公開日 2026年7月21日 最終更新日 2026年7月23日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
X株式会社(製造業・非上場会社)は、Aさん(50歳)の父親Cさん(80歳)が30年前に設立した会社である。Aさんは、2020年に社長に就任し、その際に父親Cさんが所有していたX社株式について事業承継税制(特例措置・相続時精算課税制度を利用)を活用して同年中に贈与(贈与時の時価は5億6,000万円)を受けている。
X社は先代の社長である父親Cさんが特許を持つ製品を扱っていたため、長年にわたって複数の大手メーカーから安定した受注を受けてきた。しかし、数年前に20年の特許期間が満了したことや、原材料価格の上昇等への対応が遅れたこともあり、有利子負債が増え、2期連続して売上高が減少するなど、先行きは不透明な情勢にある。
そのような折、AさんのもとにM&A仲介業者が訪れ、「X社株式を譲渡する気はないか。買手企業の詳細はまだ明らかにできないが、御社もよく知っている会社で、できるだけ早く基本合意契約を結びたいと言っている。よければ今度相手方と面談する場を設けたい」との提案を受けた。業者によれば、買手企業は人材の確保を第一の目的として今回の提案を行っており、X社の社長は現状どおりAさんのままとし、お互いに助け合って事業を拡大していきたいと考えているとのことである。
【事業承継について】
親族内および社内に後継者候補となる有力な人物はおらず、Aさんは、現状のX社の業況を鑑み、X社株式の譲渡について前向きに考えているが、父親Cさんから贈与されたX社株式について、父親Cさんが生きている間に他社に譲渡することとした場合、課税関係がどのようになるのか知っておきたいと思っている。
また、現在の状況で父親Cさんが亡くなった場合、納税猶予されたX社株式の贈与税は免除されることは知っているが、相続税の対象になるのかよくわかっていない。
【父親Cさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 1億5,000万円 ⒉ 自宅 ①土地(450㎡) : 9,000万円 ②建物(二世帯住宅、築20年) : 3,000万円 ⒊ X社本社土地(500㎡) : 1億円 (注) ⒋ 賃貸アパート ①土地(200㎡) : 4,000万円 ②建物(築20年、8室) : 1,000万円 (年間収入約800万円) 合計 : 4億2,000万円
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書を父親Cさんと連名で税務署に提出し、父親Cさんに通常の地代を支払っている。
【X社の概要】
資本金:4,000万円 会社規模:大会社 従業員数:80人
売上高:20億円 税前利益:3,000万円 純資産 :11億円
株主構成(発行済株式総数8万株):Aさん100%
贈与時の株式の相続税評価額:類似業種比準価額7,000円/株、純資産価額10,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2026年6月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
Aさんの相談内容と問題点は、
現在「事業承継税制の特例措置」の適用を受けているX社株式について、Cさんの存命中に他社への譲渡をした場合に、どのような課税関係が生じるのか把握できていないこと。
現在の状況のまま父親Cさんが亡くなった場合、納税猶予されている贈与税は免除されるものの、それが「相続税」の対象になるのか、またその場合の仕組みや税負担がどうなるのかが分からないこと。
M&Aについて、仲介業者から「できるだけ早く基本合意契約を結びたい」と急かされていること。
Aさんがすでに株式贈与を受けているため、母親や妹との間で財産配分に著しい不公平が生じ、遺留分を侵害するなどの親族間トラブルに発展するリスクがあること。
父親Cさんの所有財産、相続税評価額が高額なこと。
納税資金が不足する可能性があることです。
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
父親Cさんから贈与され、現在「事業承継税制の特例措置」の適用を受けているX社株式について、Cさんの存命中に他社への譲渡をした場合に、どのような課税関係が生じますか?
