2022年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2022年10月2日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本をKindleで出版しました。

開催年度別に3回分を一冊にまとめたPDF版はこちら

公開日 2023年2月1日 最終更新日 2024年1月16日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。


2022年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2022年10月2日)

●設 例●
 Aさん(78歳)は、大都市圏近郊のS市内において、最寄駅から徒歩圏内にある甲土地と乙土地を所有している。Aさんは、2年前に妻を病気で亡くして以来、乙土地上の自宅に1人で暮らしており、年金収入(月額20万円)と青空駐車場(甲土地)からの賃貸収入(月額20万円)で生活を送っている。甲土地、乙土地および自宅は、20年前、相続によりAさんが取得したものである。

 Aさんには、長男Bさん(43歳)と二男Cさん(40歳)がいるが、いずれも隣県のT市内にある賃貸マンションにそれぞれの妻子と暮らしており、S市に戻る予定はない。2人の息子からT市内で近々分譲マンションを購入する予定との話を聞いたAさんは、それぞれにマンション購入資金として1,000万円を支援してあげたいと思っている。


 【Aさんの所有財産】

  • 甲土地 :地積360m²、月極駐車場(アスファルト舗装敷)として利用
  • 乙土地 :地積135m²、自宅の敷地として利用
  • 自宅建物:木造2階建て、延べ面積130m²、築45年
  • 現預金 :4,000万円


 Aさんは、最近、健康ではあるものの1人で暮らし続けることに不安を感じ始めていたところ、2人の息子からT市内にある有料老人ホームへの入居を勧められた。先日、実際に足を運んで見学してみると、雰囲気もよく、とても気に入り、年内に転居することを決めた。入居費用に関しては、2つのプラン(<資料1>参照)から選択できるとのことである。

 また、転居後の乙土地について、地元の信頼できる不動産会社に相談したところ、6,000万円(現状有姿、仲介手数料200万円)で売却できるとのことであった。甲土地についても、収益性の向上と相続対策の観点から今後の活用方法を相談したところ、数週間後、大手コンビニチェーンのX社から建設協力金方式による2つの提案(<資料2>参照)を受けた。

 

 Aさんは、甲土地の有効活用、乙土地の売却もしくは有効活用、有料老人ホームの入居費用、息子たちへの資金支援について、下記の2つの案を思い付いたが、どちらがより望ましいのか判断がつかないでいる。

 

I案: 乙土地の売却資金で入居費用①の入居一時金3,000万円と息子たちへの支援金 2,000万円を工面し、X社からの提案①を選択する。
II案: 息子たちへの支援金2,000万円は手元の現預金から工面し、入居費用②とX社からの提案②を選択する。

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
     ①Aさんから直接聞いて確認する情報
     ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
  2. I案の場合、乙土地の売却資金のみで入居一時金3,000万円と息子たちへの支援金2,000万円を捻出することはできますか。
  3. Aさんが2人の息子にそれぞれ住宅取得資金1,000万円を贈与した場合の課税関係を教えてください。
  4. あなたはAさんにI案とII案のどちらを勧めますか。その理由とともに教えてください。
  5. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

<資料1> Aさんが入居予定の有料老人ホームの費用
 下記のいずれかを選択することができる。

  • 入居費用①
    入居一時金3,000万円(15年間の前払賃料、一定期間内の退去は未償却分を返還)、月額費用28万円(管理費、食費、日用品等)

  • 入居費用②
    入居一時金なし、月額費用45万円(賃料、管理費、食費、日用品等)

 

<資料2> X社からの提案(建設協力金方式)
 いずれも25年間の普通借家契約、建設協力金は25年間均等返済(無利息)

  • 提案①
    甲土地のみ、店舗は鉄骨造平屋建て、延べ面積180m²、建設費3,600万円、敷金400万円、月額賃料62万円(建設協力金の月額返済12万円を含む)

  • 提案②
    甲土地と乙土地、店舗は鉄骨造平屋建て、延べ面積270m²、建設費5,400万円、敷金550万円、月額賃料93万円(建設協力金の月額返済18万円を含む)

 

 

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
 ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?

①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
土地の有効活用について、子どもたちは賛成か、経験はあるのか。
収益性の向上とあるが、目的や具体的な金額などはあるか。
相続税対策はしているか。
駐車場の経営状況や契約内容、賃料収入は安定しているか。
提携先のコンビニのブランドはどこか。

②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況、近くに競合するコンビニやスーパーがあるかなどを、実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。

⑷市場調査として
 X社の取引事例や財務状況を確認すること。
 周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、X社の提案は妥当かを確認します。


I案の場合、乙土地の売却資金のみで入居一時金3,000万円と息子たちへの支援金2,000万円を捻出することはできますか?

できます。

どうしてですか?

不動産を売却するには仲介手数料や税金など様々な費用がかかるので、乙土地の売却代金全額をAさんが受け取る事はできませんが、乙土地の売却資金のみで入居一時金3,000万円と息子たちへの支援金2,000万円を捻出することはできます。

乙土地を売却した場合の課税関係を教えてください。

乙土地を売却して得た譲渡所得に対して譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得の金額は、売却金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。

取得費や譲渡費用は、どのように計算しますか?

