公開日 2023年11月18日 最終更新日 2023年11月24日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさんは、専門工事業を営むX株式会社(非上場会社・取締役会設置会社)の代表取締役社長であったが、先月、病気により70歳で急逝した。地方都市に所在するX社は、Aさんが45年前に設立した会社である。バブル崩壊後は経営状況の厳しい時期もあったが、2000年以降、業績は堅調に推移している。X社の余剰資金は3億円以上あり、経営は安定している。
【事業承継について】
長男Cさん(42歳)は、1年前にX社の取締役に就任し、実質的に経営を担ってきた。その経営能力は高く、後継者としての資質に問題はない。X社の設立以来、Aさんを支えてきた取締役工事部長のEさん(68歳)も、次期社長として長男Cさんに太鼓判を押している。また、妻Bさん(68歳)は、長年、取締役として人事・総務の管理部門を担当し、Aさんを補佐してきたが、引き続き、取締役として長男Cさんをサポートしていきたいと考えている。妻Bさんおよび長男Cさんは、Aさんの相続開始が突然であったため、早々に代表者を選任する必要があるが、その方法がわからない。また、AさんはX社株式の移転を進めておらず、自社株式の各種対策を行っていなかったため、X社株式をどのように承継(遺産分割)するべきか頭を悩ませている。
【資産承継について】
Aさんは遺言書を準備していなかった。妻Bさんが東京都内に暮らす公務員の二男Dさん(38歳)に意向を聞いたところ、二男Dさんから「親父が急死して、母さんや兄貴が大変なことは理解している。俺はX社の経営に関わるつもりはないし、不動産を欲しいとも思わない。ただ、息子として親父の財産の一部をもらう権利はあると思っている」と言われた。長男Cさんと二男Dさんの関係は良好であるものの、妻Bさんは、兄弟間で相続財産の偏りが生じることに一抹の不安を感じている。また、Aさんは生前、2人の孫(14歳、10歳)に教育資金贈与信託を利用して教育資金を一括贈与していた。これについて、長男Cさんは、信託銀行の担当者から残余財産が相続財産に含まれる可能性があると聞き、その概要を確認したいと思っている。
【Aさんの家族構成(法定相続人)】
妻Bさん (68歳):X社の取締役。長男Cさん家族と同居している。
長男Cさん(42歳):X社の取締役。妻と子の3人で、母Bさんと同居している。
二男Dさん(38歳):公務員。妻と子の3人で官舎に住んでいる。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金 : 1億円 死亡退職金 : 7,000万円 (妻Bさんに支給) X社株式 : 3億円 自宅 ①土地 : 6,000万円 (300㎡) ②建物 : 1,500万円 (築20年) X社本社土地 : 8,000万円 (500㎡)(注) 月極駐車場 : 5,000万円 (400㎡) 合計 : 7億7,500万円 ※Aさんの相続に係る相続税額(7億7,500万円に基づいて計算)は、約2億4,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と試算されている。
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。【X社の概要】
資本金:1,000万円 会社規模:大会社 従業員数:50人
完成工事高:22億円 経常利益:5,000万円 純資産:10億円 決算期:10月
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん80%、妻Bさん10%、長男Cさん10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額7,000円/株(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として、
X社の株式移転はどのようにすべきか。
代表者の選任する方法がわからない。
教育資金の一括贈与の概要を知りたいことです。
問題点は、
納税資金の確保。
相続税の軽減対策が必要なこと。
円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
それでは、今あげた相談内容および問題点を解決するためには、どのような提案・方策が考えられますか?
納税資金の準備と相続税の軽減対策ですが、金庫株の活用、小規模宅地の特例の活用などがあげられます。
金庫株の活用はどのように提案しますか?
金庫株の活用ですが、通常の自社株買取はみなし配当として総合課税の対象ですが、株式を相続した人が、相続が発生してから3年10ヶ月以内にその株式を発行会社に売却した場合には、本来、総合課税されるところが、20%の分離課税となるので税金コストを抑えて譲渡することが可能になります。
今回のケースでは、後継者である長男CさんがX社株式を相続し、その後、X社に株式の一部を買い取ってもらうことで、現金を受け取り納税資金に充てることができます。
小規模宅地の特例の活用はどのように提案しますか?
一定の条件を満たすことで土地の相続税評価額を、特定居住用は330㎡、事業用は400㎡まで80%軽減され、貸付事業用は200㎡まで50%軽減されます。
今回のケースでは、後継者である長男CさんがX社本社土地を相続すると、自宅土地300㎡を特定居住用宅地として、X社本社土地500㎡のうち400㎡までを特定同族会社事業用宅地等として、80%軽減することができます。
円滑な遺産分割を行うためにはどのような提案・方策が考えられますか?
