合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
地方都市のN市に住むAさん(65歳)は、個人で不動産賃貸業を営んでいる。毎年の不動産所得の金額は3,000万円を超えており、所得税・住民税の負担が大きいことに頭を悩ませている。Aさんの家族は妻Bさん(63歳)、長女Cさん(37歳)、長男Dさん(35歳)、二女Eさん(25歳)の4人である。
会社員である長女Cさんは、夫と子2人(10歳・7歳)の4人で東京郊外の分譲マンションに暮らしている。今後、子どもの教育費負担が増えることから、Aさんからの資金援助を期待している。
大手商社に勤務している長男Dさんは、Aさん夫婦と同居しており、今年の秋に結婚する予定である。以前から長男Dさんは、「将来のことを考えると、俺が父さんや母さんのそばで暮らしたほうがよいと思っている」と言っており、Aさんは、自宅を二世帯住宅に建て替えて、長男Dさん夫婦と同居する方法を検討している。また、自宅の敷地が大きいことから、その敷地内に長男Dさん夫婦のための新居を建ててあげてもよいとも考えている。Aさんは、建築資金を全額負担するつもりでいるが、二世帯住宅と別棟の新居のどちらが望ましいのか、建物の名義は誰にするのがよいのかなど、判断がつかないでいる。
二女Eさんは、3年前に米国に渡り、現地の大学に留学しており、米国での就職を検討している。二女Eさんは、現在、Aさんが海外投資を兼ねて購入したマンションの一室に無償で居住している。なお、二女Eさんは米国籍を取得していない。Aさんは二女Eさんが独立するまでこの部屋に住まわせ、その後は他人に貸し出そうと考えている。
Aさんは最近、体力の衰えを感じることが多くなり、そろそろ将来の相続のことを考えて、遺言書の作成など、できることから準備を始めたいと思っている。おおまかな考えとして、現預金は均等に相続させ、国内の賃貸物件は妻Bさんと長男Dさんに、米国のマンションは二女Eさんに相続させればよいと思っているが、米国で所有している不動産が相続時にどのように取り扱われるのかなど、わからないことも多い。また、長女Cさんには教育資金の援助をしたいと考えている。このような状況のもと、Aさんは、資金援助や自身の相続について、FPであるあなたにアドバイスを求めている。
【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん(63歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女Cさん(37歳):会社員。夫と子2人の4人で持家に居住している。
長男Dさん(35歳):会社員。Aさん夫妻と自宅で同居している。
二女Eさん(25歳):米国在住。Aさんが所有する米国のマンションに居住している。
【Aさんの主な所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 1億3,000万円 ⒉ 自宅 ①土地(500㎡) : 1億2,000万円 ②建物(築30年) : 500万円 ⒊ 賃貸マンション ①土地(500㎡) : 1億5,000万円 ②建物(築20年) : 1億円 (年間収入約2,900万円) ⒋ 賃貸アパート ①土地(300㎡) : 8,000万円 ②建物(築10年) : 2,000万円 (年間収入約840万円) ⒌ 米国マンション : 3,000万円 (一室) 合計 : 6億3,500万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億7,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2026年6月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
Aさんの相談内容と問題点は大きく分けて、生前の税金・資金援助に関するものと、将来の相続・遺産分割に関するものの2つに整理できます。
生前の税金・資金援助に関しては、毎年の不動産所得が3,000万円を超えており、税負担が非常に重いこと。
自宅の建て替え(二世帯住宅)か敷地内への別棟新築か。また、Aさんが建築資金を全額負担する意向ですが、建物の名義をどうするか。
長女Cさんから教育資金の援助を期待されており、贈与税の手間や負担をかけずに効果的に資金を渡す方法についてです。
将来の相続・遺産分割に関しては、長女Cさんが相続する財産が、他の兄弟に比べて大きな格差が生じ、長女Cさんの遺留分を侵害する可能性があること。