取得費ですが、乙土地は、Aさんが相続で引き継いだ土地なので、被相続人が取得した時の購入金額をAさんが引き継いで計算します。

したがって、被相続人が購入した際の金額を調べる必要がありますが、
もし、購入金額についての記録などがない場合や、実際の取得費が分からない場合には、売却時の収入金額の5%を取得費として計算する、概算取得費の計算を行うこととなり、乙土地の場合は、6,000万円×5%で300万円になります。

譲渡費用は、今回のケースでは、現状有姿での売却なので解体費用は発生せず、仲介手数料の200万円とします。

適用できる特例はありますか?

居住用財産の3,000万円特別控除が適用できます。
居住用財産の3,000万円特別控除を適用すると、譲渡所得は、売却代金の6,000万円から、概算取得費の300万円と、仲介手数料の200万円、特別控除の3,000万円が控除できるので、2,500万円が譲渡所得になります。

税率はいくらになりますか?

乙土地の場合、10年超所有軽減税率の要件を満たしているので、譲渡所得税率は14.21%になります。
なので、2,500万円×14.21%=3,552,500円が譲渡所得税となり、
乙土地の売却でAさんが得られる手取り額は、6,000万円−200万円−3,552,500円で、54,447,500円になるので、乙土地の売却資金のみで入居一時金3,000万円と、息子たちへの支援金2,000万円を捻出することは可能です。


Aさんが2人の息子に、それぞれ住宅取得資金1,000万円を贈与した場合の、課税関係を教えてください。

Aさんから住宅取得資金として贈与を受けた場合、取得する住宅が省エネ等住宅の場合で1,000万円、それ以外の住宅の場合は、500万円まで非課税になります。

2人の息子は、分譲マンションを購入予定ですが、注意する点はありますか?

マンションや建売住宅の場合は、住宅取得資金等の贈与を受けた年の、翌年3月15日までに、その引き渡しを受けていなければ、非課税制度の適用を受けることができません。

他にもありますか?

住宅ローン控除の適用を受ける場合は、住宅ローンの年末残高の合計額が、住宅の取得額から非課税制度等の適用金額を差し引いた金額を超えるときには、その超える部分については住宅ローン控除の適用はありません。


あなたはAさんにI案とII案のどちらを勧めますか?

I案を勧めます。

どうしてですか?

I案の方が賃料収入は少なくなるので、希望する収益額を満たしているかはわかりませんが、Aさんは、78歳と高齢でもあるので、撤退した場合等のリスクを抑えられ、納税資金の準備として現預金を多く残せるI案の方を提案します。

X社の提案内容のメリットやデメリットを教えてください。

X社からの提案は、建設協力金方式での土地の有効活用です。

建設協力金方式の場合、甲土地は「貸家建付地」として相続税評価額が下がるため、相続対策にもなります。
しかし、建設した建物もオーナー名義であることから、土地と建物両方の固定資産税が発生します。

さらに、経営不振などの理由により、X社が撤退すると、コンビニの店舗と債務が残ってしまうので、返済期間中に撤退したときは、建設協力金を放棄するという内容での契約になると思います。

しかし、実際にX社が撤退して、Aさんが建設協力金返済の免除を受けると、将来にわたる債務が免除されたことに伴う利益とみなされ、債務免除益として課税されてしまいます。
しかも、債務免除益は、X社が撤退した時点で発生するので、建設協力金の金額や返済期間によって税負担が大きくなります。

I案の場合、Aさんが希望している、有料老人ホームの入居費用と、2人の息子達への住宅資金の支援は、乙土地の売却資金のみで可能ですし、老人ホームの月額費用も低く抑えることができます。

Aさんは、78歳と高齢でもあるので、I案の方が、賃料収入は少なくなりますが、X社が撤退した場合等のリスクを抑えられることや、所有財産に占める不動産の割合が多いので、納税資金準備のためにも現預金を多く残せるI案の方を提案します。

ただ、収益性の向上や相続税対策がどれくらい必要なのか、現状の駐車場経営ではダメなのか、X社以外の選択肢はないのかなどを、専門家を交えて検討することも提案します。


FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?

不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回の設例は、 不動産の有効活用(建設協力金方式)、住宅取得資金等贈与に関する設例でした。

「Ⅰ案とⅡ案のどちらを提案しますか?」「X社とY社のどちらの提案を勧めますか」という質問の場合、明らかに一方が有利な場合は回答しやすいのですが、どちらとも言えないような設例の場合は、回答に困ります。

今回、私はⅠ案を提案することにしました。

理由は、
Aさんは78歳と高齢な点と、これから老人ホームに入居しようとしている状況で、入居費用や生活費は心配ないのに収益性を求めて土地活用をする必要があるのか、と思ったからです。

もしかすると、Aさんの所有財産に占める不動産の割合が多いので、かなりの相続税対策が必要だったり、息子たちの収入が安定しないので、2人に収益物件を残す必要があるのかもしれないので、Ⅱ案を提案した方がいいのかもしれませんが、設例の情報だけでは詳細は分かりません。

「情報が少ないので、どちらとも言えません」とは答えられないので、提案した理由や、勧める根拠を自信を持って説明できるようにするといいと思います。

実際に受験された方は、いかがだったでしょうか?

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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