2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2024年2月10日)過去問解説

本ページはプロモーションが含まれています

スポンサーリンク



きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2023年2月10日)

●設 例●
 Aさん(60歳)は、大学を卒業後、コンサルタント会社に入社し、さまざまな企業の経営戦略立案プロジェクトに従事した。その経験とスキルを活かして、40歳のときにデジタルマーケティング会社を起業し、会社を大きく成長させた後、52歳のときに取引のあった大手商社にM&Aにより売却した。売却後もしばらくは会長として事業を支えていたが、55歳で退任して事業から完全に身を引き、現在に至っている。

Aさんは、現在、M&Aで得た資金の一部で都内に購入したマンションで不動産賃貸業を営む傍ら、複数の会社の社外取締役を務めている。また、経営戦略アドバイザーとして若い起業家の相談に応じており、ベンチャー出資を求められることも多い。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金・有価証券 6億5,000万円  
自宅      
  (タワーマンション1室、築15年、45階建ての25階に所在、市場価格2億5,000万円)
  ①土地(持分換算15m²) 3,000万円  
  ②建物(専有面積80m²) 2,000万円 計5,000万円
賃貸マンション      
  (タワーマンション1室、築10年、30階建ての20階に所在、市場価格1億5,000万円)
  ①土地(持分換算10m²) 2,500万円  
  ②建物(専有面積50m²) 1,500万円 計4,000万円
賃貸マンション(1棟、築10年、5階建て、市場価格5億円)
  ①土地(250m²) 1億円  
  ②建物 5,000万円 計1億5,000万円
5. X社株式(非上場株式) 1,000万円 (少数株主。起業家の求めに応じて出資)
6. 借入金 △3億円  
  合計 6億円  


※不動産の相続税評価額は、2023年4月に知り合いの税理士が試算したものである。
※不動産の市場価格は、大手不動産仲介会社が簡易査定したものである。
※借入金は、賃貸物件の取得に係る事業性ローンで、投資効率を高めるために利用した。
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億7,400万円(配偶者の税額軽減、小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている

 

【Aさんの年間収入の概要】

役員報酬 1,000万円 (2社の社外取締役による報酬の合計)
賃料収入 2,000万円 (賃貸マンションの貸付による収入の合計)
  合計 3,000万円 ※金融資産の運用収入は考慮していない。


なお、Aさんは、2024年1月からマンションの相続税評価方法が改正されたとの新聞報道が気になっており、FPであるあなたに具体的な内容を教えてほしいと思っている。

 

【Aさんの家族構成】
妻Bさん (58歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(30歳):金融機関勤務。妻と2人で社宅に住んでいる。
長女Dさん(27歳):食品メーカー勤務。Aさん夫妻と同居している。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年2月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • マンションの相続税評価方法が改正されたとの新聞報道が気になっていること。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減対策。
  • 所得税の軽減対策。
  • 納税資金の確保。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

マンションの相続税評価方法の改正内容について教えてください。

マンションの相続税評価方法の改正内容は、相続税評価額に市場価格を反映する指標として区分所有補正率が導入されました。

具体的な計算方法を説明してください。

具体的には、マンションの評価額と市場価格の乖離度を計算するために、築年数、総階数、部屋の所在地、敷地持分狭小度の4要素に基づいた評価乖離率を算出します。
そして、評価乖離率に基づく評価水準に応じて、現行の相続税評価額に区分所有補正率を掛けることで相続税評価額を算定します。

新たな評価方法の対象となるのは、全てのマンションが対象ですか?

新たな評価方法の対象は、タワーマンションに限らず、区分所有不動産で居住用部分があるものが対象です。
ただし、2階建て以下の低層マンションや二世帯住宅。
区分建物の登記がされていないもの。
事業用のテナント物件、1棟を所有している賃貸マンションなどは対象外です。

マンションの相続税評価方法が改正されたことによって、どのような影響がありますか?

マンションの相続税評価方法が改正されたことによって、現行の相続税評価額が市場価格を大きく下回る場合には、相続税評価額が市場価格の6割相当額まで引き上げられることになります。
逆に、現行の相続税評価額が市場価格を上回る場合には、相続税評価額が市場価格まで引き下げられることになります。

今回のケースでAさんは、タワーマンションを所有しているので、相続税評価額を再計算する必要があります。


Aさんは経営戦略アドバイザーとして、若い起業家の求めに応じて出資していますが、何か税制上のメリットがありますか?

