2019年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験 Part2 (2019年6月8日) 過去問解説

Part2

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本をKindleで出版しました。

開催年度別に3回分を一冊にまとめたPDF版はこちら

公開日 2023年1月22日 最終更新日 2023年11月17日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2019年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2019年6月8日)

●設 例●
 Aさん(75歳)は、妻BさんとT市内の戸建て住宅(持家)に暮らしており、自宅近くで賃貸アパートを経営している。賃貸アパートの敷地(甲土地)は、母親の相続により取得したもので、25年前に現在の賃貸アパートを建築した。賃貸アパートは、最寄駅から徒歩12分と少し距離があることに加えて、水回り設備等の老朽化が目立ち始め、入居率が年々低下している。隣接の乙土地では、15年前に大手コンビニチェーンのX社が土地を購入し、コンビニ店舗を開業している。近隣に店舗が少なく、コンビニ店舗は繁盛している。甲・乙土地周辺にコンビニ店舗が進出できる規模の土地は見当たらない。

 

【賃貸アパート(甲土地および建物)の概要およびAさんの資産状況】

  • 敷地面積200m²、路線価200D
  • 築25年、軽量鉄骨造2階建て、延べ床面積200m²、総戸数10戸(1Kタイプ)
  • 1戸平均月額45,000円(普通借家契約)で6戸賃貸中(4戸空室)
  • 賃貸アパートに係る借入金はない
  • 預貯金3,000万円、夫婦2人の年金収入月額18万円

 

【X社の提案内容】
Aさんは、先日、今後のアパート経営について、アパートの賃貸管理と建物管理を委託している地元の不動産業者Y社に相談したところ、担当者から「水回り設備等を全室取り替えると総額1,000万円、屋根・外壁等の補修や塗装で別途200万円かかります。実は、X社から弊社に、甲土地を買うか、借りられないかという相談がきています。X社は、甲土地を取り込んで、規模の大きい店舗への建替えを検討しているようです」と言われた。Aさんは、Y社を通じて、下記のX社の条件を提示された。

  • 甲土地の買取価格は、6,000万円(30万円/m²)
  • 甲土地を借りる場合は、期間30年の事業用定期借地権で賃借し、地代は月額25万円預託金は、通常6カ月であるが、要相談
  • 買い取る場合/借りる場合、いずれの場合も建物はそのままでよいが、賃借人の立退きは、Aさんの責任と負担でお願いしたい。賃借人の立退きは、早いほうがよいが、1〜2年以内には完了してもらいたい。

 

【Aさんの意向】
 Aさんは、今後のアパート経営は難しくなると考えており、これ以上建物に修繕費をかける意向はない。X社に甲土地を利用してもらうほうがよいと考えている。

Aさんは、将来の生活を考えると、定期収入が得られる地代に魅力を感じている。他方、長男Cさんからは私立大学医学部に入学した娘の学費として1,000万円程度援助してほしいと頼まれており、甲土地を売却すれば、その援助は可能である。Aさんは、甲土地を売却し、その一部を学費の援助資金とし、残りの資金で収益物件を購入することも選択肢の1つであると思っているが、甲土地を売却しないで済むのであれば、そのほうがよいと考えている。

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
    ①Aさんから直接聞いて確認する情報
    ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
  2. 賃貸アパートの賃借人の退去はどのように進めればよいですか。
  3. 甲土地を事業用定期借地権で賃貸し、まとまった資金を得る方法はありますか。
  4. Aさんが現時点で賃貸アパート(甲土地および建物)を売却し、その売却代金の一部を活用して別の収益物件を購入した場合の税務上の特例について教えてください。
  5. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
 ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?

①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
賃貸アパートの入居者との関係性は良好か。
収益物件の購入とあるが、目的や具体的な利回りの希望などはあるか。
家族構成や相続対策はしているか。
X社のコンビニブランドはどこか。

②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況、近くに競合するコンビニやスーパーがあるかなどを、実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。

⑷市場調査として
 X社の取引事例や財務状況を確認すること。
 周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、X社の提案は妥当かを確認します。


それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

賃貸アパートの賃借人の退去はどのように進めればよいですか?

