2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2024年2月17日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2023年2月17日)

●設 例●
 機械部品製造業を営むX株式会社(非上場会社)は、代表取締役会長であるAさん(72歳)が約40年前に創業した会社で、現在は長男Dさん(45歳)が代表取締役社長として経営を引き継いでいる。X社の業績は好調で、資金的にも余裕がある。当面は増収増益が予想されており、当期以降、積極的な人材確保と設備投資を計画している。


【事業承継について】
 X社の経営上の意思決定に関する権限は既に長男Dさんに移行しているが、X社株式の承継はいまだ進んでいない。Aさんは、自身の名義で保有しているX社株式70%と、親族外の創業メンバー名義でAさんが実質保有しているX社株式30%(いわゆる名義株)を、自身が健在なうちに長男Dさんに移転し、X社の事業承継を完了させた後、経営から身を引きたいと考えている。ただ、X社株式の価額がどのような仕組みで評価されるのか理解できておらず、やみくもに移転した場合、高額な税負担が生じてしまうのではないかと懸念している。また、他人名義で保有しているX社株式についても、どのように取り扱えばよいのかわからないでいる。


【資産承継について】
 Aさんは、X社の本社土地建物を所有し、X社に貸し付けている。自身の相続が開始した場合は、この本社土地建物を妻Bさん(70歳)に相続させ、妻Bさんが賃料収入を得られるようにしたいと思っているが、経営に関与していない妻Bさんに事業用資産を相続させることに問題はないか、アドバイスを求めている。また、現在、妻Bさん、長女Cさん(47歳)と同居している自宅は、そのいずれかに相続させたいと思っている。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 9,000万円 (役員退職金は考慮していない)
有価証券 6,000万円  
X社株式 7,000万円  
自宅
  ①土地(200m²) 4,000万円  
  ②建物(築30年) 1,000万円  
5. X社本社      
  ①土地(600m²) 9,000万円  
  ②建物(築35年) 4,000万円  
  合計 4億円  


※Aさんの相続に係る相続税額は、約9,300万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

【X社の概要】
資本金:1,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:60人
売上高:12億円 経常利益:6,000万円 純資産 :1億6,000万円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん100%(そのうち他人名義30%)
株式の相続税評価額:類似業種比準価額3,000円/株、純資産価額8,000円/株

 

【Aさんの家族構成】
妻Bさん (70歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女Cさん(47歳):公務員。Aさん夫妻と同居している。
長男Dさん(45歳):X社の代表取締役社長。妻と子の3人で持家に住んでいる。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年2月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • X社株式の移転方法。
  • X社株式の評価方法。
  • 名義株の取り扱いはどうしたらいいか。
  • 経営に関与していない妻Bさんに事業用資産を相続させることに問題はないか。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 納税資金の確保
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

X社株式の移転方法についてどのような方法が考えられますか?

事業承継税制特例を活用した移転方法が考えられます。

事業承継税制特例の、仕組みについて教えてください。

事業承継税制特例とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が次の後継者に事業承継できた場合には、相続税や贈与税が免除になる制度です。

留意点は、届出書の提出など事務手続きが煩雑になること。
事業継続が困難な場合は、利子税と猶予された税金の支払いが必要になることです。

株式移転前に、名義株の整理や自社株評価を引き下げる必要があります。

贈与税の納税猶予を受けるための、手続について教えてください。

納税猶予を受けるためには、2024年3月31日までに、特例承継計画を作成し都道府県庁へ提出します。特例措置の場合は、2027年12月31日までに贈与を行い、贈与年の10月15日から翌年1月15日までに申請し、認定書の写しとともに税務署への申告手続きが必要となります。
申告後は、都道府県庁へ年次報告書、税務署へ継続届出書をそれぞれ、年1回、5年間提出します。

他人名義で保有しているX社株式について、どのように取り扱えばよいと思いますか?

名義株主である創業メンバーに、株主でないことを認識しているかを確認し、株式の名義を実質株主に変更することについての承諾を得ます。
また、贈与税回避のために確認書を作成しておくことを提案します。

非上場株式の評価方法について説明してください。

株式取得者が、同族株主の場合は原則的評価方式、同族株主以外は特例的評価方式で株価算定します。

原則的評価方式は、会社の規模によって「大会社」「中会社」「小会社」の規模に分類され、規模に応じた方法を使います。

特例的評価方式とは、事業承継の際に同族株主でない人物が株式を引き継ぐ場合の株価算定方法で、事業承継を行う企業の規模に関係なく、一律に配当還元方式によって株価を算定します。

同族株主について説明してください。

同族株主とは、株主の一人とその同族関係者の議決権割合が30%以上の場合の、その株主と同族関係者のことです。ただし、議決権割合の50%超の同族関係者グループが存在すると、それが同族株主となり、30%以上の他のグループが存在していても同族株主にはなりません。

X社株式の相続税評価額を説明してください。

X社の場合は、会社規模が中会社の大なので、併用方式で株価を算定します。

X社株式の相続税評価額の引き下げについて、どのような方策が考えられますか?

役員報酬の引き上げや退職金の支給などが考えられます。

他にはありませんか?

会社規模の変更が考えられます。
X社株式の相続税評価額は類似業種比準価額だと3,000円、純資産価額の場合は8,000円です。
会社規模が大会社に区分されると類似業種比準方式で株価を算定できます。
X社の業績は好調で、資金的にも余裕があり、当期以降、積極的な人材確保と設備投資を計画しているので、従業員数を60人から70人以上に増やし、類似業種比準方式で株価が算定できるように会社規模の変更を検討します。

ただし、事業承継税制では事業承継後5年間に平均で8割の雇用維持義務があり、未達成の場合は猶予された税の納付が必要です。
特例措置の場合は、5年間の雇用平均が8割を達成できなくても、猶予は継続されることとなりましたが、雇用維持ができなかった場合には理由の報告が必要になります。
また、雇用維持ができなかった原因が経営悪化の場合は、認定支援機関の指導や助言を受けなければなりません。


経営に関与していない妻Bさんに事業用資産を相続させることに問題はありませんか?

妻BさんがX社の本社土地を相続すると、特定同族会社事業用宅地等の特例が適用できなくなります。

どのような方法が考えられますか?

今回のケースでは、妻Bさんが賃料収入を得られるようにしたいということなので、X社の建物はBさんが単独で相続し、土地についてはBさんと長男Dさんの共有名義で相続させると良いと思います。

長男DさんがX社の土地600㎡のうち400㎡を相続すると、特定同族会社事業用宅地等の特例が適用でき80%評価減できます。
妻Bさんは、X社の建物と土地の一部を相続することで賃料収入が得られます。
また、妻Bさんが相続するX社の土地200㎡についても、Bさんの相続発生時に長男Dさんが相続することで、特定同族会社事業用宅地等の特例が適用でき80%評価減できます。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

事業承継や税制改正は複雑で専門家の関与が必要になります。状況によって様々なパターンが考えられるので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、自社株の移転方法、株価引き下げ対策、名義株、小規模宅地の特例に関する設例でした。

事業承継税制特例の特例承継計画と個人版事業承継税制の個人事業承継計画の提出期限が、令和6年3月31日からそれぞれ2年延長され令和8年3月31日までとなります。

今回の改正でそれぞれの計画の提出期限は延長されますが、事業承継計画等に基づく相続・贈与の実行期限は延長されないので注意してください。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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