円滑な遺産分割についてですが、金庫株の活用や、生前贈与の活用が考えられます。
今回のケースでは、後継者である長男Cさんが遺産の多くを取得するため二男Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があります。
二男Dさんは公務員なのでX社の経営に参画することや月極駐車場の収入を得ることなどは、公務員の就業規則で制限がある可能性があり、本人の意向も、X社の経営に参画することはないし、不動産を欲しいとも思わないとの意向があるので、金融資産を中心に相続したいのではないかと考えます。
金庫株を活用しX社株式を相続後、X社に株式の一部を買い取ってもらうことで、現金を受け取ることが可能になり、金融資産を多く相続することで、ある程度均等な相続が可能になります。
生前贈与の活用はどのように提案しますか?
生前贈与の活用には、歴年贈与、教育資金、結婚・子育て資金贈与、住宅取得資金贈与などがあげられます。
今回のケースでは、後継者である長男Cさんが遺産の多くを取得するため二男Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があります。
教育資金の一括贈与や住宅取得資金贈与、歴年贈与などを積極的に行うことを提案します。
X社の事業承継に関してはどのような留意点が考えられますか?
事業承継税制を適用し相続税の納税猶予を受けると、後継者が相続する株式にかかる相続税が会社経営を継続している間は猶予されます。
適用要件は
などです。
5年以内に後継者が代表者でなくなった場合や、取得した株式を譲渡などで手放した場合、届出書を提出しなかった場合などは納税猶予が取り消されるので注意が必要です。
代表者を選任する方法を教えてください。
代表者の選任は、取締役会を通じて行われます。残った取締役が3人以上いれば、取締役会で、その中から新しい社長の選任決議をすることができます。
残った取締役が3人未満の場合には、代表取締役社長の選任はできません。
その場合には、株主総会で3人目の取締役を選任後、取締役会で代表取締役を選任する必要があります。
新たな社長が決定した後は、2週間以内に代表取締役変更の登記を行い、後継者の選任手続きを完了させます。
取締役会が設置されていない場合はどうなりますか?
取締役会が設置されていない場合は、原則として株主総会により代表取締役を選任します。
定款に代表取締役の定めがある場合や取締役の互選が認められている場合は定款に応じた手続きで選任します。
今回のケースではどうなりますか?
今回のケースは、X株式会社は取締役会設置会社で、決算期は10月です。
残った取締役は、長男Cさんと取締役工事部長のEさん、取締役として人事・総務の管理部門を担当している妻Bさんの3人なので、取締役会で、その中から新しい社長を選任する決議をすることができます。
また、Aさんは先月、亡くなっていますので、新たに選任をされた代表者が10月期の事業年度に係る法人税の申告書に代表者として氏名を記載します。
教育資金贈与信託契約中の場合、残余財産が相続財産に含まれる可能性があるのはどうしてですか?
教育資金一括贈与が改正され、贈与者が死亡した場合の相続税の課税対象が拡大されたためです。
改正内容を教えてください。
改正前は、贈与者が死亡した時点から3年以内に贈与された資金に係る残額についてのみ、相続税の対象となっていましたが、
改正後は、教育資金の贈与を受けた日にかかわらず、相続発生時点における残高が相続税の課税対象になります。
ただし、相続発生時点で贈与を受ける人が、23歳未満の人や学生、教育訓練給付金の支給対象になる教育訓練を受講している人などで、相続税の課税価格の合計額が5億円を超えない場合は、相続税の課税対象にはなりません。
他にはありませんか?
相続税の2割加算についても、改正前は贈与者が死亡した時点から3年以内の贈与に係る残額について相続税の課税対象となったとしても、相続税の2割加算が適用されることはありませんでした。
しかし、改正後は相続税の対象となる教育資金贈与の残額については、2割加算したうえで相続税が計算されることになります。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは病気で急逝され、X社にとってもご家族にとっても不安なことが多いと思います。
X社の経営を安定して続けていく必要がある長男Cさんと、X社経営に関心のない二男Dさんが納得できるように、ご家族一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、相続による事業承継、円滑な遺産分割、教育資金の一括贈与に関する設例でした。
Aさんが急逝して、次男Dさんが公務員で「親父が急死して、母さんや兄貴が大変なことは理解している。俺はX社の経営に関わるつもりはないし、不動産を欲しいとも思わない。ただ、息子として親父の財産の一部をもらう権利はあると思っている」という発言をする設例は、2020年9月26日のPart1でもありました。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。