2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2024年2月11日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2023年2月11日)

●設 例●
 地方中核都市に所在するX株式会社(非上場会社・電子部品製造業)は、代表取締役社長であるAさん(70歳)が40年前に専務取締役である弟Eさん(68歳)と設立した会社である。X社の技術力は取引先から高く評価され、業績は順調に推移し、弟Eさんと2人で始めたX社も今では従業員70人超の規模に成長した。


【事業承継について】
 数年前から弟Eさんの体調が思わしくなく、Aさんは、弟Eさんとともに近々会社経営から身を引くことを考えている。後継者は、弟Eさんの長男Fさん(45歳、Aさんの甥)とし、本人も承諾している。

 Aさんには、長女Cさん(37歳)と二女Dさん(34歳)の2人の子がいるが、いずれもX社の経営にはまったく関心がない。甥Fさんは、10年前、大手メーカー勤務を経てX社に入社し、現在は技術部長としてX社の技術部門の中核を担っている。

 Aさんは、自身が所有するX社株式を移転する方法として、事業承継税制の活用を考え、先月、後継者を甥Fさんとする特例承継計画を県知事に提出し、その確認を受けた。

 なお、Aさんは、弟Eさんが所有するX社株式についても甥Fさんにどのように引き継ぐのがよいのか気になっている。


【資産承継について】

 Aさんは、所有するX社株式のうち、事業承継税制を活用することができる最低贈与株数を甥Fさんに贈与し、残りは将来金庫株により換金して2人の子に遺す財産にしたいと考えている。また、遺留分に関する民法特例を活用すると、将来の紛争防止に効果があると聞き、その仕組みと手続について知りたいと思っている。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 1億800万円  
上場株式 2,400万円  
X社株式 1億6,800万円  
自宅
  ①土地(500m²) 7,000万円  
  ②建物 3,000万円  
5. X社本社・工場土地(1,000㎡) 1億2,000万円 (注)
  合計 5億2,000万円  


※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億4,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。

 

【X社の概要】
資本金:1,500万円 会社規模:大会社 従業員数:75人
売上高:20億円 経常利益:5,000万円 純資産:5億円
株主構成(発行済株式総数3万株):Aさん80%、弟Eさん20%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額7,000円/株、純資産価額10,000円/株

 

【Aさんの家族構成】
妻Bさん (68歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女Cさん(37歳):専業主婦。会社員の夫と子の3人で夫所有の持家に住んでいる。
二女Dさん(34歳):地方公務員。賃貸マンションに住んでいる。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年2月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 弟Eさんが所有するX社株式について甥Fさんにどのように引き継ぐのがよいのか気になっていること。
  • 事業承継税制を活用することができる最低贈与株数を甥Fさんに贈与し、残りを金庫株により換金して2人の子に遺す財産にしたいこと。
  • 遺留分に関する民法特例の仕組みと手続について知りたいこと。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 納税資金の確保。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

弟Eさんが所有するX社株式について、甥Fさんにどのように引き継ぐのがよいと思いますか?

第二種特例贈与を活用し、弟Eさんが所有するX社株式を、甥Fさんに引き継ぐのがよいと思います。

第二種特例贈与について説明してください。

事業承継税制特例では、先代経営者以外の、複数の贈与者から最大3人の受贈者に対しての贈与が、事業承継税制の適用対象として認められるようになっています。
第一種特例贈与とは、先代経営者から後継者への特例措置による贈与のことで、第二種特例贈与とは、先代経営者以外の株主から後継者への特例贈与のことです。

第二種特例贈与の主な要件を説明してください。

第二種特例贈与の主な要件は、先代経営者からの贈与を行った後であること、贈与者がその会社の代表者でないことです。
また、第二種特例贈与を行うことができる期間は、5年間の経営承継期間内の贈与に限られます。


事業承継税制を活用することができる最低贈与株数について説明してください。

贈与税の納税猶予を受けるための最低贈与株数は、後継者の人数と先代経営者と後継者の保有する議決権数に応じて決まります。

後継者が1人の場合について教えてください。

後継者が1人の場合で、贈与者と後継者の持ち株数の合計が総議決権数の3分の2以上の場合は、贈与後の後継者の持株数が3分の2以上になるように贈与し、3分の2未満の場合は、保有株式のすべてを一括贈与することになります。

後継者が複数人の場合について教えてください。

後継者が複数人の場合は、贈与後に各後継者の持ち分が10%以上であり、かつ贈与者よりも多くの持株数になるように贈与します。
ただし、後継者のうち要件を満たさない人が1人でもいる場合は、他の後継者に行った贈与も含めて全体の贈与が要件を満たさないこととなります。

今回のケースで最低贈与株数はどのように計算しますか?

今回のケースで後継者は甥Fさん1人です。
AさんはX社の発行済株式総数の80%、総議決権数の3分の2以上の株式を保有しています。
したがって、Aさんの保有株式のうち2万株以上を贈与すると、Fさんの持株数が3分の2以上となり、最低贈与株数の要件を満たし、残りを金庫株として2人の子に遺すことができます。

金庫株として2人の子に遺す場合、どのようにアドバイスしますか?

Aさんの相続後に金庫株によりX社が買い取るようにアドバイスします。

どうしてですか?

通常、自社株をX社が買い取る場合は、原則として譲渡価額と譲渡した株式に対応する資本金等の額との差額が、みなし配当として超過累進税率による総合課税とされ、税率は最高税率だと55%となり税負担が大きくなります。

Aさんの相続発生により取得したX社株式を、相続税の申告期限の翌日以後3年以内に、X社に売却した場合には、特例として、譲渡側の相続人の課税関係は株式に係る譲渡所得として分離課税となり税率は、20%となります。
また、この場合には、相続税の取得費加算の特例も適用可能です。


遺留分に関する民法の特例について説明してください。

事業承継による相続について、法定相続人の合意があれば、遺留分を減らせるという事です。
後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められた際、自社株式が分散してしまったり、資金不足になり業績が悪化し、廃業に追い込まれるということを避けるための制度です。

遺留分に関する民法の特例には、どのような種類がありますか?

合意の種類には、除外合意、固定合意の2つと、除外合意と固定合意を合わせた、付随合意の3つの種類があります。

除外合意について説明してください。

遺留分算定基礎財産から贈与等された株式等を除外するものであり、合意した他の相続人は、遺留分の主張ができなくなります。
その結果、相続による株式等の分散を防止できます。

固定合意について説明してください。

遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の価額に固定するものです。
この合意をすると、株式等の価額が上がっても遺留分額には影響しないので、想定外の遺留分の主張を防止できます。

固定する合意時の時価については、証明が必要ですか?

固定する合意時の時価は、合意の時における相当な価額であるとの税理士、 公認会計士、弁護士等による証明が必要です。

遺留分に関する民法特例の適用を受けるために必要な、手続について教えてください。

遺留分に関する民法特例の適用を受ける手続は、経営者の推定相続人全員と後継者が合意し、合意書を作成します。

次に、合意をした日から1カ月以内に「遺留分に関する民法の特例に係る確認申請書」に必要書類を添付して、経済産業大臣へ申請します。

申請後に確認書の交付を受け、確認を受けた日から1カ月以内に家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所の許可を得ます。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

事業承継や税制改正は複雑で専門家の関与が必要になります。状況によって様々なパターンが考えられるので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、事業承継税制(第二種特例贈与、最低贈与株数)、金庫株、遺留分に関する民法の特例に関する設例でした。

事業承継税制や遺留分に関する民法の特例は、FPとして実際にお客様から相談されることを想定すると、制度の概要だけでなく、手続きの流れなども把握しておく必要がありますね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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