2026年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2026年10月4日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のテキストと過去問解説集を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級の勉強を始める時、2級や3級の問題集は本屋に多く置いてあります。 一方、1級の本はほとんど店頭に見当たりません。 そのため、多くの人が注文して購入したのではないでしょうか。
学科試験と比べて、FP1級の実技は情報量が少なく感じられます。 大型書店でもテキストを見つける機会は少ないです。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読むことは理解のトレーニングでもあります。15分間タイマーをセットして、メモを取りながら読んでください。

それでは、設例をお読みください。

2026年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2026年10月4日)

●設 例●

 Aさん(70歳)は、地方中核都市で5店舗の食品スーパーを営むX株式会社(非上場会社)の2代目社長である。Ⅹ社は、生鮮食品の鮮度に強みを持ち、地元住民が毎日利用する店として、薄利ながらも業績は安定的に推移してきた。また、各店舗の店長が「発注」「売場作り」「人員配置」の裁量権を持つ店舗運営により、マネジメント人材も育っている。

 ところが、地域人口の減少による売上鈍化という構造問題に加えて、昨今は人件費、物流費、水道光熱費等の高騰やデジタル投資の負担増加、さらには、同業のみならずドラッグストアなど異業種との競合により、事業環境は厳しさを増している。今期は赤字転落を余儀なくされる見込みであり、AさんはX社単独での生き残りに強い危機感を抱くようになった。

 

【事業承継について】

 長男Cさん(40歳)は、食品商社で修行をした後、10年前にⅩ社に入社し、現場ローテーションを経て、今では店長を務めている。Aさんは、早くから長男Cさんを後継者として考えており、Ⅹ社株式を暦年課税で少しずつ贈与してきた。しかし、長男Cさんはもともと病気がちで、最近はストレスが高じて体調不良が続き、やや自信を無くしている。Aさんは、長男Cさんが今後の事業環境に耐えられるかを心配し、もう少し楽にしてやりたいと思うようになっている。

 Aさんは、昨年来、仲介会社を通じて、大手スーパーチェーンからM&Aの誘いを受けており、M&Aが長男Cさんの体調と厳しい事業環境に対する解決策になり得るのではないかと思うようになった。ただ、AさんはM&Aに関する知識がなく、満足できる価格で売却できるのか、どのような手法があるのか、従業員に悪影響がないのかなど、悩みは尽きない。

 

【資産承継について】

 長女Dさん(35歳)は、首都圏で家庭を築いており、実家に戻る予定はない。Aさんは、これまで長男Cさんを後継者とすることを前提に、長女Dさんとの資産承継上のバランスを気にしてきた。M&Aとなった場合は、資産承継が容易になると考えているが、Aさんはその認識が誤っていないか、確認したいと思っている。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】

妻Bさん(68歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(40歳):Ⅹ社で店長を務めている(非役員)。妻と子1人の3人で分譲マンションに居住している。
長女Dさん(35歳):会社員の夫と子1人の3人で借上げ社宅に居住している。

 

【Aさんの主な所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

⒈ 現預金 : 1億円 (役員退職金は考慮していない)
⒉ X社株式 : 1億1,200万円  
⒊ 自宅      
  ①土地(300㎡) : 4,000万円  
  ②建物 : 1,800万円  
⒋ X社本社兼店舗土地 : 4億円 (4,000㎡ 注)
  合計 : 6億7,000万円  

 

※Aさんの相続に係る相続税額は、約2億400万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。

 

【X社の概要】

資本金:1,000万円 会社規模:大会社 従業員数:100人 配当:実施していない
売上高:20億円 税前利益:2,000万円 純資産:3億円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん80%、長男Cさん20%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額7,000円/株、純資産価額20,000円/株

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2026年9/10月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

Aさんの相談内容は、経営環境の悪化と今期の赤字転落見込みに強い危機感を抱いており、また、後継者候補であった長男Cさんの体調不良を心配し、負担を軽くしてやりたいこと。