高額な相続税と納税資金の不足。
米国マンションの日米双方での課税関係や、現地の不動産を他人に貸し出した場合の現地での確定申告義務など、複雑な税務リスクが内在しています。
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
毎年の不動産所得が3,000万円を超えており、税負担が非常に重いことに悩まされています。この問題点の解決方法を提案してください。
不動産管理会社の設立(法人化)を提案します。
個人の所得税・住民税の最高税率は55%に達します。
一方、法人の実効税率は約30%です。
したがって、個人と法人の「税率差」を活用するために、不動産管理会社の設立を提案します。
また、妻Bさんや長女Cさん、長男Dさんを法人の役員とすることで、Aさんに集中している不動産所得を家族に分散させ、支給された家族側では「給与所得控除」が適用できるため、世帯全体での所得税・住民税の負担を大きく軽減できます。
ただし、家族への役員報酬の金額は、職務実態に見合った「適正な額」でなければ税務上否認されるリスクがあります。
Aさんは、自宅を二世帯住宅に建て替えて、長男Dさん夫婦と同居する方法を検討しています。二世帯住宅と別棟の新居について、それぞれのメリットデメリットを教えてください。
二世帯住宅にする場合、最大のメリットは、相続時に自宅敷地について小規模宅地等の特例を適用しやすくなる点です。長男Dさんが同居親族としてこの土地を相続すれば、大幅な相続税の節税が可能になります。
また、構造(完全同居や一部共有など)にもよりますが、別棟を2棟建てるよりも建築費や水道光熱費などのランニングコストを抑えやすくなります。
建物の名義は誰にするのが良いですか?
Aさんが建築資金を全額負担するため、建物の名義を長男Dさんにしてしまうと多額の贈与税が課されてしまいます。そのため、建物の名義はAさん単独名義にする必要があります。
二世帯住宅にする場合、建物を「区分所有登記」にしてしまうと、長男Dさんが居住する部分の土地に小規模宅地等の特例が適用できなくなります。必ず「単独登記」または「共有登記」にするという税務上の留意点があります。
敷地内に別棟の新居を建てる場合のメリットデメリットを教えてください。
別棟の新居を建てる場合、生活空間が完全に独立するため、長男Dさんの新しいお嫁さんを含め、お互いに気兼ねなく生活することができます。
また、将来、家族のライフステージが変わった際にも、独立した一戸建てとして他人に賃貸したり、売却したりといった融通が利きやすくなります。
デメリットは、同一敷地内であっても、別棟に住む場合は「別居」扱いとなります。Aさんが亡くなった際、長男Dさんの新居が立つ部分の土地については、小規模宅地等の特例が受けられず、相続税負担が重くなってしまいます。
Aさんの「相続税総額が約1億7,000万円と高く、現預金だけでは納税資金が不足する」という現状を考慮すると、財産評価を大きく下げられる「二世帯住宅(区分所有登記をしないもの)」の建築が、税務・財務の観点からは極めて望ましいと考えます。
ただし、生活面の満足度も重要ですので、提案にあたっては長男Dさんご夫妻の意向も十分にヒアリングした上で、最終的な判断をサポートいたします。
長女Cさんには教育資金の援助をしたいと考えていますが、どのような方法で援助しますか?
「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税特例」は、2026年3月31日をもって適用期限が終了いたしました。
そのため、都度贈与(扶養義務者相互間における生活費・教育費の非課税)の徹底活用と、不動産管理法人からの「役員報酬」を通じた資金移転を提案します。
通常、必要な教育費をその都度支払う形であれば、金額の多寡にかかわらず贈与税は全額非課税となります。一括贈与の特例のような信託銀行等での面倒な開設手続きや、将来の残額に対する相続税課税のリスクもありません。
ただし、あくまで「必要な時に必要な分だけ」支払う必要があります。
あらかじめ数年分をまとめて長女Cさんの預金口座に振り込んでしまうと、通常の贈与とみなされ贈与税の対象となるため、実務上は資金の使途を明確にしておくようアドバイスいたします。
Aさんは、現預金は均等に相続させ、国内の賃貸物件は妻Bさんと長男Dさんに、米国のマンションは二女Eさんに相続させればよいと思っていますが問題ありませんか?
