2021年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験 Part2 (2021年10月10日) 過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2023年4月30日 最終更新日 2024年1月11日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2021年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2021年10月10日)

●設 例●
 Aさん(75歳)は、東京都S区内のT駅から徒歩10分ほどの閑静な住宅地にある戸建て住宅に妻Bさん(72歳)と2人で暮らしている。子は2人おり、いずれも結婚して都内に自宅を持ち、それぞれの家族と暮らしている。


 Aさんは、10年前に都内の大手企業を退職した。借入金はなく、生活費は退職金と企業年金で十分賄えており、趣味の写真や旅行などを楽しみながら日々を過ごしている。また、Aさんは甲土地を所有し、賃料収入を得ているが、その収入は貯蓄にまわしている。


【甲土地の概要】
Aさんは、T駅前から延びる地域の準幹線道路である幅員12mの区道沿いに、父親から相続した甲土地(間口35m、奥行き20m、地積700m²)を所有している。当該道路沿いは、飲食店、電器店などのチェーン店舗、中小規模の事務所ビルなどが建ち並ぶ路線商業地域である。 甲土地は、現在、時間貸しの駐車場として一括で駐車場運営会社に貸している。Aさんは、甲土地について、できれば長期的な土地の有効活用をしておきたいと考えていたところ、先日、甲土地の南側に隣接する乙土地を所有するX社から、土地の交換の申出を受けた。


【X社からの提案内容】
X社からの申出は、「どうしても表の通り沿いに土地がほしいため、甲土地の一部(b部分300m²)と弊社が所有する乙土地(500m²)を等価で交換してもらえないか」との内容であっ た(右図I案参照)。

 X社は、S区内で手広く建設業を営んでいる中堅企業であり、乙土地には、現在、X社の若手社員用の寮(鉄骨造3階建て)が建っている。この建物はかなり古く、ここ数年は使用しておらず、近々取り壊す予定である。一方、X社では支社ビル(6階建て、延べ面積900m² の計画)を建てる計画があり、この通り沿いで土地を探し始めたが、空地がなく、甲土地がその候補地となったとのことである。

 Aさんは、X社からの提案について、土地の形状は少し悪くなるが、土地の面積が増え、 さらに相続上有利にもなるとのことなので、話を進めたいと思っている。先日、有効活用の営業で来訪したM銀行の担当者にその話をしたところ、「それならば甲土地の一部(d部分 250m²)と乙土地の一部(e部分420m²)を等価で交換したほうがよいのではないか」とのアドバイスを受けた(右図II案参照)。早速、X社にこの変更案を打診したところ、しばらくして変更案でも対応するとの返答があった。

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
    ①Aさんから直接聞いて確認する情報
    ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
  2. あなたはAさんにX社との土地の交換にあたって、I案とII案のどちらを勧めますか。 その理由とともに教えてください。
  3. I案またはII案によって交換した場合の課税関係について教えてください。
  4. 交換後の土地が相続上有利になる理由として、どのようなことが考えられますか。
  5. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
 ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?

①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
駐車場運営会社との契約内容はどのような内容か。
長期的な土地の有効活用とあるが、目的や期間、具体的な利回りの希望などはあるか。
M銀行の担当者から有効活用の提案はされているのか。
相続対策はしているかを確認します。

②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。

⑷市場調査として
 周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認します。


あなたはAさんにX社との土地の交換にあたって、I案とII案のどちらを勧めますか?

II案を勧めます。

どうしてですか?

Aさんは、甲土地について、できれば長期的な土地の有効活用をしておきたいと考えています。
現時点での活用方法は決まっていないので、建物の用途制限などに柔軟に対応できるよう甲土地部分の面積が大きくなる、II案を勧めます。

複数の用途地域にまたがる場合、建蔽率や容積率はどのように計算しますか?

建蔽率や容積率は、用途地域ごとの敷地面積の加重平均で計算します。

複数の用途地域にまたがる場合、高さの制限はどのように計算しますか?

高さの制限は、用途境で分かれるため、それぞれの用途地域の制限を受けます。

X社が変更案でも対応すると返答したのはどうしてだと思いますか?

変更案でも、6階建て、延べ面積900m² のX社が計画している支社ビルを建設可能であることと、
乙土地の一部を残すことで、T駅前から延びる地域の準幹線道路だけでなく6mの区道からも人や車両の出入りが可能になり、来客数の増加や利便性が向上するためだと思います。

道路に挟まれている宅地の評価額はどのように計算しますか?

二方路線影響加算率による調整を行い計算します。


I案またはII案によって交換した場合の、課税関係について教えてください。

固定資産の交換特例を適用することができます。

固定資産の交換の特例を受けるための要件を教えてください。

交換により譲渡・取得する資産がいずれも固定資産であること。
同じ種類の資産であること、1年以上所有していたもの、かつ交換のために取得したものではないこと。
交換直前の用途と同じ用途で使用すること。
譲渡した資産の時価と取得した資産の時価の差額が、いずれか高いほうの資産の時価の20%以内であることです。


交換後の土地が相続上有利になる理由として、どのようなことが考えられますか。

I案、II案ともに交換後の土地の面積が500㎡以上になるので、地積規模の大きな宅地の評価が適用できるようになり相続上有利になるからだと考えられます。

地積規模の大きな宅地の評価に該当する要件を教えてください。

三大都市圏では500㎡以上、それ以外の地域では1,000㎡以上の地積であること。
普通商業・併用住宅地区か普通住宅地区に所在すること。
工業専用地域に指定されていないこと。
市街化調整区域に該当しないことです。

すべての市街化調整区域が該当しませんか?

市街化調整区域でも、宅地分譲に係る開発行為を行うことができる区域は該当します。

他にはありませんか?

指定容積率が400%未満の地域であることです。

東京23区の場合は何%ですか?

東京23区の場合は300%未満です。


FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?

不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、複数の用途地域にまたがる場合、二方路線影響加算、地積規模の大きな宅地の評価に関する設例でした。

二方路線影響加算

二方路線影響加算は、

奥行価格補正後の正面路線価+背面路線の奥行価格補正後の路線価×二方路線影響加算率×影響割合

で計算します。

地区区分加算率
ビル街地区0.03
高度商業地区、繁華街地区0.07
普通商業・併用住宅地区0.05
普通住宅地区、中小工場地区、大工場地区0.02
二方路線影響加算率(平成19年分以降)

二方路線影響加算率の調整で気をつけなければならないのは、どちらの道路が正面道路かということです。

相続税評価では、路線価が高い方の道路を正面道路とします。

しかも、単純に路線価高い方というわけではなく、奥行価格補正率で補正した後の路線価で比較するので

正面道路の判断を間違えると、土地の評価額が変わってしまい相続税の金額を間違えてしまいます。

地積規模の大きな宅地の評価

地積規模の大きな宅地の評価の適用対象を判定するためのフローチャートが国税庁のHPに掲載されています。

こちらのリンクで詳しく解説してありますので参考にしてください。

出典:国税庁「地積規模の大きな宅地の評価」が新設されました

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

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