父親Cさんの存命中に特例対象株式を譲渡することは、事業承継税制における「猶予取消事由」に該当します。
そのため、これまで猶予されていた贈与税の全額を、原則として一時に全額納税しなければなりません。
さらに、2020年の贈与の期限の翌日から、猶予取り消しにともなう納税の日までの期間に応じた「利子税」が上乗せされます。
また、M&Aによる株式売却にともない、Aさんが受け取る譲渡対価から、X社株式の取得費および譲渡費用を差し引いた「株式譲渡所得」に対して、一律20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の申告分離課税が課されます。
現在の状況のまま父親Cさんが亡くなった場合、納税猶予されている贈与税は免除されるものの、それが「相続税」の対象になるのか、またその場合の仕組みや税負担がどうなるのか説明してください。
現在の状況のまま父親Cさんが亡くなった場合、納税猶予されている贈与税は全額免除されますが、その対象となっていたX社株式は「相続税」の課税対象となります。
ただし、父親Cさんの死亡時において、Aさんが引き続き事業承継税制の要件(後継者として社長業を継続していることなど)を満たしている場合は、一定の手続きを経ることで「相続税の特例事業承継税制(特例措置)」へ切り替えることが可能です。
特例措置の適用により、相続税についても対象株式の100%の税額が納税猶予されます。
したがって、切り替え手続きを適正に行う限りにおいては、Cさん死亡時におけるX社株式に対する直接的な相続税の金銭負担はゼロとなります。
Aさんが株式の贈与を受けたのは2020年です。事業承継税制の特例措置において、5年経過前後での違いを教えてください。
贈与から5年間は「経営承継期間」として非常に厳しい縛りがありますが、5年を経過した後は、代表権の維持要件、雇用維持要件、行政への報告・届出頻度が大幅に要件が緩和されます。
代表権の維持要件として、5年経過前は、原則として、Aさんは代表取締役の地位を維持し続ける必要がありますが、5年経過後は、Aさんが社長を退任して代表権を外れ、信頼できる親族外の幹部社員などに社長の座を譲ったとしても、納税猶予はそのまま継続します。
雇用維持要件として、5年経過前は、5年間の平均で、贈与時の雇用の「8割」を維持する義務があり、都道府県知事への毎年1回の報告が必要ですが、5年経過後は、雇用維持の要件そのものが消滅します。現在のX社のように業況が悪化し、やむを得ず人員整理や組織のスリム化を行ったとしても、それによって猶予が取り消されるリスクは一切なくなります。
行政への報告・届出頻度が、5年経過前は、毎年、都道府県知事への「年次報告」と、税務署への「継続届出書」の双方を提出する重い事務負担がありますが、5年経過後は、都道府県への報告義務は終了し、税務署への「継続届出書」の提出も「3年に1回」に頻度が激減します。
株式譲渡をした場合、5年経過前後で違いはありますか?
5年経過後に株式譲渡や廃業を行う場合、「業況悪化による株価下落を反映した免除規定」が適用できるかどうかに違いがあります。
5年経過前に株式譲渡をした場合は、理由を問わず一発で納税猶予の全部が取り消しとなります。
税額は、現在の下がってしまった株価ではなく、過去の贈与時の高い時価(5億6,000万円)をベースに計算され、さらに巨額の「利子税」を上乗せされた金額を、一時に現金で全額納付しなければなりません。
特例措置では、猶予されていた贈与税額(または将来の相続税額)を、事業承継時の株価を基に算出された税額ではなく、「譲渡時の株価」を基に再計算するので、実際の売却額との差額分(過去の高かった株価との差額)の税金は免除されます。
父親Cさん名義の「本社土地(1億円)」は、現在は「土地の無償返還に関する届出書」を提出して通常の地代を支払っていますが、M&AによりX社株式を第三者に譲渡した場合、どのような影響がありますか?