Aさんのおおまかな分割案(現預金は均等、国内賃貸は妻と長男、米国マンションは二女)のままでは、長女Cさんの取得財産が非常に少なくなり、遺留分を侵害して将来の紛争(争族)に発展するリスクが極めて高いと考えられます。
どのような解決策が考えられますか?
遺留分を考慮した「遺言書の作成」と「付言(ふげん)事項」の活用が考えられます。
Aさんが希望されている遺言書の作成にあたり、長女Cさんの遺留分を侵害しないような財産配分へと修正します。
また、遺言書の中に「付言事項」を設け、長女Cさんに対して生前に教育資金の援助を多く行ったことへの経緯や、家族円満への強い願いなど、Aさんの「感謝と想い」を言葉として残すようアドバイスします。
米国のマンションは二女Eさんに相続させればよいと思っていますが、米国で所有している不動産は相続時にどのように取り扱われますか?
Aさんが所有されている米国のマンションの相続時の取扱いについては、主に「日本の相続税」、「米国の遺産税(二重課税)」、そして「現地での法的手続き(プロベート)」の3つの観点から整理して考える必要があります。
日本の相続税法においては、被相続人であるAさんが日本国内に住所を有している状態で相続が発生した場合、相続人の居住地や海外滞在期間に関わらず、その相続人は一律で「無制限納税義務者(全世界課税の対象)」として扱われます。
そのため、二女Eさんが相続する予定の米国のマンションは、引き続き日本の相続税の課税対象に含まれることになります。
米国の遺産税については、マンションが米国に所在するため、米国の法律に基づき、米国の連邦遺産税の課税対象にもなります。
Aさんは、米国非居住者です。非居住外国人の場合、連邦遺産税の基礎控除額は6万ドルと非常に低く設定されています。そのため、評価額3,000万円のマンションであれば、米国側で遺産税が発生する可能性が極めて高いです。
そのため、日米双方で税金がかかる「二重課税」の状態になりますが、これについては日本の相続税の計算において「外国税額控除」を適用することで、米国で支払った遺産税を日本の相続税額から一定の範囲内で差し引くことができます。
現地での法的手続きについてですが、米国では不動産の所有者が亡くなった場合、遺言書の有無にかかわらず、原則として「プロベート(Probate)」と呼ばれる裁判所の監督下で行われる遺産清算・名義移転手続きを経る必要があります。
Aさんは二女Eさんの独立後に「他人に貸し出そう」と考えておられますが、その場合は米国での不動産所得について、米国での確定申告(非居住者としての申告)が必要になります。
また、日本でも全世界所得として確定申告を行い、所得税の外国税額控除を適用することになります。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
今回の設例では、「二世帯住宅か別棟かによる小規模宅地等の特例の適用の可否」や、「米国のプロベート(遺産割当手続)の負担」など、一般の方には非常に分かりにくく複雑な専門的論点が数多く含まれています。
各方策のメリットだけでなく、内在するリスクやデメリットまでAさんに分かりやすく丁寧に説明し、Aさんご自身が完全に納得・同意した上で、主体的に次のステップを選択していただくことが不可欠だからです。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、不動産管理会社の設立、小規模宅地等の特例、国際相続に関する設例でした。
不動産所得3,000万円超に対する「不動産管理法人の設立」や、長男への「住宅建築」を提案する際、「評価額の引き下げ(節税)」ばかりに目を奪われると、面接官から「手元の現金がさらに減って納税できなくなりますよ?」とカウンターを喰らいます。
常に「節税」と「納税資金(キャッシュ)」のバランスを意識して提案を組み立ててください。
本設例は2026年6月の試験です。問題文にある「長女Cさんへの教育資金援助」に対して、2026年3月末で終了した「一括贈与の非課税特例」をドヤ顔で提案してしまったらその時点で大幅減点です。
制度が終了した直後のタイミングだからこそ、「都度贈与(法21条の3)」や「法人からの役員報酬ルート」といった代替案をスマートに提示できるかが問われています。
また、二女Eさんの米国不動産における「プロベート(遺産割当手続)」や「全世界課税」の論点は、これからの時代確実に増える国際相続のド定番です。基本知識として必ず押さえておきましょう。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。