2023年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part1 (2023年6月18日) 過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本をKindleで出版しました。

開催年度別に3回分を一冊にまとめた年度版はこちら

公開日 2023年7月18日 最終更新日 2023年11月24日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2023年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2023年6月18日)

●設 例●
 Aさん(70歳)は、大都市圏近郊で自動車部品製造業を営むX株式会社(非上場会社)の3代目社長である。得意先の海外進出に呼応して、東南アジアへ製造子会社を積極的に展開してきた戦略が奏功し、業績は大きく拡大した。その後、東南アジアの地場需要も取り込み、今では海外子会社の業容が国内を大きく上回るに至っている。

 一方、100年に一度といわれる自動車業界の大変革期に入り、Aさんは、X社の先行きに強い危機感を抱いている。事実、X社の業績には既に大きなブレーキがかかっている。

 なお、Aさんは株式投資を唯一の趣味としており、個人で頻繁に売買を手掛けているが、X社でも余裕資金の一部を株式運用に回している。


【事業承継について】

 X社がEV化に対応するためには10年単位の長期的取組みが必要であるため、Aさんは、3年前に完成車メーカーから中途採用したEさん(45歳)を経営企画室長に据えて事業戦略を策定させている。その検討過程を見るにつけ、Aさんは、いよいよ若い世代へバトンタッチする時期であると自覚するようになった。また、正直なところ、個人的には、好きな金融資産運用をしながら、ゆっくりしたいという気持ちも芽生えている。

 Aさんには子が2人いる。長男Cさん(43歳)は、幼少のころからモノ作りが大好きで、私立大学工学部卒業後にX社に入社して以来、製造部門一筋でX社に貢献してきた。Aさんとしては、後継者の第一候補と考えているが、会計・総務といった管理業務や完成車メーカーを含む得意先との付き合いが苦手な長男Cさんを見ると、今のままが性に合っているのではないかとも感じている。

 長女Dさん(40歳)は、芸能界で独自の生き方を貫いており、X社にまったく関心がない。

 先日、メイン銀行との決算説明会の席上、支店長から「弊行にて貴社の自社株評価額を算出しましたが、貴社が株式等保有特定会社に該当しているため、非常に高い株価になってい ます」と指摘があり、「貴社の事業承継について一緒に考えていきませんか」と提案を受けた。Aさんは、株式等保有特定会社というものが何なのかよくわからなかったが、X社の将来を真剣に考え始めたタイミングであったため、支店長の話に乗ることにした。

 また、テレビや雑誌でよく目にするM&A仲介会社から電話やメールで「事業承継の件で」と頻繁に面談の申込みを受けており、気になっているところである。

 

【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:大会社 従業員数:100人
売上高:25億円 経常利益:2億円 純資産 :15億円
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん100%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額15,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 株式等保有特定会社というものが何なのか。
  • X社の事業承継についてどのようにすすめたらよいのか。
  • M&Aについて気になっていること。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

株式等保有特定会社について説明してください。

株式等保有特定会社とは、財産評価基本通達によって、会社の総資産価額を算出し、総資産価額に対する株式等の割合が50パーセント以上となる場合に該当します。

株式等保有特定会社として該当した場合、該当しないケースの評価方法と比較して、評価額が高くなる傾向にあり、納めるべき税金も一般的に高く算出されることになります。

株式保有特定会社に該当しないようにするためには、どのような方策が考えられますか?

株式保有特定会社に該当しないようにするために、株特外しを検討することがあります。

株特外しについて教えてください。

株特外しとは、総資産に対する株式等の比率を50%未満にして、株式保有特定会社から外すことです。

どのような方法がありますか?

株特外しには、借入を行い総資産内の株式の割合を下げる方法や、株式ではない資産や、不動産を購入する方法などがあります。

注意する点はありますか?