賃借人の退去ですが、Aさんの賃貸アパートは、普通借家契約で入居者と契約しています。

普通借家契約では、契約期間が定められていたとしても借主が更新したいと申し出れば更新することが可能です。

したがって、賃借人の退去を進めるためには、契約更新のタイミングなどで、賃借人に契約更新せずに、契約を終了したい正当な事由を伝え、理解を得ることと、状況に応じた立ち退き料を支払うなど、誠実な対応で交渉を進めることが必要です。

定期借家契約の場合はどうなりますか?

定期借家契約の場合は、期間満了により契約終了となり、更新は基本できないので、その時点で退去してもらうことになります。

定期借家契約で留意する点はありますか?

定期借家契約の場合は、公正証書などの書面によって契約することが必要です。
また貸主は、契約書とは別に、契約の更新はなく、期間の満了とともに契約終了することを書面としてあらかじめ交付して、借主に説明する義務があります。
もしこの説明を怠ったときは、定期借家契約としての効力がなくなり、普通借家契約になります。


甲土地を事業用定期借地権で賃貸し、まとまった資金を得る方法はありますか

前払地代方式による事業用定期借地権を設定します。

税務上の取り扱いはどのように行いますか?

税務上の取り扱いは、Aさんは、一時金を前受収益として計上し、その年分の賃料に相当する金額を不動産所得の収入金額に算入します。

X社は、一時金を前払費用として計上し、賃料に相当する金額を損金、又は必要経費に算入できるので、期間に応じて前払地代を費用化できます。


Aさんが現時点で賃貸アパート(甲土地および建物)を売却し、その売却代金の一部を活用して別の収益物件を購入した場合の税務上の特例について教えてください。

要件を満たすと、特定事業用資産の買換え特例が適用できます。

特定事業用資産の買換え特例とは、どういった制度ですか?

特定事業用資産の買換え特例とは、事業用資産を、買い換えた場合には、譲渡税課税の繰り延べを認めるというものです。

特定事業用資産の買換え特例の留意点を教えてください。

事業用資産を譲渡し、所定の期間内に特定の資産を取得した際、その取得の日から1年以内に買い換えた資産を事業用とした場合に適用されます。

買換え資産が土地の場合には、原則として譲渡資産となる土地の面積の5倍以内であることが必要です。


FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?

不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、普通借家契約、事業用定期借地権、特定事業用資産の買換え特例に関する設例でした。

普通借家契約や定期借家契約、事業用定期借地権や不動産の譲渡所得の特例などは、学科試験でも頻出の定番質問なので、制度の概要はもちろんですが、それぞれの違い、メリットデメリットなどを整理して覚えておくとさそうですね。

普通借家契約定期借家契約
賃貸借の用途居住用・事業用居住用・事業用
契約方法書面・口頭書面による契約のみ。
「更新はなく、期間の満了とともに契約終了すること」を契約書とは別に書面を交付する必要がある。
契約期間1年以上
1年未満の契約期間を定めた場合は、期間の定めのない賃貸借契約とみなされる。
制限なし。
賃借料の増減額の請求権特約にかかわらず、当事者は賃借料の増減を請求できる。特約の定めにしたがって請求が可能。
貸主からの通知特になし。契約期間が1年以上の場合、満了の1年〜6ヶ月前までに契約終了の通知が必要。
更新の有無可能更新はできない。
貸主からの中途解約基本的にできない。
中途解約や更新拒絶をしたい場合は、正当な自由が必要。
中途解約について特約を結ぶことが可能。
借主からの中途解約あらかじめ特約を定めていれば可能。床面積が200㎡未満の物件を使用している際に限り、やむを得ない理由での解約が申請可能。
普通借家契約と定期借家契約の違い

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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