公開日 2021年8月15日 最終更新日 2024年1月16日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(65歳)は、相続により取得した大都市圏X市に所在する甲土地上に、乙ビル(築30年、店舗・事務所)を建築し、不動産賃貸業を営んでいる。建築費用は、自己資金と金融機関からの借入金を充てたが、借入金は既に完済している。将来は、不動産賃貸業を地元企業に勤務する長男Cさん(39歳)に承継する予定である。
【甲土地および乙ビルの現況】
甲土地は、北側の幹線市道(幅員8m)に面しており、現況道路から25mの区域が商業地域(容積率500%)、25mより南側が第二種住居地域(容積率200%)に指定されている。北側の幹線市道は、約40年前に幅員が5m拡幅される都市計画決定がなされていたが、このほど駅前の再開発の進展に伴い、都市計画道路が事業決定された。乙ビルは、計画道路部分(I部分:延床面積200m²)と計画道路外(II部分:延床面積2,600m²)からなる一体の建物で、道路拡幅後もII部分は部分改修のうえで利用できる構造としている。II部分の賃貸面積は2,000m²で空室率は15%である。近隣の新しいビルに比べ賃料を 安くせざるを得ず、手取収入は年間3,500万円である。
都市計画道路の事業決定に伴い、X市から道路拡幅による甲土地(計画道路内100m²)の対価補償金として5,000万円が支払われる予定である。
【道路拡幅後の賃貸経営】
Aさんは、乙ビル(II部分)の建物を継続して運用(1案)する予定としているが、先日、地元の建設会社Y社から、新しいビルに建て替える案(2案)を提示された。
- 1案:乙ビル(II部分)の建物を継続して運用する。乙ビル(II部分)の部分改修、設備 の更新および大規模修繕には1億円の支出が必要であるが、対価補償金5,000万円を含む自己資金1億円を充当する。
- 2案:対価補償金5,000万円を含む自己資金2億円と金融機関からの借入金により、新しいビルに建て替える。Y社の提案内容は、以下のとおりである。
- 新しいビルに建て替えた場合、容積率の上限となる延床面積は2,400m²になり、賃貸面積は1,900m²である。建築費の単価は30年前の1割増となる見込みである。
- 新しいビルの賃料単価は、現在の賃料単価と比べて2割増となる見込みである。
Aさんは、現在、1案・2案のどちらを選択すべきか迷っており、FPに相談することにした。Aさんは中長期的な不動産運用を重視した内容を希望している。
(FPへの質問事項)
①Aさんから直接聞いて確認する情報Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報乙ビルの延床面積(I部分200m²+II部分2,600m²)、新しいビルの延床面積(2,400m²)はどのような計算の結果ですか。考え方を教えてください。
1案と2案のどちらを勧めますか。推奨する案のメリットと推奨しない案の問題点をそれぞれ複数項目挙げてください。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
①Aさんから直接聞いて確認する確認する情報は、
⑴本人しか知らないこと。トラブルの理由、関係者の意向として
甲土地以外の資産や、金融資産はどれぐらいあるか
相続対策は必要か
長男Cさんや他の家族の意向を確認します。
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し今後の開発予定や周辺環境の変化を把握すること。
⑷市場調査として
他の不動産業者などから取引事例等を確認し、市場価格の確認、近隣の地価公示価格、基準地価格、路線価を確認すること。
甲土地のように、複数の用途地域にまたがる地域の容積率は、用途地域ごとの敷地面積を加重平均して計算します。
容積率の計算で、全面道路の幅員が12m以上の場合には、用途地域ごとに定められている容積率がそのまま敷地の容積率の最高限度額となりますが、12m未満の場合には、前面道路幅員に係数を乗じた容積率と、指定容積率とを比較して小さい方を適用します。
商業地域は、前面道路幅員に係数を乗じた容積率の方、第二種住居地域は指定容積率の方が小さいので、甲土地全体の延床面積は、2,800㎡になります。
乙ビルの延床面積(I部分200m²+II部分2,600m²)の計算は、甲土地全体の延床面積から幅員が5m拡幅されることを想定したものと考えられます。
新しいビルの延床面積(2,400m²)は、幅員が5m拡幅されたため全面道路の幅員が12m以上になり、用途地域ごとに定められている容積率がそのまま敷地の容積率の最高限度額となります。
Y社が提案する2案を勧めます。
2案を推奨する理由は、将来、長男Cさんに不動産賃貸業を承継することまで考えると、賃料単価が2割り増しとなり新築のビルで空室率の改善も見込まれる2案の方が、長期安定的な不動産賃貸業ができると考えます。
建て替えに伴い借入金が発生するが、借入金は相続時に債務控除として相続財産から控除できるので、相続税負担の軽減効果もあります。
1案の乙ビル(II部分)の建物を継続して運用することを推奨しない理由は、現状の乙ビル(II部分)は、延床面積が2,600㎡で幅員が5m拡幅された後の甲土地の延床面積の上限2,400㎡を超えてしまい、既存不適格建築物となります。
さらに、新しいビルに比べ賃料を安くせざるを得ず、大規模修繕後も賃料単価や空室率が改善するかは不透明です。
不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談は税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士に、
地積の更正や変更の登記は土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
実技試験でも計算する設例があります。
そのうちの一つが、今回の設例のような、またがる地域での容積率や建蔽率の計算をする問題です。
容積率や建蔽率を計算する設例の場合、増改築後に既存不適格建築物や違反建築物になっているケースがあります。
2020年9月27日の設例では、増築した倉庫が違反建築物になり、2018年6月17日の設例では共同住宅の建築が建築基準条例に抵触する設例が出題されています。
実技試験では、詳細な計算は必要ありませんが焦ってしまうと計算ミスをしてしまうので、計算式は覚えておいた方がよさそうですね。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。