税務署から課税逃れのために株特外しを行ったと判断される場合があるので、事業を行うために資産を増やす必要があったとの正当な理由が必要になります。

資産の構成を無理に変えてしまい、株特外しのために本来必要のない資産まで購入し、節税効果以上の損失を出してしまわないように注意が必要です。


Aさんは支店長から「貴社の事業承継について一緒に考えていきませんか」と提案を受けています。
事業承継の選択肢とそれぞれのメリット・デメリットを説明してください。

事業承継の選択肢ですが、考えられる方法は、親族内承継、親族外承継、M&Aの3つがあります。

親族内承継の特徴や、メリット・デメリットを教えてください。

親族内承継とは、子供や配偶者、兄弟姉妹、叔父叔母、甥姪などに会社を引き継ぐ行為です。
今回のケースでは長男Cさんが引き継いだ場合などです。
贈与や相続によって事業を承継し、相続税対策として少しずつ贈与して相続財産を減らしていくか、相続時精算課税制度を活用して株価の低い時にまとめて贈与するなどの方法があります。

メリットを教えてください。

メリットは、
従業員や取引先からの理解が得やすいこと。
株式などが分散するリスクの軽減が図れること。
計画的に事業承継を進められることです。

デメリットを教えてください。

親族内承継のデメリットは、
多額の納税資金や買取資金が必要になること。
親族であっても、経営者として適切かわからない点などです。
承継財産が高額なほど、多額の納税資金や買取資金が必要となり、資金調達をどうするかという問題があります。
また、親族であるというだけで後継者を選定すると、経営者としての能力に欠ける人物が後継者になってしまうこともあります。

親族外承継の特徴や、メリット・デメリットを教えてください。

親族外承継とは、社内の従業員・役員もしくは部外から招へいした人物に会社を引き継ぐ行為です。今回のケースでは3年前に完成車メーカーから中途採用したEさんが引き継ぐ場合などです。

どのような方法がありますか?

親族外承継の主な方法は二つあります。

一つ目は、会社の経営権を後継者に任せつつ現経営者が引き続き自社株を保有し続けるケースで、一時的に経営者を代行してもらいながら、将来的には後継者に会社を引き継ぎます。
この場合、相続発生時に自社株が相続財産として扱われるため、後継者に自社株を確実に引き継ぐためには遺言などで対処する必要があります。

二つ目は、自社株ごと経営権を後継者に引き継がせるケースで、事業承継のタイミングで後継者に会社をまとめて引き継がせるケースです。
遺言などで対処する必要はありませんが、後継者が自社株を取得する際に多大な資金力が求められるため、資金調達方法を検討する必要があります。

親族外承継のメリットを教えてください。

親族外承継のメリットは、
経営者の資質や経験が担保されること。
従業員や会社関係者、取引先からの理解を得やすいこと。
内部昇格による従業員のモチベーション向上が期待できることです。

どうしてですか?

従業員や役員を後継者に選べば、すでに業務に携わっているため教育に時間をかける必要もなく、ビジョンやノウハウも理解しており、教育する手間が省けます。
業務能力に長けている人材が後継者となれば、金融機関や取引先からも理解を得やすく、融資や取引の継続も期待できます。
役員や一般の従業員から経営者に昇格させることで、その他の役員や従業員のモチベーションも向上し業績アップも期待できます。

親族外承継のデメリットを教えてください。

親族外承継のデメリットは、
後継者の資金力不足が問題になりやすい
事業承継を拒まれてしまう可能性があることです。

拒まれてしまうのはどうしてだと思いますか?

後継者が自社株を買取る場合、自社株の全てを買い取るには多額の資金が必要になりますが、資金力不足で親族外承継ができないケースも出てきます。
経営者自身が保証人となって金融機関から融資を受けているケースも多く、事業承継時に後継者が連帯保証人になることを要求される可能性があります。
親族外の人物が連帯保証人になることは、大きなリスクを伴うので親族外承継を拒まれてしまう可能性があります。

M&Aの特徴や、メリット・デメリットを教えてください。

M&Aとは企業の合併買収のことです。
今回のケースでは、M&A仲介会社などと相談してすすめることが考えられます。

M&Aのメリットを教えてください。

M&Aのメリットは、
従業員の雇用を継続できること。
経営者の資産を増やせる。経営者の連帯保証や担保提供を外せること。
事業のノウハウを後世に残し、事業の拡大や成長に役立つことです。

他にはありませんか?

