2023年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2023年9月30日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本をKindleで出版しました。

開催年度別に3回分を一冊にまとめたPDF版はこちら

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2023年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2023年9月30日)

●設 例●

 Aさん(79歳)は、三大都市圏近郊のS市内に所在する甲土地を所有し、甲土地の北側3分の1部分にある甲建物で妻Bさん(76歳)と暮らしている。甲土地の南側3分の2部分は、アスファルト敷きの月極駐車場として利用している。甲土地と甲建物は、20年前、Aさんが相続により取得した。1人息子の長男Cさん(52歳)は、隣県のT市内にある分譲マンションで妻子と暮らしており、S市に戻る予定はない。

 Aさん夫妻は、長男Cさんの勧めもあり、T市内で分譲予定のシニア向けマンションを購入し、老朽化した甲建物から転居したいと思っているが、手元の資金にはできるだけ手を付けたくないと考えている。また、転居後、生活費として年間400万円程度必要になる見込みである。

 

【Aさんの所有財産の概要】

  • 現預金:4,000万円
  • 甲土地:地積1,800m²、北側3分の1(600m²)を甲建物の敷地として利用し、南側3分の2(1,200m²)を月極駐車場として利用している。
  • 甲建物:木造2階建て、延べ面積165m²、築50年
    ※現在の収入(税引前):年間520万円(年金収入200万円、駐車場からの賃貸収入320万円)


【Aさんが購入予定のシニア向け分譲マンションの概要】

  • 販売価格6,000万円(諸経費込み)
  • 専有面積70m²、2LDK、相続税評価額2,000万円

 

 月極駐車場からの収入は、固定資産税・都市計画税を支払うと年額120万円で、収益性は高くない。そこで、シニア向け分譲マンションの購入資金の準備と将来の相続を見据えた甲土地の取扱いを思案していたところ、ドラッグストアを展開するX社から、甲土地に新規店舗を出店したいと申出があり、Aさん側の事情を踏まえて、3つの提案(右頁の<資料>参照)があった。Aさんは、3つの提案のいずれがより望ましいのか判断がつかず、FPであるあなたにアドバイスを求めている。

 

<資料>X社からの提案内容

  • 甲土地全体を店舗敷地とする。現在の月極駐車場部分に鉄骨造平屋建て、延べ面積700m²の新規店舗を建設し、甲建物敷地部分は顧客用駐車場とする。
  • 測量費や分筆が必要な場合の費用等はX社が負担する。
  • Ⅰ案、Ⅱ案、Ⅲ案のいずれでもかまわない。

 

  1. 甲建物とその敷地部分(600m²)を6,000万円で購入し、月極駐車場部分(1,200m²) を借地期間20年の事業用借地権で賃借する。

    • 月額地代65万円(年額780万円)、敷金300万円

  2. 甲土地全体を借地期間20年の事業用借地権で賃借する。甲建物の解体費はX社が負担する。

    • 月額地代83.3万円(年額1,000万円)、地代総額の30%相当(6,000万円)を前払地代として一括支払、敷金450万円

  3. 甲建物とその敷地部分(600m²)を6,000万円で購入する。また、新規店舗を建設協力金方式により建設(建設費1億2,000万円)してX社が20年間賃借する。

    • 月額賃料125万円(年額900万円・建設協力金返済後)、敷金750万円

 

※店舗建設後の固定資産税・都市計画税について、甲土地全体では年額270万円、月極駐車場部分のみでは年額200万円と見込まれ、店舗(建物)は年額100万円と見込まれる。

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
    ①Aさんから直接聞いて確認する情報
    ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
  2. Ⅱ案の場合、一括支払を受ける前払地代の課税関係はどうなりますか。
  3. あなたはAさんにⅠ案、Ⅱ案、Ⅲ案のいずれを勧めますか。その理由を将来の相続税、収益性(年間収入)、将来の資産価値などの観点から教えてください。
  4. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
 ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?

