公開日 2023年1月22日 最終更新日 2024年1月9日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
株式会社X社(非上場会社・金属製品製造業)は、代表取締役社長Aさん(75歳)が40年前に設立した会社である。X社は高い技術力で取引先からの信頼が厚く、業績は堅調に推移している。X社では、現在、2年前に大手メーカーを退職してX社の専務取締役に就任した長男Bさん(45歳)を中心に、取引先のさらなる開拓を進めている。X社の余剰資金は6億円以上あり、経営は安定している。
【X社の事業承継に関して】
Aさんは、自身の年齢のことを考えると、事業承継について早期に道筋をつけたいと思っている。Aさんは、2~3年後をめどに社長職を辞し、長男BさんにX社を承継する予定としているが、X社株式をどのように移転するのがよいのか悩んでいる。
【Aさん自身の資産承継に関して】
長男Bさんは、大手メーカー勤務時代に購入した持家に妻と2人の子で暮らしており、妻の仕事や子の進学のことを考えると、現在の自宅に住み続ける予定である。 長女Cさん(42歳)は、会社員の夫と結婚後、長男(9歳)を授かったが、3年前に離婚した。現在は長男とともに、X社が保有する社宅でAさんと同居し、Aさんの身の回りの世話をしている。Aさんは、所有財産のうち、長男BさんにX社株式・X社本社土地/建物を承継し、長女Cさんに相応の金融資産および賃貸アパートを相続させようと考えている。また、現在住んでいるX社の社宅を将来も長女Cさんが住居として利用できないかと考えている。
Aさんは、社宅を購入した場合、金融資産が少なくなるため、相続税の支払に一抹の不安を感じているが、長男Bさんと長女Cさんは仲がよく、遺産分割で揉めることはないと安心している。
【Aさんの家族構成(推定相続人)】
長男Bさん(45歳):X社専務取締役。妻と2人の子で戸建て住宅(持家)に住んでいる。
長女Cさん(42歳):無職。離婚後、長男(9歳)とともに、Aさんと同居している。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金 : 1億5,000万円 (役員退職金は考慮していない) X社株式 : 8億円 X社本社土地 : 1億2,000万円 (400㎡) X社本社建物 : 9,000万円 (年間家賃800万円) 賃貸アパート ①土地(200㎡) : 5,000万円 ②建物 : 3,000万円 合計 : 12億4,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約5億1,500万円(小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:大会社 従業員数::130人
売上高:25億円 経常利益:8,000万円 純資産:10億円
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん100%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額8,000円/株、純資産価額1万3,000円/株
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
長男Bさんに、X社を承継する予定としていますが、X社株式の移転方法はどのようにアドバイスしますか?
X社株式については、事業承継税制特例を活用して移転することをアドバイスします。
それでは、事業承継税制特例の、仕組みについて教えてください。
事業承継税制特例とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が次の後継者に事業承継できた場合には、相続税や贈与税が免除になる制度です。
留意点は、届出書の提出など事務手続きが煩雑になること。
事業継続が困難な場合は、利子税と猶予された税金の支払いが必要になることです。
株式移転前に、配当の引き下げや役員退職金の支給を行い、自社株評価を引き下げる必要があります。
贈与税の事業承継税制特例を受けるための、手続について教えてください。
贈与税の事業承継税制特例を受けるためには、2024年3月31日までに、特例承継計画を作成し都道府県庁へ提出します。特例措置の場合は、2027年12月31日までに贈与を行い、贈与年の10月15日から翌年1月15日までに申請し、認定書の写しとともに税務署への申告手続きが必要となります。
申告後は、都道府県庁へ年次報告書、税務署へ継続届出書をそれぞれ、年1回、5年間提出することになります。
贈与税の事業承継税制特例を受ける場合、留意点はどのようなことが考えられますか?
留意点は、5年以内に後継者が代表者でなくなった場合や、取得した株式を譲渡などで手放した場合、届出書を提出しなかった場合などは納税猶予が取り消されるので注意が必要です。
今回のケースで、事業承継税制特例を受ける場合、要件を満たすためには、どのようなことが必要ですか?
今回のケースで適用要件を満たすためには、
Aさんは、代表を退任すること。
長男Bさんは、役員に就任し3年経過すること。
長男Bさんは、議決権の50%超を所有し、筆頭株主となること。
長男Bさんは、代表者であることなどです。
X社の社宅を、将来も長女Cさんが住居として利用するためには、どのような方策が考えられますか?
Aさん所有の、X社会社建物をX社に売却し、その資金で社宅を買い取ることをことを提案します。
留意する点はありますか?
適正な価格で譲渡する点に注意します。
X社会社建物を時価の2分の1未満の金額で売却すると、Aさんに対して、みなし譲渡課税が発生し、X社については、実際の購入価額との差額については受贈益に計上し、その不動産を購入した年の法人税の計算対象に含めることとされています。
また法人の株主も、受贈益が計上された分保有する株式の価値が上昇したこととなるため、贈与税の課税対象となるので、建物の譲渡にあたっては、専門家も交え適正な価格で譲渡する点に注意が必要です。
円滑な遺産分割を行うためには、どのような方策が考えられますか?
遺言書を作成すること。
遺留分に関する民法の特例を利用することを提案します。
遺言書の種類や留意点について教えてください。
遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。
遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。
自筆証書遺言保管制度について教えてください。
自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。
遺留分に関する民法の特例について教えてください。
事業承継による相続について、法定相続人の合意があれば、遺留分を減らせるという事です。
後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められた際、自社株式が分散してしまったり、資金不足になり業績が悪化し、廃業に追い込まれるということを避けるための制度です。
遺留分に関する民法の特例を利用するにはどのような手続きが必要ですか?
遺留分に関する民法の特例を利用するには、推定相続人全員の合意を得て、合意から1か月以内に経済産業大臣の確認の申請を受け、その確認後1か月以内に家庭裁判所の許可を受けることが必要となります。
遺留分に関する民法の特例には、どのような種類がありますか?
合意の種類には、除外合意、固定合意の2つと、除外合意と固定合意を合わせた、付随合意の3つの種類があります。
除外合意について教えてください。
遺留分算定基礎財産から贈与等された株式等を除外するものであり、合意した他の相続人は、遺留分の主張ができなくなります。
その結果、相続による株式等の分散を防止できます。
固定合意について教えてください。
遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の価格に固定するものです。
この合意をすると、株式等の価額が上がっても遺留分額には影響しないので、想定外の遺留分の主張を防止できます。
固定する合意時の時価はについては、証明が必要ですか?
固定する合意時の時価は、合意の時における相当な価額であ るとの税理士、 公認会計士、弁護士等による証明が必要です。
⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは、75歳と高齢でもあるので、さまざまな制度の説明だけでなく、適用した効果やメリットデメリットなどを、後継者である長男Bさんや、同居している長女Cさんとともに、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、事業承継税制特例、役員と法人間の譲渡、遺留分に関する民法特例に関する設例でした。
今回の論点は眼科試験でも出題されることの多い、定番の質問なので、制度の概要は理解されていると思いますが、手続きの方法や活用までの流れ、関与する専門家なども覚えておくと良さそうですね。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。