2025年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年9月28日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2025年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年9月28日)

●設 例●
 Aさんは、X株式会社(非上場会社・機械部品製造業)の代表取締役社長であったが、先月病気により70歳で急逝した。大都市圏に所在するX社は、Aさんが40年前に設立した会社であり、その技術力は取引先から高く評価され、業績は堅調に推移している。X社の余剰資金は2億円以上あり、経営は安定している。

 

【事業承継について】

 長男Cさん(45歳)は、1年前にX社の取締役に就任し、実質的に経営を担ってきた。その経営能力は非常に高く、後継者としての資質に問題はない。妻Bさん(70歳)は、長年、取締役として経理業務を担当し、Aさんを補佐してきたが、引き続き、取締役として長男Cさんをサポートしていきたいと考えている。

 Aさんから長男Cさんへの事業承継は既定路線であり、家族内でも共有されていたが、承継を検討し始めた矢先に相続が発生したため、長男Cさんは、X社株式をどのように承継するべきか悩んでいる。

 

【資産承継について】

 Aさんは、遺言書を準備していなかった。妻Bさんが地方都市に暮らす二男Dさん(43歳)に意向を聞いたところ、二男Dさんから「親父が急死して、母さんや兄貴が大変なことは理解している。俺はX社の経営に参画することはないが、息子として親父の財産の一部をもらう権利はあると思っている」と言われた。長男Cさんと二男Dさんの関係は良好であるものの、妻Bさんは、兄弟間で相続財産の偏りが生じることに一抹の不安を感じている。

 妻Bさんの健康状態は良好であるが、同い年であったAさんが急逝したこともあり、自分に万一のことがないとも言い切れないと思っている。そのため、この先の生活を考えると相応の財産は確保しておきたいが、財産を多く相続すると自身の相続が発生した際に多額の相続税が生じるのではないかと不安を抱いている。二男Dさんにも配慮したいと考えており、どのように遺産分割をすべきか頭を悩ませている。

 

【Aさんの相続財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 3,000万円  
死亡退職金 3,500万円   (妻Bさんに支給
X社株式 2億4,000万円  
自宅      
  ①土地(200m²) 7,000万円  
  ②建物 2,000万円  
X社本社土地(500㎡) 1億円  (無償変換方式・通常の地代にて賃貸
月極駐車場(250㎡) 3,000万円  (アスファルト敷き
  合計 5億2,500万円  

 

※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億4,100万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

※Aさんは、契約者(=保険料負担者)・被保険者をAさん、死亡保険金受取人を妻Bさんとする生命保険(死亡保険金1,500万円)に加入していた。

 

【X社の概要】

資本金:1,000万円 会社規模:大会社 従業員数:90人 配当:毎期100円/株
売上高:16億円 経常利益:4,000万円 純資産:4億円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん80%、妻Bさん10%、長男Cさん10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額15,000円/株、純資産価額20,000円/株

 

【Aさんの家族構成(法定相続人)】

妻Bさん(70歳):X社の取締役。Aさんと自宅で同居していた。
長男Cさん(45歳):X社の取締役。妻と子2人の4人で持家に居住している。
二男Dさん(43歳):会社員。妻と子2人の4人で社宅に居住している。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年9月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • X社株式をどのように承継すべきか。
  • 兄弟間で相続財産の偏りが生じること。
  • 妻Bさんが財産を多く相続すると自身の相続が発生した際に多額の相続税が生じるのではないかと不安を抱いていることです。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 納税資金の確保。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

納税資金の準備と相続税の軽減対策ですが、事業承継税制の活用、金庫株の活用、小規模宅地の特例の活用などがあげられます。

事業承継税制を相続発生後に適用するための主な要件を説明してください。

相続が発生した日の翌日から8か月以内に都道府県庁へ経営承継円滑化法に基づく認定申請が必要です。(ただし、相続が発生した日から5か月を経過する、認定申請基準日以降でないと申請できません)

後継者の要件として、相続開始の直前において役員であり、相続開始から5ヶ⽉後に代表者でなければいけません。(先代経営者が70歳未満で死亡した場合、⼜は相続発⽣前に確認を受けた特例承継計画に特例後継者として記載されている場合を除きます)

相続の開始があったことを知った⽇の翌⽇から10ヶ⽉以内に、都道府県知事の認定書を提出し、相続税の申告を行います。
また、納税が猶予される相続税、及び利⼦税に⾒合う担保を税務署に提供する必要があります。

事業承継税制の適用に際して注意する点はありますか?