①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
月極駐車場の契約内容。
甲土地の一部は売却可能か。
相続税の見込み額はいくらぐらいかを確認します。

②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。

⑷市場調査として
 X社の取引事例や財務状況を確認すること。
 周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、X社の提案は妥当かを確認します。


Ⅱ案の場合、一括支払を受ける前払地代の課税関係はどうなりますか。

所得税については、前払地代⽅式で処理する要件を満たした場合、⼀時⾦として課税されず、設定した期間に応じ、不動産所得の各年分の収⼊⾦額に算⼊します。

相続税については、どのように扱われますか。

相続税については、前払地代は返還義務が生じないので、債務控除の対象にはならず相続税の課税対象になります。

あなたはAさんにⅠ案、Ⅱ案、Ⅲ案のいずれを勧めますか。
その理由を将来の相続税、収益性(年間収入)、将来の資産価値などの観点から教えてください。

Ⅰ案を勧めます。

将来の相続税の違いについて教えてください。

将来の相続税についてですが、Ⅰ案とⅡ案の事業用借地権の場合、土地は貸宅地として評価されますが、定期借地権等の目的となっている宅地の価額は、その宅地の自用地評価額から定期借地権等の価額を控除した金額か、定期借地権等の残存期間に応じた割合で計算した金額を控除した価額のいずれか小さい方の金額となり、借地期間の残存年数が短くなるにつれて減額割合が小さくなっていきます。

Ⅲ案の建設協力金方式の場合、相続税の評価額は、土地は貸家建付地として、建物は貸家として控除を受けられます。
また、借り入れた建設協力金は負債としてみなされ課税の対象からは外れるので、その金額分の節税が可能になります。

収益性の違いについて説明してください。

Ⅰ案の地代は780万円、固定資産税・都市計画税については月極駐車場部分のみなので年額200万円となり、580万円の収益になります。

Ⅱ案の場合、地代1,000万円のうち、30%は前払地代として一括で受け取るので年額の地代は700万円になります。固定資産税・都市計画税については甲土地全体となるので年額270万円となり、年間の収益は430万円になります。

Ⅲ案の地代は900万円で、固定資産税・都市計画税については月極駐車場部分の200万円と店舗の100万円を足した300万円になるので、年間の収益は600万円になります。

したがって、Ⅲ案が収益は高くなりますが、建物がAさん名義となるため、建物の修繕やメンテナンスにかかる費用の負担も考慮する必要があります。

将来の資産価値について説明してください。

事業用定期借地権の場合、契約期間満了後の土地は更地にして返還されるので、Ⅰ案の場合は月極駐車場部分のみが残り、Ⅱ案では甲土地全体が残ることになります。

建設協力金方式では、建物の名義も土地所有者となるため、Ⅲ案の場合は契約満了後に資産が増え、新たにテナントを募集して貸し出したり、売却したりすることもできます。

Ⅰ案を勧める理由を教えてください。

相続税や、将来の資産価値を考えるとⅢ案が条件面では有利ですが、建設協力金方式では、万が一借主側の倒産・撤退による中途解約などが起こった場合、借主希望の仕様に仕上げた建物や内装を新たなテナントに転用することや、業種の制限を受けて後継テナントの誘致が困難になってしまう可能性が考えられます。

また、テナントが退去してしまった場合、建物の所有者はAさんなので、入居テナントが決まらない場合でも固定資産税などの税金を納めていく必要があり、契約満了時に建物を取得できる点はメリットですが、活用する予定がないと解体が必要となり、解体費を負担しなければならない可能性もあります。

Aさんにどの程度、相続対策が必要なのか、希望する収益はいくらぐらいなのか、建物が必要なのかなど、長男Cさんと一緒に15~20年先の土地の活用法も見据えて、どの案を選択すべきか考える必要があります。


FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?

