2025年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年6月8日)過去問解説

本ページはプロモーションが含まれています

スポンサーリンク



きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2025年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年6月8日)

●設 例●
 Aさん(42歳)の父Bさんは、母Cさん、妹Dさん(38歳)の3人で暮らし、個人で不動産賃貸業を営んでいたが、2カ月前に急逝した。父Bさんは、将来の相続税の支払が現状の金融資産で足りるのか心配になり、所有する不動産を活用した相続対策を検討している最中であった。さらに、母Cさんも、父Bさんの四十九日を待たず、後を追うように亡くなった。

 

【父Bさんが所有していた不動産の概要】

①テナントビル

 テナントビルは、鉄骨造8階建て、延べ面積1,200㎡(各階の床面積は150㎡で同一)で、 20年前に建設した。1階から6階は賃貸し、7階と8階は父Bさん、母Cさんおよび妹Dさんの自宅として使用していた。立地が良好なことから空室はなく、年間4,500万円の家賃収入(不動産所得3,000万円)を得ている。

 また、父Bさんは生前、不動産管理会社を設立して、家賃収入を母Cさん、Aさん、妹Dさんの3人が均等に得られるようにしておきたいと考えていた。サブリース方式か不動産保有方式かで迷っていたようであったが、Aさんはその違いがわからず、このまま法人の設立を進めることが税負担面で有効であるか知りたいと思っている。

②事業用定期借地権による貸付土地

 月極駐車場であったが、1年前、テナントビルの建設時に融資を受けた金融機関から「賃貸マンションの建設」か「事業用定期借地権による貸付」の提案を受け、Z社と30年間の事業用定期借地権契約をした。

 

 Aさんと妹Dさんは、父Bさんが法務局に保管していた自筆証書遺言に従って遺産分割を行いたいと考えている。母Cさんには11年前に実家の相続により取得した預金(8,000万円)があるため、遺言には、現預金と有価証券は長男Aさんと長女Dさん、テナントビル(土地・建物)と借入金は、妻Cさん、長男Aさん、長女Dさんに均等に相続させ、事業用定期借地権による貸付土地については、長男Aさんに相続させるとの記載があった。

 Aさんは、父と母の相続が立て続けに発生したことから、同じ財産に対して二重に相続税が課されるのか不安に感じている。

 また、母Cさん固有の財産もかなりあることから、父と母の相続税の総額がどれくらいになるか気になっており、納税資金を確保するため事業用定期借地権契約を解約して貸付土地を譲渡できるのか知りたいと思っている。

 

【父Bさんの家族構成(法定相続人)】

妻Cさん(既に死亡):2025年5月に死亡
長男Aさん (42歳):会社員。妻と子(12歳)の3人で自己所有の持家に住んでいる。
長女Dさん (38歳):会社員。父Bさん、母Cさんとテナントビルの自宅で同居していた。

【父Bさんの相続財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 1億円  
有価証券 6,500万円  
テナントビル      
  ①土地(400m²) 3億円  
  ②建物(築20年) 2億円  
貸付土地(800m²) 9,600万円 (事業用定期借地権の残存期間28年)
借入金 ▲7,000万円  
  合計 6億9,100万円  

 

※ 父Bさんは、契約者(=保険料負担者)・被保険者を父Bさん、死亡保険金受取人を妻Cさんとする生命保険(死亡保険金5,000万円)に加入していた。

※ 父Bさんの相続に係る相続税額は、約2億2,900万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年6月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • テナントビルについて法人を設立したほうが税負担面で有効であるか知りたいこと。
  • サブリース方式と不動産保有方式の違いがわからないこと。
  • 立て続けに相続が発生した場合、同じ財産に対して二重に相続税が課税されるのか不安に感じていること。
  • 事業用定期借地権契約を解約して貸付土地を譲渡できるのか知りたいことです。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 納税資金の確保。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

テナントビルについて法人を設立したほうが税負担面で有効ですか?