事業承継税制を相続税で適用した後に、納税資金の確保や、二男Dさんからの遺留分請求資金を確保するために、金庫株を実行すると取消事由に該当してしまいます。
事前に金庫株実行を検討している場合には、一部の株式に事業承継税制を適用しないことを検討します。


円滑な遺産分割を行うためにはどのような提案・方策が考えられますか?

今回のケースでは、後継者である長男Cさんが遺産の多くを取得するため二男Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があります。

二男Dさんは、X社の経営に参画することはないし、不動産を欲しいとも思わないとの意向があるので、金融資産を中心に相続したいのではないかと考えます。

金庫株を活用しX社株式を相続後、X社に株式の一部を買い取ってもらうことで、現金を受け取ることが可能になり、金融資産を多く相続することで、ある程度均等な相続が可能になります。

妻Bさんが財産を多く相続すると、自身の相続が発生した際に多額の相続税が生じるのではないかと不安を抱いていますが、問題ありませんか?

一次相続の際に最も有利な遺産分割をしたと思っていても、二次相続も合わせて考えれば、かえって税負担が大きくなってしまう可能性があります。
遺言書の作成や生命保険の活用、相次相続控除など、専門家も交え、二次相続まで見越した遺産分割を行うことが重要です。

相次相続控除について説明してください。

相次相続控除とは、10年以内に相次相続が発生した場合に相続税の負担が過重になるのを軽減する特例です。

ただし、相次相続控除の適用を受けるためには、適用を受ける人が被相続人の相続人であること、前回の相続開始から今回の相続の開始まで10年以内であること、前回の相続で今回の相続の被相続人が相続財産を取得し、相続税が課税されていること、この3つの要件すべてに当てはまる必要があります。


死亡退職金は相続税の課税対象ですが、非課税枠が設けられています。
非課税限度額を説明してください。

非課税限度額は、500万円×法定相続人の数です。
今回のケースでは、法定相続人が3人(配偶者、長男、二男)なので非課税限度額は、500万円×3人=1,500万円となります。

株価引き下げ対策として、死亡退職金の支給は有効ですか?

死亡退職金は自社株の純資産価額方式の計算上は負債となるため、純資産価額方式又は併用方式を適用する場合には自社株の評価額は下がります。

X社の会社規模は大会社です。
大会社の場合、原則として、類似業種比準方式により評価します。
類似業種比準方式においては死亡時の年度ではなく、その直前期末の数値で比較することになります。
そのため、株価には影響が出ず株価を引き下げられないので、相続税対策としては効果がありません。

小規模宅地の特例の活用はどのように提案しますか?

一定の条件を満たすことで土地の相続税評価額を、特定居住用は330㎡、事業用は400㎡まで80%軽減され、貸付事業用は200㎡まで50%軽減されます。

今回のケースでは、後継者である長男CさんがX社本社土地を相続すると、自宅土地200㎡を特定居住用宅地として、X社本社土地500㎡のうち400㎡までを特定同族会社事業用宅地等として、80%軽減することができます。

アスファルト敷きの月極駐車場にも適用できますが、選択する宅地に貸付事業用宅地等を含む場合、貸付事業用宅地等の基準で換算して全体で限度面積200㎡以下に調整する計算が必要です。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんは病気で急逝され、X社にとってもご家族にとっても不安なことが多いと思います。
X社の経営を安定して続けていく必要がある長男Cさんと、X社経営に関心のない二男Dさんが納得できるように、ご家族一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、相続による事業承継、円滑な遺産分割、小規模宅地等の特例に関する設例でした。

Aさんが急逝して、二男Dさんが「親父が急死して、母さんや兄貴が大変なことは理解している。俺はX社の経営に参画することはないが、息子として親父の財産の一部をもらう権利はあると思っている」という発言をする設例は、2024年6月8日2023年9月24日2020年9月26日のPart1でもありました。

設例を作るのが大変なのか、実技試験は同じような設例も多いので、過去問を繰り返し解いてみるのが効果的な勉強方法ですね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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