公開日 2023年11月14日 最終更新日 2023年11月30日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(65歳)は、首都圏近郊のX市内にある自宅で妻Bさん(60歳)と暮らしている。1人息子の長男Cさん(35歳)は、東京都Y区内の賃貸マンションで妻と2人の子との4人で暮らしているが、子の成長とともに家が手狭になり、ひと回り大きな住宅への住替えを考えている。2022年10月、Aさんの父親が死亡し、AさんはY区内にある甲土地(借地権)と甲建物を相続により取得した。甲土地は、1966年にAさんの父親が地主Dさん(72歳)の父親から借り受けたもので、甲建物は、Aさんの父親が同年に甲土地上に建築した戸建て住宅である。 甲建物は、5年前に母親が他界した後、父親が1人で暮らしていたが、現在は空き家となっており、老朽化による損傷が目立っている。
【甲土地・甲建物の概要】
- 甲土地:借地面積300m²(登記面積と同じ)
- 甲建物:木造2階建て、延べ面積150m²、築57年、固定資産税評価額300万円
- 1966年にAさんの父親が地主Dさんの父親から旧借地法による期間20年、非堅固建物の所有を目的とする借地契約により、権利金1,800万円を支払って借り受けた。
- Aさんの父親は、更新料支払特約により、1986年と2006年にそれぞれ500万円の更新料を支払って同じ目的・借地期間で更新している。次回の更新時期は2026年である。
- 地代は月額7万円である。なお、Aさんは5,000万円の金融資産を所有している。
Aさんは、今後、甲建物で暮らすつもりはなく、地代を負担し、空き家となっている甲建物を維持管理する状態は早急に解消したいと考え、地元の不動産業者に相談したところ、「甲土地は、最寄駅から徒歩15分圏の閑静な住宅街にあり、借地権付建物の取引も多く見られるエリアです。甲土地は、建売業者に現状有姿で9,000万円での売却が見込めますが、地主Dさんの承諾と借地期間の更新が条件になります」との説明を受けた。
また、長男Cさんに甲土地について聞いたところ、「甲土地は、住み替える場所としては申し分ない。ただ、今の甲土地は自分たちには広すぎるし、甲建物は建替えが必要なため、半分くらいの広さの土地に戸建て住宅を新築したい。また、地代や更新料の支払は負担なので、できれば土地を所有したい」とのことであった。
そこで、Aさんは、甲土地・甲建物を売却するプランと、地主Dさんと協議して借地権と底地を交換し、長男Cさん家族が暮らす戸建て住宅を建築するプランを比較検討したいと思い、FPであるあなたに相談することにした。
(FPへの質問事項)
- Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報- Aさんが甲土地(借地権)・甲建物を9,000万円(現状有姿)で売却する場合、地主Dさんからどのような承諾を得る必要がありますか。また、売却した場合の課税関係を教えてください。
- Aさんが地主Dさんとの交換により取得した土地に長男Cさんの自宅を建てる場合、どのような方法が考えられますか。また、その場合、Aさんの相続時にどのように評価されますか。
- 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
借地契約に関する契約書等の資料があるかどうか。
地主Dさんとの関係は良好か。
長男Cさん家族の意向などを確認します。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況などを、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、不動産の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを確認します。
⑷市場調査として
周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、提案は妥当かを確認します。
Aさんが甲土地(借地権)・甲建物を9,000万円(現状有姿)で売却する場合、地主Dさんからどのような承諾を得る必要がありますか。
借地権付きの建物を売却する場合、一般的には名義書換え料を支払い、売却自体の承諾を得る必要があります。
他にも、名義書換え料の金額や売却後の借地料、契約期間、現在の契約期間を引き継ぐのか、新たに期間を設定するのかなどの承諾が必要です。
承諾が得られない場合はどのような対応が考えられますか。
地主の承諾を得られない場合には、借地非訟の手続きを行うことが考えられます。
借地非訟について教えてください。
借地非訟とは借地人と地主との間に揉め事が生じた時、地主に代わって裁判所に許可を出してもらうための手続きで、借地権譲渡や建物の建替えなどのトラブルで地主の承諾を得られない場合に利用されるものです。
甲土地の借地権と甲建物を売却した場合の課税関係を教えてください。
譲渡所得税の対象となり、売却価格から取得費や譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対して税率をかけて計算します。
借地権を売却した場合には、どのような費用が取得費となりますか。
借地権を売却した場合の取得費は、地主などに支払った権利金や借地権の購入費用、借地権の更新や変更するにあたり支払った承諾料などが取得費に該当します。
Aさんは甲土地(借地権)と甲建物を相続により取得していますが、空き家にかかる譲渡所得の特例は適用できますか。
空き家にかかる譲渡所得の特例について教えてください。
一人暮らしだった被相続人が死亡した日以後、3年を経過した日の属する年の12月31日までに、相続によって取得した空き家を譲渡したときは、その空き家を譲渡して得た利益から3,000万円を控除できる制度です。
要件を教えてください。
被相続人が亡くなられた時点で一人暮らしであること。
1981年5月31日以前に建築された建物とその敷地であること。
区分所有建築物でないこと。
相続から譲渡まで引き続き空き家でなければならないことです。
今回のケースでは適用できますか?
甲建物は、Aさんの父親が1966年に甲土地上に建築した戸建て住宅で、母親が他界した後は父親が1人で暮らしていました。
その後、現在は空き家になっているので適用できます。
ただし、甲建物を耐震リフォームをするか、家屋を取り壊して売却することになります。
借地権は基本的には建物が無くなると第三者対抗要件を失うので、第三者対抗要件を失わないように、建物取り壊し直後に借地権存続の掲示を行うなどの対応が必要です。
Aさんが地主Dさんとの交換により取得した土地に長男Cさんの自宅を建てる場合、どのような方法が考えられますか。
底地の一部と借地権の一部を交換することで、AさんとDさんが互いに完全所有権の土地を取得できます。
Aさんの取得した土地にCさんが自宅を建てる場合は、家賃や地代のやりとりなどがない使用貸借とする方法が考えられます。
使用貸借の場合、Aさんの相続時にどのように評価されますか。
使用貸借の場合、借地権はゼロとなります。
したがって、土地の評価上も借地権評価額を差し引くことはできないので、土地の評価は自用地としての100%評価となります。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
借地権の名義書換えに関する相談は、弁護士に、
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、借地関係の解消、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除、使用貸借に関する設例でした。
令和5年度税制改正により、空き家の譲渡特例の適用期限が4年延長され、適用要件が一部緩和される予定です。
改正前は、譲渡前に一定の耐震基準を満たす必要があり、敷地等の譲渡であれば家屋の全部を取壊した後に売却する必要がありました。
令和5年度税制改正では、譲渡日の属する年の翌年2月15日までに、譲受側が空き家等の耐震リフォーム・除却要件を満たせば良いこととなり、適用要件が緩和されました。
しかし、相続人が3人以上いるケースでは、控除額が1人あたり2,000万円に引き下げられますので、この点には注意が必要です。
いずれも、令和6年1月1日以後に行う譲渡に適用することとされています。
学科試験もですが、実技試験でも改正ものは狙われやすいので要チェックですね。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。