2026年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2026年6月7日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のテキストと過去問解説集を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2026年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2026年6月7日)

●設 例●

 Aさん(65歳)は、大都市圏で調剤薬局を営むX株式会社(非上場会社)の2代目社長である。X社は、かかりつけ薬剤師が患者をサポートする体制を整え、地元密着型薬局として業績は堅調に推移してきた。人材面でも、複数店舗を任せられる幹部社員や他の模範となる薬剤師が育っている。ただ、大手チェーンの業界再編に伴う競争激化や頻繁な薬価改定による利益率の低下で事業環境は厳しさを増しており、AさんはX社の先行きに危機感を抱いている。

 Aさんは、社員の一層のモチベーションアップのため、従業員持株会を設立するプロジェクトを進めている。従業員持株会については、取引銀行の本部専門家から、自社株対策としても効果があることを聞いているが、改めてメリット・デメリットを整理したうえで、その仕組みについて知りたいと思っている。

 

【事業承継について】

 長女Cさん(38歳)は、X社に勤務し、管理部門を統括する妻Bさん(63歳、X社の専務取締役)のもとで実務を担っている。一方、長男Dさん(35歳)は、脳神経外科医として大学病院に勤務しており、将来は研究の道に進みたいという希望を持っている。

 Aさんとしては、長男Dさんに家業に戻ってほしいとの淡い期待を抱いているものの、性格が異なる兄弟での経営に一抹の不安もあり、長男Dさん本人の希望を尊重するつもりでいる。そのため、長女Cさんには経営者としての道を歩んでほしいと思っているが、長女Cさんは今の業務に満足し、自分が先頭に立つという意識に乏しいところが気になっている。

 また、Aさんは、昨年来、仲介会社を通じて、大手薬局チェーンからM&Aの誘いを受けており、厳しい事業環境を考えると、M&Aも事業承継の選択肢の1つではないかと感じ始めている。

 

【資産承継について】

 Aさんは、仮に長女Cさんが後継者となった場合に、自身の資産承継について、長女Cさんと長男Dさんの双方が納得感を得られるよう、何らかの準備をしておきたいと考えている。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】

 妻Bさん (63歳):Ⅹ社の専務取締役。Aさんと自宅で同居している。
 長女Cさん(38歳):Ⅹ社の管理部門に勤務。会社員の夫と子1人の3人で分譲マンションに居住している。
 長男Dさん(35歳):大学病院の勤務医。専業主婦の妻と子1人の3人で借り上げ社宅に居住している。

 

【Aさんの主な所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 1億円  (役員退職金は考慮していいない)
X社株式 2億9,700万円  
自宅      
  ①土地(200㎡) 6,000万円  
  ②建物 2,300万円  
X社本社兼店舗土地(300㎡) 1億2,000万円  (注)
  合計 6億円  

 

※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億7,300万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。

 

【X社の概要】

資本金:3,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:50人 配当:実施していない
売上高:10億円 税前利益:5,000万円 純資産:4億円
株主構成(発行済株式総数6万株):Aさん90%、妻Bさん10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額10,000円/株

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2026年6月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

Aさんの相談内容と問題点は、会社の先行きに強い危機感を抱かれていること。
従業員持株会の設立を検討されていますが、その具体的な仕組みやメリット・デメリットを整理できていないこと。
後継者決定の難航と親族内承継への不安。親族内承継だけでなくM&Aを視野に入れるべきか、決断がついていないこと。
納税資金が不足していること。
相続税評価額が高額なこと。
仮に長女Cさんが後継者として株式を引き継いだ場合、長男Dさんとの間で財産配分に大きな偏りが生じ、将来の紛争に発展するリスクがあることです。


それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

従業員持株会について、その仕組みについて説明してください。

従業員持株会は、従業員に自社株を取得・保有させることで、経営参画意識を高めるとともに、オーナー経営者にとっては自社株対策(安定株主の確保・納税資金対策など)としても有効な手法です。

従業員が毎月給与や賞与から一定額を拠出し、持株会がその資金をまとめてAさん等の既存株主や会社から株式を買い取ります。
会社の株主名簿上の名義は1つの大口株主としてまとめられ、従業員個々の持分は、持株会内部の口座で管理されます。
また、会社が配当を実施した場合は、持株会を通じて従業員のそれぞれの持分(拠出額)に応じて分配されます。
なお、現在のX社は配当を実施していませんが、設立後はモチベーションアップのために配当を検討することが一般的です。

メリットを教えてください。

会社やAさん側のメリットは、信頼できる自社の従業員に株式を持たせることで、実質的にAさんの経営権を脅かさない「安定株主」を構築できます。
また、Aさんが保有する自社株を、持株会へは「配当還元価額」で売却できるので、Aさんの財産総額を効果的に引き下げ、相続税を圧縮できます。
従業員持株会に株式が移るかわりに、Aさんは、売買代金を受けることになり、現在不足している約7,300万円の相続税の納税資金を確保することが可能になります。
さらに、業績が上がれば従業員自身の資産が増えるため、モチベーションアップや優秀な人材の定着につながります。

従業員側のメリットは、非上場株式であっても、少額の給与天引きで自社の資産形成に参加できます。
また、会社側が「拠出額の10%」などを奨励金として上乗せしてあげることで、従業員は有利に株式を購入することができます。

デメリットを教えてください。

会社やAさん側のデメリットは、従業員が退職する際には、持株会を退会することになり、退職者が保有していた持分を、原則として現金で買い戻さなければなりません。将来、退職者が重なった場合に会社の資金繰りを圧迫するリスクがあります。
また、規約の作成、理事会の運営、配当や持分の管理など、事務負担が毎年発生します。
これらは妻Bさんが統括する管理部門の新たな業務負担となるため、妻Bさんや長女Cさんの負担感にも配慮が必要です。

従業員側のデメリットは、上場株式と異なり、原則として「退職時」などの特定の事由がなければ、自由に売却して現金化することができません。


長女Cさんには経営者としての道を歩んでほしいと思っているが、Cさんは今の業務に満足し、自分が先頭に立つという意識に乏しいところが気になっています。
Cさんを後継者とする場合にはどのようなアドバイスをしますか?

