2024年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年2月15日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2024年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年2月15日)

●設 例●
 Aさん(65歳)は、大都市圏で雑貨の卸売業を営むX株式会社(非上場会社)の2代目社長である。得意先である中小小売店のニーズにきめ細かく対応することで、全国に強固な販売網を築いており、業績は堅調に推移している。

 Aさんには年の離れた弟Bさん(53歳)と妹Cさん(51歳)がいる。弟BさんはX社で専務取締役を務めており、Aさんをサポートするほか、昨年、X社の100%子会社であるY社を設立し、ECサイトと百貨店の催事を通じた雑貨の小売をスタートするなど、新規事業を主導している。

 

【事業承継について】

 Aさんは、弟Bさんの経営手腕を高く評価しており、弟Bさんへの承継を既定路線としている。そこで、来期から弟Bさんに社長職を譲り、自身は会長として、2人が共同代表となる体制に移行することとした。Aさんは70歳で会長を退任し、弟Bさんへの経営権移行を完了することを考えている。

 なお、Aさんの親族のうち、Aさんの長女(30歳)がX社に、弟Bさんの長女(25歳)がY社に在籍しているが、現時点で次世代への事業承継について明確な考えはない。

 

【X社株式について】

 現在はAさんが筆頭株主であるが、当面は弟Bさんの持株が過半数となるようX社株式の移転を進めたいと考えており、円滑な事業承継を目的として、数年前からX社株式の移転を始めている。具体的には、Aさんが保有するX社株式について、毎年、贈与税の基礎控除額前後の金額分を弟BさんおよびAさんの長女に贈与している。また、妹Cさんの持株は弟Bさんが買い取ることで調整している。Aさんは、今後、本格化するX社株式の移転に備え、X社株式の今期の評価額がどうなるか、取引の種類や相手によって評価額がどうなるかについて詳しく知りたいと思っている。

 

【X社の概要】

資本金:1,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:40人
売上高:28億円 経常利益:2,000万円 純資産:4億円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん60%、弟Bさん35%、妹Cさん3%、Aさんの長女2%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額18,000円/株

 

【X社の今期の自社株評価にあたって考慮すべき事項】

① 3年前に新本社(土地・建物)を購入価額3億円で取得した。
② 賃貸用不動産として、居住用区分マンション1戸を保有している。
③ 昨今の物価高騰に伴う仕入および販売価格の上昇により、今期の売上高は31億円と見込まれている。
④ 昨年設立したX社の100%子会社であるY社の株式の簿価は1,000万円、相続税評価額は今期1,500万円と見込まれている。
⑤ 経営者リスクと退職金準備のための役員保険および福利厚生目的の養老保険(ハーフタックス・プラン)を今期導入した。

 

【Aさんの家族構成】

妻 (60歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女(30歳):X社で経理を担当している。会社員の夫と2人で賃貸マンションに居住している。
二女(28歳):会社員。Aさんと自宅で同居している。

 

【弟Bさんの家族構成】

妻 (52歳):専業主婦。弟Bさんと自宅で同居している。
長女(25歳):Y社で営業を担当している。弟Bさんと自宅で同居している。
二女(20歳):大学生。弟Bさんと自宅で同居している。

 

【妹Cさんの家族構成】

夫 (55歳):会社員。妹Cさんと自宅で同居している。
長男(21歳):大学生。妹Cさんと自宅で同居している。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年2月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 弟Bさんへの経営権移行。
  • 弟Bさんの持株が過半数となるようX社株式の移転を進めたいこと。
  • 本格化するX社株式の移転に備え、X社株式の今期の評価額がどうなるか、取引の種類や相手によって評価額がどうなるかについて詳しく知りたいと思っていることです。

問題点は、

  • 株価引き下げ対策。
  • 納税資金の確保。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

取引の種類や相手によって評価額はどうなりますか?

