2023年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験 Part2 (2023年6月17日) 過去問解説

本ページはプロモーションが含まれています

スポンサーリンク



きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本をKindleで出版しました。

開催年度別に3回分を一冊にまとめたPDF版はこちら

公開日 2023年7月16日 最終更新日 2024年1月16日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2023年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2023年6月17日)

●設 例●
 上場企業に勤務しているAさん(58歳)は、大都市圏近郊のS市内にある甲土地(地積255m²)と甲土地の北側に隣接する乙土地(地積120m²)を所有し、甲土地上の自宅(甲建物)で妻Bさん(56歳)、長女Cさん(28歳)と暮らしている。Aさんは、自宅で両親と同居していたが、8年前に母親が、5年前に父親が亡くなり、1人息子であったAさんがこれらの土地建物を相続した。

 乙土地は、月極駐車場として利用しているが、もともとは借地人が飲食店兼居宅の敷地として利用していた。10年前にその借地人から「自分もいい年になったので故郷に戻ろうと思っている。借地権を買い取ってもらえないか」と要望され、父親が借地権を3,000万円で買い取った経緯がある。

 現在、乙土地は、その全部が都市計画道路予定地として指定されている(4年前に都市計画事業決定)。先月、買収を担当するS市建設局街路課の担当者から、「乙土地の買収価格は 9,000万円です。来年3月までの予算で対応したいので協力いただきたい」との申入れを受けた。

 Aさんは、乙土地の売却資金で新たな不動産投資をしたいと考え、地元で評判のよいX社に相談したところ、自宅の近所にある賃貸アパート(価格8,000万円、地積120m²、延べ面積140m²、築7年、1Kタイプ6戸、満室時ネット利回り5.5%)を紹介された。この賃貸アパートはX社が管理している物件で、所有者に相続が起こり、相続税の支払のために売却予定とのことである。Aさんは、十分な投資利回りが期待できると考え、購入を前向きに検討したいと思っている。

 一方、甲土地・乙土地の西側に隣接する丙土地(更地)は、以前は食品スーパーが営業していたが、現在は不動産会社Y社が開発用地として所有している。先日、Y社の開発担当者がAさん宅を訪れ、等価交換で共同事業に参加してほしいと申し入れてきた。Y社は、丙- 1土地部分に甲土地が加わることを前提に、ファミリータイプマンション総戸数38戸を企画しており、「甲土地の評価額は1億9,000万円で、Aさんには専有床合計290m²を渡せます。また、Aさんが希望すれば、最上階に100m²程度の部屋をAさん居宅として作ることも可能です」とのことである。

 Aさんは、甲建物(延べ面積170m²)が築45年と古くなり、建て替えようと思っていた矢先であり、見晴らしのよいマンションの上階に暮らすのも悪くないと考えている。

 このような状況のもと、AさんからFPであるあなたに相談があった。

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
    ①Aさんから直接聞いて確認する情報
    ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
  2. 都市計画道路事業による乙土地の売却資金で紹介された賃貸アパートを購入する場合、譲渡所得の金額の計算上、どのような特例の適用が考えられますか。
  3. Y社が甲土地を取り込んで、マンション共同開発を望む理由は何でしょうか。また、Y社による甲土地の評価が適正かどうか、どのように判断したらよいでしょうか。
  4. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

 

※近隣商業地域、指定建蔽率80%、指定容積率400%、準防火地域

※都市計画道路の事業決定

  • 市道の拡幅予定幅7m→15m、南側に8m拡幅予定
  • 乙土地の買取価格(対価補償金):9,000万円
  • 特定行政庁が2年以内に事業が執行されるものとして指定した建築基準法第42条第1項第4号の道路(道路予定部分をあらかじめ道路としてみなしてくれる)

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
 ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?

