2021年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2021年9月26日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本をKindleで出版しました。

開催年度別に3回分を一冊にまとめたPDF版はこちら

公開日 2021年10月26日 最終更新日 2024年1月9日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

YouTubeでもご覧いただけます

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2021年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2021年9月26日)

●設 例●
 Aさん(72歳)は、老舗の呉服屋を営むX株式会社の代表取締役社長である。創業100年を超えたブランド力を背景に根強い固定客がいるものの、ライフスタイルの変化に伴う需要減退の影響は大きく、近年、経営は厳しい状況が続いている。一方、X社の専務取締役を務めている長男Bさん(42歳)が、従来の高級志向の商品に加え、若年層にも気軽に着物を楽しんでもらえるよう低価格商品の開発に数年前から取り組んでおり、その成果が徐々に出始めている。


 【X社の概要】

  • X社は、帳簿価額1,000万円の本社兼Aさんの自宅の土地(400m²、時価2億円)と帳簿価額200万円の本社兼Aさんの自宅の建物(時価200万円)を所有しており、総資産に占める土地の価額の割合(相続税評価額ベース)は90%以上である。
  • X社の財務内容等
    資本金:1,000万円 会社規模:中会社の小 従業員数:5人 配当:実施なし
    株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん100%
    株式の相続税評価額:類似業種比準価額1,000円/株、純資産価額4,000円/株
    ※X社株式は譲渡制限株式である。
  • 当期に繰り越された税務上の繰越欠損金が9,000万円ある。また、Aさん個人から1億円を借り入れている。
  • 仮にAさんが退任した場合、Aさんに対する退職金の税務上の適正額は1億円と試算されるが、X社が保有する現金にはあまり余裕がない。


 長男Bさんは、取引先や常連客からの評判もよく、後継者としての資質に問題はない。事業を引き継ぐ意欲も見せている。Aさんは、現在のX社の財務内容は決してよいとは思っていないが、土地には2億円弱の含み益もあり銀行借入金もないため、何とか財務内容を改善して長男BさんのためにX社を残してやりたいと考えている。

 

【Aさん自身の資産承継】
 Aさんの妻は3年前に他界しており、Aさんの推定相続人は長男Bさんと長女Cさん(40歳)の2人である。長男Bさんは、Aさんの自宅で同居している。

 他県に暮らす長女Cさんは、3人の子を持ち、教育費の負担が大きいとこぼしている。また、以前、「X社は兄さんが継ぐのがいいと思う。私はX社の経営にまったく興味がない。ただ、将来の相続財産の分割は兄さんと均等でなければ納得できない」と冗談交じりに言っていた。Aさんは、2人の子は昔からとても仲が良く、遺産分割でもめる姿は想像できないが、何らかの準備はしておきたいと考えている。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額)

現預金 6,000万円 (役員退職金は考慮していない)
X社株式 8,000万円  
X社への貸付金 1億円  
合計 2億4,000万円  

Aさんの相続に係る相続税額は、約4,500万円と見積もられている。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • X社の事業承継はどのようにすべきか
  • X社の事業承継にのために自社株評価の引き下げが必要

問題点は、Aさんの相続発生時に、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた相談内容および問題点を解決するためには、どのような提案・方策が考えられますか?

X社の事業承継ですが、X社の総資産に占める土地の価額の割合が90%以上を占めているので、土地保有特定会社に該当します。
土地保有特定会社の場合、自社株式の評価を純資産価額により評価することになるため、株価が高くなる傾向にあります。
自社株評価の引き下げ方法として、特定会社に該当する状態を外し、類似業種比準価額を併用することによる自社株評価の対策を検討します。

 

対策としては、借入等による土地以外の資産購入や、建物の建て替えなどにより資産構成を変更し土地保有割合を低くすることが考えられます。

しかし、安易な手法は租税回避行為とみなされる恐れがあるため、経済的な合理性を確保するなど、専門家と連携しアドバイスします。

 

X社は、Aさん個人から1億円を借り入れていますが、何か問題点はありますか?

Aさんが亡くなった場合には、会社に貸し付けている1億円も相続財産に含まれ、相続税の課税対象になります。
役員借入金の削減対策として、債務免除、DESの実行、役員給与の減額があります。

債務免除とは、Aさんが債権放棄することで、X社は特別利益として債務免除益が計上されますが、繰越欠損金がある場合は相殺されます。

DESとは、債務と資本を交換することで、Aさんは貸付金をもって、X社に出資し1億円分の株式を得ます。
DESを行うことによるメリットは、X社の財務状態の改善、Aさんからの債務について元本返済・利息の支払い義務がなくなります。
デメリットは、資本金の増加による税負担の増加が考えられます。

役員給与を減額とは、Aさんの役員給与を減額して、減額相当分をAさんからの借入金の返済としてAさんに支給していく方法です。
役員給与を減額した分、所得税・住民税や社会保険料が減少するメリットがありますが、役員借入金の返済は経費とならないため減額した分だけX社には利益が計上されること、時間がかかることなどです。


Aさんが退任した場合、Aさんに対する退職金の税務上の適正額は1億円と試算されていますが、X社が保有する現金にはあまり余裕がないということです。何か解決策はありますか?

X社は現金にあまり余裕がないということなので、退職金を本社兼Aさんの自宅の土地で支給することを検討します。

退職金額と土地の簿価との差額は譲渡益になる場合には益金、譲渡損となる場合には損金となります。
今回のケースでは、帳簿価額1,000万円、時価2億円なので帳簿価額と時価との差額1億9,000万円の譲渡益がX社側で計上されます。
しかし、退職金として1億円、当期に繰り越された税務上の繰越欠損金が9,000万円あるので1億9,000万円が損金に計上され、結果として譲渡益は発生しません。

注意点は、退職金として不動産を取得した場合には、Aさんに不動産取得税と登録免許税がかかること、所得税および住民税相当額を徴収することになること。
退職金を現金で支払うことを決めた後に、不動産で支払うこととした場合は、代物弁済とみなされ、消費税の課税対象となってしまうことです。

長男Bさんは、Aさんの自宅で同居しているということなので、Aさんが自宅の土地を所有することで、相続時には小規模宅地の特例の活用も考えることができます。


円滑な遺産分割を行うためにはどのような提案・方策が考えられますか?

遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。
代償分割は、所有財産に占める不動産の比率が高い場合などは不動産を相続した人の取得割合が多くなることが考えられます。
今回のケースでは、長男BさんがX社を承継し相続財産の多くをBさんが相続すると、長女Cさんの不満が出る可能性があるので、生命保険の活用や生前贈与により代償分割の準備をすることが必要です。

自筆証書遺言保管制度ついて教えてください。

自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんの悩みは、長男BさんのためにX社を残してやりたいことです。
事業承継は、さまざまな課題を検討しながら進めていく必要がありますが、Bさんも事業に対して意欲的で後継者としての資質にも問題はないため、Bさんの意見も取り入れながら進めていくことが重要です。
長女Cさんも含め、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回の設例では、相続関係図が示されておらず、どちらかというと事業承継の質問が多いのではと思いました。

検討のポイントは、今までの試験と同じ内容が示されているので、テーマについての説明も概要だけでなく、問題点や留意点も説明できると良さそうな気がします。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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