合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(70歳)は、全国有数の観光地で温泉旅館を営むX株式会社(非上場会社)の代表取締役社長である。山岳と高原の美しい景観、豊富な湯量と高品質な温泉に恵まれ、長い間、業績は堅調に推移してきた。しかし、2020年以降、新型コロナウイルス感染症の影響により観光客は激減し、業績は2期連続での赤字決算となり、今期も赤字となる見込みである。ただ、足許ではコロナ禍も落ち着き、大都市圏からの観光客のみならず、海外からのインバウンド需要も回復しつつあり、明るい兆しが見え始めている。
一方、慢性的な労働者不足や、浴槽のリニューアル、インターネット環境高度化のための設備投資など、経営課題は山積しており、AさんはX社の先行きに危機感も抱いている。
【事業承継について】
Aさんには子が2人いる。長男Cさん(43歳)は、地元の大学を卒業後、すぐに家業に入り、今ではAさんに代わって実務全般を取り仕切るほどにまで成長している。コロナ禍による厳しい業績を反映してX社株式の評価額が低くなっていたことから、Aさんは、顧問税理士の指導のもと、長男Cさんへ贈与によるX社株式の移転を進めており、いつ事業を承継しても問題はないと感じている。
他方、長女Dさん(40歳)は、美容師として独立開業しており、X社の経営にはほとんど関心がない。
先日、顧問税理士との定例会議の席上、顧問税理士から「今期も赤字になりますと、X社は比準要素数1の会社に該当し、株価は逆に高くなってしまいます。何か対策を講じる必要がありますね」との指摘があった。Aさんは、“比準要素数1の会社”というものが何なのかよくわからず、これまでは赤字なので株価も安いと認識してきたが、赤字が続くと逆に株価が高くなるのはなぜなのか、疑問に思っている。
なお、最近、観光業界は大きな転換点を迎え、国内大手に加えて外資系ホテルチェーンもビジネスチャンスと捉えて積極的に投資計画を打ち出しているとの話をよく耳にしている。Aさんのもとにも、テレビや雑誌でよく目にするM&A仲介会社から「ぜひ紹介したい先がある」との申出がたびたびあり、気になっているところである。
【X社の概要】
資本金:2,000万円 会社規模:大会社 従業員数:100人
売上高:7億円 経常利益:▲3,000万円 純資産:3億円
株主構成(発行済株式総数4万株):Aさん70%、長男Cさん30%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額3,500円/株、純資産価額7,500円/株(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として、
比準要素数1の会社というものが何なのかよくわからないこと。
赤字が続くと逆に株価が高くなるのはなぜなのか疑問に思っていること。
M&A仲介会社からの申出がたびたびあり、気になっていることです。
問題点は、
株価引き下げ対策が必要なこと。
円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
それでは、今あげた相談内容および問題点を解決するためには、どのような提案・方策が考えられますか?
比準要素数1の会社について教えてください。
比準要素数1の会社ですが、類似業種比準方式では、1株当たりの配当金額、1株当たりの利益金額、1株当たりの純資産価額の3つの比準要素を使います。
比準要素数1の会社とは、3つの比準要素のうち、評価直前期末の要素のいずれか2つがゼロであり、かつ、評価直前々期末の要素のいずれか2つ以上がゼロである会社のことです。
X社は2期連続での赤字決算となっているので、3期続けて赤字だった場合、比準要素数1の会社に該当します。
赤字が続くと逆に株価が高くなるのはどうしてですか?
赤字が続くと比準要素数1の会社となり、会社の規模にかかわらず、純資産価額方式による評価、又は選択により併用方式において、類似業種比準価額のLの割合を0.25として評価することになります。
そのため純資産価額の割合が大きくなり、一般的に株価が高く算出されます。
比準要素数1の会社を回避する方法はありますか?
