公開日 2022年2月27日 最終更新日 2024年1月16日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(48歳)の母親Bさん(80歳)は、大都市圏近郊のM市内にある自宅に1人で暮らしている。5年前にAさんの父親が死亡し、母親Bさんは自宅(甲土地・甲建物)と隣接する駐車場(乙土地)を相続により取得した。母親Bさんの収入は、公的年金(月額15万円)と駐車場収入(月額15万円)である。
【甲土地・甲建物・乙土地の概要】
- 甲土地:地積270m²、最寄りのM駅まで徒歩5分
- 甲建物:木造2階建て、延べ面積120m²、1980年築
- 乙土地:地積270m²、月極駐車場(12台)として利用、アスファルト舗装敷で車止めがあり周囲はネットフェンスで囲まれている。
母親Bさんは、甲建物の老朽化が激しく、また広い家に1人で暮らし続けるのが心細くなってきたこともあり、子どもと相談のうえ、M市内で間もなく完成予定のサービス付き高齢者向け住宅(月額費用20万円)に移り住むことを決めた。母親Bさんは、自分が転居した後の自宅や駐車場の扱いはAさんに任せ、処分してもらってもかまわないと思っている。
また、母親Bさんは、先日、Aさんの妹Cさん(45歳)から、2人の子の教育費や住宅ローンの負担が大きく、日々の生活が苦しいとの話を聞き、少しでも娘の生活を助けてやりたいと考えている。ただ、母親Bさんには預金が3,000万円程度あるが、これからの老後資金を考えると、預金は大きく取り崩したくないとも思っている。母親Bさんの考えを聞いたAさんは、母親Bさんのサービス付き高齢者向け住宅の月額費用や妹Cさんの生活支援金を捻出するため、自宅もしくは収益率が高くない駐車場のどちらかの土地に賃貸物件を建築してはどうかと考え、駐車場を管理する不動産会社X社から紹介を受けた地元工務店Y社に相談した。
【Y社の提案内容】
- 軽量鉄骨造2階建てのアパート、延べ面積250m²、建築費6,000万円(諸経費、消費税込)
- 1Kタイプを計10戸、1戸当たり月額7万円で賃貸可能
AさんがX社に自宅か駐車場のどちらかを売却した場合の価格を尋ねたところ、更地前提でともに概算7,000万円とのことであった。AさんはX社に相談した結果、「自宅か駐車場のどちらかを売却すれば、その売却代金でもう一方の土地に賃貸アパートを建築することがで きる。また、完成後の賃貸アパートの建物所有権2分の1を妹Cさんに持たせれば妹も助かるだろう」と考えるようになった。
(FPへの質問事項)
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
①Aさんから直接聞いて確認する情報Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報賃貸アパートの建築費に充てるために、自宅を売却した場合と駐車場を売却した場合の課税上の違いを整理して教えてください。
完成した賃貸アパートの建物所有権2分の1を妹Cさんに持たせるために、どのような手法の活用が考えられますか。また、そのほかに、妹Cさんへの資金援助の方法として、どのような手法が考えられますか。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
①Aさんから直接聞いて確認する確認する情報は、
⑴本人しか知らないこと。トラブルの理由、関係者の意向として
妹Cさんの生活支援金はいくらぐらいを想定しているか
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるか
自宅や駐車場の扱いはAさんに任せることを妹Cさんも了承しているのか
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
甲・乙土地周辺の取引事例を地元の不動産業者等で確認すること。
サービス付き高齢者向け住宅の費用や、Y社の提案内容等は妥当かを確認します。
自宅を売却した場合は、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」と「10年超所有軽減税率の特例」が適用できます。
駐車場を売却した場合は、「特定事業用資産の買換え特例」が適用できます。
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」について教えてください。
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」とは、適用要件を満たすことで3,000万円までの譲渡所得税が控除される制度です。
適用要件は、現在、主に住んでいる自宅であること。
転居済みの場合は、転居後3年目の年末までの売却であること、土地の売却契約締結が解体から1年以内であり、その土地を賃貸していないこと。
単身赴任の場合、配偶者が住んでいる建物であることです。
他にも、
物件の買主が親族や夫婦、同族会社など、特殊な関係でないこと。
売却した年の前年、前々年に、3000万円の特別控除又はマイホームの譲渡損失が出た場合の損益通算及び損失の繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
売った年、その前年及び前々年に、マイホームの買換えや交換の特例を受けていないこと。
売却した不動産に関して、収用等の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。
災害によって売却する場合、住まなくなった日から3年後の年の12月31日までに売ること。
などの、要件を満たす必要があります。
「10年超所有軽減税率の特例」について教えてください。
「10年超所有軽減税率の特例」とは、10年を超えて所有している居住用財産を売却して利益が出た時に、譲渡所得税の税率が低くなる特例のことです。
所有期間が5年超の居住用財産の税率は所得税・住民税・復興特別所得税合わせて20.315%ですが、10年超所有軽減税率の特例が適用されると、課税譲渡所得が6,000万円以下の部分については税率が14.21%にまで軽減されます。
「特定事業用資産の買換え特例」について教えてください。
「特定事業用資産の買換え特例」とは、10年超所有等の要件を満たした事業用資産(貸家や駐車場などの小規模な業務でも可能)を売却して、一定の事業用資産に買い換えた場合、譲渡利益の80%は課税の繰り延べを認めるというものです。
「相続時精算課税制度」を活用し、賃貸アパートの建物所有権2分の1を妹Cさんに持たせます。
「相続時精算課税制度」を説明してください。
「相続時精算課税制度」とは、贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫に対して財産を贈与した場合に選択できる贈与税の特例制度です。
現金だけではなく、不動産や株式なども対象となります。贈与時には贈与税の軽減が受けられ、2,500万円の限度額を超えた金額に対しては一律20%の税率で課税される仕組みになっています。
相続が発生した際は、贈与財産とその他の相続財産を合計した金額で相続税額を計算し、すでに納めた贈与税額を控除して算出します。
注意点は、「相続時精算課税制度」を選択する場合、贈与を行った翌年の2月1日から3月15日の間に、贈与税の申告書や戸籍謄本などとともに「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。
一度この制度を選択して贈与税の申告を行うと、その年以降、その贈与者から贈与を受ける財産についてはすべてこの制度が適用され、通常の贈与税の課税制度である「暦年課税制度」へ変更することができません。
そのほかに、妹Cさんへの資金援助の方法として、どのような手法が考えられますか。
妹Cさんからは、2人の子の教育費や住宅ローンの負担が大きいということなので、「教育資金の一括贈与」を提案します。
ただし、母親Bさんは、「預金は大きく取り崩したくないとも思っている」ということなので、数年分を一括で資金援助する場合でなければ、「通常必要と認められるもの」については、そもそも贈与税の課税対象にならないので、妹Cさんが希望する援助の額にもよりますが、必要な都度「通常必要と認められるもの」の範囲内で妹Cさんへ資金援助を行うことも併せて提案します。
不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談や、贈与税に関することは税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士に、
地積の更正や変更の登記は土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
Part2の問題ですが、相続や贈与と関連した説例も多く出題されます。
特に、税制改正などは旬な話題として質問される場合も多いのではないかと思います。
旬な話題以外でも、定番の「相続税の取得費加算」「3,000万円特別控除」「10年超所有軽減税率の特例」「買い換え特例」などは、学科試験でも出題されるので内容は理解し計算もできるのですが、
実技試験では、質問されたら待ったなしで答える必要があるので、わかっているはずの制度もうまく答えられない場合があります。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。