大手スーパーチェーンからのM&Aの誘いを解決策として検討し始めたが、適正な売却価格、具体的な手法、従業員の雇用への影響などについて知識がなく悩んでいること。

長男Cさんと長女Dさんの資産承継のバランスを気にしており、「M&Aを行えば資産の分割が容易になる」というご自身の認識が正しいか確認したいと思っていることです。

問題点は、Aさん自身の思いだけでなく、長男Cさん本人が今後の事業承継やM&Aについてどのように考えているか、しっかり意思疎通を図る必要があります。

M&A(株式譲渡)を行う場合、X社株式はAさんが80%、Cさんが20%を保有しているため、Cさんの同意を得て足並みを揃えて売却する必要があります。

X社が使用しているAさん名義の土地(相続税評価額4億円)について、M&Aに伴い買い手企業に売却するのか、それとも引き続き地代を受け取って賃貸するのか、経営権の移転とセットで交渉・決定する課題があります。

M&A成立後の、Aさんの手元に入る多額の現金を、妻Bさん、長男Cさん、長女Dさんへどのようにバランスよく分割し、遺留分トラブルを防ぐか(遺言書の作成等)の計画が必要です。

M&A成立前(現状)において相続が発生した場合、相続税が約2億400万円と見積もられており、現預金1億円だけでは納税資金が不足する懸念があります。小規模宅地等の特例の活用や役員退職金の支給などを含めた総合的な対策が求められます。


それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

M&Aには、どのような手法がありますか?

中小企業のM&Aにおける主な手法として「株式譲渡」と「事業譲渡」がありますが、本件において最適な手法は「株式譲渡」です。Aさん(80%)と長男Cさん(20%)でX社株式を100%保有しているため、お二人の合意があれば直ちに実行可能です。

株式譲渡のメリットやデメリットを教えてください。

メリットは、手続きが最もシンプルで、会社の経営権と資産・負債を包括的に買い手企業に移転できます。
また、株式の譲渡代金が直接Aさん個人の手元に入り、税率も20.315%の申告分離課税となるため、税務上有利になりやすい点も大きなメリットです。

デメリットは、買い手企業が不要な資産や見えない負債(簿外債務)ごと引き継ぐことになるため、事前の買収監査(デューデリジェンス)が厳格に行われます。
また、長男Cさんの同意と足並みを揃えることが不可欠となります。

事業譲渡のメリットやデメリットを教えてください。

メリットは、買い手企業が欲しい事業や資産(例えば好立地の店舗のみ等)だけを選んで譲渡できます。

デメリットは、従業員の再雇用契約や取引先との契約を個別に取り結び直す必要があり、非常に手続きが煩雑です。さらに、売却代金は法人(X社)に入るため、それをAさん個人が受け取るには役員退職金や配当などの形で払い出す必要があり、二重に税金がかかるリスクがあります。


M&Aを実行することで、従業員に悪影響はありませんか?

「株式譲渡」を選択すれば、従業員への悪影響は最小限に抑えられます。
株式譲渡は、X社という法人がそのまま存続し、株主(オーナー)がAさんから大手スーパーチェーンに代わるだけです。
したがって、従業員の雇用契約や給与などの労働条件は原則としてそのまま引き継がれます。

さらに、M&Aの最終的な譲渡契約書(SPA)の中に、「従業員の雇用と現在の待遇を向こう数年間は維持すること」を誓約事項として盛り込む交渉を行うことで、従業員の生活を確実に守ることができるとお伝えし、ご不安を払拭します。

満足できる価格で売却するために、どのようなことをアドバイスしますか?