配当をしておらず、2 期連続で利益がマイナスになるような場合、簿価純資産が十分な会社であれば配当を出したり、場合によっては含み益の多い資産を売却して利益を出すことによって、比準要素数1の会社を回避することができます。
M&Aについて教えてください。
M&Aとは企業の合併買収のことです。
M&Aのメリットを教えてください。
M&Aのメリットは、
従業員の雇用を継続できること。
経営者の資産を増やせる。経営者の連帯保証や担保提供を外せること。
事業のノウハウを後世に残し、事業の拡大や成長に役立つことです。
他にはありませんか?
後継者が見つからず廃業になると、雇用している従業員が仕事を失います。元々の従業員を引き継ぐ形でM&Aを行えば、従業員の生活を心配する必要がなくなります。
また、M&Aは株式を売却することによって行われるので、経営者は売却益を得ることができ、リタイア後の生活資金等に役立ちます。親族や従業員に事業承継すると、経営者が連帯保証人になっている負債の問題が発生しますが、M&Aの場合、連帯保証や担保提供は不要になります。
これまで培ってきた技術やノウハウを活かし、承継先の企業の資本や人材も活用することで新規事業に取り組み企業の成長が期待できます。
M&Aのデメリットを教えてください。
M&Aのデメリットは、
取引先や従業員から不満が出る可能性があること。
希望する条件で事業承継してくれる企業が見つからない可能性があることです。
他にはありませんか?
M&Aを行うことで、従業員の待遇や営業方針などが変わる可能性もあり、第三者が経営陣に収まることで不満を抱える従業員や、取引を中止する企業が出てくる可能性があります。
経営状況や売却条件が合致せず、マッチングする企業が見つからない場合もあります。
M&Aの手法には、どのようなものがありますか?
M&Aでは、主に「株式譲渡」、「事業譲渡」、「合併」、「会社分割」の4つの手法があります。
「株式譲渡」について教えてください。
「株式譲渡」とは、自社株式を譲渡する形で経営権を移譲するM&Aの手法です。
メリットは、手続きが簡単な点と、売却益への税金が事業譲渡と比べ抑えられるので、創業者利益が最大化しやすくなります。
デメリットは、会社全体が取引対象になるため、不採算事業があるとマイナス評価となり譲渡価額が減ってしまいます。また、負債が大きすぎる場合は買い手が見つかりにくい場合があります。
「事業譲渡」について教えてください。
「事業譲渡」とは、会社全体を売買対象とする株式譲渡と違い、譲渡対象の事業を選ぶことができます。
メリットは、継続したい事業は残し、売却したい特定の事業を売却することができるので、会社は存続することができ、負債があっても譲渡先が見つけやすくなります。
デメリットは、債権者や従業員とも承諾を得る必要があり、手間や時間、コストがかかります。
「合併」について教えてください。
「合併」とは、複数の会社を1つの会社に統合するM&A手法です。
メリットは、複数の事業が1つになることで、個別に事業を行うよりも、大きな効果を発揮することができます。
デメリットは、同業他社との合併では、顧客の重複が生じる場合があり、顧客にとっては取引先が1社となるため、取引量や取引回数を縮小される場合があります。
「会社分割」について教えてください。
「会社分割」とは、権利義務の一部、もしくは全部を別の会社に承継することで、もともとの会社は消滅しない点が特徴です。
メリットは、事業分野を分けることで、より専門的な分野へ参入できるなど事業拡大に活用できます。
デメリットは、従業員の同意は不要ですが、株主総会を開催しなければならず、特別決議に該当するので、株主構成によっては手間と時間がかかります。
事業承継とM&Aの関係を教えてください。
M&Aで会社を売却するなど、後継者が事業を途中でやめてしまった場合は、事業承継税制の納税猶予を受けることができなくなります。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
AさんはX社株式のことやM&Aなど、わからないことも多いので、
X社の経営を続けていく長男Cさんと、X社の経営にはほとんど関心がない長女Dさんも交えて、納得できるように、ご家族一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、比準要素数1の会社、株式の評価方法、M&Aに関する設例でした。
設例にAさんの所有財産の概要の記載もなく、相続よりも事業承継に関する質問が多かったのではないでしょうか?
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。