公開日 2021年9月18日 最終更新日 2024年1月16日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(65歳)は、首都圏に所在するK市内の自宅で妻Bさん(65歳)と2人で暮らしている。Aさん夫妻には、一人息子の長男Cさん(35歳)がいる。大手企業に勤務する長男C さんは、妻と子1人の3人で隣県の持家に住んでいる。
【Aさんの資産および収入の状況】
Aさんは、自宅のほかに、K市内の幅員12mの県道に面した甲土地を所有し、地元の建設会社に資材置場として賃貸しているが、解約の申出がある。このため、甲土地の新たな有効活用が課題となっている。Aさんの資産の概要は、以下のとおりである。
- 自宅の敷地(地積150m²、相続税評価額3,000万円)
- 自宅の建物(築30年、木造、固定資産税評価額300万円)
- 甲土地(地積1,000m²、現況:資材置場として賃貸中)
- 預貯金2,000万円、Aさん夫妻の年金収入年間300万円
- 甲土地の地代収入年間450万円(うち、固定資産税・都市計画税は年間150万円)
【甲土地の取得経緯とAさんの意向】
甲土地は、Aさんの祖父が昭和30年代に購入し、その後は父親が相続し、続いて母親が相続してきた。4年前に母親の相続によりAさんが取得し、3年前から資材置場として賃貸している。Aさんの意向は、以下のとおりである。
- 新たな有効活用により、少なくとも現在の地代収入相当額(手取額)を確保したい。
- 母親の相続時に相応の税額を納付したため、現預金が心許ない。老人ホームへの入居等を考えれば、現預金を5,000万円程度に増やしておきたい。
- 甲土地の有効活用は、長男Cさんとも相談する。将来は、長男Cさんに承継する予定であるため、売却・買換えという選択肢はない。
【X社の提案内容】
先日、X社(東証一部上場の住宅設備メーカー)から以下のような提案があった。
- 甲土地に地域の拠点となるショールーム兼事務所を開設したい。建物は、鉄骨造2階建て、延床面積700m²、建設費は1億円、建物の固定資産税・都市計画税は年間120万円を見込んでいる。
- 契約形態は、建設協力金方式または事業用定期借地権方式のどちらでも構わない。賃借期間は30年とする。
- 建設協力金方式の場合、敷金2,000万円、建設協力金1億円、1年目から20年目までの年間賃料1,250万円(建設協力金の年間均等返済500万円を含む)、21年目から30年目までの年間賃料750万円である。
- 事業用定期借地権方式の場合、①もしくは②の方法から選択できる。①賃貸開始時に保証金2,000万円を差し入れ、1年目から30年目までの年間地代を600万円とする、②賃貸 開始時に保証金2,000万円を差し入れ、年間地代とは別に30年間の前払地代3,000万円を 支払う。その場合、1年目から30年目までの年間地代は500万円となる。
AさんはX社の提案を前向きに検討したいと考えているが、いずれの提案が望ましいか、判断できないでいる。
(FPへの質問事項)
①Aさんから直接聞いて確認する情報Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報建設協力金方式と事業用定期借地権方式の特徴を簡潔に教えてください。契約内容についてどのようなことを確認し、X社との交渉を助言しますか。
Aさんに対して、建設協力金方式と事業用定期借地権方式の①・②のいずれを勧めますか。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
①Aさんから直接聞いて確認する確認する情報は、
⑴本人しか知らないこと。トラブルの理由、関係者の意向として
相続対策は必要か
長男Cさんや他の家族の意向を確認します。
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
甲土地周辺の取引事例を地元の不動産業者等で確認すること。
X社の業績や、建設費は妥当かを確認します。
建設協力金方式とは、入居予定のテナントから建設資金を借り入れてテナントに合った建物を建設しテナントからの賃料を返済にあてます。建設協力金は、返済期間中に返済ができるように入居後の返済計画を立て契約します。
メリットはテナントの確保が容易なこと。入居者のノウハウで事業ができること。
デメリットはテナント側が倒産や中途解約した場合、収入の消滅や転用しづらい建物が残ることです。
事業用定期借地権方式とは、契約期間を10年以上50年未満で定め、契約期間満了時には建物が取り壊され、土地が確実に返還されます。
メリットは、土地の所有権を移転せず、期間の更新もなく更地返還されること。建物投資が不要で借入金の返済リスクがなく、安定した収益をあげることができます。
デメリットは、用途が事業用に限られるため汎用性がなく、地代収入は家賃収入よりも低くなること。事業者が倒産した場合は倒産した会社の建物が残り手続きが煩雑になることです。