個人と法人の税率の違いから、所得が多いと法人を設立した方が税負担面で有効です。

個人と法人の、税率の違いについて教えてください。

個人の所得税は、所得が高いほど税率が高くなる超過累進税率で課税され、最高税率が課せられると、住民税等を含めて50%を超える税率になります。

法人を設立した場合、法人税と住民税等を含めた実効税率は高い場合でも33%前後なので、所得が多い場合は法人を設立する方が税率が低くなります。

サブリース方式について教えてください。

サブリース方式とは、不動産の所有はオーナーのままで、管理会社に一括で貸し付ける形態です。

メリットやデメリットを教えてください。

サブリース方式のメリットは、管理会社が空室リスクを負う仕組みになっているので、空室の有無に関わらずオーナーの収益は安定すること。
一括貸付なので、空室があっても賃貸割合は100%で評価額を計算できることです。
デメリットは、他の形態と比べ収益性は低くなります。

不動産所有方式について教えてください。

不動産所有方式とは、所有する不動産を資産管理会社に売却し、管理会社が不動産を所有する形態です。
管理会社が土地と建物の両方を所有する形態と、建物だけを所有する形態があります。

土地と建物の両方を所有する形態の特徴を説明してください。

土地と建物の両方を所有する形態では、収益がすべて管理会社に入るためオーナーの財産が増えるのを抑える効果が大きくなります。
土地を売却する場合は、売買価格が相場からかけ離れている場合は、時価との差額に課税される場合があるので注意が必要です。

建物だけを所有する形態の特徴を説明してください。

建物だけを所有する形態では、土地を無償で管理会社に貸し付けると借地権の認定課税となる場合があります。

借地権の認定課税を回避する方法はありますか?

借地権の認定課税を回避する方法は、管理会社がオーナーに権利金を支払う方法。相当の地代として地価の6%に相当する地代を支払う方法。管理会社とオーナーで、土地の無償返還に関する届出書を税務署に提出する方法があります。


立て続けに相続が発生した場合、同じ財産に対して二重に相続税が課税されますか?

短期間に立て続けに相続が発生すると同一の財産に二重に相続税が課税されることになりますが、このような場合に相続税の負担を軽減するため、前回の相続時に課税された相続税の一定部分を今回の相続の相続税から控除する相次相続控除制度が設けられています。

相次相続控除について説明してください。

相次相続控除とは、10年以内に相次相続が発生した場合に相続税の負担が過重になるのを軽減する特例です。

ただし、相次相続控除の適用を受けるためには、適用を受ける人が被相続人の相続人であること、前回の相続開始から今回の相続の開始まで10年以内であること、前回の相続で今回の相続の被相続人が相続財産を取得し、相続税が課税されていること、この3つの要件すべてに当てはまる必要があります。


事業用定期借地権契約を解約して貸付土地を譲渡できますか?

事業用定期借地権は、契約時にその貸出期間が定められるため、貸主が途中でその土地を利用したくなったからといって、原則中途解約は認められません。

例外的なケースとして、貸主と借主が合意すれば、契約期間中でも解約が可能です。

借主が契約に違反した場合も、貸主は契約を解除できる場合があります。


自筆証書遺言保管制度について教えてください。

自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。

しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。

相続手続きをしないまま母Cさんが死亡していますが、父親Bさんの遺言書はどうなりますか?

父Bさんが死亡した後、母Cさんが、相続手続きを放置したまま死亡した場合は、母Cさんの相続人が相続手続きを行うことになります。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

通常の相続手続きでも大変ですが、立て続けに相続が発生し手続きも複雑になります。
Aさん、長女Dさんともに会社員で、時間的にも相続手続きは大変だと思います。
時間がかからないように、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、数次相続、相次相続控除、不動産管理会社、事業用定期借地権の契約に関する設例でした。

不動産管理会社の設立や相続手続きに関する設例は頻出の重要テーマです。

学科試験の時は出題されない内容も多いので過去問を一通りチェックしてみてください。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

スポンサーリンク