公開日 2021年7月23日 最終更新日 2024年1月9日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
大都市圏に所在する株式会社X社(非上場会社・繊維卸売業)は、戦前から続く老舗企業である。戦後の高度経済成長期に業績を大きく伸ばしたが、バブル崩壊後に主力の和装部門の売上が大きく落ち込み、近年ではファストファッションの台頭により、アパレル部門も苦戦を余儀なくされている。他方、過去の利益の蓄積から、本社・営業所・倉庫は自社所有であるほか、収益不動産を2棟所有しており、内部留保は厚い。直近の決算では、本業の不振
から営業赤字であるものの、営業外の賃料収入により最終損益は黒字を確保している。業績の先行きが見通せない状況のなか、2代目社長のAさん(72歳)は、本業の繊維卸売業を廃止のうえ、不動産賃貸業に転換することを決断した。X社の常務取締役である長男Cさん(45歳)も同様の考えから、Aさんの決断に直ちに同意した。
【X社の事業承継に関して】
Aさんは、先代の相続時に相続税の負担で苦労した経験を踏まえ、早くから後継者を長男Cさんと定め、X社株式の生前贈与を少しずつではあるが、着実に進めてきた。Aさんは、不動産賃貸業に転換するにあたり、事業承継対策にどのような影響があるか、従来どおりの生前贈与を進めてよいものか、整理がついていない。また、Aさんは、先日、商工会議所主催のセミナーに参加した際に紹介された「事業承継税制の特例」の活用の可否について、確認したいと思っている。
【Aさん自身の資産承継に関して】
Aさんは、所有財産のうち、長男CさんにX社株式を承継し、妻Bさん(70歳)に自宅を相続させる予定であるが、他の資産をどのように承継するかは検討していない。公務員の二男Dさん(41歳)は、X社の経営に参画する予定はなく、実家のことについて関心が薄い。Aさんは、二男Dさんには、ある程度の現金を渡してやれば納得するであろうと考えているが、遺産分割が円滑に行えるのか、一抹の不安を感じている。
【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん:専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん:X社常務取締役。持家(マンション)で妻と子2人の4人暮らし。
二男Dさん:地方公務員。賃貸マンションで妻と子2人の4人暮らし。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金 : 1億3,600万円 (役員退職金は考慮していない) X社株式 : 5,400万円 自宅 : 6,000万円 (土地(200㎡)5,000万円、建物1,000万円) 賃貸マンション : 1億3,000万円 (土地(300㎡)9,000万円、建物4,000万円) 月極駐車場 : 7,000万円 (250㎡) 合計 : 4億5,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億1,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地の評価減適用前)と見積もられている。
【X社の概要】
資本金:3,000万円 会社規模:大会社 従業員数:30人 業種:卸売業
売上高:35億円 経常利益:300万円 純資産:6億円 配当:毎期実施なし
株主構成(発行済株式総数6万株):Aさん60%、妻Bさん15%、長男Cさん25%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額1,500円/株、純資産価額1万5,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。
※X社が所有する不動産は、本社ビル(2億円)、営業所・倉庫(1億円)、収益不動産2棟(5億円)の計8億円(相続税評価額)である。(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた相談内容および問題点を解決するためには、どのような提案・方策が考えられますか?
納税資金の準備と相続税の軽減対策ですが、⑴生命保険の活用、⑵小規模宅地の特例の活用などがあげられます。
それらの方策のなかで、何をAさんに提案しますか?
⑴生命保険の死亡保険金は、相続人が保険金を受け取る場合に限り「500万円 × 法定相続人の人数」が非課税金額となります。
今回のケースでは相続人は、妻Bさん、長男Cさんと二男Dさんの3人ですので500万円 × 3人=1,500万円が非課税となり受け取る死亡保険金から引くことができます。
小規模宅地の特例の活用はどのように提案しますか?
一定の条件を満たすことで土地の相続税評価額を、特定居住用は330㎡、事業用は400㎡まで80%軽減され、貸付事業用は200㎡まで50%軽減されます。
今回のケースでは、自宅と賃貸マンションに適用できますが、特定居住用と貸付事業用は完全併用することはできないので有利判定が必要です。
配偶者控除等の相続人固有の控除を含め、トータルの納税額が有利になるように税理士と連携してアドバイスします。
不動産賃貸業に転換するにあたり、事業承継対策にどのような影響がありますか?
不動産賃貸業の場合、資産管理会社に該当する可能性があり、資産管理会社の場合は事業承継税制の対象にはなりません。
資産管理会社には、資産保有型会社と資産運用型会社があり、資産保有型会社とは、総資産に占める特定資産の割合が70%以上を占める会社で、資産運用型会社とは、総収入のうち特定資産の運用収入の割合が75%以上となる会社です。
ただし、事業実態がある会社として次の要件を満たす会社は、資産管理会社には該当せず、事業承継税制の適用を受けることができます。
納税猶予開始期だけでなく、経過後も資産管理管理会社に該当すると納税猶予の取り消し事由に該当するので注意が必要です。
事業承継税制の特例とは、どのような制度ですか?
留意点は、どのようなことが考えられますか?
事業承継税制特例とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が次の後継者に事業承継できた場合には、相続税や贈与税が免除になる制度です。
留意点は、届出書の提出など事務手続きが煩雑になること。
事業継続が困難な場合は、利子税と猶予された税金の支払いが必要になることです。
株式移転前に、配当の引き下げや役員退職金の支給を行い、自社株評価を引き下げる必要があります。
円滑な遺産分割を行うためにはどのような提案・方策が考えられますか?
遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。
代償分割は、所有財産に占める不動産の比率が高い場合などは不動産を相続した人の取得割合が多くなることが考えられます。
今回のケースでは、長男Cさんが後継者として事業を引き継ぐと遺産の多くを長男Cさんが取得するため二男Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があるので、生命保険の活用や生前贈与により代償分割の準備をすることが必要です。
自筆証書遺言保管制度ついて教えてください。
自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。
生前贈与の活用はどのように提案しますか?
生前贈与の活用には、歴年贈与、教育資金、結婚・子育て資金贈与、住宅取得資金贈与などがあげられます。
今回のケースでは、長男Cさんが事業を引き継ぐと遺産の多くを長男Cさんが取得するため、二男Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があるので、教育資金の一括贈与や歴年贈与などを積極的に行うことを提案します。
遺留分の民法特例とはどのような制度ですか?
一定範囲内の親族には遺留分によって、最低限の相続財産が保障されているので、相続人が複数存在する場合には、自社株が分散して経営に関わる意思決定に支障をきたすおそれがあります。
遺留分の民法特例を利用することで除外合意や固定合意を実施できます。
除外合意とは、非上場株式を遺留分の計算から除外できる制度で、固定合意とは遺留分の計算に占める自社株の金額を合意時の価額に固定する制度です。
両合意を併用することで、株価の上昇を心配することなく、後継者が株式を取得できるようになります。
⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
事業承継や相続には、多岐にわたる専門性の高い知識やスキルが必要で、複雑な内容も多くあります。
また、二男Dさんにある程度の現金を渡してやれば納得すると思っているが、長男Cさんが後継者として事業承継するためには、円滑な遺産分割が重要になります。
Aさんは72歳と高齢なので、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回と同じような、不動産賃貸業へ転換する設例は2020年度 第3回(2021年2月6日)実施試験でも出題されています。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。