満足できる価格を引き出すための材料として、X社には「生鮮食品の鮮度に強みがある」「店長に裁量権がありマネジメント人材が育っている」という優れた無形資産があります。

Aさんご自身で直接交渉するのではなく、M&Aの専門家(FAや仲介機関、顧問税理士など)をチームに入れ、X社の強みや将来的なシナジー効果を適正に評価(バリュエーション)した上で、根拠を持った価格交渉に臨むことが不可欠であるとアドバイスいたします。

株式を全額そのまま譲渡するのではなく、M&Aによる経営権の移転と同時にAさんがX社の社長を退任し、受け取る対価の一部を「役員退職金」として支給するスキームを提案いたします。

株式の譲渡益に対しては一律20.315%の税金(申告分離課税)がかかりますが、役員退職金として受け取る場合は「退職所得」として扱われます。
退職所得は、長期間会社に貢献してきたAさんの勤続年数に応じた大きな「退職所得控除」を差し引くことができ、さらにその残額を2分の1にした金額に対してのみ課税されます。
結果として、株式譲渡だけで受け取るよりも税負担を大幅に引き下げ、Aさんの手元により多くのキャッシュを残せる可能性が高くなります。


M&Aとなった場合は、資産承継が容易になると考えていますが、どのようなアドバイスをしますか? 

遺産分割の面では圧倒的に容易になります。
換金が難しい非上場株式が現預金に変わるため、妻Bさん、長男Cさん、長女Dさんに対して1円単位で公平に分割でき、遺産分割トラブル(争族)の回避に直結します。

しかし一方で、相続税負担の面では注意が必要です。
自社株のままなら低い相続税評価額(類似業種比準価額7,000円など)で評価されていた財産が、現金化されることで額面(100%)で評価されることになり、相続税の総額が現在(約2億400万円)よりも跳ね上がる可能性が高いです。
そのため、手にした現預金を活用した生命保険への加入や、お孫さん等への生前贈与など、新たな相続税・納税資金対策を講じる必要がある点をご説明します。

Ⅹ社本社兼店舗土地については、どのようなアドバイスをしますか? 

M&A(株式譲渡)を実行した後に相続が発生した場合、Aさん所有の本社兼店舗土地について「特定同族会社事業用宅地等の特例(400㎡まで80%減額)」の適用は受けられなくなります。

特例の適用を受けるためには、土地を貸し付けている対象法人が、被相続人(Aさん)やその親族等で発行済株式総数の50%超を保有する「特定同族会社」であることが要件となります。
M&AによってX社株式を大手スーパーチェーンなどの第三者に譲渡してしまうと、親族の持ち株比率が下がるため、X社は特定同族会社に該当しなくなります。

M&A後に相続が発生した場合、この土地は単なる第三者への貸地という扱いになり、要件を満たせば「貸付事業用宅地等」としての適用(200㎡まで50%減額)にとどまることになります。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、守秘義務の遵守を重視します。

AさんはM&Aを検討し始めた段階ですが、M&Aに関する情報が正式発表前に従業員や取引先、競合他社に漏洩した場合、従業員の動揺や離職、取引縮小などを招き、X社の企業価値やM&Aの交渉自体を著しく毀損する恐れがあります。

M&A実務においては、情報の取り扱いに細心の注意を払い、徹底した守秘義務を貫く必要があるためです。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、長男の体調不安に伴う「M&A(株式譲渡)」への方針転換と、それに伴う「特例喪失リスク」を検証する非常に実務的な設例でした。

M&Aによる株式譲渡を提案する際、「税率が約20%で済むからお得です」と単調に答えるだけでは不十分です。事前に「役員退職金」を支給してX社の株価を引き下げ、退職所得控除を活用して個人の手取り額を最大化するスキームを提示してください。

さらに、本設例最大のトラップは「M&Aを実行するとX社が同族会社から外れる」という点です。

そのまま相続が発生すると、Aさん所有の4億円の本社土地に対して「特定同族会社事業用宅地等の特例」が一切使えなくなり、莫大な相続税がのしかかります。必ず「株式と一緒に土地も売却(現金化)する」という特例喪失の回避策を提案して、最悪の事態を防いでください。

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  
   

楠本 学

   

FP1級技能士、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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