合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
Aさん(70歳)は、地方中核都市に所在するX株式会社(非上場会社・家具製造業)の代表取締役社長である。X社は、約40年前にAさんと弟Eさんの2人で設立した会社であるが、業績は堅調に推移し、従業員70人超の規模に成長した。5年前、弟Eさんが病気により他界し、弟Eさんが所有していたX社株式は、甥Fさん(40歳、弟Eさんの子)が承継した。
【事業承継について】
Aさんは、自身の年齢のことも考え、数年のうちに勇退するつもりでいる。X社は、Aさんの実家があった土地に本社兼工房があり、X社株式は、Aさんが51%、甥Fさんが49%保有している。
大手家具メーカーに勤務していた甥Fさんは、弟Eさんの死亡後、X社に入社した。現在はオフィス部門の責任者を務め、取引先・従業員からの信頼は厚い。Aさんは、弟Eさんとの約束もあり、甥Fさんを後継者として考えており、甥Fさんにもその自覚がある。
なお、Aさんには長女Cさん(37歳)と二女Dさん(34歳)がいるが、いずれもX社の経営にはまったく関心がない。Aさんは、2人の子はX社の事業承継とは関係がないと思っているが、相応の資産は残してやりたいと思っている。
【資産承継について】
現在、Aさんの自宅と弟Eさんの旧宅(空き家)が建っている甲土地(地積800m²)は、父親の相続により、Aさんと弟Eさんがそれぞれ各2分の1の共有持分で取得したものである。弟Eさんが所有していた持分は、甥Fさんが相続により取得している。Aさんはこの共有状態を将来の相続を見据えて解消しておきたいと考えている。
Aさんは、X社に蓄えた余剰資金を利用して、所有しているX社株式のすべてを金庫株によりX社が買い取ることにすれば、甥Fさんが経営に必要な議決権割合を確保できるのではないかと思っている。あるいは、甥Fさんが所有している甲土地の持分とそれに見合うX社株式を交換することで、X社株式の移転と共有状態の解消を併せて実現できるのではないかと思っている。Aさんは、これらの方法に問題はないのかどうかアドバイスを求めている。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 1億円 2.X社株式 : 3億600万円 3.甲土地(800m²、甥Fさんとの共有) : 8,000万円 (1/2の持分相当) 4.自宅建物(築15年) : 2,000万円 5.X社本社兼工房土地(600m²) : 1億1,000万円 (注) 6.月極駐車場(400m²) : 5,000万円 合計 : 6億6,600万円 ※Aさんの相続に係る相続税額は、約2億円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに 通常の地代を支払っている。
【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:大会社 従業員数:72人 配当:実施なし
売上高:14億円 経常利益:6,000万円
純資産:10億円(余剰資金5億円、分配可能額9億円)
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん51%、甥Fさん49%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額6,000円/株、純資産価額10,000円/株【Aさんの推定相続人】
妻Bさん (65歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女Cさん(37歳):専業主婦。これまでX社の経営に関与したことはない。会社員の夫と子の3人で夫所有の持家に住んでいる。
二女Dさん(34歳):会社員。これまでX社の経営に関与したことはない。Aさんと自宅で同居している。(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
- 設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
- それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
- それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
- FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
余剰資金を利用して、所有しているX社株式のすべてを金庫株によりX社が買い取ると、甥Fさんが経営に必要な議決権割合を確保できますか?
Aさんが所有しているX社株式のすべてを、金庫株によりX社が買い取ると、金庫株には議決権がないので、甥Fさんの議決権は100%になります。
甥Fさんが議決権のある株式の2分の1超を所有することになるので、経営に必要な議決権割合を確保できます。
経営に必要な議決権割合について説明してください。
一般的には議決権のある株式の2分の1超を所有していると、株主総会の普通決議を自身の判断で成立させることができます。
株主総会の普通決議には取締役、監査役の選任、役員報酬、剰余金の配当、準備金の減少などが含まれます。
また、議決権のある株式の3分の2以上を所有していると、株主総会の特別決議を成立させることができるため、実質的に会社を支配することができ、経営に必要な議決権割合を確保しているといえます。
所有しているX社株式のすべてを金庫株によりX社が買い取る場合、注意する点はありますか?
X社が買い取る場合は、原則として譲渡価額と譲渡した株式に対応する資本金等の額との差額が、みなし配当として超過累進税率による総合課税とされ、税率は最高税率だと55%となり税負担が大きくなります。
どのようにアドバイスしますか?
Aさんが所有している、X社株式のすべてを金庫株とせず、無議決権株式に変更するなど種類株を導入し、相続後に金庫株によりX社が買い取ることも検討するようにアドバイスします。
Aさんは長女Cさんと二女Dさんについて、これまでX社の経営に関与したことはなく、2人の子はX社の事業承継とは関係がないが、相応の資産は残してやりたいと思っています。
Aさんの相続発生により取得したX社株式を、相続税の申告期限の翌日以後3年以内に、X社に売却した場合には、特例として、譲渡側の相続人の課税関係は株式に係る譲渡所得として分離課税となり税率は、20%となります。
また、この場合には、相続税の取得費加算の特例も適用可能です。
甥Fさんが所有している甲土地の持分とそれに見合うX社株式を交換することで、X社株式の移転と共有状態の解消を併せて実現できませんか?
同種の資産を交換により取得して、交換前と同じ用途にする場合は、一定の要件を満たすことにより、その譲渡がなかったものとする交換の特例があります。
しかし、甲土地の持分とX社株式とでは、種類が異なるので交換の特例は適用できません。
甲土地の持分と、X社株式のそれぞれに譲渡所得税が課税されます。
甲土地の共有状態を解消する方法としては、分筆による共有解消を検討するようにアドバイスします。
分筆とは、どのような方法ですか?
今回のケースでは持分に応じた価格で甲土地を分け、それぞれを一つの土地として、Aさんと甥Fさんの単独名義にする方法です。
現在の共有状態のままだと将来どのようなトラブルが発生する可能性が考えられますか?
不動産を共有のままにしておくと、売却する際には共有者全員の同意が必要になり、もし1人でも同意していない場合には売却することができません。
共有者の中に認知症を患ったり行方不明になったりした人がいると売却することが大変困難になります。
また、共有者の誰かが他界してしまった場合、その人の持分は相続対象となります。そのため、ケースによって共有者の人数が増え、権利関係が複雑になってしまいます。
⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
X社の株式移転や土地の共有名義解消など、関係者も多く複雑な内容も多いと思いますので、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、経営に必要な議決権割合、金庫株、種類株式、共有名義の解消に関する設例でした。
経営に必要な議決権割合が高まるにつれて、行使できる権限が大きく異なってきます。
株主総会の特別決議を通すことができる、3分の2以上の持ち株比率を維持しておいた方が安定した経営ができるといえます。
持株比率 | 行使できる権利 |
---|---|
持株数が1株以上 | 配当受取権、株主総会の議決権等 |
持株比率が1%超 | 提案権(企業の方針や経営について提案する権利) |
持株比率が3%以上 | 監査請求権(企業の適正な経営を確認するために監査請求ができる権利) |
持株比率が3分の1以上 | 自己株式の取得請求権(自己株式を企業に買い取らせることができる権利) |
持株比率が2分の1超 | 単独で重要な決議を通すことが可能 |
持株比率が3分の2以上 | 議決権の3分の2を有し、普通決議だけでなく、特別決議も単独で可決が可能 |
持株比率が90.0%以上 | 株主の強制買い上げ(スクイーズアウト)を実行が可能 |
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。