公開日 2021年11月3日 最終更新日 2024年1月16日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(66歳)は、S市内の自宅で妻Bさん(65歳)と2人で暮らしている。昨年末、長年勤めた会社を退職した。Aさん夫妻には、S市内の高校で教師をしている長男Cさん(36歳)と、他県で家族と暮らしている長女Dさん(34歳)の2人の子がいる。Aさんは、自宅のほかに、5年前に親から相続した賃貸アパート(甲土地・甲建物)を所有しており、年金収入のほかに家賃収入を得ているが、賃貸アパートは築後42年が経過し、住宅設備等の老朽化が激しいため、建て替えることを考えている。現在、全8室のうち5室を賃貸しているが、2年前から建替えの告知をしていたこともあり、来年3月末までに退去することですべての賃借人から書面で合意を得ている。
甲土地(地積300m²)は、S市中心駅から徒歩約12分の住宅地にある。静かで住環境は申し分ない。しかし、駅から若干距離があるため、周辺アパートでは空室が目立ち始め、他の賃貸アパートの管理も難しくなってきたとテナント管理の不動産会社から聞いている。
Aさんは、先日、甲建物の建替案として、アパートの建築を得意とするX社と、戸建て住宅の建築を専業とするY社から、それぞれ下記の提案を受けた。
【X社の提案内容】
- 軽量鉄骨造2階建て、延べ面積320m²、専有面積40m²(1LDK、2DK)8室
- 建築費総額(諸経費、消費税込)は8,000万円
- 予定月額賃料は1室平均9万円
- 満室時の経費率は賃貸収入の約14%(このうち、固定資産税・都市計画税と損害保険料の経費率が合計約10%)
- サブリースを希望する場合は、当初10年間、満室想定賃料の80%相当額を保証する。それ以後の賃料は、市場賃料を踏まえて協議のうえ決定する。
【Y社の提案内容】
- 木造2階建ての戸建て3棟、1棟の延べ面積95m²(4LDK)、3棟合計285m²
- 建築費総額(諸経費、消費税込)は1棟1,700万円、3棟合計5,100万円
- 予定月額賃料は1棟17万円、3棟合計51万円
- 満室時の経費率は賃貸収入の約10%(固定資産税・都市計画税と損害保険料の経費合計、その他管理費は計上していない)
- サブリースの取扱いはない。
Aさんは預貯金を6,000万円程度保有しているが、今後の暮らしを考えると預貯金の多くを建築費に充当せず、できるだけ金融機関からの借入金で賄いたいと思っている。また、今後、賃貸住宅市場は年々貸主側に厳しくなっていくと感じており、将来の相続時、子どもたちを困らせたくないと考えている。
賃貸管理会社の話では、甲土地近くにある専有面積75m²のマンションが月額賃料16万円で直近成約しており、延べ面積95m²、4LDKの戸建て住宅であれば予定月額賃料17万円での賃貸は十分可能とのことである。
Aさんは、甲土地の有効利用(建設投資)として、X社の提案とY社の提案のどちらがより望ましいか、FPであるあなたに相談してきた。
(FPへの質問事項)
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
①Aさんから直接聞いて確認する情報Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報Aさんが甲土地の有効利用(建設投資)を決定するために、どのような判断基準をアドバイスしますか。
あなたはX社の提案とY社の提案のどちらを勧めますか。その理由とともに教えてください。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
①Aさんから直接聞いて確認する確認する情報は、
⑴本人しか知らないこと。トラブルの理由、関係者の意向として
建物の取得費や取得日がわかるか
金融機関の融資の条件
希望する利回り
子供たちや他の家族の意向を確認します。
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
甲土地周辺の取引事例を地元の不動産業者等で確認すること。
X社とY社が提案している事業計画や、建設費等は妥当かを確認します。
不動産の価格や収益の判断手法には、「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」の三種類があります。
物件が将来どのくらいの利益を上げるのか、それを知るためには購入価格と将来収益の関係を精査する必要があります。判断基準として重要なポイントを知るためには、さまざまな判断手法を使って不動産の価格と収益の関係性を調べ数値を算出し判断するようにアドバイスします。
原価法は、対象不動産の再調達原価を求め、再調達原価について減価修正を行い積算価格を求めます。
コスト計算による評価でわかりやすいメリットがあります。
対象の不動産と条件が似た物件の取引事例を多く集め、取引価格に事情補正・時点修正を行い、地域要因の比較・個別的要因の比較を行なって求めた価格を比較考量し比準価格を求めます。
収益還元法は、対象不動産の将来収益を軸に算出するもので「直接還元法」「DCF法」の二つがあります。
直接還元法は、一定期間の収益を還元利回りで割って求めます。
期待する利回りが高くなるほど、価格は低く評価されます。
DCF法は、不動産の保有期間中に得られる収益と売却益を、現在価値に割り戻して算出する方法で、不動産に限らず、広く用いられている投資評価です。
X社の提案を勧めます。
相続対策を希望しているAさんにとって、X社の提案は、サブリースでの契約も可能です。
サブリースで契約すると、土地は貸家建付地として、建物は貸家として評価され土地の評価額が減額されます。
さらに、土地を評価する際、貸付事業用宅地等に該当する場合は、小規模宅地の特例が利用できるので200㎡まで50%評価となり節税に結びつきます。
サブリース契約では、わかりにくい説明や、広告によってオーナー側が誤認してしまうなど注意点も多くありましたが、サブリース新法により、誇大広告の禁止、不当勧誘の禁止、契約締結前の重要事項説明義務の規制強化が行われオーナー側が正しい判断ができるような環境が整えられました。
しかし、法改正が行われても、オーナー側が重要事項に記載されているリスクを十分に理解し、家賃減額や大規模修繕費の負担などシミュレーションを綿密に行なってから判断することが需要です。
収益性を基準とした投資判断をするには、設例の資料だけでは判断が難しいので、金利だけではなく返済期間も含んだ融資条件の確認や、将来的に不動産売却するのか持ち続けるのか、どのタイミングで引き上げるのかなど出口戦略も含め、慎重に検討する必要があります。
不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談や、相続税に関することは税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士に、
地積の更正や変更の登記は土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
不動産の価格や採算性、土地の有効活用の問題だと思うのですが、設例の資料だけではどちらとも判断しにくいと思いました。
そこで、サブリース新法が2020年12月15日に施行されたので、サブリース新法に触れた方がいいのかと考えてみました。
実際の試験はどうだったんでしょうか?
受験した方のコメントをお待ちしています。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。