合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(39歳)は、3年前に長男が小学校に入学するのにあわせて、首都圏K市内の建売住宅(甲-1土地・甲-1建物)を購入し、妻、長男、二男との4人で転居してきた。Aさんが購入した建売住宅は、地元の建売業者が分譲したもので、甲-1土地から甲-4土地まで東西に4棟が並ぶミニ開発物件である。これらの土地は台地の端部にあり、南側の平地にある農家住宅地域との高低差は7mほどある。
甲土地と農家住宅の間の傾斜部分には、地主Eさんが所有する細長い乙土地がある。もともと甲土地と乙土地はいずれもEさんが所有していたが、乙土地は傾斜地であることに加え、大部分が土砂災害警戒区域に指定されていることから、建売業者に購入されず、変則的に残った土地である。乙土地は、現状雑種地であり雑草が茂っているため、定期的にEさんが草刈りをしている。なお、甲土地および乙土地一帯は古くからの地山であり、盛土など人為的に加工された土地ではない。
先日、甲-1~甲-4の4軒のもとに地元の中堅不動産会社X社の営業担当者が訪れ、南側の乙土地を各建売住宅の区画に合わせて4分割するので、購入しないかとの提案を受けた。地主のEさんが売りたがっているとのことであり、価格は一律で坪5万円(甲土地相場の約1割)で良いが、一部を残されても困るので4軒全員が同時に購入するのが条件とのことだった。なお、仲介手数料は1軒当たり一律33万円でお願いしたいとのことである。
Aさんは、乙-1土地は南側に隣接する土地であり、日当たりや景観を確保したうえで、庭や菜園にも使用できるので、ぜひ購入したいと思っているが、全体が緩やかな傾斜地であること、一部が土砂災害警戒区域に指定されていること等を考えると迷いもある。
また、対象の4軒で話し合ったところ、甲-3土地の所有者であるCさんおよび甲-4土地の所有者であるDさんは購入の意向を示したが、甲-2土地の所有者であるBさんは、購入したいとは思うが、今は資金繰りがつかないので見送りたいとのことだった。そのこともあり、乙-1土地の購入についてどのようにしたらよいか悩んでいる。
乙土地の購入資金について、Aさんが実家の父親に相談したところ、15年前(平成22年)に知り合いに頼まれて実家の近くに当時200万円で買った土地(丙土地:雑種地)があり、使用する予定もないため、その土地を売って資金を工面してもよいと言われた。不動産業者に相談したところ、丙土地は周辺が開発されたため600万円なら売れるとのことである。なお、Aさんは、現在の自宅を購入するにあたって、父親から相続時精算課税制度および住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置を利用した現金の贈与(計3,500万円)を受けている。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報土砂災害警戒区域とはどのような区域で、使用上どのような規制がありますか。
Aさんが乙-1土地を購入することについて、どのようなアドバイスをしますか。また、購入するためにBさんの問題をどのように解決すればよいですか。
Aさんの父親が丙土地を売った場合の課税関係を教えてください。また、Aさんへの資金提供はどのようにすればよいですか。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年9月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
丙土地の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
丙土地の相続税評価額。
乙土地購入後の使用目的。
今後のライフプラン。
父親の家族構成(推定相続人)を確認します。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
避難場所の確保、防災情報の提供など自治体の取り組みがあるか。
土地・道路や交通量などの物理的状況や、防災柵の設置や排水設備の整備など土砂災害リスクを軽減するための具体的な対策がされているかを、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定やハザードマップ、周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
過去の災害履歴をインターネットなどで確認すること。
地質調査会社や建築士などの専門家により安全対策が施されていることを示す資料があるかどうか。
丙土地周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、提案は妥当かを確認します。
土砂災害警戒区域とはどのような区域で、使用上どのような規制がありますか?
土砂災害警戒区域とは、ハザードマップ上ではイエローゾーンとも呼ばれ、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、住民等の生命又は身体に危害が生じるおそれがあると認められる区域のことです。
使用上どのような規制がありますか?