父親Cさん名義の本社土地について、M&AによってX社株式を第三者に譲渡した場合、土地の貸借関係自体は継続するものの、小規模宅地等の特例について影響が生じます。
現状では、将来父親Cさんの相続が発生した際、この本社土地について「特定同族会社事業用宅地等」の特例を適用することで、400㎡までの部分について評価額を80%減額できる計算になっています。
しかし、M&Aにより株式を第三者に売却すると、CさんやAさん一族の持株比率は「100%」から「0%」になります。 これにより、X社は「被相続人の親族が過半数の株式を保有する法人」という特例の絶対要件を満たさなくなり、特定同族会社事業用宅地等の特例は一切適用できなくなります。
M&A後は、完全に他人の会社となったX社に対して土地を貸し付けている状態(第三者への不動産賃貸業)へと性質が変化します。
将来の相続時に、要件を満たせば「貸付事業用宅地等」の特例を適用できる可能性は残りますが、その場合は「200㎡まで・50%減額」へと効果が大幅に縮小されてしまいます。
父親Cさんの所有財産の概要には自宅、X社本社土地、賃貸アパートがありますが、小規模宅地等の特例についてどのようなアドバイスをしますか?
父親Cさんが所有する3つの土地(自宅、X社本社土地、賃貸アパート)に対する「小規模宅地等の特例」の適用については、まず、3つの土地がそれぞれどの区分に該当し、要件を満たしているかを整理します。
自宅の土地建物は築20年の二世帯住宅です。建物の登記が「区分所有登記」ではなく、一棟の建物として二世代で居住している状態(または共有登記)であれば、敷地全体について、330㎡まで80%減額となります。
X社本社土地について、X社はAさんが100%の株式を保有する同族会社です。
また、土地の無償返還届出書を提出して通常の地代を支払っているため、適正な有償賃貸借が成立しています。
したがって、Aさんが将来この土地を相続し、申告期限まで法人が事業を継続すれば、400㎡まで80%減額となります。
賃貸アパートは、年間800万円の安定した家賃収入があり、継続した貸付事業を行っています。適用できれば、200㎡まで50%減額となります。
有利選択(併用ルール)についてはどのようなアドバイスを行いますか?
小規模宅地等の特例では、どの土地を組み合わせて適用するかによって全体の減額効果(節税効果)が大きく異なります。
平成27年(2015年)以降の税制改正により、「特定居住用宅地等(330㎡)」と「特定同族会社事業用宅地等(400㎡)」は、お互いの限度面積を削り合うことなく、最大730㎡まで「完全併用」することが認められています。
もし減額率が50%と低い「貸付事業用宅地等」を1㎡でも選択に混ぜてしまうと、厳しい調整計算式が適用され、特定居住用や特定同族会社事業用の限度面積が大幅に削られてしまいます。
3つの土地の1㎡あたりの単価を比較すると、自宅(20万円/㎡)と本社土地(20万円/㎡)が同等に高く、減額率もともに80%で最大です。
したがって、アパート土地(貸付事業用)への適用は一切行わず、「自宅土地(特定居住用)」と「本社土地(特定同族会社事業用)」の2つに絞って完全併用するのが、最も節税効果が高くなります。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんが「今M&Aを実行した場合の税金」と「将来お父様の相続を待ってから動いた場合の税金」の損益分岐点を正しく理解していないと、重大な経営判断を誤ってしまいます。
各選択肢のメリットだけでなく、内在するリスクやペナルティの金額までを分かりやすく視覚化して説明し、Aさんご自身が完全に納得・同意した上で、主体的に会社と家族の未来を選択できるようサポートすることが不可欠だからです。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、事業承継税制特例、小規模宅地等の特例、M&Aに関する設例でした。
本設例の最大の特徴は、Aさんが2020年に父親CさんからX社株式の贈与を受けており 、試験本番である現在(2026年)は「贈与から6年が経過している」というタイムラインです。
ここに気づくだけで、事業承継税制における最初の5年間の「雇用維持要件(8割維持)」や「代表権維持義務」の縛りはすでにクリアしているという強みを指摘できます。
さらに、5年経過後であるからこそ、現在の業況悪化による株価暴落を反映した「経営環境の変化による贈与税の免除・再計算規定」という、特例措置ならではの超強力な救済スキームをAさんにアドバイスできたかどうかが、大きなポイントになります。
M&A業者に言われるがままCさんの生前に株式を他社に譲渡してしまうと、一族の持株比率が0%になり、将来Cさんの相続時に本社土地の80%減額特例(特定同族会社事業用)の権利を失ってしまうというリスクまで言及できると実務的思考力が証明されます。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。