2021年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part1 (2022年2月6日) 過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2022年4月9日 最終更新日 2024年1月19日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2021年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2022年2月6日)

●設 例●
 Aさん(70歳)は、昨年、40年前に創業したX株式会社(非上場会社・製造業)をM&A仲介業者を通じて第三者に売却し、退職金とX社株式の譲渡代金を合わせて約2億円を受け取った。Aさんは、経営者としての慌ただしい日々から解放され、妻Bさん(70歳)と穏やかな日々を過ごしている。

 

【不動産賃貸業の法人化】
 Aさんは、個人で不動産賃貸業を営んでいる。入居状況は良好で、年間約2,000万円の不動産所得を得ている。先日、金融機関の担当者から「法人を設立して所得の分散を図ってはいかがですか。その際には、ご融資を前向きに検討させていただきます」との話があり、法人の設立を検討している。
 また、Aさんは、長年、株式投資を行っており、毎年相応の利益を得ている。仮に法人を設立した場合、これまで個人で行ってきた株式投資を法人に切り替えると税務面で有利になるのかどうか知りたいと思っている。

 

【二世帯住宅の検討】
Aさんは、自宅で妻Bさん、長男Cさん(44歳)家族と同居している。Aさんが父親の相続により取得した自宅は、築60年を超えて老朽化が目立ち、また長男Cさんの子も大きくなってきたことから、二世帯住宅に建て替えようと考えており、長男Cさん家族も賛同している。Aさんは、二世帯住宅の建築資金の全額(5,000万円)を負担するつもりでいるが、将来の相続を踏まえ、建替え後の建物名義の一部を長男Cさん名義にするためにはどのようにすればよいのか知りたいと思っている。

 長女Dさん(42歳)は、会社員の夫と3人の子の5人で夫所有の持家で暮らしており、実家に戻る予定はなく、実家を二世帯住宅に建て替えることに異論はない。ただ、今年4月に子の大学進学と高校進学が重なり、教育費の負担が大きくなることに不安を感じており、Aさんに支援を求めている。

 Aさんは、長男Cさん、長女Dさんのそれぞれの名義の預金口座に家賃収入から毎月一定額を積み立てており、その残高は各2,000万円程度となっているが、通帳と印鑑はAさんが保管し、子どもたちに贈与を受けた認識はない。それらは、子どもたちにまとまった資金が必要となった場合にいつでも渡そうと思っている。
 また、Aさんは、子どもたちに生前贈与をすることで将来の相続税を軽減することができるとの話を聞き、子どもたちが望むなら積極的に支援してあげたいと思っている。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  1 現預金 3億2,000万円  
 

2 上場株式

5,500万円  
  3 自宅      
   ①土地(330㎡) 1億円  
   ②建物 500万円  
  4 賃貸マンション      
   ①土地(500㎡) 1億円  
   ②建物 5,000万円  
  合計 6億3,000万円  

※Aさんの相続に係る相続税額(6億3,000万円に基づいて計算)は、約1億9,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 不動産賃貸業の法人化を検討している
  • 法人を設立した場合、個人で行ってきた株式投資を法人に切り替えると税務面で有利になるのかどうか知りたい
  • 相続を踏まえ、二世帯住宅に建替え後の建物名義の一部を長男Cさん名義にするためにはどのようにすればよいのか知りたい
  • 長女Dさんが教育費の援助を求めている

問題点は、

  • 長男Cさん、長女Dさんのそれぞれの名義預金がある
  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた相談内容および問題点を解決するためには、どのような提案・方策が考えられますか?

不動産賃貸業の法人化についてどのようなアドバイスをしますか?

不動産賃貸業の法人化を検討している点ですが、法人化を前向きに検討するように提案します。

一般的には個人の合計所得が概ね1,000万円を超える場合は法人化した方が節税になるとされています。
Aさんの場合は、年間約2,000万円の不動産所得を得ているので、法人化を前向きに検討するようにアドバイスします。

不動産賃貸業を法人化する場合のメリット・デメリットを教えてください。

法人化によるメリットは、
個人と法人の税率の差で節税になること。
不動産に限らず法人の事業活動において支出されているものであれば、全て経費に認められること。
青色申告であれば、赤字を10年間繰り越せること。
相続時に分割がしやすくなること、
家族を役員などにして不動産所得を役員報酬という形で家族に分散することができるので相続税額の軽減効果があります。

デメリットは、
事業が赤字の場合でも税金がかかること。
法人設立時や、事務手続きが煩雑になるので専門家に依頼すると費用がかかることです。


法人を設立した場合、個人でおこなってきた株式投資を法人に切り替えると税務面で有利になりますか?

必ずしも有利になるとは言えません。

一般的には個人の事業収益が概ね1,000万円を超える場合、所得税は累進課税制度なので、法人化した方が節税になるとされています。
しかし、株式投資による所得がいくらあっても、譲渡所得や配当所得となり、所得が高くなれば税率が上がるということはなく、20.315%の税率は変わらないので、株式投資を法人に切り替えると税務面で有利になるとは言えません。


相続を踏まえ、二世帯住宅に建替え後の建物名義の一部を、長男Cさん名義にするためにはどのようなアドバイスをしますか?

建築資金を長男Cさんに贈与することをアドバイスします。

建物の名義は出資比率に応じて行うのが基本です、建築費用をAさんが負担したのに長男Cさんの名義にしてしまうとAさんが出資した分が贈与とみなされ贈与税が課せられる可能性があります。
住宅取得資金の非課税特例と相続時精算課税を活用し、建築資金を長男Cさんに贈与することをアドバイスします。

住宅取得資金の非課税特例の非課税限度額はいくらですか?

耐震・省エネなどの一定基準を満たす住宅の場合は1,000万円。
それ以外の住宅の場合は、500万円です。


長男Cさん、長女Dさんのそれぞれの名義の預金口座がありますが、何か問題点はありますか?

Aさんに相続が発生した場合は長男Cさん、長女Dさんのそれぞれの名義の預金口座も相続税の課税対象になります。

Aさんは、子どもたちが望むなら積極的に支援してあげたいと思っているということなので、子どもたちに生前贈与をすることをアドバイスします。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

名義預金の存在や、遺産分割などAさん自身が気づいていない問題点も多くあります。後々、家族間でも不満が出ないように、Aさんだけでなく、長男Cさんや長女Dさんともよく話し合い、必ず当事者同士の同意を得て実行することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回の設例では、M&Aと記載があったので、またM&Aか!? と思ったらM&Aした後の設例でした。

実技試験は、設例を読む時間が重要です。

今回の設例みたいに問題点に直接関係ないことが記載されていて、思い込みで設例を読んでしまうと論点がずれてしまいます。

答えは設例の中に書いてある場合もあるので、落ち着いて設例を読むことが重要ですね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

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