株式取得者が、同族株主の場合は原則的評価方式、同族株主以外は特例的評価方式で株価算定します。

原則的評価方式は、会社の規模によって「大会社」「中会社」「小会社」の規模に分類され、規模に応じた方法を使います。

特例的評価方式とは、事業承継の際に同族株主でない人物が株式を引き継ぐ場合の株価算定方法で、事業承継を行う企業の規模に関係なく、一律に配当還元方式によって株価を算定します。

同族株主について説明してください。

同族株主とは、株主の一人とその同族関係者の議決権割合が30%以上の場合の、その株主と同族関係者のことです。ただし、議決権割合の50%超の同族関係者グループが存在すると、それが同族株主となり、30%以上の他のグループが存在していても同族株主にはなりません。


X社株式の評価方法を教えてください。

X社の会社規模は中会社の大なので、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用する方式で評価額を求めます。


X社の今期の自社株評価にあたって、3年前に新本社(土地・建物)を購入価額3億円で取得したことはどのような影響がありますか?

課税時期前3年以内に取得または新築したした土地等・建物等は、相続税評価額ではなく、通常の取引価額によって評価をすることになります。
会社の純資産が高くなれば、自社株評価も高くなります。

3年を経過すると通常の取引価額より低い相続税評価額で評価できます。


X社の今期の自社株評価にあたって、賃貸用不動産として、居住用区分マンション1戸を保有していることはどのような影響がありますか?

賃貸不動産の土地は貸家建付地、家屋は貸家に該当します。貸家建付地や貸家の相続税評価額を算定する上で、家屋を借りている方の権利に相当する評価額を差し引く必要があるため、相続税評価額が低くなります。

賃貸用不動産を購入することで取引相場のない株式の純資産価額を下げることが可能ですが、課税時期前3年以内に取得した賃貸用不動産は課税時期の通常の取引価額で評価されるので注意が必要です。


X社の今期の自社株評価にあたって、昨今の物価高騰に伴う仕入および販売価格の上昇により、今期の売上高は31億円と見込まれていることはどのような影響がありますか?

卸売業では売上高が30億円以上の場合、会社規模の判定は大会社となります。

会社規模の判定において、売上高は直前期末以前1年間の売上高で判定するので、今期の自社株評価に影響はありません。

会社規模の判定は、直前期末以前1年間における従業員数、直前期末の総資産価額、直前期末以前1年間の売上高をもとに、大会社、中会社、小会社に区分をしていきます。

大会社は、類似業種比準価額により評価することとされています。
一般的に類似業種価額に比べ純資産価額が高い会社が多いことから、会社規模が大きくなれば相続税評価額は低くなると考えられます。


X社の今期の自社株評価にあたって、昨年設立したX社の100%子会社であるY社の株式の簿価は1,000万円、相続税評価額は今期1,500万円と見込まれていることはどのような影響がありますか?

純資産価額方式では、会社の資産を相続税評価額で評価します。
土地や建物、有価証券などは、相続税評価額が帳簿価額よりも高くなることがあり評価差額が生じます。
評価差額に対して、37%の税率を乗じて法人税相当額を計算し、これを相続税評価額による純資産価額から控除することができます。

ただし、子会社の株式を評価する際には、評価差額に対する法人税額等相当額の37%控除をすることができません。


X社の今期の自社株評価にあたって、経営者リスクと退職金準備のための役員保険および福利厚生目的の養老保険(ハーフタックス・プラン)を今期導入したことはどのような影響がありますか?

法人保険の保険料は、最高解約返戻率に応じて損金算入できる割合が異なり、例えば最高解約返戻率が50%以下なら全額損金算入させることができます。
純資産が圧縮されることで自社株評価額も引き下げることができます

福利厚生目的の養老保険(ハーフタックス・プラン)では、保険料の2分の1は保険料積立金として資産に計上し、残りの2分の1は福利厚生費として損金算入することができ、純資産が圧縮されることで自社株評価額も引き下げることができます


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

AさんはX社株式の移転に備え準備を進めていますが、家族構成などから考えると円滑な遺産分割を行うための対策や、納税資金の準備も予想されます。一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、理解状況を確認しながら、ご家族と一緒に寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、非上場株式の評価方法、株価引き下げ対策、法人保険の経理処理に関する設例でした。

今までの設例と異なり、家族構成の記載はあるものの、Aさんの資産状況の記載はなく、X社の今期の自社株評価にあたって考慮すべき事項が5項目記載してありました。

自社株評価に関する質問が中心だったので戸惑った受験生も多かったのではないでしょうか?

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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