公開日 2024年10月4日 最終更新日 2024年10月17日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさんは、会社を定年退職した後、大都市圏の郊外にあるN市で妻Bさん(65歳)と長男Cさん(40歳)とその家族および長女Dさん(35歳)と二世帯住宅に住んでいたが、病気により今年8月に急逝した。Aさんには、隣県に住む兄Eさんがいたが、一昨年、交通事故で死亡している。兄Eさんは持家で1人暮らしであり、唯一の相続人であるAさんがすべての財産を相続していた。
【Aさんが相続した兄Eさんの相続財産の概要】(相続税評価額)
⒈ 現預金 : 4,000万円 ⒉ 金(ゴールド) : 1,000万円 (自宅金庫に現物が保管されていた) ⒊ 自宅敷地(300㎡) : 1,000万円 ⒋ 自宅建物(築50年) : 100万円 合計 : 6,100万円
Aさんは、兄Eさんに係る相続税の申告と納税を完了した後、今年6月に兄Eさんから相続した住宅建物を取り壊しその敷地を地元の不動産会社の仲介により2,000万円で売却していた。また、金についても、今年になって金の価格が高騰したことを受け、すべてを1,400万円で売却していた。
Aさんの相続人は、妻Bさん、長男Cさん、長女Dさんの3人である。妻Bさんたちは、Aさんが売却した土地や金については相続人が所得税の申告をする必要があることを認識しているが、申告の方法や期限についてはよくわかっていない。なお、Aさんの療養のために要した入院費用等は9月に支払っている。
【Aさんの相続財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 9,800万円 ⒉ 上場株式 : 9,300万円 ⒊ 自宅敷地(400㎡) : 6,000万円 ⒋ 自宅建物(築15年) : 900万円 合計 : 2億6,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、4,320万円 (配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
※兄Eさんから相続した財産を合計した金額である。
Aさんは遺言書を残していなかったため、相続人全員で話し合った結果、相続財産のうち自宅敷地および自宅建物と現預金の一部を妻Bさんが相続し、残りは長男Cさんと長女Dさんが等分して相続することで合意したものの、相続財産の分割や相続税の申告、相続財産の名義変更などについて具体的にどのような手続をすべきかわからない。
なお、長女Dさんは舞台役者で、地元の舞台や東京の舞台に出演しているが、年収が250万円程度であったこともあり、Aさんから最近10年間に毎年200万円の暦年課税による贈与(申告済み)を受けていた。また、長女Dさんは所属する事務所から「できることなら今年中にインボイス登録してほしい」と言われているが、インボイス制度自体もよくわからず、登録してよいものか判断がつかないでいる。
【Aさんの家族構成(法定相続人)】
妻Bさん (65歳):無職。長男Cさん家族、長女Dさんと同居。
長男Cさん(40歳):銀行員。妻と子2人で妻Bさん、長女Dさんと同居。
長女Dさん(35歳):俳優。妻Bさん、長男Cさん家族と同居。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年9月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
Aさんが売却した土地や金について、所得税の申告の方法や期限について教えてください。
年の中途で死亡した人の場合は、相続人が、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額および税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をしなければなりません。
手続きの方法を教えてください。
申告手続きの方法は、各相続人等の氏名、住所、被相続人との続柄などを記入した準確定申告書の付表を添付し、被相続人の死亡当時の納税地の税務署長に提出します。
課税関係はどうなりますか?
土地に関しては、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例が適用できます。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例の主な要件を教えてください。
主な要件は、相続または遺贈により取得した被相続人の居住用家屋の敷地であること。
昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
区分所有建物登記がされている建物ではないこと。
相続の開始の直前において、被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。
相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用、または居住の用に供されていたことがないこと。
相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
売却代金が1億円以下であることです。
売却した土地は、今年6月に相続した住宅建物を取り壊しその敷地を地元の不動産会社の仲介により2,000万円で売却しています。
兄Eさんは1人暮らしで、建物は築50年とあるので、その他の要件を満たすと被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例が適用できます。
金についての課税関係はどうなりますか?
金地金を売ったときの所得は、原則、譲渡所得として、給与所得など他の所得と合わせて総合課税の対象となります。
9月に支払っているAさんの療養のために要した入院費用等は、準確定申告上、医療費控除の対象になりますか?
医療費控除の対象にはなりません。
被相続人の死亡後に支払われた医療費は、相続財産で支払われたとしても被相続人が支払ったことにはならないので、被相続人の準確定申告上、医療費控除の対象にすることはできません。
ただし、入院時に生計を一にしていた相続人が医療費を支払った場合は、支払った相続人の医療費控除の対象となります。
相続財産の分割や相続税の申告、相続財産の名義変更などについて具体的にどのような手続をすべきですか?
相続財産の分割ですが、遺言書があれば遺言書に従い、無い場合は遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成します。
相続税の申告や納付期限、注意点について教えてください。
相続税の申告および納付は、被相続人の死亡日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。
相続財産の相続税評価額が基礎控除額を超える場合は申告の必要があります。
また、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の特例等の適用を受けるためには、原則として相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまっていることと、相続税の申告を行うことなどが条件となります。
相続した不動産の名義変更手続きや注意点について教えてください。
相続した不動産の名義変更は、不動産の所在地を管轄する法務局で相続登記の手続きを行います。
不動産を相続した日から3年以内に申請する必要があり、正当な理由なく名義変更を怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。
インボイス制度について説明してください。
インボイス制度とは、消費税率が複数税率になったことで導入された仕入税額控除の方式です。
消費税は、売上げに係る消費税から仕入れに係る消費税を差し引いて計算します。この差し引く計算を仕入税額控除と言います。
インボイス発行事業者の登録を受けると、課税事業者として消費税の申告が必要になります。
登録しないとどうなりますか?
インボイスを交付できないので、取引先が仕入れや経費について仕入税額控除ができません。
ただし、経過措置として、令和8年9月30日までは課税仕入れの80%、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは課税仕入れの50%を仕入税額控除できることとなっています。
登録してよいものか判断基準を教えてください。
インボイス登録するかどうかの判断は、売上先や取引状況、将来の事業戦略などを踏まえて総合的に検討する必要があります。
売上先が一般消費者のみの場合は仕入税額控除は不要なのでインボイス登録する必要はありません。
売上先が事業者でも、その事業者が免税事業者や簡易課税を選択している事業者なら仕入先からのインボイスは不要なのでインボイス登録する必要がない場合もあります。
インボイス登録をしない場合は、登録申請や請求書の様式変更、インボイスの保存などの手間はかかりませんが、売上先は仕入税額控除ができないため、取引関係を見直されてしまう可能性もあります。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは病気によって急逝されています。
準確定申告や相続手続きなど慣れない手続きも多いので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、準確定申告、相続手続き、インボイス制度に関する設例でした。
実技試験では制度や特例の内容だけでなく、手続きの流れや期限を質問されることがあります。
設例の内容やメリットデメリット、適用期限や要件などはチェックしておきましょう。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。