合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
都内で暮らすAさん(55歳)は、6カ月前に死亡した父親の相続における遺産分割協議の結果、実家である三大都市圏のK市内にある甲土地と甲建物(甲建物i:母屋、甲建物ⅱ:離れ)を単独で相続することになった。実家には、5年前の母親の死亡後、父親が1人で住んでいたが、父親が1年前に要介護認定を受けて特別養護老人ホームに入所して以来、空き家となっていた。Aさんは、今後実家に戻るつもりがないため、甲土地と甲建物を処分したいと思い、K市内の不動産業者X社に相談したところ、「この場所は、住宅地として人気の高いエリアです。甲土地は地積が大きく、建売に向いているため、おそらく買い手はすぐに見つかるでしょう」との説明があった。また、売却にあたっては実測が必要とのことで、Aさんは早速、X社から紹介された筆界調査委員を務める土地家屋調査士のYさんに実測図の作成を依頼した。
すると、数週間後、Yさんから思いがけない話があった。甲土地とその南側に隣接する乙土地の境界に問題があり、乙土地の所有者であるBさん(65歳)から承諾が得られず、実測図の作成ができないとのことである。ただ、登記所に図面があり、公簿面積と照らしても容易に確認することができるため、甲土地と乙土地の筆界については、仮に訴訟になっても勝算があるとのことであった。
この筆界が【甲土地の概況図】のa線である。一方、現状、a線の北側にあるb線上にAさんの祖父が築造した堅固なブロック塀があり、甲土地は分断され、南側の丙部分はBさんが乙土地と一体使用している。Bさんは、このブロック塀が建っているb線が境界(所有権界)であると主張している。Yさんによれば、かつてこの辺りは一部窪地になっていたため、Aさんの祖父が甲建物iを建てる際、斜面の下の境界ではなく斜面の上にブロック塀を建てたが、その後、乙土地側が埋め立てられ、平坦になった時点で気が付かずにそのままになってしまったのではないかとのことである。Aさんは、実家に住んでいるころもブロック塀の内側が敷地と思い込んでおり、父親からもその外側(丙部分)の話は聞いたことがなかった。父親も知らなかったものと思われる。
このたび筆界が判明したことから、AさんはBさんに丙部分の返還を申し入れた。しかし、Bさんは、「22年前、乙土地は平坦に造成されており、ブロック塀までが乙土地と言われて購入したものであり、丙部分は自分の土地である。突然、自分たちの土地なので返還しろと言われても意味が分からず承服できない」と主張している。Aさんは、この問題をどのように解決したらよいか頭を悩ませている。
なお、先日、売却を相談したX社から、甲土地を購入したいという建売業者がいるので検討してもらいたいとの連絡があった。購入価格は、仕入価格なので相場よりも少し安いが、建物解体後の更地として路線価と同額の25万円/m²とし、甲土地(450m²)を総額1億1,250万円で購入したいとのことである。
【甲建物の概要】
- 甲建物i母屋):木造2階建て、築51年(1972年3月建築)、延べ面積150m²
- 甲建物ⅱ(離れ):木造平屋建て、築42年(1981年3月建築)、延べ面積50m²
- 甲建物ⅱ(離れ)は、Aさんの母親が行っていた茶道教室用の茶室として建てられたが、母親の死亡後は子や孫たちが訪れた際の客間として使用されていた。
(FPへの質問事項)
- Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報- 土地の境界には「筆界」と「所有権界」という2つの概念がありますが、どのような違いがありますか。また、AさんはBさんが占有する丙部分を返してもらうことはできますか。
- Aさんが甲土地を建売業者の提示価格で売却した場合、譲渡所得の金額の計算上、「相続空き家を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」の適用を受けることはできますか。
- 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
甲土地周辺の古い写真などはあるか。
Bさんとの関係は良好かなどを確認します。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・境界票や、道路などの物理的状況などを、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図、地積測量図を請求し、不動産の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを確認します。
⑷市場調査として
周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、建売業者の提案は妥当かを確認します。
土地の境界には「筆界」と「所有権界」という2つの概念がありますが、どのような違いがありますか?
筆界とは法律上で定められた土地の境界のことです。
一度特定した筆界は勝手に変更することはできず、分筆や合筆等の登記をしないと,筆界は変更することができません。
所有権界について教えてください。
所有権界とは、所有権の範囲を示す、私法上の境界のことです。
所有者間の合意などによって,変更することができます。
AさんはBさんが占有する丙部分を返してもらうことはできますか?
返してもらえない可能性が高いと思います。
どうしてですか?
丙部分はBさんの土地として長年使用されているので、丙部分の所有権を時効取得できる可能性があるからです。
Bさんは、22年前にブロック塀までが乙土地と言われて購入したもので、時効によりその土地の所有権を取得したと主張し、なおかつ22年にわたり丙部分を堂々と占有していたことを証明できれば、Bさんがその土地の所有権を取得する可能性があります。
Aさんにどのようなアドバイスをしますか?
丙部分を時効取得したとしても、その時効取得を登記するためには、丙部分の土地を分筆登記をして、時効取得で所有者がBさんになったという所有権移転登記をする必要があります。
そうならないように、Bさんとの間で筆界を特定して、越境状態であることを互いに確認し、丙部分について使用貸借契約や賃貸借契約を締結することで取得時効が成立しないようにすることをアドバイスします。
筆界を特定するためにはどのような方法が考えられますか?
境界確定訴訟や筆界特定制度を活用して、境界を明確にしていきます。
公図や地積測量図のほか、甲土地周辺の古い写真などで、Aさんの主張する境界が正しいものであることを証明する方法などが考えられます。
Aさんが甲土地を建売業者の提示価格で売却した場合、譲渡所得の金額の計算上、「相続空き家を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」の適用を受けることはできますか?
甲土地の売却価格は1億1,250万円なので、相続空き家を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の適用を受けることはできません。
空き家にかかる譲渡所得の特例について教えてください。
一人暮らしだった被相続人が死亡した日以後、3年を経過した日の属する年の12月31日までに、相続によって取得した空き家を譲渡したときは、その空き家を譲渡して得た利益から3,000万円を控除できる制度です。
要件を教えてください。
被相続人が亡くなられた時点で一人暮らしであること。
1981年5月31日以前に建築された建物とその敷地であること。
区分所有建築物でないこと。
相続から譲渡まで引き続き空き家でなければならないこと。
売却代金が1億円以下であることです。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
筆界特定制度等の利用に関する相談は、弁護士に、
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、筆界と所有権界の違い、時効取得、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除に関する設例でした。
空き家の譲渡特例に関する設例が続きますが、改正ものは狙われやすいですね。
筆界特定制度などは過去の学科試験にも出題されていますので、合格後も学科試験レベルの知識は維持しておく必要があります。
いろんな分野の質問や悩みを解決できるFP1級資格は、本当に素晴らしい資格だと思います。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。