①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
妻Bさんや、長女Cさんの意向。
退職後のライフプラン。
家族構成や、資産状況、相続対策を実施しているかを確認します。

②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを確認します。

⑷市場調査として
 X社が管理している賃貸アパートの状況や、Y社の取引事例、財務状況を確認すること。
 周辺の取引事例などを、地元の不動産業者等で確認し、X社とY社の提案は妥当かを確認します。


都市計画道路事業による乙土地の売却資金で紹介された賃貸アパートを購入する場合、譲渡所得の金額の計算上、どのような特例の適用が考えられますか。

収用等に伴う代替資産の取得の特例や、収用等の場合の5,000万円特別控除の適用が考えられます。

収用等に伴う代替資産の取得の特例について説明してください。

補償金で他の土地建物に買い換えたときに課税の繰延べができる特例です。
売った金額より買い換えた金額が多いときは所得税の課税が将来に繰り延べられ、売った年については譲渡所得がなかったものとされます。
売った金額より買い換えた金額が少ないときは、その差額を収入金額として譲渡所得の金額の計算を行います。

特例を受けるための要件を教えてください。

要件は、売った土地建物は固定資産であること。
売った資産と同じ種類の資産を買い換えること。
移転に承諾した日から2年以内に代わりの資産を取得することです。

5,000万円特別控除を受けるための要件を教えてください。

売った土地建物は固定資産であること。
その年に収用等に伴う代替資産の取得の特例を受けていないこと。
申出があった日から6か月を経過した日までに売買が行われていること。
最初に申し出を受けた者が譲渡していることです。


Y社が甲土地を取り込んで、マンション共同開発を望む理由は何でしょうか?

Y社は、総戸数38戸のファミリータイプマンションを企画しています。
丙-1土地だけでは1個あたりの平均面積は50㎡程度となるので、ファミリー向けに1戸あたり80㎡以上の広さを確保したいので、甲土地を取り込みたいのだと思います。

Y社による甲土地の評価は、どのように判断したらよいでしょうか。

Y社による甲土地の評価額1億9,000万円は、都市計画道路完成後の甲土地の路線価を元に計算されていると思います。

どのように計算しますか?

路線価は公示価格の80%程度の水準で決定されています。
したがって、都市計画道路完成後の甲土地の路線価60万円を80%で割ると75万円になり、75万円に甲土地の面積255㎡をかけると1億9,125万円になります。

Y社による甲土地の評価について、Aさんにどのようなアドバイスをしますか?

甲土地周辺は、道路も拡幅され今後も開発が見込める地域だと思います。
不動産鑑定士と連携し、適正な不動産価格を算定するようにアドバイスします。


等価交換方式について教えてください。

等価交換方式とは、土地をデベロッパーに譲渡し、代わりに建物を建ててもらい、土地の所有者は建物の価値に対する土地の価値の分だけ、建物や不動産を所有することができる土地活用の方法です。

等価交換方式のメリットについて教えてください。

等価交換のメリットは、土地所有者は建築費用を出さずに建物を得られることや、建物のための手続きや建設をディベロッパーがすべて行ってくれるため、土地の所有者は建物建築に関する費用が不要なだけでなく、手続きに時間を取られることがありません。

他にはありませんか?

地上3階以上の中高層の耐火共同住宅など、条件が合えば、立体買い替えの特例の適用を受けることができるので、譲渡益に係る所得税の課税を繰延べることができます。

等価交換方式のデメリットについて教えてください。

等価交換ではそれまで所有していた土地も、ディベロッパーと共有することになります。
最終的にディベロッパーとの共同所有ということになるため、土地の所有権の一部を手放すことになります。

他にはありませんか?

権利関係が複雑化し、運用方針やメンテナンス費用などで揉めるリスクが高くなります。


FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?

