2021年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2022年2月19日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2022年5月23日 最終更新日 2024年1月11日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2021年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2022年2月13日)

●設 例●
 Aさん(64歳)は、大学卒業後、米国のニューヨーク州に親会社がある外資系企業の日本法人に就職した。その後、20年間の親会社勤務を経て、現在は日本法人の役員を務めており、来年、退任する予定である。Aさんは、役員報酬の一部として、米国親会社株式を対象とするストック・オプション(税制非適格)を付与されているが、その権利を行使したときと取得した株式を売却したときにどのような課税がなされるのか知りたいと思っている。

 Aさんには長男Cさん(34歳)と長女Dさん(26歳)の2人の子がいる。長男Cさんは東京都内の大手商社に勤務しており、会社借上げのマンションに妻と子の3人で暮らしている。以前から長男Cさんは、「将来のことを考えると、俺が父さんや母さんのそばで暮らしたほうがよいと思っている」と言っており、Aさんは、妻Bさん(60歳)と暮らしている自宅を二世帯住宅に建て替えて、長男Cさん家族と同居する方法を検討している。また、自宅 の敷地が大きいことから、その敷地内に長男Cさん家族のための新居を建ててあげてもよいとも考えている。Aさんは、建築資金を全額負担するつもりでいるが、二世帯住宅あるいは別棟の新居のどちらが望ましいのか、建物の名義は誰にするのがよいのかなど、判断がつかないでいる。

 また、長女Dさんは、3年前に米国に渡り、現地の大学院に通っていたが、先日、現地で就職が決まったとの連絡があった。しばらくは日本に戻る予定はないようである。長女Dさんは、現在、Aさんが親会社勤務時代に購入し、ニューヨーク州に所有している賃貸アパート(一棟)の一室に無償で居住している。

 Aさんは、来年の退任を機に、そろそろ将来の相続のことも考えて、遺言書の作成など、できることから準備を始めたいと思っているが、米国に所有している不動産が相続時にどのように取り扱われるのかなど、わからないことも多く、FPであるあなたにアドバイスを求めている。

 

【Aさんの家族構成】
妻Bさん (60歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(34歳):会社員。妻と子の3人で会社借上げのマンションに住んでいる。
長女Dさん(26歳):独身。米国にあるAさん所有の賃貸アパートに住んでいる。家賃は支払っていない。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  1 現預金 1億円  
 

2 有価証券

2,000万円  
  3 自宅      
   ①土地(400㎡) 8,000万円  
   ②建物(築15年) 2,000万円  
  4 米国賃貸アパート   6,000万円 (年間収入約1,000万円)
  合計 2億8,000万円  

※Aさんの相続に係る相続税額は、約5,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 米国親会社株式を対象とするストックオプションの権利を行使した時と、取得した株式を売却した時の課税関係を知りたいと思っていること。
  • 長男Cさんと同居するための住居は、二世帯住宅と別棟のどちらがいいのか、建物名義は誰にするのがいいのか悩んでいること。
  • 米国に所有している賃貸アパートが相続時には、どのような取り扱いになるのか知りたいと思っていること。

問題点は、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

ストックオプションについて教えてください。

ストックオプションとは、株式会社の従業員や取締役が、自社株をあらかじめ定められた価格で取得できる権利のことです。

Aさんが、権利を行使したときと、取得した株式を売却したときの課税関係を教えてください。

権利を行使したときは、ストックオプションの権利を行使したときの時価が、権利行使価格を上回っている場合、その差額は「給与所得」となり、所得税が課税されることになります。

取得した株式を売却した場合は、株式譲渡における売却価格と権利行使時の時価との差額の利益分については「譲渡所得」となり、所得税が課税されます。

Aさんは、税制非適格のストック・オプションを付与されていますが、税制適格のストックオプションの場合、課税関係はどうなりますか?

税制適格ストックオプションの場合は、ストックオプションの権利行使をした時点では課税はされません。

株式譲渡における売却価格と権利行使価格との差額が譲渡所得となり、そこに所得税が課税されることになります。


長男Cさんと同居するための住居は、二世帯住宅と別棟のどちらが望ましいですか?
また、その場合、建物の名義は誰にするのが望ましいと思いますか?

長男Cさん、ご家族の意向にもよりますが、
相続税のことを考えると、建物は全てAさん名義の、二世帯住宅の方が望ましいと考えます。

どうしてですか?

将来、Aさんに相続が発生した場合、二世帯住宅については区分登記以外なら小規模宅地の特例が適用可能です。
しかし、別棟の新居の場合は、同じ敷地内の建物であっても、長男Cさんが自宅敷地を相続する場合は、小規模宅地の特例の適用対象外となります。

名義は、住宅取得資金等贈与を活用し、長男Cさんの名義や、それぞれの持分に応じた、共有名義とすることも可能ですが、建築する二世帯住宅の要件や、贈与した場合の相続税額の軽減効果等を考慮し、専門家と連携してアドバイスします。


米国に所有している賃貸アパートは、相続時には、どのような取り扱いになりますか?

米国不動産を個人で所有している方が亡くなると、被相続人の財産は、裁判所の管轄下で、遺産相続や分割などを行う、プロベートという法律手続きが行われます。

プロベートは遺言の有無に関わらず必要で、期間中、相続人は相続不動産を自由に処理する事ができません。

プロベートを回避するためには、被相続人が存命中に、死亡時譲渡証書(Transfer On Death Deed)という証書を登記しておくと、プロベートを介せずに相続が可能になり、被相続人が亡くなってしまった時点で、相続財産の所有権が、事前に指定した相続人に移転します。

課税関係はどうなりますか?

米国内に所在する財産については、相続人や被相続人の国籍や住所に関係なく、遺産税の対象となります。

日本での課税はありますか?

被相続人が日本国籍である場合は、民法に従って遺産相続が行われ、相続人に相続税が課税されます。
ただし、国内外の全財産について相続税の申告の義務がある「無制限納税義務者」と、日本国内の財産についてのみ相続税の申告の義務がある「制限納税義務者」に分かれます。

日本の相続税と米国の遺産税が二重課税されませんか?

二重課税を防止するために、アメリカで払った相続税を日本の相続税から控除できる「外国税額控除」制度によって、日本の相続税額控除を受けることが可能です。


遺言書の種類や留意点について教えてください。

遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。

遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。

自筆証書遺言保管制度について教えてください。

自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。

しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

今回のケースでは、米国不動産や、長女Dさんが海外在住であることなど、海外に財産がある場合は、その手続きや相続税評価が複雑になります。

一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、ストックオプションや海外不動産の相続に関する設例でした。

私も、設例を見てビックリしました。

実際に、この回の試験を受験された方からコメントをいただいています。

設例を見た時、ストックオプションや、海外不動産の相続時の取り扱いなんて、完全に守備範囲外の項目が目に入りました。
しかし、通常の相続税対策や、二世帯住宅の建築などの定番項目もあったので、欲張らずに50点を目指して、メモを取るようにしました。

見た瞬間、頭が真っ白になるような設例を見ても、落ち着いた対応をされ、見事130点で合格されました。

満点を目指して試験に臨みますが、FP1級試験の場合、どうしても答えられない問題があります。

FP1級技能士としての、対応力を試されている試験なのかもしれませんね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

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