災害時要援護者の利用する施設が警戒区域内にある場合には、市町村地域防砂計画において災害時要援護者の円滑な警戒避難を実施するため、土砂災害に関する情報等の伝達方法を定め、これらの事項を記載したハザードマップ等を配布し、必要な措置を講じることとなっています。
土砂災害警戒区域は、土地の売買や建設に原則的な制限はありませんが、売買時には土砂災害警戒区域である旨を買主に告知する義務があり、重要事項説明書への記載が必要です。
土砂災害特別警戒区域に指定されると、特定の開発行為に対する許可制や、建築物の構造規制等が行われます。
Aさんが乙-1土地を購入することについて、どのようなアドバイスをしますか?
Aさんが乙-1土地を購入するのではなく、父親の所有している丙土地と乙-1、乙-2土地を交換できないか地主Eさんに交渉することをアドバイスします。
父親が所有する丙土地(雑種地)と、Eさんの乙-1・乙-2土地(雑種地)を交換する場合には、「固定資産の交換の特例」を活用できます。
この特例を使うことで、譲渡所得税の課税を繰り延べることができます。
Aさんは乙土地を「日当たりや景観を確保するための庭や菜園」として利用する予定なので、当面は父親名義のまま所有し、父親の相続発生後に相続で取得すれば、税負担なく土地を取得できます。
ただし、父親の相続財産全体のバランスや、他の相続人の意向も確認する必要があります。
交換特例の適用要件に「同一用途に供すること」という条件がありますが、この点は問題ありませんか?
交換特例では「交換取得資産を、交換譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供すること」が要件とされています。
今回、父親は交換後も同一の用途に供する予定ですが、地主Eさんは交換後すぐに売却する可能性があります。
ただし、この要件は当事者ごとに判定されるため、父親が同一用途に供する限り、父親側については特例の適用が可能です。
Bさんの問題をどのように解決すればよいですか?
設例によると、丙土地は600万円、乙-1は320万円、乙-2は270万円です。
丙土地と乙-1、乙-2土地を交換することでBさんの問題も解決できます。
Aさんの父親が丙土地を売った場合の課税関係を教えてください。
Aさんの父親が丙土地を売った場合、売却して得た譲渡所得に対して譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得の金額は、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。
税率はどうなりますか?
譲渡所得が発生した時に計算に用いる税率は、その不動産を保有し始めてから売却するまでの期間の長さによって変わります。
丙土地は15年前に知り合いに頼まれて買った土地です。
所有期間が5年を超える土地や建物を売却した場合は長期譲渡所得となり、復興特別所得税を含む所得税の税率は15.315%、住民税の税率は5%となります。
Aさんへの資金提供はどのようにすればよいですか?
Aさんが乙-1土地を購入するのではなく、父親の所有している丙土地と乙-1、乙-2土地を交換する場合は、Aさんが乙-1土地を購入するのではないので資金提供の必要はありません。
設例によると、父親が所有する丙土地を売却し、その売却代金を購入資金として援助してもらう予定です。
この場合、父親には丙土地の譲渡所得税が発生し、さらにそのお金をAさんに援助すると贈与税の課税対象になります。
Aさんはすでに「相続時精算課税」と「住宅取得資金等贈与」の特例を合わせて3,500万円の贈与を受けていますので、相続時精算課税制度を使った贈与額の合計が2,500万円を超えた場合は、超えた分に対して一律で20%の贈与税が課税されます。
丙土地を贈与してもらい、Aさん自身が売却する場合はどうなりますか?
丙土地を贈与する場合は「相続税評価額」で贈与額を計算できるため、現金を直接贈与してもらうよりも贈与税の負担は抑えられます。
ただし、その分、Aさんに「不動産取得税」や「登録免許税」、そして売却時の「譲渡所得税」の負担が発生します。
したがって、税負担が全体として軽くなるとは限りません。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例は、土砂災害警戒区域、固定資産の交換特例、不動産の譲渡・贈与に関する設例でした。
土砂災害警戒区域など土砂災害防止法はあまり学科試験で勉強する機会が少ないと思います。
しかし、大雨や台風などで、がけ崩れや土石流、地すべりなどの土砂災害に関するニュースも多く、実務でも知っておきたい重要な内容ですね。
FPへの質問事項4は、Aさんへの資金提供の方法に関する質問でしたが、私は、Aさんへ資金提供しない方法を考えました。実際の面接ではどんな回答が多かったのでしょうか?
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。