建設協力金方式の契約内容について確認する点は、中途解約の場合にテナント側は建設協力金の返済の権利を放棄し、オーナー側は解約後の建設協力金返還が不要になる条項を入れてあるはずですが、今回の契約でも同様の条項が盛り込まれているか確認が必要です。
事業用定期借地権の契約内容について確認する点は、借地権の存続期間を10年以上30年未満、もしくは30年以上50年未満にすること。借地上の建物を事業用に限定すること。契約の際は、契約書を必ず公正証書で締結することが必要です。
公正証書でない書面で契約した場合、事業用定期借地権としては無効となり普通借地権として取り扱われる場合があり、期間が満了しても返還を受けられないこともあるため注意が必要です。
また、普通借家契約の条項に「契約期間中、賃料の増減はしない」という特約がある場合、増額請求はできなくなりますが減額請求はできることになります。X社側には定期借家契約とし契約期間中の家賃を減額しない旨の特約を入れることを交渉すべきです。
事業用定期借地権方式の②を勧めます。
Aさんの意向は、長男Cさんに承継する予定で甲土地を手放すことは考えておらず、現在の地代収入相当額の確保と、老人ホームへの入居等のために、預貯金を増やしたいとあります。
相続税の軽減対策がおこなわれているか確認する必要がありますが、借入金をしてまで土地活用する必要はないと考えます。
よって、前払地代方式の定期借地権では、賃料を一括で授受しても期間に応じた収益計上ができ、
契約期間満了時には確実に土地が更地返還されるため、今回のケースでは、事業用定期借地権方式を勧めます。
不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談は税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士に、
地積の更正や変更の登記は土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
実技試験でよくある設例の一つに、相続で取得した土地など「不動産の有効活用」を相談される設例があります。
不動産の有効活用
特徴 | メリット | デメリット | |
自己建設方式 | 事業の全てを土地の所有者自らが行う。小規模事業向き。 | 収益の全てを享受できる。不動産事業のノウハウが蓄積できる。 | 建物の建設資金も土地所有者自らが調達するなど、借入金の返済が必要。 |
事業受託方式 | 一切の業務をデベロッパーが請け負う。 | デベロッパーが土地建物を一括借り上げてテナントへ転貸することで安定的な収益の確保ができる。 | 建物の建設資金は、土地所有者自らが調達するなど借入金の返済が必要。 |
土地信託方式 | 信託銀行に土地を信託し、信託銀行が資金を調達し建物の建設や運用を行い、運用益の一部を信託配当として受け取る。名義は信託銀行となるが期間終了後は返還される。 | 資金は信託銀行が用意するので自己資金が不要。ノウハウがなくても大丈夫。相続対策にもなる。 | 開発リスクは土地所有者が負う。元本保証ではない。赤字の場合、損失は土地所有者が負う。 |
等価交換方式 | 土地所有者の土地にデベロッパーが建物を建設し、完成後土地と建物それぞれの一部を交換し土地と建物を所有する。 | 資金はデベロッパーが調達するので自ら資金を調達しなくても建物を所有できる。リスクが少ない。採算性も良い。 | 土地は実質共有となる。 |
定期借地権方式 | 土地を一定期間のみ貸し付け収益を上げる。登記することで第三者に対抗できる。 | 土地の所有権を移転せず、期間の更新もなく更地返還される。ノウハウも不要で、安定して収益を上げることができる。 | 用途が事業用に限られるため汎用性がない。地代収入は他の方式と比べ収益が低い。貸宅地として評価。 |
建設協力金方式 | 土地所有者が建設する建物のテナントから建設資金を借り入れて建物を建設し賃貸する。 | テナントの確保が容易。入居者のノウハウで事業の立案が可能。借入が金融機関よりも有利。貸家、貸家建付地として評価。 | 期間中にテナント側が倒産や中途解約した場合、予定していた賃貸収入の消滅や転用しづらい仕様の建物が残り、残された建物と補償金の処理が複雑になる。 |
6つの手法がありますが、実技試験でよく出題されるのは「建設協力金方式」と「事業用定期借地権方式」です。
2021年2月13日の設例では、建設協力金方式によるドラッグストアの建設、2021年6月13日の設例では食品スーパーの出店に際し建設協力金方式と事業用定期借地権のどちらを勧めるかという設例が出題されています。
今回の設例で質問されませんでしたが、2021年2月13日と2021年6月13日の設例では、そもそも甲土地に建設可能ですかという質問がされています。
建蔽率、容積率、用途地域など、X社が希望する建設計画が可能かどうかも、設例を読むときに気をつけた方が良さそうですね。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。