Aさんは長女Cさんの経営者意識の乏しさを懸念されていますが、Cさんは現在、専務である妻Bさんのもとで実務をしっかり担われています。
まずはCさんの不安を解消し、経営者としての自覚を促す仕組みを作ります。

また、長男Dさんの将来の医療の道に専念する意志が固いことを明確に確認します。
Dさんが継がないことが確定すれば、長女Cさんも「自分が継がねばならない」という当事者意識を持ちやすくなります。

M&Aも事業承継の選択肢の1つではないかと感じ始めていますが、どのようなアドバイスをしますか?

大手チェーンからの業界再編の波や薬価改定による利益率低下を考慮すると、長女Cさんに無理に経営を押し付けることは、会社にとってもCさんにとってもリスクとなります。
仲介会社からの提案に対し、単に拒絶するのではなく、まずは、企業価値評価の試算を進めます。
M&Aを選択した場合、幹部社員や薬剤師が育っているX社であれば、大手の傘下に入ることで処遇が向上したり、調剤薬局としての基盤が安定したりするメリットもあります。
長女Cさんが経営者を拒んだ場合のセカンドプランとして、条件の比較検討を進めるようアドバイスします。


仮に長女Cさんが後継者となった場合に、自身の資産承継について、長女Cさんと長男Dさんの双方が納得感を得られるよう、何らかの準備をしておきたいと考えていますが、どのような準備をしたら良いですか?

Aさんの意思を明確にするため、必ず公正証書遺言を作成します。
長女Cさんに経営権(X社株式)と事業基盤(本社土地)を相続させ、長男Dさんには自宅不動産や現預金、あるいは後述する代償金を配分する内容とします。

また、遺言書の中に「付言事項」を添え、「長女Cさんに多く財産を遺すのは、会社の維持と従業員50人の雇用を守る重い責任を負わせるためであること」「長男Dさんには医師としての独立を応援し、別途金銭的な配慮(代償金等)をしたこと」など、Aさんの親としての公平な想いと感謝を言葉で遺すことで、長男Dさんの心情的な納得感を高めます。

他にありませんか?

遺留分に関する民法特例を活用します。
Aさんの生前に、長女Cさんと長男Dさんを含む推定相続人全員の合意(書面)の上で、家庭裁判所の許可等を経て「除外合意」または「固定合意」の手続きを行います。

これにより、長女Cさんは将来の自社株高騰による遺留分請求の怯えから解放され、長男Dさんにとっても現在の価値に基づいた公平な話し合いが生前にできるため、双方の納得感が非常に高まります。


Aさんが大手薬局チェーンへ会社を売却(M&A)することを選択した場合、Aさんが得る売却代金(創業者利益)にはどのような税金が、何%かかりますか?

Aさんが保有する自社株を直接譲渡して創業者利益(現金)を得る場合、それは「株式譲渡所得」となり、売却益に対して一律20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の申告分離課税が課されます。

売却前にAさんに『役員退職金』を支給してから会社を売却する場合とで、税金面にどのような違いが出ますか?

M&Aの実行前に、Aさんが社長を退任する形をとり、会社から適正額の「役員退職金」を支給する場合は、退職所得控除が適用でき、勤続年数に応じた多額の控除が差し引けます。
控除後の金額をさらに2分の1にした上で、他の所得と完全に分離して課税されるため、実質的な税率を大幅に引き下げることができます。

また、会社が退職金を支出することで、会社の純資産が減少し、譲渡する自社株の価値そのものを意図的に引き下げることができます。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんが仕組みを気にされている「従業員持株会」の導入をはじめ、「M&A(株式譲渡)に伴う税効果の比較」、「経営承継円滑化法(民法の遺留分特例)」の活用など、一般の経営者には判断が難しい極めて高度で専門的な論点が数多く含まれています。
表面的なメリットだけでなく、持株会における将来の退職金・買い戻しリスクや、長女Cさんの管理部門での事務負担増加といったデメリット・留意点までを分かりやすく丁寧に説明し、Aさんご自身がすべてを正しく理解し、納得・同意した上で主体的に決断できるようサポートすることが不可欠だからです。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、従業員持株会、M&A、遺留分に関する民法特例に関する設例でした。

Aさんの現状である「自社株評価が高く、現預金(納税資金)が不足している」という課題に対して、従業員持株会は非常に有効な解決策となります。

ただし、退職時の買い戻しルール(規約の設計)を厳密に作っておかないと、将来思わぬ資金流出を招きます。また、長女Cさんの管理部門の事務負担が増えるため、Cさんのモチベーション向上も兼ねて丁寧に導入を進める必要があります。

今回の設例で「従業員持株会への株式売却(配当還元価額での譲渡)」や「役員退職金の生前支給」を提案する最大の目的は、株価引き下げだけでなく、「Aさん個人へ合法的に現金を移転させ、納税資金不足を解消すること」にあります。常にキャッシュの動きを意識して提案を組み立てましょう。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  
   

楠本 学

   

FP1級技能士、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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