2021年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2021年10月2日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2021年11月27日 最終更新日 2024年1月16日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2021年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2021年10月2日)

●設 例●
 Aさん(59歳、会社員)は、大都市圏M市内の戸建て住宅において、妻Bさん(54歳、専業主婦)と長女Cさん(21歳、大学生)の3人で暮らしている。
 昨年10月、Aさんの故郷である地方都市S市の実家(土地・建物)で1人暮らしをしていた母親が亡くなった。父親は5年前に他界している。相続人はAさんのみであり、母親が所有し居住していた実家と預貯金2,000万円を相続により取得した。
 Aさんは、現在空き家となっている実家を今後どうすべきか悩んでいる。両親が長く暮らし、娘を連れてよく遊びに行った思い出のある実家であり、すぐに売却して、処分してしまうのには多少のためらいがある。とはいえ、空き家のままにしておくのは管理の負担からできれば避けたいと思っている。
 不動産会社に勤務する知人に相談したところ、「S市は、自然に囲まれ、子育て世代に人気が高い。最近では、都市部と地方部に2つの生活拠点を持つ二地域居住を希望する人や、在宅勤務制度を取り入れた企業が増えて都市部から地方部への移住を希望する人も増えていることから、実家を売却するのであれば購入者も見つかるだろう。また、賃貸することも可能ではないか」とアドバイスされた。
 Aさんは、不動産投資の経験はないが、間もなく迎える退職後の生活を考え、安定的な収入を得られる賃貸マンションの購入にも関心があることを知人に伝えると、「実家を売却するなら、その売却資金で投資用マンションを購入するのもいいかもしれない。投資用マンションの購入は相続対策にもなる」とアドバイスされ、下記のマンションを紹介された。
 Aさんは、それぞれのメリット・デメリットを十分に確認したうえで、実家をどうするか、売却する場合は売却代金の運用方法について決めたいと考え、FPに相談することにした。

 

【Aさんが相続した実家(土地・建物)の概要】

  • 土地:第一種住居地域、地積300m²、固定資産税評価額2,000万円
  • 建物:木造2階建て、延べ面積130m²、4LDK、築42年、固定資産税評価額300万円
  • 20年前に建物の外壁と屋根を補修、15年前に水回りの取替工事とバリアフリー化の工事を行っている。
  • 知人によれば、月額10万円程度の家賃で賃貸することができる見込みとのこと。ただし、片付けや清掃、部分的な補修繕が必要となる。また、売却する場合、建物価格はゼロ、土地は3,000万円程度で売却することができる見込みとのこと。

 

【知人から紹介された投資用マンションの概要】

  • 鉄筋コンクリート造10階建て、総戸数50戸、築10年、最寄駅から徒歩5分
  • 物件は5階に所在、専有面積50m²、2LDK、価格3,700万円(土地1,600万円、建物2,100万円)
  • 想定賃料月額12万円、諸経費(固定資産税・都市計画税、損害保険料、マンション管理組合に支払う管理費・修繕積立金(月額15,000円)を含む)控除後の年間の収入(手取り)は約110万円

 

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。

     ①Aさんから直接聞いて確認する情報
     ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報

  2. 知人からAさんに示された実家を賃貸する案と、売却して投資用マンションに買い換える案について、Aさんにどのようなアドバイスをしますか。

  3. 実家を売却して投資用マンションに買い換える場合の課税関係を説明してください。

  4. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

    (注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

 

よろしくお願いします。

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
     ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
 

①Aさんから直接聞いて確認する確認する情報は、
⑴本人しか知らないこと。トラブルの理由、関係者の意向として
 建物の取得費や取得日がわかるか
 実家の清掃やリフォーム費用の見積額はいくらか
 希望する利回りはどの程度か
 不動産投資に関して、妻の意向を確認します。

 
  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
     ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
 

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。

⑷市場調査として
 実家周辺の取引事例を地元の不動産業者等で確認すること。
 リフォーム費用や、家賃相場等は妥当かを確認します。


 
  1. 知人からAさんに示された実家を賃貸する案と、売却して投資用マンションに買い換える案について、Aさんにどのようなアドバイスをしますか。

実家を賃貸する案ですが、メリットは思い入れのある実家を残すことができること。相続税の節税効果があること。安定した家賃収入が期待できることです。
しかし、実家の建物は、築42年経過しているので、現行の耐震基準を満たしていない可能性が高く、耐震リフォームをしてもどれくらいの期間、賃貸できるかわからないので、かけた費用を回収できるかどうかを、リフォーム費用の見積もりや、実家周辺の家賃相場や空室状況などを調査し収支をシミュレーションしておくことが重要です。

実家を賃貸する場合は、定期借家契約で契約することをアドバイスします。
普通借家契約で貸し出した場合は、正当な理由がない限り契約を打ち切ることができませんが、定期借家契約ならいつまで借家にするか期間を定めることができます。
数年後に実家を売却する場合などに対応できます。

投資用マンションに買い換える案ですが、区分マンションの多くが管理会社にマンションの管理を委託しているので、不動産投資経験のないAさんにとって、自分でマンションの管理をする必要がないメリットがあります。
区分マンションの場合は、他の種類の不動産と比較すると売却がしやすいのもメリットです。

デメリットは、空室リスクがあること。
台風や地震など自然災害リスクや、不動産価格が下落する可能性があること。
大規模修繕工事やリフォーム費用がかかる場合があるので、レントロールで確認すること。
希望している利回りに届くかどうかシミュレーションしておくことが重要です。

不動産投資はリスクもあるので、メリットとデメリットをよく理解し、何のための不動産投資なのか、なぜ不動産投資なのかをヒアリングし、他の資産運用方法も検討してみてはどうかとアドバイスします。

 
  1. 実家を売却して投資用マンションに買い換える場合の課税関係を説明してください。

実家を売却した場合は譲渡所得税と住民税が譲渡所得に応じてかかります。
譲渡所得は、収入金額から、取得費、譲渡費用、特別控除を控除して求めます。
取得費は、親から相続した土地の場合、親が購入した際の購入代金や手数料に、Aさんが相続した際に支払った登記費用や登録免許税等を加算した額になります。
相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却した場合は、相続税の取得費加算の特例が適用できます。

今回のケースでは、相続した空き家を譲渡した場合の3,000万円特別控除も適用できます。
ただし、相続税の取得費加算の特例とは重複適用できないので、注意が必要です。


 
  1. FP業務では色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
    今回のケースで関与する専門職業家はどのような方々がいますか。
 

不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談や、相続税に関することは税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士に、
地積の更正や変更の登記は土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


Part2の問題ですが、相続と関連した説例も多く出題されます。

特に、相続した実家をどうするか問題は、頻繁にメディアでも取り上げられていますので、今後も出題される可能性が高いのではないかと思います。

面接では聞かれないと思いますが、Aさんは、不動産投資の経験がないのにやってみたいと話しています。普通は、奥さんが反対するんじゃないかなぁと思います。

FP試験の知識として質問される可能性が高いのは、定期借家契約と普通借家契約の違い。相続税の取得費加算、相続空き家の3,000万円特別控除の要件。不動産投資のメリット・デメリットなどではないかと考えますが、実際に受験された方はいかがだったでしょうか?

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

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