不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、前払地代の課税関係と定期借地権、建設協力金方式に関する設例でした。

保証金権利金前払地代
期間満了時に返還しなければならない金銭。土地所有者にとっては、長期に渡る債務となります。返還を要しない金銭。受け取った時に一括して収入となります。返還を要しない金銭。だたし、定期借地契約が解約になった場合には、未経過分は返還が必要となります。

定期借地権には、「一般定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」「事業用定期借地権」の3つがあります。

項目一般定期借地権事業用定期借地権建物譲渡特約付借地権
存続期間50年以上10年以上30年未満30年以上50年未満30年以上
利用目的限定なし事業用建物 (居住用は不可)限定なし
契約書式公正証書等の書面により契約必ず公正証書で契約する書面化は不要
借地関係の終了期間満了により終了期間満了により終了建物譲渡の時点で終了
契約更新、終了時の建物とその利用関係等以下の特約が可能
①更新しない
②建物再築に伴う相続期間の延長をしない
③建物買取請求権を行使しない
①更新不可
②建物再築に伴う存続期間の延長不可
③建物買取請求は不可
以下の特約が可能
①更新しない
②建物再築に伴う相続期間の延長をしない
③建物買取請求権を行使しない
①建物所有権は、譲渡により土地所有者に移転
②借地権者が使用していれば借家関係に移行

一般定期借地権は、主に分譲マンションなどで使われます。

事業用定期借地権は、コンビニやスーパー、家電量販店、ホームセンター、ドラッグストア、ロードサイド型店舗等で利用されます。

建物譲渡特約付借地権は、借地権終了時に古い建物を土地所有者が購入することは、あまりメリットがないので、建物譲渡特約付借地権は、ほとんど利用されていないのが実態です。

一般定期借地権と事業用定期借地権では契約終了時、建物は借地人によって取り壊され、更地返還されます。

不動産の有効活用

  特徴 メリット デメリット
自己建設方式 事業の全てを土地の所有者自らが行う。小規模事業向き。 収益の全てを享受できる。不動産事業のノウハウが蓄積できる。 建物の建設資金も土地所有者自らが調達するなど、借入金の返済が必要。
事業受託方式 一切の業務をデベロッパーが請け負う。 デベロッパーが土地建物を一括借り上げてテナントへ転貸することで安定的な収益の確保ができる。 建物の建設資金は、土地所有者自らが調達するなど借入金の返済が必要。
土地信託方式 信託銀行に土地を信託し、信託銀行が資金を調達し建物の建設や運用を行い、運用益の一部を信託配当として受け取る。名義は信託銀行となるが期間終了後は返還される。 資金は信託銀行が用意するので自己資金が不要。ノウハウがなくても大丈夫。相続対策にもなる。 開発リスクは土地所有者が負う。元本保証ではない。赤字の場合、損失は土地所有者が負う。
等価交換方式 土地所有者の土地にデベロッパーが建物を建設し、完成後土地と建物それぞれの一部を交換し土地と建物を所有する。 資金はデベロッパーが調達するので自ら資金を調達しなくても建物を所有できる。リスクが少ない。採算性も良い。 土地は実質共有となる。
定期借地権方式 土地を一定期間のみ貸し付け収益を上げる。登記することで第三者に対抗できる。 土地の所有権を移転せず、期間の更新もなく更地返還される。ノウハウも不要で、安定して収益を上げることができる。 用途が事業用に限られるため汎用性がない。地代収入は他の方式と比べ収益が低い。貸宅地として評価。
建設協力金方式 土地所有者が建設する建物のテナントから建設資金を借り入れて建物を建設し賃貸する。 テナントの確保が容易。入居者のノウハウで事業の立案が可能。借入が金融機関よりも有利。貸家、貸家建付地として評価。 期間中にテナント側が倒産や中途解約した場合、予定していた賃貸収入の消滅や転用しづらい仕様の建物が残り、残された建物と補償金の処理が複雑になる。

 

実技試験でよく出題されるのは「建設協力金方式」と「事業用定期借地権方式」です。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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