個人投資家が、設立5年未満、または10年未満の企業に投資を行うと、エンジェル税制による所得税の負担軽減が受けられます。

エンジェル税制について教えてください。

エンジェル税制の優遇措置として、優遇措置A、優遇措置B、プレシード・シード特例の3種類があり、優遇措置Aの場合は、投資額から2,000円を差し引いた金額を総所得金額から控除でき、優遇措置Bとプレシード・シード特例では、対象企業への投資額全額をその年の他の株式譲渡益から控除できます。


Aさんの年間収入は3,000万円と高額ですが、税負担についてどのようにアドバイスしますか?

年間収入が高額で所得税の負担が大きい場合は、法人を設立することで税負担を軽減できる可能性があるので、法人の設立を検討するようにアドバイスします。

法人を設立することで税負担を軽減できる仕組みについて教えてください。

個人と法人の税率の違いから、所得が多いと法人を設立する方が税率が低くなるからです。

個人と法人の、税率の違いについて教えてください。

個人の所得税は、所得が高いほど税率が高くなる超過累進税率で課税され、最高税率が課せられると、住民税等を含めて50%を超える税率になります。

法人を設立した場合、法人税と住民税等を含めた実効税率は高い場合でも33%前後なので、所得が多い場合は法人を設立する方が税率が低くなります。

不動産管理会社には、どのような形態がありますか?

資産管理会社の形態は、不動産所有方式、管理会社方式、サブリース方式があります。

不動産所有方式について教えてください。

不動産所有方式とは、所有する不動産を資産管理会社に売却し、管理会社が不動産を所有する形態です。
管理会社が土地と建物の両方を所有する形態と、建物だけを所有する形態があります。

土地と建物の両方を所有する形態の特徴を説明してください。

土地と建物の両方を所有する形態では、収益がすべて管理会社に入るためオーナーの財産が増えるのを抑える効果が大きくなります。
土地を売却する場合は、売買価格が相場からかけ離れている場合は、時価との差額に課税される場合があるので注意が必要です。

建物だけを所有する形態の特徴を説明してください。

建物だけを所有する形態では、土地を無償で管理会社に貸し付けると借地権の認定課税となる場合があります。

借地権の認定課税を回避する方法はありますか?

借地権の認定課税を回避する方法は、管理会社がオーナーに権利金を支払う方法。相当の地代として地価の6%に相当する地代を支払う方法。管理会社とオーナーで、土地の無償返還に関する届出書を税務署に提出する方法があります。

管理会社方式について教えてください。

管理会社方式とは、不動産の所有はオーナーのままで、設備などの管理を管理会社に委託し管理費を支払う形態です。

メリットやデメリットを教えてください。

管理会社方式のメリットは、不動産の売却手続きが不要なので手軽にできる点です。
デメリットは、不動産はオーナー個人が所有することになるので、相続税の節税効果はあまり期待できません。

サブリース方式について教えてください。

サブリース方式とは、不動産の所有はオーナーのままで、管理会社に一括で貸し付ける形態です。

メリットやデメリットを教えてください。

サブリース方式のメリットは、管理会社が空室リスクを負う仕組みになっているので、空室の有無に関わらずオーナーの収益は安定すること。
一括貸付なので、空室があっても賃貸割合は100%で評価額を計算できることです。
デメリットは、他の形態と比べ収益性は低くなります。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんの所有財産に占める不動産の割合も多く、今回の改正で相続税評価額を試算し直す必要があります。改正内容だけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回の設例は、マンションの相続税評価方法の改正、エンジェル税制、資産管理会社の設立に関する設例でした。

2023年度の税制改正により、2024年1月1日以降に相続、贈与、遺贈で取得するマンションについて、相続税評価額の評価方法が変わり、新しい評価方法が適用されます。

2024年から始まった評価方法が早速出題されました。

改正ものや旬な話題は要チェックですね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、お問い合わせページX(Twitter)にてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

スポンサーリンク