2022年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part1 (2023年2月11日) 過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2023年4月9日 最終更新日 2024年1月24日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2022年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2023年2月11日)

●設 例●
 Aさん(72歳)は、祖父が創業したX株式会社(非上場会社・電気機械器具製造業)の3代目社長であったが、7年前の2016年4月、社長職を長男Cさん(47歳)に譲り、現在は相談役としてX社に在籍している。Aさんが100%所有していたX社株式のうち、80%を長男Cさんに事業承継税制(一般措置、暦年課税)を活用して贈与し、贈与したX社株式の価額は 6,000万円、納税猶予された贈与税額は約2,000万円であった。


 X社の業績は低調に推移していたが、近年、主力商品である業務用空気清浄機がコロナ禍を背景に受注量を伸ばし、業績は急拡大した。X社株式の価額も、7年前の価額の6倍近くに達している。


 そのような折、X社を買い取りたいという会社が現れたとの話が取引先金融機関から持ち込まれた。長男Cさんは、現在の好調な業績は一時のことであって、会社を売却するなら今がいいタイミングかもしれないと感じている。ただ、X社株式を売却した場合、納税が猶予されている税額はどのようになるのか気になっている。

 

【資産承継について】

 Aさんの推定相続人は、妻Bさん(72歳)、長男Cさん、長女Dさん(42歳)の3人である。

 Aさんは、父親の相続により取得した自宅で妻Bさん、長男Cさん家族と同居しているが、自宅は築50年を経過して老朽化が進んでいることから、近いうちに二世帯住宅に建て替える計画がある。Aさんは、二世帯住宅の建築資金の全額(5,000万円)を負担するつもりでいるが、将来の相続を踏まえ、建替え後の建物名義の一部を長男Cさん名義にするためにはどのようにすればよいのか知りたいと思っている。

 長女Dさんは、10年前に米国人と結婚し、米国籍を取得して米国で暮らしている。日本に戻ってくる予定はない。Aさんは、子2人の仲は悪くないと感じているものの、相続が起こった際に遺産分割でもめることのないように、何らかの準備はしておきたいと思っている。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  1 現預金 9,000万円  
  2 X社株式 9,000万円  
  3 自宅      
   ①土地(400㎡) 4,000万円  
   ②建物(築50年) 300万円  
  4 賃貸物件    
   ①土地(200㎡) 1億5,000万円  
   ②建物(築15年) 8,000万円  
  合計 3億1,500万円  

 

  • Aさんの相続に係る相続税額(3億1,500万円に基づいて計算)は、約6,300万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
  • 賃貸物件は、父親から相続した都内にある物件で、味の良さとアンティックな雰囲気で人気のあるレストランに父親の代から賃貸している。
  • Aさんは、契約者(=保険料負担者)・被保険者をAさん、死亡保険金受取人を妻Bさんとする生命保険(死亡保険金額3,000万円)に加入している。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • X社株式を売却した場合、納税が猶予されている税額はどのようになるのか。
  • 建替え後の建物名義の一部を長男Cさん名義にするためにはどのようにすればよいのか。

問題点は、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備。
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

X社株式を売却した場合、納税が猶予されている税額はどのようになりますか?

X社株式を売却するなど、後継者である長男Cさんが途中で事業をやめてしまった場合は、事業承継税制の納税猶予を受けられなくなり、贈与税と利子税を収める必要があります。

贈与税は暦年贈与を選択していた場合は株価の55%、相続時精算課税制度を選択して場合は株価の20%で計算します。


米国籍を取得して米国で暮らしている、長女Dさんの相続税について教えてください。

海外在住の相続人であっても、被相続人が日本国籍であれば、日本の法律に従って相続を行い、基本的には日本において相続税の納付義務が発生します。

日本国内の財産を相続する場合は、被相続人、相続人の一方が海外在住でも、両者とも海外在住でも、相続する財産が日本国内にあれば日本の税制が適用されます。

相続手続きは、どのように行いますか?

Aさんが亡くなり、長女Dさんが相続する場合は、すべての資産について日本での相続手続きが必要になります。
しかし、Dさんは、日本での相続手続きに必要な、印鑑証明や住民票を取得することができないため、印鑑証明に代わる署名証明書、住民票に代わる在留証明書などが必要になります。


老朽化が進んだ自宅を、長男Cさん家族との二世帯住宅に建て替えたいと考えていますが、どのようなアドバイスをしますか?

建築資金を長男Cさんに贈与することをアドバイスします。

建物の名義は出資比率に応じて行うのが基本で、建築費用をAさんが負担したのに長男Cさんの名義にしてしまうとAさんが出資した分が贈与とみなされ贈与税が課せられる可能性があります。

住宅取得資金の非課税特例と相続時精算課税を活用し、建築資金を長男Cさんに贈与することをアドバイスします。

住宅取得資金の非課税特例の非課税限度額はいくらですか?

耐震・省エネなどの一定基準を満たす住宅の場合は1,000万円。
それ以外の住宅の場合は、500万円です。

二世帯住宅の場合でも、小規模宅地の特例は適用できますか?

適用できます。
二世帯住宅に立て替えた場合でも、同じ棟の建物に親と子が住んでいることや、建物の敷地の名義がAさんであること、長男CさんはAさんに家賃を払っていないこと、区分所有登記されていないことなどの要件を満たすことで、小規模宅地の特例は適用できます。

小規模宅地の特例の活用はどのように提案しますか?

一定の条件を満たすことで土地の相続税評価額を、特定居住用は330㎡、事業用は400㎡まで80%軽減され、貸付事業用は200㎡まで50%軽減されます。
 
今回のケースでは、自宅と賃貸アパートに適用できますが、特定居住用と貸付事業用は完全併用することはできないので有利判定が必要です。
配偶者控除等の相続人固有の控除を含め、トータルの納税額が有利になるように税理士と連携してアドバイスします。


Aさんは、契約者・被保険者をAさん、死亡保険金受取人を妻Bさんとする生命保険に加入していますが、非課税限度額はどのように計算しますか?

被保険者と保険料の負担者が同一人の場合で、受取人が被保険者の相続人であるときは、相続により取得したものとみなされます。

生命保険の死亡保険金は、相続人が保険金を受け取る場合に限り「500万円 × 法定相続人の人数」が非課税金額となります。

今回のケースでAさんが死亡した場合、相続人は、妻Bさん、長男Cさんと長女Dさんの3人なので500万円 × 3人=1,500万円が非課税となり、受け取る死亡保険金から控除することができます。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんは72歳と高齢で、長女Dさんも米国に居住しているので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、事業承継税制適用後のM&A、外国籍の相続人に関する設例でした。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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