不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、収用等に伴う代替資産の取得の特例、5,000万円特別控除、等価交換方式、不動産価格の算定に関する設例でした。
マンションの広さですが、国土交通省の資料によると、四人家族の場合、最低でも50平方メートル、豊かな住生活を実現するためには85平方メートル以上の広さが必要だと示されています。

住生活基本計画における居住面積水準:国土交通省

相続税路線価と固定資産税路線価の違い

相続税路線価固定資産税路線価
求められる評価額相続税評価額固定資産税評価額
単位千円単位1円単位
根拠となる税金相続税、贈与税固定資産税、都市計画税、登録免許税、不動産取得税
評価主体国税庁市町村(東京23区は東京都)
評価の頻度毎年3年に1回
価格時点1月1日基準年(3年ごと)の1月1日
公表時期毎年7月ごろ基準年の4月ごろ
価格水準公示価格の80%程度公示価格の70%程度
掲載サイト財産評価基準書全国地価マップ
相続税路線価と固定資産税路線価の違い

評価主体は、相続税路線価が国税庁(国)であり、固定資産税路線価が市町村です。
評価の頻度は、相続税路線価が毎年評価し直されるのに対し、固定資産税路線価は3年に一度しか評価されないことになっています。

不動産の有効活用

  特徴 メリット デメリット
自己建設方式 事業の全てを土地の所有者自らが行う。小規模事業向き。 収益の全てを享受できる。不動産事業のノウハウが蓄積できる。 建物の建設資金も土地所有者自らが調達するなど、借入金の返済が必要。
事業受託方式 一切の業務をデベロッパーが請け負う。 デベロッパーが土地建物を一括借り上げてテナントへ転貸することで安定的な収益の確保ができる。 建物の建設資金は、土地所有者自らが調達するなど借入金の返済が必要。
土地信託方式 信託銀行に土地を信託し、信託銀行が資金を調達し建物の建設や運用を行い、運用益の一部を信託配当として受け取る。名義は信託銀行となるが期間終了後は返還される。 資金は信託銀行が用意するので自己資金が不要。ノウハウがなくても大丈夫。相続対策にもなる。 開発リスクは土地所有者が負う。元本保証ではない。赤字の場合、損失は土地所有者が負う。
等価交換方式 土地所有者の土地にデベロッパーが建物を建設し、完成後土地と建物それぞれの一部を交換し土地と建物を所有する。 資金はデベロッパーが調達するので自ら資金を調達しなくても建物を所有できる。リスクが少ない。採算性も良い。 土地は実質共有となる。
定期借地権方式 土地を一定期間のみ貸し付け収益を上げる。登記することで第三者に対抗できる。 土地の所有権を移転せず、期間の更新もなく更地返還される。ノウハウも不要で、安定して収益を上げることができる。 用途が事業用に限られるため汎用性がない。地代収入は他の方式と比べ収益が低い。貸宅地として評価。
建設協力金方式 土地所有者が建設する建物のテナントから建設資金を借り入れて建物を建設し賃貸する。 テナントの確保が容易。入居者のノウハウで事業の立案が可能。借入が金融機関よりも有利。貸家、貸家建付地として評価。 期間中にテナント側が倒産や中途解約した場合、予定していた賃貸収入の消滅や転用しづらい仕様の建物が残り、残された建物と補償金の処理が複雑になる。

 

今回は等価交換方式でしたが、実技試験でよく出題されるのは「建設協力金方式」と「事業用定期借地権方式」です。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

スポンサーリンク



実技試験を受験された方、よかったら質問内容を教えていただけませんか?

FP1級実技試験は情報も少なく、受験された方はご苦労されたと思います。
受験経験者の情報が、これから受験する方にとって大変役に立ちます。
・質問された内容
・気をつけたこと
・注意点など
FP1級試験に関することを教えていただけませんか?

※提供いただいた情報は、こちらのサイトで情報発信させていただきます。

受験日を教えてください

質問された内容などをご記入ください(必須)

お名前・ニックネーム

記事の更新をお知らせします

メールアドレスを記入して購読すれば、更新をメールで受信できます。
Twitterフォローでも更新通知が届きます。