公開日 2023年12月22日 最終更新日 2024年1月16日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
Aさん(72歳)は、自動車部品製造業を営むX株式会社の代表取締役社長である。X社は、Aさんが40年前に創業して以来、自動車産業の隆盛とともに成長してきた。X社の余剰資金は5億円以上あり、経営は安定している。しかし、自動車業界がCASEに代表される100年に一度の大変革に直面するなか、Aさんはこれまでどおりの事業を維持していくことができるのか強い危機感を抱いている。
【事業承継について】
Aさんは、自身の年齢のことも考え、そろそろ後進に道を譲るつもりでいる。後継者として5年前にX社に入社した長男Cさん(45歳)は、取締役工場長として懸命に打ち込む姿勢から社内の人望も厚く、次期経営者として申し分ない。ただ、Aさんは、中長期的には事業縮小や業態転換、M&Aなど、あらゆる選択肢を検討すべきと考えている。なお、顧問税理士によれば、Aさんの退任時、2億円程度の役員退職金が支給可能とのことである。
X社株式は、現在、Aさんが90%所有しており、これをどのように長男Cさんに移転させるかが大きな課題となっている。また、Aさんの弟Eさんが残りの10%を所有している。弟Eさんは、X社の取締役管理部長であるが、Aさんの退任とともに自身も身を引くつもりであり、その際には、所有しているX社株式を買い取ってほしいとのことである。
【資産承継について】
Aさんは、自宅兼賃貸ビルを、現在一緒に暮らしている妻Bさん(70歳)に相続させるつもりである。また、長女Dさん(42歳)からは、X社の経営には興味はないが、将来的には現在遊休地となっているX社所有の土地(時価1億5,000万円、含み損5,000万円)をもらいたいと言われており、Aさんはこれに応じるつもりである。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 1億4,000万円 (役員退職金は考慮していない) 2.X社株式 : 2億7,000万円 3.自宅兼賃貸ビル ①土地(360m²) : 9,000万円 ②建物(3階建て) : 6,000万円 (1・2階賃貸、3階住居、各階同一面積) 合計 : 5億6,000万円 ※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億6,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
【X社の概要】
資本金:3,000万円 会社規模:大会社 従業員数:90人
売上高:20億円 経常利益:8,000万円 純資産:6億円
株主構成(発行済株式総数6万株):Aさん90%、弟Eさん10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額10,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。【Aさんの推定相続人】
妻Bさん (70歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(45歳):X社の取締役工場長。妻と2人の子の4人で持家に住んでいる。
長女Dさん(42歳):専業主婦。これまでX社の経営に関与したことはない。会社員の夫と2人の子の4人で賃貸マンションに住んでいる。(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
- 設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
- それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
- それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
- FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として、X社株式の移転をどのように進めるか。
弟Eさんが所有するX社株式の買取方法をどうするか。
遊休地となっているX社所有の土地をどうするか。
問題点は、納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備。
相続税が高額になるので相続税の軽減。
円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
X社株式を長男Cさんに移転させるには、どのような方法が考えられますか?
事業承継税制特例の活用が考えられます。
事業承継税制特例の、仕組みについて教えてください。
事業承継税制特例とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が次の後継者に事業承継できた場合には、相続税や贈与税が免除になる制度です。
留意点は、届出書の提出など事務手続きが煩雑になること。
事業継続が困難な場合は、利子税と猶予された税金の支払いが必要になることです。
株式移転前に、配当の引き下げや役員退職金の支給を行い、自社株評価を引き下げる必要があります。
贈与税の納税猶予を受けるための、手続について教えてください。
納税猶予を受けるためには、2024年3月31日までに、特例承継計画を作成し都道府県庁へ提出します。特例措置の場合は、2027年12月31日までに贈与を行い、贈与年の10月15日から翌年1月15日までに申請し、認定書の写しとともに税務署への申告手続きが必要となります。
申告後、都道府県庁へ年次報告書、税務署へ継続届出書をそれぞれ、年1回、5年間提出します。
留意点を教えてください。
Aさんは、中長期的には事業縮小や業態転換、M&Aなど、あらゆる選択肢を検討すべきと考えています。
X社株式を売却するなど、後継者である長男Cさんが途中で事業をやめてしまった場合は、事業承継税制の納税猶予を受けられなくなり、贈与税と利子税を収める必要があります。
弟Eさんから、所有するX社株式を買い取ってほしいとの申出がありますが、どのように対応しますか?
X社が金庫株として買い取ることを提案します。
どうしてですか?
金庫株とすることで後継者である長男Cさんの株式割合が増え、スムーズに経営することが可能になります。
金庫株とはどういった制度ですか?
金庫株とは、会社自身が発行した株式を買い戻して保有している状態です。
金庫株の活用で留意する点は、剰余金の分配可能額を確認する必要があります。
剰余金の分配可能額とは累積されてきた税引後利益の合算ですが、この範囲でしか金庫株の買取はできません。
実際に金庫株を買い取る際には現金が必要になるので、会社のキャッシュフローに悪影響が出るかもしれません。適切なタイミングに注意が必要です。
遊休地となっているX社所有の土地は、どのような活用が考えられますか?
Aさんの役員退職金として、X社の土地を支給することを提案します。
役員退職金の支払によって損金が計上されると、利益が減少することによって株式評価額が下がります。
また、X社所有の土地を退職金として支給すると、税務上土地はその支給時の時価で評価されることになります。
現在遊休地となっているX社所有の土地は、含み損があるので、退職金の他に、その含み損も顕在化させ純資産と利益をともに圧縮することができ、株式評価額が下がります。
自宅兼賃貸ビルの宅地の評価について教えてください。
自宅兼賃貸ビルの宅地の評価は、家屋の居住用に対応する敷地部分を自用地評価、貸付部分に対応する敷地部分を貸家建付地評価します。
小規模宅地等の特例の適用部分はどのように計算しますか?
小規模宅地等の特例の適用部分は、土地全体を貸付部分と居住部分の床面積比で按分計算します。
⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは、長男Cさんに後を譲るつもりでいるが、中長期的には事業縮小や業態転換、M&Aなど、あらゆる選択肢を検討すべきと考え、事業承継に対する考え方がまとまっていません。
一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、事業承継、自社株の買取り、自社株対策に関する設例でした。
自動車業界が100年に一度の大変革期を迎えているという設例は2022年2月12日のPart1にも登場します。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。