甲土地だけの買取や等価交換も検討できますが、隣にマンションが建設されるとBさんの生活にも影響が出ます。
Bさんの事情や気持ちをよく理解した上で話し合い、借地関係を解消し甲土地と乙土地を合わせて等価交換することを提案します。
新規に事業資金を調達する必要なく、区分所有権を取得することができます。
通常、マンションを建築する場合、事業資金を借り入れるなどし建築費を準備しなければなりません。資金を借り入れると、将来の金利上昇リスクや家賃下落リスク、空室リスクなど様々なリスクが発生しますが、等価交換方式の場合、事業資金を調達する必要がなく区分所有権を取得できるのでリスクが軽減できます。
甲土地をそのまま所有していると、相続発生時に100%の相続税評価となりますが、マンションが建っている土地は貸家建付地となり、自用地価額×(1−借地権割合×借家権割合)で算出でき、土地にかかる評価額を下げることができます。
不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談は税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士に、
地積の更正や変更の登記は土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。