後継者が見つからず廃業になると、雇用している従業員が仕事を失います。元々の従業員を引き継ぐ形でM&Aを行えば、従業員の生活を心配する必要がなくなります。
M&Aは株式を売却することによって行われるので、経営者は売却益を得ることができ、リタイア後の生活資金等に役立ちます。親族や従業員に事業承継すると、経営者が連帯保証人になっている負債の問題が発生しますが、M&Aの場合、連帯保証や担保提供は不要になります。
これまで培ってきた技術やノウハウを活かし、承継先の企業の資本や人材も活用することで新規事業に取り組み企業の成長が期待できます。

M&Aのデメリットを教えてください。

M&Aのデメリットは、
取引先や従業員から不満が出る可能性があること。
希望する条件で事業承継してくれる企業が見つからない可能性があることです。

他にはありませんか?

M&Aを行うことで、従業員の待遇や営業方針などが変わる可能性もあり、第三者が経営陣に収まることで不満を抱える従業員や、取引を中止する企業が出てくる可能性があります。
経営状況や売却条件が合致せず、マッチングする企業が見つからない場合もあります。


M&Aの手法には、どのようなものがありますか?

M&Aでは、主に「株式譲渡」、「事業譲渡」、「合併」、「会社分割」の4つの手法があります。

株式譲渡について教えてください。

株式譲渡とは、自社株式を譲渡する形で経営権を移譲するM&Aの手法です。
メリットは、手続きが簡単な点と、売却益への税金が事業譲渡と比べ抑えられるので、創業者利益が最大化しやすくなります。
デメリットは、会社全体が取引対象になるため、不採算事業があるとマイナス評価となり譲渡化学が減ってしまいます。また、負債が大きすぎる場合は買い手が見つかりにくい場合があります。

事業譲渡について教えてください。

事業譲渡とは、会社全体を売買対象とする株式譲渡と違い、譲渡対象の事業を選ぶことができます。
メリットは、継続したい事業は残し、売却したい特定の事業を売却することができるので、会社は存続することができ、負債があっても譲渡先が見つけやすくなります。
デメリットは、債権者や従業員とも承諾を得る必要があり、手間や時間、コストがかかります。

合併について教えてください。

合併とは、複数の会社を1つの会社に統合するM&A手法です。
メリットは、複数の事業が1つになることで、個別に事業を行うよりも、大きな効果を発揮することができます。
デメリットは、同業他社との合併では、顧客の重複が生じる場合があり、顧客にとっては取引先が1社となるため、取引量や取引回数を縮小される場合があります。

会社分割について教えてください。

会社分割とは、権利義務の一部、もしくは全部を別の会社に承継することで、もともとの会社は消滅しない点が特徴です。
メリットは、事業分野を分けることで、より専門的な分野へ参入できるなど事業拡大に活用できます。
デメリットは、従業員の同意は不要ですが、株主総会を開催しなければならず、特別決議に該当するので、株主構成によっては手間と時間がかかります。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんは事業承継を考えてはいるものの具体的な後継者は決まっていません。状況によって様々なパターンが考えられるので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、株式等保有特定会社、親族内承継、親族外承継、M&Aに関する設例でした。

Aさんの資産状況などが記載されていないので、ほぼ事業承継に関する質問で、相続に関する質問はなかったのではないかと思います。

定番以外の質問としては、Aさんは金融資産運用が好きなので、新NISAに関する質問があったのではないでしょうか?

”100年に一度といわれる自動車業界の大変革期”という設例は、2022年2月12日のPart1の設例にも記載されています。

過去問を繰り返し解くと、同じような設例が多いのも実技試験の特徴です。

2022年2月12日の設例と同じ作者でしょうか?

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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