2023年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2023年9月23日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本をKindleで出版しました。

開催年度別に3回分を一冊にまとめたPDF版はこちら

公開日 2023年10月10日 最終更新日 2023年11月24日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2023年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2023年9月23日)

●設 例●
 Aさん(75歳)は、地方中核都市で機械部品製造業を営むX株式会社(非上場会社)の代表取締役社長である。X社は、47年前にAさんと取締役副社長である友人のEさん(75歳)が共同で設立した会社であり、Aさんが70%、Eさんが30%のX社株式を所有している。

【事業承継について】
X社では、Aさんの息子であるCさん(47歳)が管理本部長を務め、Eさんの息子であるFさん(46歳)が生産本部長を務めている。いずれも社内外からの信頼が厚く、十分に経験を積んだことから、AさんとEさんは話し合い、3年後の創立50周年を機に、それぞれの子に地位と所有するX社株式を譲り、退任することを決めた。CさんとFさんは、幼少の頃より家族同然の付き合いで、関係は良好であり、それぞれの親の立場を承継することに納得している。

AさんとEさんは、所有するX社株式の移転をどのように進めればよいか、その手法や課税関係について確認しておきたいと思っている。

 また、Aさんは、それぞれの子への事業承継が最善と思っているが、昨今、中小企業の事業承継においてよく耳にするM&Aについても、1つの選択肢として検討しておきたいと考えている。

 Aさんは、X社の経営方針として、相応の利益確保を優先するため、役員報酬は抑えめにし、利益が出た場合は配当金により還元してきた。また、この間、経営状態は比較的良好で あるが、目下のところ、不良在庫の処理と慢性的な労働者不足に苦慮している。先日、金融機関担当者から、人材確保にあたって福利厚生の一環として「iDeCo+」(イデコプラス)の導入を提案され、Aさんはその仕組みについて知りたいと思っている。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 8,000万円 (役員退職金は考慮していない)
X社株式 5,600万円  
自宅      
 ①土地(200㎡) 5,000万円  
 ②建物(築40年) 2,000万円  
合計 2億600万円  

Aさんの相続に係る相続税額は、約2,900万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

【X社の概要】
資本金:1,000万円 会社規模:大会社 従業員数:70人 配当:毎期500円/株
売上高:15億円 経常利益:3,000万円 純資産 :1億6,000万円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん70%、Eさん30%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額4,000円/株、純資産価額8,000円/株、配当還元価額5,000円/株

 

【Aさんの家族構成】
妻Bさん (73歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(47歳):X社の管理本部長。妻と子の3人で持家に住んでいる。
長女Dさん(45歳):専業主婦。会社員の夫と子の3人で夫所有の持家に住んでいる。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • X社の株式移転はどのようにすべきか。
  • M&Aについて知りたいと思っている。
  • iDeCo+の仕組みについて知りたい。

問題点は、Aさんの相続発生時に、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた相談内容および問題点を解決するためには、どのような提案・方策が考えられますか?

X社の株式移転ですが、事業承継税制特例を活用するように提案します。

事業承継税制の特例について教えてください。

事業承継税制特例とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が次の後継者に事業承継できた場合には、相続税や贈与税が免除になる制度です。

留意点はありますか?

留意点は、届出書の提出など事務手続きが煩雑になること。
事業継続が困難な場合は、利子税と猶予された税金の支払いが必要になることです。

贈与税の納税猶予を受けるための、手続について教えてください。

贈与の直前で3年以上役員であるという後継者の要件があります。
Cさんは管理本部長、Fさんは生産本部長なので特例を適用するためには、役員に就任する必要があります。

納税猶予を受けるためには、2024年3月31日までに、特例承継計画を作成し都道府県庁へ提出します。特例措置の場合は、2027年12月31日までに贈与を行い、贈与年の10月15日から翌年1月15日までに申請し、認定書の写しとともに税務署への申告手続きが必要となります。


事業承継とM&Aの関係を教えてください。

M&Aで会社を売却するなど、後継者が事業を途中でやめてしまった場合は、事業承継税制の納税猶予を受けることができなくなります。

M&Aの手法には、どのようなものがありますか?

M&Aでは、主に「株式譲渡」、「事業譲渡」、「合併」、「会社分割」の4つの手法があります。

「株式譲渡」について教えてください。

「株式譲渡」とは、自社株式を譲渡する形で経営権を移譲するM&Aの手法です。
メリットは、手続きが簡単な点と、売却益への税金が事業譲渡と比べ抑えられるので、創業者利益が最大化しやすくなります。
デメリットは、会社全体が取引対象になるため、不採算事業があるとマイナス評価となり譲渡価額が減ってしまいます。また、負債が大きすぎる場合は買い手が見つかりにくい場合があります。

「事業譲渡」について教えてください。

「事業譲渡」とは、会社全体を売買対象とする株式譲渡と違い、譲渡対象の事業を選ぶことができます。
メリットは、継続したい事業は残し、売却したい特定の事業を売却することができるので、会社は存続することができ、負債があっても譲渡先が見つけやすくなります。
デメリットは、債権者や従業員とも承諾を得る必要があり、手間や時間、コストがかかります。

「合併」について教えてください。

「合併」とは、複数の会社を1つの会社に統合するM&A手法です。
メリットは、複数の事業が1つになることで、個別に事業を行うよりも、大きな効果を発揮することができます。
デメリットは、同業他社との合併では、顧客の重複が生じる場合があり、顧客にとっては取引先が1社となるため、取引量や取引回数を縮小される場合があります。

「会社分割」について教えてください。

「会社分割」とは、権利義務の一部、もしくは全部を別の会社に承継することで、もともとの会社は消滅しない点が特徴です。
メリットは、事業分野を分けることで、より専門的な分野へ参入できるなど事業拡大に活用できます。
デメリットは、従業員の同意は不要ですが、株主総会を開催しなければならず、特別決議に該当するので、株主構成によっては手間と時間がかかります。


iDeCo+について教えてください。

iDeCo+とは、企業年金を実施していない中小企業の事業主が、従業員の老後の所得確保に向けた支援を行うことができるよう、iDeCoに加入している従業員が拠出する加入者掛金に追加して、掛金を拠出できる制度です。

iDeCo+を実施できる要件を教えてください

従業員300人以下であること。
企業型確定拠出年金を実施していないこと。
確定給付企業年金を実施していないこと。
厚生年金基金を実施していないこと。
労使合意をすることです。

iDeCo+を実施するメリットを教えてください。

iDeCo+は、従業員が加入するiDeCoに、拠出限度額の範囲内で、加入者が拠出する掛金に上乗せして事業主が掛金を拠出できる制度です。
事業主が拠出した掛金は、全額が損金に算入されます。
従業員が加入するiDeCoには、従業員が拠出した掛金は全額所得控除され、確定拠出年金制度内での運用益が非課税で再投資されます。
また、受給時には所得控除を受けられます。


円滑な遺産分割を行うためには、どのような方策が考えられますか?

遺言書を作成すること。
遺留分に関する民法の特例を利用することを提案します。

遺留分に関する民法の特例について教えてください。

事業承継による相続について、法定相続人の合意があれば、遺留分を減らせるという事です。
後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められた際、自社株式が分散してしまったり、資金不足になり業績が悪化し、廃業に追い込まれるということを避けるための制度です。

遺留分に関する民法の特例には、どのような種類がありますか?

合意の種類には、除外合意、固定合意の2つと、除外合意と固定合意を合わせた、付随合意の3つの種類があります。

除外合意について教えてください。

遺留分算定基礎財産から贈与等された株式等を除外するものであり、合意した他の相続人は、遺留分の主張ができなくなります。
その結果、相続による株式等の分散を防止できます。

固定合意について教えてください。

遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の価格に固定するものです。
この合意をすると、株式等の価額が上がっても遺留分額には影響しないので、想定外の遺留分の主張を防止できます。

固定する合意時の時価はについては、証明が必要ですか?

固定する合意時の時価は、合意の時における相当な価額であるとの税理士、 公認会計士、弁護士等による証明が必要です。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんの悩みは、X社の株式移転をどうするかです。
事業承継は、さまざまな課題を検討しながら進めていく必要がありますが、Cさんも事業に対して意欲的で後継者としての資質にも問題はないため、CさんやEさん、Fさんの意見も取り入れながら進めていくことが重要です。
長女Dさんも含め、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回の設例は、事業承継に関することや、役員報酬と配当金に関しての質問がありそうですね。

特例承継計画の提出が令和6年3月31日までなので、次の試験でも事業承継税制特例はポイントになりそうです。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、証券外務員、日商簿記2級。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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